シャオの強さ! レジスタンスの苦闘
猛烈な爆煙が渦巻く。
二機は衝撃で、大きく引き離される。
ガクン。土煙の中で、漆黒の狼は膝をついた。
だが───
カーバンクルもまた、無傷では済まない!
着地しようとしたカーバンクルの姿勢が、不自然に大きく傾く。
((……なに?))
クロトはモニターの警告表示を見て、わずかに目を見張った。
カーバンクルの右足が、膝から下で完全にちぎれ飛んでいたのだ。
((……なんだと!? いつの間に!))
クロトが驚愕した、まさにその瞬間だった。
ピーピーピーッ!
背面センサーが、背後からの小型の熱源反応をけたたましく警告!
クロトは反射的にスラスターを吹かし、片足のまま大きく横へと飛び退いた。
直前までカーバンクルが立っていた空間を、何かが凄まじい速度で通り抜けていく。
ザッ───
岩盤を砕いて着地したその影が、土煙の中から姿を現した。
「……ロボット、だと?」
クロトの冷徹な瞳が、わずかに揺らぐ。
視界に映ったのは、漆黒のルナの半分ほどの背丈しかない、鋼鉄の狼。
鋭い牙を剥き出しにしたコマンドロボが、カーバンクルを低い姿勢で威嚇している。
クロトは視線を横に滑らせ、膝をついたルナの背中を見た。
「何もない……?」
ルナの背中にあるはずのバックパックが、丸ごと消失していたのだ。
((なるほど……。バックパックが分離して、自律兵器になったのか))
クロトは一瞬で事態を理解した。
先ほどの交錯の最中、シャオはバックパックを密かに切り離していたのだ。
そして、クロトがルナの左腕を吹き飛ばしたその死角から───
鋼鉄の狼が、カーバンクルの右足を噛み砕いたのである。
『いっけぇーっ! ファング!』
シャオの快活な声が、戦場に響き渡る。
漆黒のルナが立ち上がり、残された右手のサブマシンガンを構えた。
同時に、狼型のコマンドロボも動く。
その背部に備わったリニアキャノンが、クロトに狙いを定めた。
クロトは即座にリパルサーリフト――反重力機構の出力を全開!!
重力を振り切り、片足のカーバンクルが空高く舞い上がる。
地上から、青白い光の弾幕と、高初速の徹甲弾が空中のカーバンクルへ殺到!
本体のサブマシンガンと、分離したファングのリニアキャノン。
二方向からの完璧な連携攻撃!
恐るべき十字砲火だ!
クロトが空中で回避機動を取る中、一機のファランクスが援護に入ろうと大盾を構えて突進してきた。
『邪魔だよ、デカブツ!』
シャオが叫ぶと同時。
鋼鉄の狼――ファングが、荒野を蹴って、猛烈なスピードでファランクスの背後へ回り込んだ。
そのまま跳躍し、E粒子を纏った凶悪な牙で、ファランクスの背中の粒子タンクへ食らいつく。
メキィィィィッ!
薄い装甲ごと、タンクの基部が噛み砕かれる。
直後、ファランクスの巨体は内部からの誘爆に耐えきれず、大爆発!
火柱を上げた。
((……チッ!))
クロトは舌打ちし、空中でカーバンクルの姿勢を強引に立て直す。
両手のガンブレードと、背中から伸びる『三本目の腕』の拡散粒子砲。
すべての火器を地上へ向け、メチャクチャに乱射した。
ドガガガガガッ!
