タッグマッチ:ギゼラ&ゲイル VS ガロ&ウリエン
((この狡猾な防壁の張り方……そして、一方的に蹂躙するだけの陣形。間違いない))
直感が、ゲイルの脳裏に確信を叩きつける。
あの要塞の奥深くに、ノヴァの王族がいる。
かつてシグマ帝国の上層部を裏で操り、三本槍の頭上に容赦なく核ミサイルを放たせた張本人。
ドレッドを殺し、ルシアを奪った、忌まわしき悪魔が。
「……万死に値するぞ、ノヴァの王族」
ゲイルの瞳の奥で、決して消えることのない復讐の炎が、静かに、そして熱く燃え上がる。
荒野を揺るがす轟音と共に、ダフネとアラクネの死闘が幕を開けた。
「おぉおお!!」
ゲイルはダフネ本体を地を這うような低空機動で走らせつつ、空中を舞う『複合型バックパック』をシンクロコア経由で自在に操る。
二つの視界、二つの思考。
ダフネの両手に握られたE粒子ハンドガンと、バックパックのE粒子ランチャーが、一気に火を吹く。
息つく暇もなく、アラクネの巨体へと弾幕を浴びせかけた!
『鬱陶しい小蝿め! 叩き落とせ!』
ウリエンの苛立った命令を受け、アラクネの残る七本の脚が火を噴く。
極太の荷電粒子砲と高初速のレールガンが、荒野を縦横無尽に薙ぎ払った。
爆発、轟音、衝撃!
大気を焦がす青白い閃光と徹甲弾の雨。
ゲイルはスラスターと重心制御を巧みに使い分け、その弾幕の隙間を縫うように躱していく。
だが、周囲で戦っていた機体はそうはいかない。
アラクネの無差別な砲火と、ダフネの放つ流れ弾に巻き込まれていた。
レジスタンスのタイタンもノヴァのファランクスも、次々と火柱を上げて消し飛んでいく。
圧倒的な火力の応酬。 まさに地獄の様相だ。
((……今だ! あの赤い機体が、敵の要塞を抑え込んでいる!))
後方で息を潜めていたレジスタンスの老兵・ドラッツェは、この乱戦を千載一遇の好機と見た。
『輸送艦、前へ! 出し惜しみはなしだ! 精鋭部隊、出撃せよ!』
砂塵を切り裂き、光学迷彩を解いた数隻の輸送艦が前進してくる。
ハッチが開き、中から飛び出してきたのは、レジスタンスが温存していた精鋭部隊。
タイタンよりも軽量で機動性に優れる新型機、『ジャガノート』だ。
『帝国の意地を見せてやる!』
『うおおおおっ!』
熟練のパイロットたちが操るジャガノートは、肩に備えた重砲とガトリングガンを乱射しながら、ファランクスの部隊へと果敢に突撃していく。
装甲の薄さを機動力で補い、ファランクスの死角へと潜り込もうとする。
だが。
『───対応する』
ノヴァのファランクスは、分厚い大盾を構えたまま重々しく旋回した。
ジャガノートの重砲を大楯で事もなげに弾き返し、巨大な荷電粒子砲の銃口を無慈悲に向ける。
ズドォォォンッ!
『ぐわぁぁぁッ!?』
青白い閃光が直撃!
ジャガノートの一機が瞬時に融解して爆散する。
「くそっ……! 精鋭を以てしても、ファランクスには及ばないというのか!」
血を吐くようなうめき声を上げるドラッツェ。
ゲイルの活躍で戦線を押し返したように見えた……
が、地力の差はいかんともしがたい。
その苦闘を見下ろし、ゲイルは目を細めた。
((……レジスタンスの限界か。ならば、俺がこの要塞を落とすまで!))
