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無人機部隊VS烈火親衛隊!

『敵機接近! 熱源反応、多数!』


『数は!?』


『数12!

 機影パターンから、重量級コマンドスーツ「ファランクス」と推測されます!

 ですが、パイロットの生体反応がありません。

 ……おそらく、プラットフォーム防衛用の無人機です!』


 ヨウコの報告に、烈火の目が鋭く細められる。


 すぐに、ブレイズの視界にも、光の点が見えてきた。


 彼方の暗黒の宇宙から、推進剤の青白い光の尾を引いて飛ぶ、12の光。

 1個中隊のファランクスが、密集陣形で接近してくる。

 ノヴァの技術の結晶である、分厚い装甲と大型シールド、そして強力な荷電粒子砲を備えた重量級の群れ。


『ヘリオスの発射前に、邪魔者を片付ける腹か。上等だ』


 烈火がブレイズの大太刀の柄に手を掛ける。

 だが、それより早く動いた影があった。


『……れっか、いかせる!』


 通信機から、たどたどしい、しかし確かな意志を持った少女の声が響いた。


 アマツキのドックから飛び出してきたのは、水色の異形。

 巨大な下半身ユニットに、12本のサブアームをうごめかせる試作型コマンドスーツ。

 リエン・ニャンパの駆る『エルフィン・ザ・アネモネアームド』だ!


 ノヴァの実験体として酷使され、心身ともにボロボロだったリエン。

 本来ならば温かいベッドで安静にしているべき存在だ。


 だが、絶体絶命の緊急事態に、震える体を奮い立たせて、戦場へと舞い戻ってきた。

 自分に初めて「居場所」をくれた、赤い機体の背中を守るために。


 無人ファランクスの部隊が、迎撃のために大型シールドを構えようとした、その瞬間だった。


 宇宙空間を、一筋の閃光が切り裂いた。


 エルフィンの真横をすり抜けたその粒子の光は、デブリの質量や重力場を計算し尽くしたかのように『不自然なカーブ』を描き───

 先頭のファランクスの頭部メインカメラを、正確に貫き通した。


『一機目、停止。次を狙う』


 通信回線に、マティアスの落ち着き払った声が響く。

 遥か後方、巨大なデブリの陰に身を隠した『ストラウス・ザ・ホークアイ』の銃口から、微かな白煙が上がっていた。

 常人には到底不可能な、神業のような超長距離・曲射狙撃。


『マティアスのおっさん……!』


 烈火が歓喜の声を上げるよりも早く、アマツキのドックや周辺のデブリ帯から、続々と新たな機影が姿を現した。


『プロメテウス隊の専売特許じゃねえぞ! 俺たちだって、エリシオンの防衛隊だ!』

『うおおおおっ! 兎歌ちゃんの生通信だァァ! ファンクラブ第一支部、突撃ィィィ!』

『バカ言ってないで撃て! 烈火のアニキにいいトコ見せろ!』


 姿を現したのは、多脚型の輸送支援機『ミリアポッド』の小隊と、量産型『イノセント』の混成部隊だった。

 普段は後方支援や拠点防衛を担う彼らが、横一列にズラリと並び、一斉に火線を放つ。


 ミリアポッドの背部に積まれた大型粒子タンクが唸りを上げた。

 惜しみなく連射される、大口径リニアキャノンとE粒子ライフルの嵐!