辺り一帯を黄金の粒子と爆煙で覆い尽くし、強固な弾幕の壁を作り出す。
その隙に、クロトは安全な高度まで一気に離脱を果たした。
空中に留まるカーバンクルのコックピットで、クロトは忌々しげに息を吐く。
((たかが小国家のガキだと侮っていたが……あの動き、異常だ))
視力が良いという次元の話ではない。
相手の人工筋肉の動き、機体の重心の偏り、そして思考の癖。
それらを『見る』能力が、異常なまでに高いのだ。
不意打ちや初見の武器でなければ、時間が経つにつれて、シャオは敵の動きを完全に読んでいく。
まるで、相手の手札をすべて透視しているかのように。
クロトは、その事実を知らなかった。
野生の勘と、ネクスターとしての研ぎ澄まされた観察眼。
それが、漆黒の狼を戦場において『最強のハンター』たらしめているのだと。
………
……
…
───視点は変わる。
リープランド国境沿いの辺境で、エース同士の死闘が一進一退のまま続く頃。
かつてシグマ帝国が誇った軍事要塞、『バグラザード』の周辺でも、戦火は激しく燃え上がっていた。
『撃てぇぇぇッ! 帝国の誇りを見せてやれ!』
荒野に響き渡る、レジスタンスの老兵・ドラッツェの怒号。
自身もジャガノートに乗り込み、前線で指揮を執る。
要塞を囲むように、エリシオンの部隊とレジスタンスの部隊が、両翼から挟み撃ちの陣形を敷いていた。
土色の重厚な装甲を持つ、元シグマ帝国の主力機『タイタン』部隊が、一斉に進軍を開始する。
両腕に構えたガトリングガンと肩部の重砲が、火を噴いた。
ズドドドドドッ!
ドゴォォォォンッ!
実弾の暴風雨と、高威力の砲弾が要塞の防衛線へと殺到!
だが、ノヴァ・ドミニオンの防衛網は、そう容易くは崩れない。
『敵正反応確認、作戦開始』
迎え撃つのは、要塞の前面に展開した『ファランクス』の部隊だ。
王族であるウリエン・ノヴァが滞在するこの要塞の護衛は、辺境の部隊よりも精鋭揃いだった。
ファランクスたちは、巨体を隠すほどの分厚い大盾を前面に突き出す。
表面に展開されたE粒子コートが、雨あられと降り注ぐタイタンの砲火を、あっさりと弾き返していく。
そして、大盾の隙間から、巨大な荷電粒子砲の銃口が突き出された。
『───攻撃、開始』
青白い閃光が、荒野を薙ぎ払うように放たれる。
直撃を受けたタイタン数機が、分厚い装甲ごとドロドロに融解。
瞬く間に、原型をとどめない鉄屑へと変えられた。
((くそっ……! やはり、ファランクスの装甲と火力は化け物じみている!))
ドラッツェはコックピットの中で歯噛みした。
だが、レジスタンスの切り札は、まだ残されている。
「出ろぉぉぉッ!! 『ザラタン』!!」
ドラッツェの叫びと共に、要塞の背後――荒野の地平線から、土煙を上げて巨大な影が姿を現した。
ズズズン……ッ!
地響きと共に前進してくるのは、全長五十メートルにも及ぶ、巨大なリクガメのような姿をした機動要塞!
分厚い甲羅のような装甲に覆われ、四本の太い脚で大地を踏みしめる、その威容。
シグマ帝国の遺産、機動要塞『ザラタン』!
「目標、敵防衛部隊! 主砲、撃てェ!」
ザラタンの頭部――亀の首にあたる部分に備えられた、極太のレールガンが咆哮を上げた。
ズドォォォォォォンッ!!
高初速の巨大な徹甲弾が、空気を引き裂いて飛翔する。
直撃を受けたファランクスが、構えていた大盾ごと後方へと大きく吹き飛ばされた。
E粒子コートを貫通するほどの、圧倒的な質量兵器の暴力。
さらに、ザラタンの甲羅の周囲をぐるりと囲むように配置された無数の機銃が、全方位へ向けて一斉に火を噴く。
パラララララララララララッ!!
