激突、烈火と蒼火
「嘘でしょっ!? あたしの剣を……一撃でっ!?」
驚愕に染まる蒼火。
烈火は追撃の手を緩めない。
もう一本の大太刀が、リリエルの胴体を断ち切らんと横薙ぎに走る。
「当たってやるもんかぁッ!」
蒼火はリリエルの四本脚を爆発的に駆動させた。
宙を蹴るような力強い蹴りで、太刀の腹を強引に跳ね上げる。
その反動を利用して後方へ大きく飛び退く!
なんとか、死地を脱した。
「化け物……! なら、これでも食らえッ!」
蒼火は残された右手のガンブレードを突き出した。
さらに残るミサイルを全展開する。
一対一のチャンバラで勝てないのなら、圧倒的な火網で焼き尽くすのみ。
ズドォォォンッ! ズガガガガガッ!!
無数の爆発が、ブレイズを直撃した。
……かに見えた。
「――消えろ」
光の奔流の中から、赤黒い影が飛び出した。
ブレイズはあえて回避せず、リベルタの粒子防壁と自身の機動力を組み合わせ、弾幕のわずかな隙間を縫うように突き進んでいた。
ここからは、言葉なき弾丸の対話だ。
蒼火は狂ったようにガンブレードの引き金を連射する。
烈火はリベルタのE粒子キャノンと脚部のレールガンを同時に火を噴かせ、蒼火の弾道を次々と相殺していく。
カッ! カッ! カッ!
暗黒の宇宙で、無数の光の矢が交差し、弾け飛ぶ。
百発百中の精密射撃と、それを鼻先でかわし続ける神速の機動。
数えきれない弾丸と粒子が飛び交う、光速の射撃戦。
烈火と蒼火。
二人のネクスター能力が極限まで高まり、時間の流れがゆっくりと引き延ばされていくような錯覚に陥る。
その光輝の嵐の中で、烈火の瞳は、青い機体の中心を冷徹に見据えていた。
「チィ、だったら!!」
射撃戦で埒が明かないと見るや、蒼火は即座に戦術を切り替えた。
破壊された左手のガンブレードをパージし、代わりに肩のマウントから、純粋な格闘戦用のE粒子ブレードを抜き放つ。
「なら、切り刻んでやるッ!」
リリエル・ブルーは爆発的な加速で肉薄!
青い閃光と化した突きが、ブレイズのコアを狙って奔る。
ガギィィンッ!
だが、その鋭い刃は、ブレイズの背中から伸びるリベルタの純白の翼によって阻まれた。
「させない!」
翼の表面に展開された粒子防壁が、蒼火の殺意を完全にシャットアウトする。
「チッ、硬いねッ!」
「お返しだ!」
烈火の咆哮と共に、防御から攻撃へと転じる。
ブレイズが握る対艦用大太刀が、唸りを上げて振り下ろされた。
リリエルは咄嗟にブレードで受け流す───
が、出力が桁外れ!
衝撃に機体が軋みを上げる。
衝撃を殺しきれないまま、蒼火はリリエルの四本脚を使い、変則的な蹴りを繰り出した。
しかし、それすらも読まれている。
ブレイズは最小限の動きでそれを躱し、逆にカウンターのレールガンを至近距離で叩き込んだ。
「くっ、うぅ……ッ!?」
蒼火は歯噛みする。
強い。
個々の技術もさることながら、この二機の連携は異常だ。
烈火と兎歌。
二人の意識はアニムスキャナーを通じて完全に溶け合っていた。
思考のラグはない。
阿吽の呼吸すら超えた、一心同体の動き。
『烈火!』
「任せとけ!」
兎歌がシールドを展開して死角を消せば、その隙間から烈火がレールガンを撃ち込む。
「兎歌!」
『うん!』
兎歌がスラスター制御で敵の攻撃を回避すれば、その遠心力を乗せて烈火が大太刀を振るう。
攻撃と防御がめまぐるしく入れ替わり、息をつく暇さえ与えない。
それはまさに、二つの頭を持つ竜が暴れまわっているかのような、完璧な戦闘機動だった。
「があああぁぁぁッ!」
烈火の怒号と共に、赤黒い『覚醒』のオーラが膨れ上がる。
圧力。
物理的な質量を持ったかのようなプレッシャーが、リリエル・ブルーをじりじりと後退させる。
((押し込まれる……ッ!? このアタシが、力負けするっていうの!?))