ゲイルは冷徹に戦況を見極めると、アラクネの巨体を見据えた。
八本脚の蜘蛛の頭頂部。
六角形の粒子防壁を発生させている、心臓部とも言える装置がそこにある。
「───囮になれ」
ゲイルの思考を受け、空中のバックパックがアラクネの正面へと突撃。
同時に、E粒子ランチャーとガトリングガンを全弾発射し、敵の注意を完全に上空へと引きつける。
『ハッ、見え透いた真似を! 撃ち落とせ!』
ウリエンの嘲笑と共に、アラクネの砲台が上空のバックパックへと集中した。
((───かかったな))
ゲイルは、その一瞬の隙を見逃さなかった。
ダフネ本体のスラスターを全開にし、青白い炎を噴き出して大地を蹴る。
バックパックを外したことで軽い機体は、動きが速いのだ。
タン───ッ
ダフネは脚の粒子開放機で、空を蹴る。
「なるほど、シャオの動き方は、便利だ!」
ゲイルは獰猛に笑う。
アラクネの懐へ潜り込むと、蜘蛛の巨体を駆け上がるようにして頭頂部へと肉薄した。
「そこだッ!」
両腕のシールドエッジから、青白い光の刃が鋭く伸びる。
ゲイルは交差させた刃を、粒子防壁の発生装置へと力任せに突き立てた。
バリィィィィィンッ!!
ガラスの割れるような甲高い音が響き渡り、アラクネを覆っていた六角形の防壁が、音を立てて砕け散る。
『なっ……!? 防壁が!!』
ウリエンの余裕の表情が、驚愕に引きつった。
だが、ノヴァの機動要塞は、ただやられるだけの案山子ではない。
防壁発生装置が破壊された直後。
アラクネの背面に隠されていた隠し砲台が、至近距離でダフネを捉えた。
((……チッ! 相討ち狙いか!))
ゲイルは反射的に両腕のシールドを前面に交差させる。
ズガァァァァァァンッ!!
ゼロ距離で放たれた高出力のレールガン。
凄まじい衝撃と熱量が、ダフネの機体を容赦なく叩き据える。
「ぐぅぅッ……!」
ゲイルのコックピットに、警報がけたたましく鳴り響く。
機体が悲鳴を上げていた。
直撃こそ免れたものの、莫大なエネルギーを正面から受け止めた代償は大きかった。
『警告。プラズマリアクター、温度上昇。冷却システム、限界を突破』
無機質な電子音が、最悪の事態を告げる。
「くそっ……! オーバーヒートか!」
ゲイルは舌打ちをし、強制的に機体を後方へと弾き飛ばした。
ダフネの全身から、限界を知らせる白い蒸気がシューシューと噴き出す。
紅白の装甲が赤熱し、機体の動きがガクンと鈍った。
「はぁ……はぁ……」
コックピット内は異常な熱気に包まれ、ゲイルは額に滲む汗を拭うことすらできなかった。
((……機体が、ついてこないか))
いくら次世代型アニムスキャナーで直感的に操作できようと。
いくらプラズマリアクターの出力が他国を圧倒していようと。
たった一機のコマンドスーツで、ノヴァ・ドミニオンの拠点防衛用機動要塞をここまで追い詰めたのだ。
それ自体が軍事史に残るほどの偉業である。
だが、物理的な限界は確実に存在した。
装甲はひしゃげ、関節部の駆動系が悲鳴を上げている。
安全装置が働き、ダフネは一時的な機能不全に陥っていた。
((だが、なぜ撃ってこない?))