息つく間もない機銃の雨あられが、ファランクス部隊へと降り注ぐ。
さしもの重量級コマンドスーツも、機動要塞の凄まじい面制圧能力の前には、大盾を構えて防戦一方になるほかなかった。
「押し込めぇぇぇッ!」
ザラタンの援護射撃を背に受けて、レジスタンスのタイタン部隊が再び息を吹き返し、雄叫びを上げて突撃を開始する。
要塞バグラザードを巡る攻防戦は、いよいよその激しさを増していった。
〜〜〜
一方、レジスタンスの猛攻に呼応するように、エリシオン本隊もまた圧倒的な戦力を展開していた。
上空には複数の戦闘空母が陣取り、護衛の戦闘艦が分厚い陣形を組んで要塞を睨みつけている。
地上を進むのは、量産型コマンドスーツ『イノセント』と、輸送支援機『ミリアポッド』の混成部隊だ。
ズドォォォォンッ!
ミリアポッドは、昆虫を思わせる四本の太い脚で大地にどっしりと構えていた。
そして、その手にはリニアキャノンとE粒子ライフル。
二丁撃ちで立て続けに放つ。
大型リアクターと大型粒子タンクから供給される、莫大な電力と粒子エネルギー。
その暴力的なまでの重砲撃は、強固な盾を誇るファランクスといえど、決して無傷では済まされない。
直撃を受けたファランクスが、分厚い装甲をひしゃげさせて体勢を崩す。
その懐へ、身軽なイノセントたちが一斉に飛び込んでいった。
ファランクスは、攻撃力も防御力も桁違いのバケモノだ。
だが、致命的なまでに『重い』という弱点がある。
機動力で勝るイノセントの部隊は、足を止めた巨体の死角を的確に突いていく。
つまり、ミリアポッドの砲撃と合わせた、完全な包囲網を築き上げていたのだ。
さらに頭上の空では、エリシオン艦隊と要塞バグラザードの砲台が、極太の荷電粒子砲を絶え間なく撃ち合っている。
空も大地も青白い閃光に染まり、戦場はまさに地獄の様相を呈していた。
エリシオンとレジスタンスの連合軍が、戦局を完全に制圧しようとした、まさにその時だった。
ドガァァァァァァンッ!!
爆発だ!
上空で陣形を組んでいたエリシオンの護衛艦の一隻が、突如として大爆発した!
真っ二つにへし折れた鋼鉄の艦体が、業火を引きずりながら荒野へと墜落していく。
『なんだと!?』
『上から来るぞッ! 気をつけろ!』
地上の兵士たちが、墜落していく残骸の向こうを見上げて息を呑む。
吹き荒れる爆風と黒煙を切り裂き、空へ舞い上がったのは───
───鳥じみた影。
茶色い猛禽類を思わせる、禍々しい人鳥型のフレーム。
両手には無骨なマシンガンを構え、鳥のような脚部からは、推進器としても使われる『粒子開放機』の白い炎が激しく噴き出している。
ノヴァ・ドミニオンの最新鋭機にして、圧倒的な出力を誇る、プラズマリアクター搭載機。
その名は、『シームルグ』!
『だーはははぁッ! いい眺めじゃねえか、ええ!?』
通信回線に、血に飢えた野獣のような笑い声が響き渡る。
シームルグのコックピットで、獰猛な牙を剥き出しにして嗤う男。
ガロ・ルージャン。
「さぁて……」
ガロは、シームルグの視界に浮かぶ次なる標的へ、冷たい視線を向けた。
エリシオンの護衛艦。
無防備な腹を晒して浮かぶ、鈍重な鉄の塊だ。
((……次だ。片っ端から落としてやるよ))
野獣のように口角を吊り上げ、マシンガンの引き金に指をかけた───
その瞬間。
頭上の空が、不自然に明るく輝いた。
「───ッ!?」
空を引き裂くような轟音と共に、雨あられと降り注ぐ無数の青白い光弾。
広範囲を制圧する、拡散モードのE粒子キャノンだ!
『ハッハー! 随分と派手な真似をしてくれるじゃか!』




