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烈火・シュナイダー VS 指向性核融合砲ヘリオス

 演算結果は、セレーナを代表にするのが最適解だと出ていた。


 だが、なぜその結果が出たのかまでは、分析していなかった。

 分析するべきことは無限にあり、重要でないことは、演算結果を鵜呑みにするしかないのだ。


 そして今、その演算の理由を知った。

 まさか、目の前にいる小国のお飾りの皇女が、これほどまでに強靭な魂の持ち主だとは。

 

「……くっ」


 ギンは思わず口元を押さえ、やがて、肩を揺らして低く笑い始めた。


「あっははははっ!

 これは痛快だ。

 ……これが推薦の理由か!

 このオレに『トモダチ宣言』とはな!」


 腹を抱えて笑う少年の姿は、どこにでもいる年相応の子供のように見えた。

 ひとしきり笑った後、ギンは真剣な顔つきに戻り、差し出されたセレーナの右手を、しっかりと握り返した。


「恐れ入ったよ、代表。

 ……オレの知恵と力、好きに使うといい。

 この地下庭園を守るためなら、喜んでキミのトモダチになってやろう」


 交わされた、確かな握手。

 不老不死の怪物と、人間の少女。

 それは、エリシオンという国が初めて真の意味で一つになった、歴史的な瞬間だった。


「にゃはは!

 なんかよくわかんないけど、仲直りだねー!」


 ミイは嬉しそうに尻尾を振るような素振りを見せ、ベンチで眠るネビュラの頭をよしよしと撫でた。

 張り詰めていた空気が溶け、地下庭園に本来の穏やかさが戻ってくる。


 だが、安堵に包まれたのも束の間だった。


 ビービービービー!!


 ギンの手首に巻かれた端末が、けたたましいアラート音を鳴らしたのだ。


「……ん?」


 ギンが端末のホログラムを展開すると、そこには宇宙空間にいる作戦指揮官カルコスからの、緊急通信の文字が赤々と点滅していた。


「宇宙の小惑星基地からだ。

 なんだ、この異常な熱源反応は……」


 ギンの表情が、一瞬にして険しく引き締まる。


「どうしたのですか、ギン?」

「……フレギアのヤロウ、やりやがったな」


 ギンは忌々しげに舌打ちをし、空中に展開された宇宙の戦況図を睨みつけた。


「地上をガラスに変えた指向性核融合砲……。

 そのもう一発が、衛星軌道上のプラットフォームから、我々の宇宙艦隊へ向けて発射準備に入っている!」


 その言葉に、セレーナの血の気が引いた。

 地上要塞攻略戦で放たれた悪魔の閃光。

 それが、今度はプロメテウス隊のいる、宇宙へ向けて放たれようとしているのだ!!


 ………

 ……

 …


 一方、宇宙空間。

 制圧したばかりの小惑星基地『アマツキ』は、けたたましい警報音に包み込まれていた。


「第一から第三ブロックの非戦闘員は、直ちにプロメテウス及びパンドラへ退避! 急げ!」


 プロメテウスの艦長レゴン・オリエンタルは、司令室で声を張り上げていた。

 レーダーのスクリーンには、真っ赤に点滅する超高エネルギー反応。


 ノヴァの衛星軌道プラットフォームから放たれようとしている、悪魔の兵器『ヘリオス』の照準。

 完全にアマツキを捉えている。


「艦長! プロメテウスの主砲では、衛星プラットフォームの分厚い装甲を撃ち抜けません! 発射を阻止するのは不可能です!」

「分かっている! だが、諦めるな!」


 オペレーターの悲痛な報告に、レゴンは拳を握りしめて怒鳴った。

 普段は優柔不断な中年男だが、絶体絶命の窮地に立たされた今、その目に迷いはない。


「動ける人員は全員、戦闘空母に乗せろ!

 艦がまともに戦えなくたって構わん。

オペレートによる情報支援、脱出艇の代わり……やれることは、必ずあるはずだ!