 同時に、イノセント部隊も、実弾のガトリングガンやミサイルを全弾乱れ撃ちだ。

 宇宙空間を、光と鉄の暴風で埋め尽くした。


 決死の覚悟で死地に向かうエースたちの前で、コミカルなほどにハイテンションな兵士たちの声が通信帯を飛び交う。

 恐怖を笑いでねじ伏せる、ヤケクソ気味だが気合の入りまくった絶叫。


『前衛の三機に構うな! 弾幕を張って、烈火さんと兎歌ちゃんの「道」を作れえええッ!』

『烈火『様』な! 二度と間違えるな!!』


 圧倒的な飽和攻撃が、ノヴァの無人機部隊に襲い掛かる。

 ファランクスは強力な装甲とシールドを備える重量級コマンドスーツだが、いかんせん無人機だ。

 想定外の方向からの異常な曲射狙撃にシステムが混乱し、さらに正面から迫る狂ったような弾幕の前に、防御プログラムの展開がコンマ数秒遅れた。


 そのわずかな遅れが、致命傷となる。


 次々とリニアキャノンの直撃を受け、分厚い装甲がひしゃげる。

 シールドを構えようとした腕の関節に、イノセントのミサイルが直撃して爆散する。

 さらに、その弾幕の隙間を縫うように、リエンのエルフィンが突っ込んだ。


『……こわさないで!』


 エルフィンの十二本のサブアームから、小型荷電粒子砲が全方位に向けて乱れ撃たれる。

 兵士たちの弾幕で体勢を崩していたファランクスたちは、無慈悲な光の針に貫かれ、次々と宇宙の塵へと変わっていった。


『ハッ、最高じゃねえか。どいつもこいつ、頼りになるぜ!』


 烈火は獰猛な笑みを浮かべ、操縦桿を強く握り直した。

 仲間たちが文字通り命懸けで切り開いてくれた、衛星プラットフォームへ続く、一直線の道。


『烈火! 来るよ!』


 兎歌の悲痛な叫びが響く。

 ファランクス部隊が全滅した彼方の宇宙で、衛星プラットフォームの巨大な砲口が、太陽のように白く、禍々しい光を放ち始めた。


『エネルギー反応、収束! 砲口から極大の熱源反応……来ますッ!!』


 プロメテウスからの通信。

 オペレーターのヨウコの悲鳴が響き渡った。


 すでに邪魔者は壊滅していた。


 ファランクスは確かに強敵だ。

 分厚い装甲と大型シールド、そして強力な荷電粒子砲を備え、

 マティアス・クロイツァーのような熟練の狙撃手でさえ、かつては愛機の武装を半壊させられながら、かろうじて撃破したほどのバケモノじみた機体だ。


 しかし、それはあくまで「強化兵士の異常な反応速度」があってこその強さ。

 重量級ゆえの鈍重さを、ネクスターに近い知覚と反射神経で強引にカバーして初めて、あの攻防一体の殺戮兵器は成立する。


 それが無人機となれば、途端に弱点が露呈する。

 イレギュラーな飽和攻撃や曲射狙撃に対し、プログラムされた最適解を導き出すまでの「コンマ数秒のラグ」。

 その致命的な隙を、歴戦のプロメテウス隊と、死に物狂いの防衛兵たちが見逃すはずがなかった。


『道は開けたぜ、おっさん、リエン! あとは俺たちに任せろ!』


 烈火は通信機に向かって吼えると、操縦桿の奥にある安全装置のカバーを乱暴に跳ね上げた。


『兎歌! 合体だ!』

『うんっ! コクレアシステム、フルドライブ!』


 宇宙空間に浮かぶ、赤い機体と白い鳥。

 ブレイズ・ザ・ビーストの背中に、リベルタ・ザ・ターミガンが覆い被さるようにドッキングする。

 ガシャァァン、という重厚な接合音と共に、二機のプラズマリアクターが完全にリンクした。


『いくぞぉぉぉぉぉぉぉッ!!』


 烈火が咆哮し、機体のリミッターを完全に解除する。

 その瞬間だった。


 ゴオアァァァァァァァァァッ!!


 音のない宇宙空間に、禍々しい轟音が響き渡ったかのような錯覚。

 ブレイズとリベルタの合体機体から、尋常ではない量のE粒子が噴き出した。

 それは本来の純粋な赤い輝きではなく、ドス黒い憎悪と狂気を孕んだような、赤黒い炎。

 まるで地獄の底から這い出してきた悪魔が、宇宙の闇に仁王立ちしているような姿だった。


『ヒィィッ!?』

『な、なんスか、アレ!?』

『逃げろ逃げろ! 烈火のアニキがキレたぞォォ!!』


 先ほどまでハイテンションで弾幕を張っていたミリアポッドやイノセントのパイロットたちが、通信帯で一斉に悲鳴を上げた。

 理屈ではない。

 赤黒いオーラを放つブレイズの姿が、純粋に「怖い」のだ。

 本能が警鐘を鳴らし、味方機はクモの子を散らすようにデブリの陰へとパニック状態で退避していく。


 かつてリープランドの戦場で、烈火の怒りと絶望が暴走した時に見せた、リミットのない覚醒状態。

 通常ならば、機体から逆流する精神波の負荷でパイロットの脳が焼き切れる。

 だが今は違う。


『熱い……! でも、大丈夫! リベルタのシステムが、負荷の半分を引き受けてる!』


 兎歌の声が通信越しに響く。

 二つのリアクターの粒子を螺旋状に循環させ、出力を底上げする『コクレアシステム』。

 同時に、精神的な負荷を二人のネクスターで分割する、精神波調律装置。

 菊花が考案し、この二人の「互いを守り抜くという強烈な絆」を前提に組み上げられた、エリシオンの最高機密。


『よし……防壁、展開ッ!!』


 烈火の叫びと共に、赤黒く燃え盛るブレイズの前方に、巨大な翼型の粒子防壁が展開された。

 空間を歪めるほどの圧倒的なE粒子の密度。


 そして、星を滅ぼす悪魔の閃光が、ついにプラットフォームの砲口から放たれた。



 視界を真っ白に染め上げる、絶対的な死の閃光。

 宇宙には、空気を伝わる音がない。

 だが、空間そのものが震えるような、絶望的な衝撃が全方位へと広がった。


 光の奔流がかすめただけで、周囲に浮かんでいた巨大な岩のデブリが、一瞬でプラズマ化して蒸発していく。


 その瞬間、だれもが音を消した。


 ブレイズの展開した翼型粒子防壁に、極大の光条が真っ向から激突した。

 すさまじいエネルギーの拮抗。

 光の濁流が防壁にぶつかり、左右へと激しく弾け飛ぶ。

 同時に、ブレイズの機体を覆う赤黒い炎が、狂ったように荒れ狂った。


『熱い……! でも、防げてる! 機体が、放射線ごと光を吸い上げてるよ!』


 通信機から響き渡る、兎歌の叫び声。

 覚醒状態のブレイズは、周囲の熱やエネルギーを異常なほど吸収する。

 降り注ぐ致死量のガンマ線やプラズマの超高熱すらも、二つのリアクターは強引に吸い上げ、機体の出力へと変換していく。

 赤黒いオーラが、さらに巨大に、禍々しく膨れ上がる。


 だが。


((……クソッ。重てえ……!))


 烈火は歯を食いしばり、操縦桿をねじ伏せるように握りしめた。


((エネルギーが強すぎる))


 かつてシグマ帝国で防いだ核ミサイルとは、根本的に桁が違うのだ。

 あれは指向性を持たない爆発の余波にすぎなかった。

 だが目の前のこれは、水爆のエネルギーを真っ直ぐに収束させた、純粋な破壊の光。


 いくらエネルギーを吸収できるとはいえ、器の限界を超えれば、機体ごと爆散する。

 防いでいるだけでは、確実に押し潰される!


 野生の本能が、明確な答えを弾き出した。


((喰いきれねえなら……ぶった斬るまでだ!!))


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