蒼火のプライドが、そして本能が、敗北の予感に警鐘を鳴らした。
このままでは、食われる。
あの赤黒い悪魔に、骨まで噛み砕かれる。
「……ふざ、けるなよ」
蒼火の瞳孔が開く。
理性が焼き切れる音がした。
「アタシは、負けない。誰にも、負けないんだよォォッ!」
蒼火は迷わず、コックピット内の緊急解除レバーを叩き込んだ。
安全装置の強制解除。
機体の限界を超えてエネルギーを引き出す、禁断の領域。
ドウ───ッ!!
リリエル・ブルーの全身から、猛烈な蒼い炎が噴き出した。
プラズマリアクターの制御を無視した、暴走寸前のエネルギー奔流。
機体各所からバチバチと火花が散り、警告音が鳴り響く。
が、蒼火は構わずに笑った。
「後先なんてどうでもいいね。。」
ただ目の前の敵を食らい尽くすためだけに、青い獣もまた、鎖を引きちぎったのだ。
ドゴォォォォォンッ!!
真空の宇宙空間で、蒼い炎と赤黒いオーラが正面から激突した。
リミッターを解除し、機体の限界を超えたパワーを引き出したリリエル・ブルー。
そして、二機のプラズマリアクターを直結させ、覚醒状態にある合体ブレイズ。
二つの超常的な力がぶつかり合い、周囲の空間がぐにゃりと歪む。
「あああああぁぁぁッ!」
「死ねえええぇぇぇッ!」
烈火の咆哮と、蒼火の絶叫が交錯する。
大太刀とE粒子ブレードが、一呼吸に数十回という、人間離れした速度で打ち合わされる。
火花が散るたびに、周囲に漂うデブリがプラズマの余波で蒸発していく。
だが、その超高速の死闘の中で───
天秤は徐々に、しかし確実に傾き始めていた。
((……チッ! 重い、速いッ!))
蒼火は唇を噛み破り、血の味を感じながら操縦桿を握る。
限界までチューンアップし、リミッターまで外したはずだ。
なのに、競り負けている。
出力の差だけではない。
烈火と兎歌。
二人のパイロットによる、完璧すぎる連携。
それが、蒼火を精神的にも物理的にも追い詰めていく。
『烈火、右から来るよ!』
「分かってる!」
蒼火が死角を突いて四本脚で蹴りを放てば、リベルタの翼が即座に防壁を展開して弾き返す。
体勢が崩れたところに、ブレイズの大太刀が容赦なく叩き込まれる。
一人で二人の動きを同時に処理しなければならない蒼火の脳は、すでに悲鳴を上げていた。
『隊長を援護しろォッ!』
と、その時。
戦域の端から、数機のオービターが駆けつけてきた。
蒼火の危機を察知し、援護射撃を行おうとライフルを構える。
「邪魔だよぉッ!」
だが、その射線を塞ぐように、リベルタの純白の翼が大きく羽ばたいた。
翼の各所から、無数の粒子弾が散弾のように解き放たれる。
ズガガガガガガッ!!
オービターたちは回避する暇すら与えられず、雨のような光の弾を浴びて、次々と爆散していく。
美しい花火が上がった。
至近距離で巻き起こった味方の爆発。
その強烈な閃光と衝撃波に、蒼火の意識がほんのコンマ数秒、無意識に逸れた。
((あ……))
スラムで培った生存本能がゆえに、爆炎へ反射的に注意を向けてしまったのだ。
致命的な、一瞬の隙。
その硬直を、獣の嗅覚を持つ男が見逃すはずがなかった。
「――もらったァッ!!」
烈火の裂帛の気合いと共に、ブレイズが爆発的な踏み込みを見せる。
青白く輝く巨大な大太刀が、リリエル・ブルーの右肩口から左脇腹へ向けて、袈裟懸けに振り下ろされた。
斬──────ッ!!