 一人の犠牲者も出すな!」


 レゴンの決断力に背中を押され、クルーたちが死に物狂いでキーボードを叩き始める。


 そんな喧騒から少し離れた、アマツキの巨大なドック。

 出撃準備の整った四機のコマンドスーツの足元で、三人のパイロットが向かい合っていた。

 烈火、兎歌、マティアス。

 三人とも、厳しい顔つきだ。

 

「……ブレイズとリベルタを合体させて、コクレアシステムをフル稼働させる。

 そうすれば、あの光を防げるかもしれない」


 兎歌は、ポツリとつぶやいた。

 その指先は、ホログラムパネルを動かし、すさまじい速さで計算を続けている。

 まるで別の生き物のようだ。


 桜色の髪が、重力制御の不安定なドック内で微かに揺れている。


「コクレアシステムの粒子防壁なら、超高熱のプラズマ流体そのものは弾き返せる。……でも」

「でも、なんだよ」


 烈火が低い声で先を促す。


「熱は防げても、それに伴う強烈なガンマ線や各種の放射線を、完全に遮断できるかは未知数なの。

 最悪の場合……防壁を展開したまま、コックピットの中で被曝して死ぬことになる」


 兎歌の言葉に、重苦しい沈黙が落ちた。

 地上をガラスに変えたほどの威力だ。

 防壁が少しでも破綻すれば、骨も残らない。


「……分かった」


 烈火は短く頷き、兎歌のパネル端末を奪い取った。

 そして、冷たい瞳で幼なじみを見下ろす。


「お前はここに残れ、兎歌。

 プロメテウスに乗って逃げろ」


「えっ……?」


 思いがけない言葉に、目を丸くする兎歌。


「一瞬なら、俺一人の『覚醒』の力で耐えきってみせる。

 ブレイズ単体のリミッターを完全に外せば、どうにかなるはずだ」


 烈火は顔を背け、ぶっきらぼうに言い放った。


「だから、お前は必要ない。

 俺一人で十分だ」


((───嘘だ))


 兎歌には、痛いほど分かっていた。

 烈火の根底にあるのは、異常なまでの庇護欲だ。

 過去に目の前で孤児院の子供を失い、自分の無力さを呪った烈火は、大切なものを二度と危険に晒そうとはしない。

 だから、あえて突き放すような冷たい言葉を投げつけているのだ。


「……ふざけないでよ」


 兎歌は、烈火の胸倉を両手でギュッと掴んだ。


「お前は必要ないなんて、絶対に言わせない。 リベルタのシステム支援がなきゃ、烈火の脳が焼き切れるよ!」

「うるせえ! お前を死なせるわけにはいかねえんだよ!」

「わたしも、烈火を一人で死なせたくない!」


 兎歌は涙目で、烈火を真っ直ぐに睨みつけた。


「今までずっと、烈火の背中に隠れて守られてきた。

 でも、今はリベルタのパイロット!

