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完・全・勝・利 !!

 野生の本能が、明確な答えを弾き出した。


((喰いきれねえなら……ぶった斬るまでだ!!))


「おおおおおおおッ!!」


 コックピットに響き渡る、獣じみた咆哮。

 ブレイズは防壁を展開したまま、リベルタの胴体にマウントされた、大太刀に手を掛けた。


 キィイン───


 大太刀のロックが外れ、真空の宇宙空間に引き抜かれる。

 烈火は、吸収し続けている莫大な破壊のエネルギーのすべてを、その刀身へと注ぎ込んだ。


『烈火!?』

『エネルギー回せ! ぶった斬る!!!』


 烈火の叫びに、兎歌は応えた。

 即座に回路を切り替え、濁流を流し込む。


『接続オッケェ!! ……いっっっけえええええええっ!!』


 兎歌の悲鳴にも似た叫びと同時に、大太刀から規格外のE粒子が噴出された!

 それは、ブレイズの本体よりも遥かに巨大な、赤黒く燃え盛る炎の刃!!


「消え……やがれェェェッ!!」


 ブレイズは、巨大な炎の刃を真っ向から振り下ろした。

 悪魔の閃光と、炎の刃が激突する。

 宇宙が割れるような、閃光の瞬き。


 プラズマの濁流が、炎の刃によって強引に押し留められ、そして。


───真っ二つに、裂けた。


 モーゼの奇跡のように、分断された光の奔流が、ブレイズの両脇をすり抜けて彼方へと飛び去っていく。

 圧倒的な破壊のエネルギーが、一振りの太刀によって完全に両断されたのだ。


 やがて。

 目を焼くような白刃の光が、ゆっくりと終息していく。

 荒れ狂っていたプラズマの嵐が止み、宇宙空間に再び暗闇と静寂が戻ってきた。


『……う、嘘だろ……』


 デブリの陰から恐る恐る顔を出した防衛隊のパイロットが、信じられないものを見るように呟いた。

 プロメテウスのブリッジでも、誰もが言葉を失い、モニターの光景に釘付けになっている。


 そこには、傷一つ負わず、宇宙空間に堂々と立つブレイズの姿があった。

 赤黒い炎を纏いながら大太刀を構えるその姿は、まさしく無敵の悪魔そのものだった。


 ~~~


 一方、その光景をモニター越しに見つめていた者がいた。

 衛星軌道プラットフォームの中枢管制室。

 絶対服従のバイオロイドである少女、ベロニカだ。


 その透き通るような白い肌は、今はまるで死人のように土気色に青ざめていた。

 コンソールのキーを叩く細い指先から、ポタポタと赤黒い血が滴り落ちている。

 咳き込むたびに、口からごぼりと鮮血が溢れ、美しい金糸のような髪がパラパラと床に抜け落ちた。


「……ガロ、様。ターゲットの、消滅を……かく、にん……」


 焦点の定まらない瞳で、ベロニカは虚空に向かって呟く。

 それは、ただプログラムされた命令をなぞるだけの、空虚な報告だった。


 指向性核融合砲『ヘリオス』。

 その絶大な威力の代償として、発射時に発生する致死量の放射線は、厚い鉛の隔壁すらも易々と貫通。

 管制室や周辺機体のオペレーターを、被曝させる。


 前日、地上戦域に向けて一発目を放った。

 その時点で、ベロニカの肉体はすでに、ノヴァの最新型医療用ナノマシンでも修復できるギリギリの限界点まで破壊されていた。


 そこへ、わずか一日での二発目の発射。

 元より、生きた人間が耐えられるはずがない。

 ベロニカの細胞は今、凄まじい速度で自壊し、内臓はドロドロに溶け崩れようとしていた。


「あれ……? ターゲットが、消え、ない……?」


 霞む視界で、ベロニカはメインモニターを凝視した。

 光の奔流が収束した宇宙空間。

 そこに、蒸発したはずの赤い機体が、赤黒い炎を纏って無傷で立っていた。

 悪魔のように大太刀を構えたその姿を認識した瞬間、ベロニカの脳裏に、感情がよぎった。

 それは、感情の欠落した彼女には本来あるはずのない「恐怖」。


 そして、モニターの端で、無数の光点が瞬いた。


『やっちまええええええええッ!!』


 通信回線をハッキングして叩きつけられた、エリシオンの兵士たちの怒り狂った咆哮。

 死の淵から舞い戻ってきた悪魔の姿に鼓舞されたミリアポッドとイノセントの部隊が、ありったけの残弾を衛星プラットフォームに向けて一斉に解き放ったのだ。


 無数のミサイルの群れと、リニアキャノンの砲弾。

 それに先行して、空間を正確に射抜く光の矢が到達する。

 マティアスの『ストラウス』が放った超長距離狙撃が、プラットフォームのメインジェネレーターを分厚い装甲ごと的確に撃ち抜いた。


 ドズンッ! と、管制室が激しく揺らぐ。

 防御システムへのエネルギー供給が断たれ、プラットフォームは完全に丸裸となった。


「あ……」


 ベロニカが虚ろな声を漏らす。

 そこに、リエンの『エルフィン』の十二本のサブアームから放たれた、無慈悲な荷電粒子砲の雨が降り注いだ。

 続いて、兵士たちの怒りの弾幕がプラットフォームの各部に直撃し、次々と誘爆を引き起こす。


 宇宙空間に、巨大な火球が膨れ上がった。


「ガロ、さま……」


 主への忠誠だけをプログラムされた哀れな人形は、痛みを感じる間もなく、崩壊するプラットフォームの爆炎に飲み込まれ、宇宙の塵となって跡形もなく消滅した。