蒼火の機体が、音もなく両断された。
分厚い装甲も、強固なフレームも、プラズマの刃の前には意味を成さなかった。
斜めに斬り裂かれたリリエル・ブルーの切断面から、猛烈な黒煙と火花が噴き出す。
「…………あっ」
コックピットの中で、蒼火は目を見開いたまま、崩れ落ちていく自身の機体を感じていた。
警告音が鳴り響き、モニターが次々とブラックアウトしていく。
衝撃と爆発の光。
真っ二つになった青い異形は、そのまま力なく宇宙の闇へと沈み、完全に停止した。
「……フゥーッ……」
烈火は深く、長く息を吐き出すと、振り抜いた大太刀をゆっくりと下段へ構え直した。
静かな残心。
赤黒いオーラを纏ったブレイズが、無惨に敗れた強敵の残骸を見下ろす。
『……やったね、烈火』
「ああ。……だが、まだ一番のデカブツが残ってる」
烈火は操縦桿を握り直し、ブレイズの顔を真上へと向けた。
視線の先。
漆黒の宇宙空間に、禍々しい白い巨体を浮かべる機動要塞『バジリスク』。
リエンを泣かせた元凶が、そこにある。
………
……
…
一方、激戦の宙域の中央。
水色の巨人『エルフィン』と、白亜の機動要塞『バジリスク』の死闘は、異様な膠着状態に陥っていた。
ズガンッ! ドガンッ!
暗黒の宇宙に、連続して爆発の閃光が咲き乱れる。
リエンは、まるで機械のように無感情な顔でエルフィンの操縦桿を握り、引き金を引き続けていた。
狙うのは、ただ一点。
バジリスクが迎撃のために、ミサイルハッチや機銃の砲門を開いた、その一瞬の隙だ。
分厚い装甲や粒子偏光装甲に守られていない、内部が剥き出しになるコンマ数秒。
エルフィンの機体から伸びる複数のサブアームが、独立した生き物のようにうねり、死角から正確無比な粒子弾を叩き込む。
「……あ、たった」
リエンの無機質な呟きと共に、バジリスクの各所で小規模な爆発が連鎖した。
『ぐっ……! 艦内第4ブロック、火災発生!』
『右舷ミサイルポッド、誘爆! 装甲が保ちません!』
司令座に座るセラピナの耳に、オペレーターたちの悲鳴が届く。
度重なる内部誘爆により、全長百メートルを超える巨体が、ズシン、ズシンと不気味な揺れを繰り返していた。
((……この私が、あんなガラクタ人形に押されているというの!?))
セラピナの美しい顔が、屈辱と焦りで歪む。
圧倒的な火力を誇る要塞の攻撃を、リエンはことごとく躱すか、最小限の被害で切り抜けてしまう。
逆にこちらの攻撃の起点を、針の穴を通すような射撃で次々と潰されているのだ。
だが、セラピナはただの傲慢な王女ではない。
ノヴァの王族として高度な教育を受け、戦術と数学的計算において極めて優れた頭脳を持っていた。
((落ち着きなさい。……ダメージレースの計算結果は、私の勝利を保証しているわ))
セラピナは手元のコンソールを素早く叩き、冷静な判断を下す。
バジリスクの被害は確かに広がっているが、要塞の分厚い耐久力からすれば、まだ致命傷には程遠い。
対して、相手は生身のガキ。
プラズマリアクターの圧倒的な出力を前に、あれほどの変則機動と多角的な射撃を続ければ、パイロットの脳と肉体にかかる負荷は想像を絶する。
「攻撃を緩めるな! 弾幕を張り続けなさい!」