 烈火の隣で戦うって、決めたんだから!!」


 胸倉を掴む手に、ギュッと力がこもる。


「一緒にいく。

 ……もし駄目だった時は、一緒に死ぬの。

 烈火一人だけなんて、絶対に許さないから」


 その声には、死への恐怖を塗り潰すほどの、強烈な愛情と覚悟が込められていた。

 烈火は大きく息を吐き出し、乱暴に頭を掻きむしる。


「……あー、クソッ。本当に頑固だな、お前は」


 烈火は負けを認めるように、兎歌の肩にポンと手を置いた。


「分かったよ。一緒に来い。……でも、絶対に死なせねえからな」

「うん……!」


 兎歌は安堵の笑みを浮かべ、烈火の胸に顔を埋めた。


「やれやれ。若い二人の熱い覚悟の邪魔はしたくないが……時間がないぞ」


 二人のやり取りを静かに見守っていたマティアスが、穏やかな声で割って入る。

 色褪せた銀髪の熟練スナイパーは、愛機ストラウス・ザ・ホークアイを見上げた。


「私のストラウスと、リエンのエルフィンで道を切り開く。あの極太の光線を真っ向から受け止めるのだ、わずかな隙やエネルギーの偏りを突く必要があるはずだ」

「マティアス……」

「お前たちだけを死地に向かわせるつもりはない。プロメテウス隊の底力を、ノヴァの連中に見せてやろう」


 マティアスはニヤリと笑い、パイロットスーツのヘルメットを小脇に抱えた。



「ありがとう、マティアスのおっさん。……兎歌、行くぞ」

「うん!」


 烈火と兎歌は、それぞれの愛機であるブレイズ・ザ・ビーストとリベルタ・ザ・ターミガンのコックピットへと駆け出した。


 ………

 ……

 …


 数分後。

 制圧したばかりの小惑星基地『アマツキ』の前方に広がるデブリ帯。

 その巨大な岩塊の上に、燃えるような赤い装甲のブレイズと、白い鳥のようなリベルタが、宇宙空間に仁王立ちしていた。

 背後には、アマツキを盾にするように退避行動を取る、プロメテウスの巨大な影。


『プロメテウスより、各機へ。通信状態は良好だ』


 通信パネルから、レゴン艦長の硬い声が響く。


『諜報部からのデータを受信した。ターゲットは、彼方の衛星軌道プラットフォーム。そこに搭載された指向性核融合砲……コードネームは「ヘリオス」だ』

『ヘリオス……』


 烈火は呟く。

 太陽神の名を冠する、禁忌の兵器。


『すまない、烈火、兎歌。

 プロメテウスはアマツキの非戦闘員を収容中で、機動力も火力も足りない。

 我々にできるのは、通信と演算による情報支援だけだ』


 レゴンの声には、前線に立てない悔しさが滲んでいた。


『気にしてねえよ、艦長。むしろ、背中が空っぽよりはマシだ』


 烈火がニヤリと笑って返す。

 その通信に、ノイズ混じりで別の声が割り込んできた。


『アホか! 艦長なんかに気を遣っとる場合ちゃうやろ!』


 プロメテウスのドックから通信を繋いできたのは、メインメカニックの菊花!


『ええか、烈火! 兎歌!

 あのデタラメな光線をまともに食らったら、普通は放射線で細胞レベルから消滅する!

 けどな……』


 菊花の関西弁が、早口でまくし立てる。


『シグマで核ミサイルを防いだ時と同じや!

 あの「覚醒」状態のブレイズの防壁なら、ある程度は防げるはずや!』


『どういうことだ、班長?』


『理由はウチにも分からん!

 けど、以前ブレイズが暴走した時、周囲の炎や熱エネルギーを異常なほど機体に吸い上げる現象が確認されとる!』


 かつての戦い。

 燃え盛るリープランドで、ブレイズが覚醒の力を解き放った時のことだ。


 怒りで暴走したブレイズは、周囲の火災の熱を吸収し、赤黒いオーラへと変換していた。

 プラズマリアクターの限界突破に伴う、未知のエネルギー変換現象。


『つまり、ヘリオスの莫大な熱と放射線を、防壁で弾くやのうて、機体の出力そのものに変換して「喰らう」んや!

 理論上は……それで防げる!』


 無茶苦茶な理論だった。

 だが、今の彼らには、その「無茶苦茶」にすがるしかなかった。


『オッケーだ、班長。

 要は、あの光を全部喰らい尽くすくらい、気合を入れりゃいいんだろ!』


 烈火は操縦桿を強く握りしめ、獰猛な笑みを浮かべた。


『烈火……。うん、無茶は承知だけど……やってみせる!』


 兎歌の声にも、力強い決意がこもっている。

 その時、オペレーターのヨウコの緊迫した声が、通信帯に飛び込んできた。


『敵機接近! 熱源反応、多数!』


『数は!?』


『数12!

 機影パターンから、重量級コマンドスーツ「ファランクス」と推測されます!

 ですが、パイロットの生体反応がありません。

 ……おそらく、プラットフォーム防衛用の無人機です!』


 ヨウコの報告に、烈火の目が鋭く細められる。


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