 宇宙空間に、人工の太陽のような巨大な火球が膨れ上がった。

 指向性核融合砲『ヘリオス』を搭載していた衛星軌道プラットフォームが、完全に崩壊していく。

 無数のデブリを撒き散らしながら、悪魔の兵器は跡形もなく消滅した。


 その光景をカメラアイ越しに見つめていたエリシオンの兵士たちの間に、一瞬の静寂が落ちる。

 そして。


『うおおおおおおおおっ!!』

『やった! やりやがったあああ!!』


 通信回線が破裂せんばかりの、耳をつんざくような大歓声が響き渡った。


『見たかよ今の!? あの極太の光線を、真っ二つに叩き斬りやがったぞ!!』

『烈火のアニキィッ! 一生ついていきます!!』

『兎歌ちゃんも最高だあああ! 結婚してくれえええ!』


 デブリ帯に身を隠していたミリアポッドやイノセントの部隊が、次々と姿を現す。

 パイロットたちはコックピットの中で涙を流してガッツポーズを決め、機体同士でガシッと肩を組み、抱き合って勝利の喜びに沸き返っていた。


 無理もない。

 星をも滅ぼすような理不尽な破壊の光を前に、誰もが一度は死を覚悟したのだ。

 その絶望を、赤い悪魔の機体が真っ向からねじ伏せてくれた。

 これほどの痛快なカタルシスがあるだろうか。


『よっしゃああああっ! 見事や、烈火、兎歌!』


 プロメテウスのドックからも、菊花の歓喜に満ちた絶叫が飛んでくる。


『よくやった……! 本当に、よくやってくれた!』


 レゴン艦長も、司令室の席から立ち上がり、震える声でパイロットたちを称賛した。

 オペレーターのヨウコたちも、涙ぐみながら抱き合って喜んでいる。


『ハッ。当然だろ。俺と兎歌のコンビに、斬れねえモンはねえんだよ』


 通信帯に響く、烈火の獰猛で頼もしい笑い声。

 宇宙空間に浮かぶブレイズ・ザ・ビーストは、背中のリベルタから白煙を上げながら、堂々と勝ち鬨のポーズを決めていた。


 背後からそっと近寄ってきたのは、エルフィン。

 十二本のサブアームを、パチパチと拍手するように動かしている。


『れっか、すごい。つよかった』

『だろ? 俺は強いんだ』


 絶望的な空気に包まれていた小惑星『アマツキ』の宙域は、一転して最高のお祭り騒ぎへと変わった。


 だが、その勝利の熱狂から遠く離れた場所で、この光景を冷ややかに見下ろしている者がいた。


 ………

 ……

 …


 ノヴァ・ドミニオンの本拠地。

 ラグランジュポイントに浮かぶ巨大なスペースコロニー『A-1』。


 その最上層にある、豪奢な装飾が施された一室。

 シャンデリアの柔らかな光が、アンティークの家具や深紅の絨毯を照らしている。

 壁一面に設置された巨大なモニターには、崩壊していく衛星軌道プラットフォームの残骸と、信号ロストを示す赤い警告表示が映し出されていた。


「……なるほど。宇宙の主力艦隊は、仕留め損なったというわけ」


 高級なワイングラスを片手に、『フレギア・ノヴァ』はつまらなそうに呟いた。


 見かけは二十代の、息を呑むほど美しい女。

 だが、その瞳の奥には、底知れぬ冷酷さが宿っている。


「カイの作った箱庭の小僧たちも、少しはやるようね」


 フレギアはワインを一口含み、ふふっ、と艶やかに笑った。

 莫大な予算をつぎ込んだ戦略兵器『ヘリオス』の一つを失いながらも、その顔に焦りや怒りの色は一切ない。


((宇宙の目障りな艦隊を消し飛ばせれば、それに越したことはなかったけれど。まあ、いいわ))


 フレギアの視線が、モニターの隅に表示されているもう一つのデータへと移る。

 それは、地球の地表を捉えた衛星画像だった。


 かつてシグマ帝国が支配していた渓谷地帯。

 今はガロ・ルージャンが放った一発目の『ヘリオス』によって、見渡す限りの大地がガラス化し、赤い硫酸の雲が渦巻く死の世界へと変貌している。


「あの忌々しいエピメテウスも、シグマの裏切り者も、あの閃光で完全に消し飛んだはず。

 地上の目障りな駒は、これで綺麗に掃除できたわ」


 フレギアは長い脚を組み替え、愉悦に満ちた笑みを深めた。

 ここからが、ノヴァ・ドミニオンの総帥としての真骨頂だ。


「あとは、この凄惨なガラスの大地を、『エリシオンが使用した非道な大量破壊兵器のせいだ』と世界中に喧伝してやればいい」


 フレギアの唇が、三日月のようにつり上がる。


 圧倒的な情報統制力と、巧みな外交術。

 シグマ帝国という巨大なスケープゴートを失い、東武連邦もすでにノヴァの傀儡と化している今、世界中の恐怖と憎悪を向ける対象が必要なのだ。


((平和を騙る偽善者たちを、世界中の人間の手で糾弾させるのよ。

 カイ、あなたが100年かけて育てた温室の植物たちが、外の世界の悪意にどこまで耐えられるかしら?))


 フレギアはワイングラスを傾け、窓の外に広がる青い地球を見下ろした。

 不老不死の魔女の底知れぬ悪意が、静かに、そして確実に、世界を次の絶望へと導こうとしていた。

次回予告

 人造人間アイリスの正体。

 攫われた菊花。

 取り戻すために戦え! ぼくらのブレイズ!!

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