表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
186/256

クロト VS シャオ! 砂漠の戦い

『あははっ! あたしに続けーっ!』


 無邪気な笑い声と共に、三機目のカスタム機――ユナの高機動型イノセントが、燃え盛る爆炎を盾にして一気に距離を詰めた。

 別のファランクスが迎撃しようと片手剣を振り下ろす。

 だが、ユナ機は背中のジェットパックを巧みに吹かし、残像を残すような超高速のステップで、その刃をひらりと躱してみせた。


((……見事な連携だ。あの三機、ただの烏合の衆ではないな))


 クロトは敵ながら、その流れるようなコンビネーションに感心した。

 単体の性能で劣る量産機が、互いの死角を完璧に補い合って重量級のファランクスを翻弄している。


 だが、感心している余裕はなかった。


『よそ見してる場合じゃないですよぉ!』


 ノエルの重装型イノセントが、ガトリングガンから荷電粒子ランチャーへと瞬時に武装を切り替え、銃口をこちらへと向けていたのだ。

 青白い、極太の閃光が放たれた。

 荒野を抉りながら、一直線にカーバンクルへと殺到する。


「……チッ!」


 クロトは機体を鋭く倒し、腕を大きく振るった。

 カーバンクルは空中で機体を横に捻り、迫り来る必殺の光条を紙一重で回避!

 防護マントの表面を、超高熱の粒子が掠めて激しい火花を散らした。


 回避行動を取り、体勢がわずかに崩れたその瞬間。


『捕まえたッ!』


 シャオの快活な叫びと共に、土煙を切り裂いて漆黒の狼が猛然と突っ込んできた。

 ルナ・ザ・ウルフファングだ!


 両腕のマルチプルユニットから伸びる、青白い巨大な光の鉤爪。

 クロトも即座に体勢を立て直し、黄金の粒子を纏った二振りのガンブレードを交差させて迎え撃つ。


 ガァァァァンッ!!


 刃と刃が激突し、凄まじい衝撃波が荒野の砂を円形に吹き飛ばした。

 火花が散り、互いのプラズマリアクターが限界まで唸りを上げる。


((……迅い! 出力も、反応速度も、全く押し負けていない!))


 クロトは驚愕を無表情の裏に隠した。

 カーバンクルは、迅い。

 並のパイロットでは制御しきれないほどの「超高機動」を誇る機体だ。

 だが、目の前の漆黒の機体は、その極限のスピードに完全に喰らいついてきている。

 速さは、完全に互角!