ゲイルは荒い息を吐きながら、メインモニターを睨みつける。
無防備なダフネの目の前には、防壁発生装置を破壊され、沈黙したままの巨大な蜘蛛――アラクネが鎮座している。
絶好の的であるはずなのに、アラクネからの追撃は来ない。
ゲイルの冷徹な観察眼が、アラクネの異常を即座に見抜いた。
((……なるほど。あちらも限界か))
防壁発生装置の破壊によるシステムへの逆流。
さらに、至近距離から隠し砲台を放った反動。
それらがアラクネの巨体にも深刻な負荷を与え、主砲の再チャージとシステムの復旧に時間を要しているのだ。
周囲では、レジスタンスのジャガノートとノヴァのファランクスが、泥沼のような乱戦を繰り広げている。
爆音と閃光が飛び交い、次々と機体が火柱を上げて消し飛ぶ地獄絵図。
そんな狂騒の戦場の中央で。
オーバーヒートしたダフネと、再チャージを待つアラクネだけが、不気味な静寂の中でじっと睨み合っていた。
どちらが先に動けるか。
一秒が永遠にも感じられる、死と隣り合わせの焦燥感。
「……動け」
ゲイルは操縦桿を握りしめ、低く唸った。
アニムスキャナーを通じて、機体に強烈な意志を叩きつける。
だが、ダフネのレッドアラートは消えない。
このままでは、アラクネの復旧が先だ。
王族の乗る要塞が息を吹き返せば、今度こそチリ一つ残さず消し炭にされる。
「ならば……来いッ!」
ゲイルは瞬時に判断を下し───
上空で待機させていた『複合型バックパック』を呼び寄せた。
轟音を立てて、空から急降下してくる戦闘機型の兵装ユニット。
それが、動けないダフネの背中へと勢いよくドッキングした。
ガコンッ!!
重々しい連結音がコックピットに響く。
直後、バックパックに搭載された粒子タンクから、新鮮なE粒子と電力がダフネ本体へと一気に流れ込んできた。
『システム、一部復旧。推進器、使用可能』
「上等だ……ッ!」
本体の冷却を待つ暇はない。
ゲイルはバックパック側の推進器を強引に吹かし、その推力だけでダフネの機体を大地から引き剥がした。
アラクネの砲口が青白い光を帯び始めた、まさにその瞬間。
ダフネは猛烈な勢いで後方へと飛び退き、射線から間一髪で逃れた。
ズドォォォォンッ!!
復旧したアラクネの砲撃が、ダフネのいた空間を虚しく薙ぎ払う。
ゲイルが荒い息を整え、体勢を立て直そうとした、その時だった。
『だーははははッ! 逃がさねえぜ、戦闘機チャンよォ!』
『こいつッ! しつこい鳥っころだね!』
頭上から、大気を震わせる二つの怒号が降ってきた。
ゲイルが上空を見上げると、分厚い雲を突き破って、二つの影が激しくもつれ合いながら降下してくるのが見えた。
白い炎を噴き出す人鳥型の『シームルグ』。
そして、巨体を翻して青白い刃を振るう『ウェイバー』。
ガロとギゼラだ。
二人の壮絶な空中戦。
それが、ゲイルのいる空域へと、真っ直ぐに雪崩れ込んできていた。
「ギゼラか。ならば───」
空から降下してくる二つの機影。
ゲイルとギゼラは、瞬時に通信回線を開いた。
『ギゼラ、標的を変更しろ! 眼下の機動要塞を叩くぞ!』
『合点承知! あの鳥っころは任せたよ!』
言葉を交わしたのは、ほんの一瞬だ。
だが、それだけで二人のエースは完全に意志を疎通させていた。
長きにわたり、別々の陣営で戦ってきた二人。
しかし今は、互いの背中を完全に預け合える、エリシオンの戦友同士だ。
上空から急降下してきたウェイバーは、シームルグとのドッグファイトを放棄。
一直線にアラクネへと機首を向ける。
『逃がすかよッ!』
ガロは野獣のように吠え、シームルグのマシンガンをウェイバーの背後へと向けた。
しかし、その銃口が火を噴くより早く。
ズガガガガガッ!
横合いから飛来したE粒子ハンドガンの光弾が、シームルグの射線を強引に遮った。
バックパックの推進力で空へ舞い上がった、ゲイルのダフネだ。
オーバーヒートした本体を冷却しつつ、残された出力のすべてをシームルグの足止めへと注ぎ込む。
『チィッ! 邪魔しやがって!』
ガロは舌打ちし、急反転してダフネの弾幕を躱す。
ここで、決定的な差が生まれた。