「へぇ……迅いね、コイツ」

「ほう……この速度についてくるか」


 シャオは、まるで獲物を前にした飢えた獣のように、野性的な牙を剥き出しにして獰猛に笑っていた。

 対するクロトの顔には、氷のような冷徹さだけが張り付き、一切の感情が抜け落ちている。


 熱く燃え上がる炎と、冷たく凍てつく氷。

 全く相反する性質を持った二人のエースが、戦場の中央で激しく命を削り合っていた。


 ~~~


 ――視点は、激戦を繰り広げるシホのイノセントへと移る。


 エピメテウスに配備されていた三機のイノセントは、先日のリリエル・ブルーとの死闘でそれぞれ大破していた。

 本来ならば、この作戦には到底間に合わないはず……だった。


 だが、作戦開始の直前。

 エリシオンの小型高速輸送艦『ヘルメス』が、本国から真新しい三機のイノセントを送り届けてくれたのだ。


 しかも、真新しい装甲の肩部分には、紅蓮の炎で彩られたエンブレムが、誇らしげに描かれていた。

 それは、烈火が特別に頼んで追加してくれたものだという。


((烈火さん……。私たちのために、わざわざ……))


 シホは操縦桿を握りしめ、胸の奥がカッと熱くなるのを感じていた。

 幼なじみの兎歌がいる以上、自分が入り込む隙はない。

 叶わぬ恋だと、痛いほど分かっている。

 それでも、想い人の不器用な気遣いがたまらなく嬉しかった。


 恩返しがしたい。

 その一心で、今のシホは並々ならぬ『殺る気』に満ち溢れていた。


『そこですっ!』


 シホは気合と共に右腕の粒子バルカンを掃射!

 的確な射撃が、巨体を誇るファランクスの関節部を次々と穿ち、動きを封じていく。


 だが……。

 戦闘を続けるうちに、シホの胸の中に一つの疑念がドロドロと湧き上がってきた。


((……ファランクスが、弱い?))


 シホは眼鏡の奥の瞳を細め、火花を散らす敵機の動きを冷静に観察した。


 死線を潜り抜け、血の滲むような特訓を重ねたことで、自分たちが強くなったという確かな実感はある。

 ノエルもユナも、以前とは見違えるほどの無駄のない連携を見せている。

 しかし、それで圧倒できるほど、ノヴァ・ドミニオンの兵士は弱くないはずだ。


((重量級の装甲と火力を誇る機体なのに……。動きが、単調すぎる))


 敵の攻撃は、まるでお手本通りのマニュアル操作のようだ。

 超人的な反応速度を持つはずの『強化兵士』特有の、あの不気味なまでの殺気や、変則的な機動が全く感じられない。


 ふと、出撃前の格納庫での会話が、シホの脳裏をよぎった。


『いやー、さっきの偵察部隊、なんかあっけない戦いだったんだよね! 動けるのは隊長機だけで、びっくりしちゃった』


 シャオが、調整中のルナの前でケラケラと笑いながらそう言っていた。


((シャオさんが戦った偵察部隊も、手応えがなかった……?))


 シホの背筋に、冷たいものがツーッと走り抜ける。


((まさか。今私たちが戦っているこの部隊に、本物の強化兵士は乗っていない……!?))



 シホの脳裏に、ブリーフィングで見た戦闘記録映像がフラッシュバックする。


 かつて、プロメテウス隊の紳士であり狙撃の達人であるマティアスが、砂漠でファランクス部隊と交戦した時のデータだ。

 あの歴戦の勇士でさえ、ファランクス三機を相手に単機で立ち回り、撃破するだけで精一杯だった。

 それほどまでに、重量級の装甲と火力は圧倒的だったはずだ。


 しかし、先ほどシャオが交戦した偵察部隊の映像はどうだ。


((シャオさんの実力なら、敵を蹂躙できるのは分かります。でも……))


 映像の中のファランクスは、ルナが正面から乱射したマシンガンをまともに受け、あっさりと脚を壊されていた。

 いくらシールドを小型化した軽装の偵察兵とはいえ、正面からの銃撃すら防げないなど、あまりにも脆すぎないか?


『なんかあっけない戦いだったんだよね! ……でも、ちょっと嫌な予感がする』


 シャオが残した言葉が、冷たいトゲのように胸に突き刺さる。

 今、シホ自身も全く同じように、得体の知れない嫌な予感に囚われていた。


((敵は、本物の強化兵士を、出し惜しみしてる?))


 いや、それだけではない。

 もしも、今ここで戦っている要塞の兵士たちが。

 最初から『死んでもいい捨て駒』として、作戦に投入されているのだとしたら?

 精鋭部隊の動きから目を逸らすための、ただの囮だとしたら───。


 そこまで考えが行き着いた瞬間、シホは全身の毛穴が粟立つのを感じた。

 ゾッと背筋が凍りつき、思わず操縦桿を握る手が震える。


『シホちゃん? どうしましたか、動きが止まっていますよぉ?』

『シホ、大丈夫!? 敵が来るよ!』


 通信機から、ノエルとユナの心配そうな声が飛んできた。


「はっ……! す、すみません、なんでもありません!」


 シホは慌てて首を振り、強引に意識を戦場へと引き戻す。

 イノセントの姿勢を立て直し、迫り来るファランクスの大盾をシールドで受け流した。


 激しい金属音が響く中、シホは視界の片隅に映る光景に目を向ける。


 カメラアイがとらえるのは、二機の攻防。

 少し離れた荒野の中央では、シャオの駆る漆黒のルナと、クロトの駆る灰色のカーバンクルが、凄まじい速度で激突を繰り返していた。


 青白い光の鉤爪と、黄金の粒子を纏ったガンブレード。

 二つの閃光が交差し、爆発的な衝撃波が何度も砂塵を巻き上げる。

 どちらも一歩も譲らない、完全な一進一退の攻防。


 あちらの灰色の機体に乗っているのは、間違いなく本物のエースだ。

 だが、だからこそ不気味だった。

 たった一機のエースに、大勢の『捨て駒』を付き従わせて。


((ノヴァ・ドミニオンは一体何を企んでいるの……?))


 ~~~


 荒野の中央では、ルナとカーバンクルの死闘が依然として続いていた。


 青白い光の鉤爪と、黄金の粒子を纏ったガンブレードが、幾度も激しく交差する。

 衝撃波が砂塵を吹き飛ばし、二機のプラズマリアクターが限界まで唸りを上げていた。


((……厄介な相手だ。出し惜しみをしていては、確実に狩られる))


 クロトは、氷のように冷たい瞳で冷徹な結論を下した。

 目の前の漆黒の狼は、本能のままに極限の機動を引き出している。

 単調な剣戟や小手先の技だけで勝てる相手ではない。


 その時、カーバンクルの横合いから、リープランド軍のイノセントが一機、援護のために接近してきた。

 クロトは一切の表情を変えず、ガンブレードを無造作に突き出す。

 黄金の刃が、イノセントのコックピットを容易く刺し貫いた。


 ズガァァァンッ!


 イノセントは真っ赤な火柱を上げて爆散!

 だが、クロトの真の狙いは、この爆発をただの目隠しとして利用することだった。

 爆炎の影から、待ってましたとばかりに漆黒のルナが飛び出してきたのだ。


『よそ見してる場合じゃないでしょッ!』


 シャオの気合と共に、ルナの左腕から凶悪な鉤爪が射出された!

 アンカーワイヤーがうねり、カーバンクルの胸部を正確に狙い撃つ。


((……かかったな))


 クロトはカーバンクルの肩を少しだけ動かした。

 カーバンクルの肩から垂れ下がる防護マントが、ふわりと舞い上がる。


 バチィッ!


 展開されたマント力場が、飛来した鉤爪の軌道を強引に弾き飛ばした!


『ちっ……!』


 シャオが舌打ちした、次の瞬間。

 カーバンクルの背中――ジェットパックの隙間から、隠されていた『三本目の腕』が出現していた。


 ノヴァ・ドミニオンの技術が詰め込まれた、異形のサブアーム。

 その先端に備わった銃口が、黄金の輝きを急激に収束させる。


「消えろ」


 発射。

 クロトの短い呟きと共に、三本目の腕から拡散粒子砲が放たれた。

 広範囲に広がる破壊の光が、至近距離からルナへと殺到!


『くぅぅぅッ!!』


 シャオは野生の勘だけで、無理やり機体を捻った。

 直撃コースから、コックピットだけはどうにか逃れる。

 だが、躱しきれない!


 ドゴォォォォンッ!!


 荒野を震わせる轟音。

 拡散粒子砲の直撃を受けたルナの左腕が、粉砕!


「ぐぅ……ッ!!」


 マルチプルユニットごと、無残に吹き飛んだ。

 装甲がドロドロに融解し、火花を散らして千切れ飛んでいく。


 ギリギリのところで、致命傷だけは避けている。

 しかし、機体のバランスは大きく崩れた……!


 猛烈な爆煙が渦巻く。

 二機は衝撃で、大きく引き離される。

 ガクン。土煙の中で、漆黒の狼は膝をついた。


 だが───

 カーバンクルもまた、無傷では済まない!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