ブレイズの無双! 敵艦隊を排除せよ!!
一方、プロメテウスの下方宙域。
ここには、別働隊である二隻のヴリトラ級戦闘艦と、一個中隊――計12機の量産機『オービター』が展開していた。
正面の本隊、上方のファランクス隊、そして下方の我々。
それは、エリシオンの旗艦を逃がさないための、完璧な包囲網……のはずだった。
『各機、対空砲火用意。ネズミ一匹逃がすなよ』
指揮官は檄を飛ばす。
勝利は確実。
誰もがそう確信していた、その時だった。
カッッッ───!
暗黒の宇宙を、光の奔流が切り裂いた。
音もなく、しかし圧倒的な破壊のエネルギーが、先頭を行く一隻の戦闘艦を直撃!
『な、なにッ――!?』
断末魔すら許されなかった。
シールドごとその装甲を蒸発させられ、戦闘艦は一瞬にして巨大な光の泡となって弾けた。
あまりの出力と熱量に、近くを飛んでいたオービター二機までもが巻き添えを食らい、融解!
飴細工のようにドロリと溶解して、消滅していく。
『せ、戦艦が一撃で……!? 馬鹿な、通常兵器の火力じゃないぞ!』
『熱源探知! あそこだ、白い機体が……!』
驚愕する一般兵たちの視線の先。
遥か遠方で、巨大な粒子キャノンを構えた白亜の機体――『リベルタ』が、天使の翼のようにスラスターを輝かせていた。
プラズマリアクターが産み出す規格外のエネルギー。
それが戦場の常識をねじ伏せたのだ。
だが、恐怖はそれだけではなかった。
爆発の閃光でセンサーが焼き付き、モニターがホワイトアウトする。
数秒後、視界が復旧したその瞬間。
『――ひッ!?』
兵士の一人が、短い悲鳴を上げた。
いつの間にか、自分たちの隊列のど真ん中に、炎じみて赤い『影』が浮かび上がっていたのだ。
ドシュッ……!
鈍い衝撃音と共に、すぐ隣にいた僚機が痙攣した。
その胸部を、背後から突き出された青白い刃が、無慈悲に貫いていた。
『い、いつの間に……!』
バチバチと火花を散らし、串刺しにされたオービターが力を失って沈黙する。
その骸を盾にするようにして現れたのは、炎色の猛獣――『ブレイズ』。
ブレイズは貫いた敵機をゴミのように蹴り捨てると、全身から赤黒い不吉なオーラをゆらりと噴き上げた。
プラズマリアクターと、パイロットの闘争本能が共鳴した、禍々しい闘気。
そのツインアイが、獲物を睨みつけるように鋭く輝く。
オービターの群れが、一斉にその無機質な顔を向けたのと。
ブレイズが爆発的に加速したのは、全くの同時。
ズダダダダダッ!
ブレイズの左腕に内蔵されたバルカン砲が火を噴く。
牽制ではない。
至近距離からの精密射撃!
粒子弾の雨が、反応の遅れた二機目のオービターの胸部装甲を食い破る。
そして、その奥にあるリアクターを正確に打ち抜いた。
ドォォォンッ!
内部誘爆を起こし、敵機はくの字に折れて沈黙する。
『こ、この野郎ッ!』
『囲め!叩っ斬るぞ!』
左右から、二機のオービターがレーザーブレードを抜き放ち、挟撃を仕掛けてくる。
逃げ場のないタイミング。
だが、烈火の唇は獰猛に吊り上がっていた。
「――遅ぇよ!」
ジャキッ!
ブレイズの両腕から、E粒子ブレードが瞬時に展開される。
ガギィィィンッ!
二方向からの斬撃を、ブレイズは両腕の刃で同時に受け止めた。
火花が散る。
出力の拮抗。
いや、違う。
烈火は受け止めた勢いを利用し、肘を返して、敵の刃を滑らせたのだ。
二対一という数的有利など、圧倒的な技量差の前には無意味!
ブレイズがコマのように回転する。
青白い閃光が二度、走った。
『あ、腕が……!?』
宙を舞うのは、オービターたちの腕。
武器を失い、バランスを崩した二機の胴体に、返す刀で×字の斬撃が刻み込まれる。
斬───ッ!
二機同時の両断。
時間差で発生した爆発が、周囲の空間を震わせる。
『ミサイルだ! 弾幕を張れ!』
後方に控えていた残存機から、無数のミサイルが吐き出される。
だが、ブレイズはその場に留まらない。
爆炎と煙を煙幕代わりにし、爆風の衝撃波に乗る。
波乗りじみた変則機動で、迫りくる弾頭の誘導を振り切っていく。
「そこだッ!」
炎の膜を突き破り、悪魔のような紅い姿が飛び出した。
その手には、高出力E粒子ライフルが握られている。
プラズマリアクターから供給される膨大なエネルギーが、銃身に青白いスパークを走らせ───。
ズドンッ――!!
放たれたのは、一撃。
だが、その極太のビームは、一直線に並んでいた二機のオービターをまとめて串刺しにし、そのまま後方のデブリごと消し飛ばした。
圧倒的。
たった一機で、戦況を蹂躙していくその姿は、まさに『獣』そのものだった。
ズガガガガガッ!
死角から放たれたレールガンの豪雨が、密集していたオービターの小隊を横合いから薙ぎ払う。
七、八、九機目。
反応する間もなく、三機の機体が次々と爆散し、宇宙の塵と化した。
『ナイスだ、兎歌!』
『えへへ、そうでもないよぉ!』
白亜の翼、リベルタ・ザ・ターミガンは、戦場を優雅に、かつ凶暴に舞う。
そのコックピットで、兎歌の頬は林檎のように赤く染まっていた。
アニムスキャナーを通じて、烈火の感情が流れ込んでくる。
それは、目の前の敵を破壊したいという衝動と───
───パートナーである自分を組み敷き、散々に犯してしまいたいという、
ドロドロとした雄の獣欲。
((もう……烈火ったら、本当にケダモノなんだから……))
普段なら「変態!」と怒るところかもしれない。
けれど、今は怒れない。
怒るどころか、身体の奥が熱くなり、指先の震えが止まらないのだ。
自分に向けられた強烈な所有欲と性欲が、どうしようもなく嬉しい。
その無意識の高揚感が、ネクスターとしての感覚を研ぎ澄ませ、機体を極限まで加速させる。
『もらったッ!』
リベルタの動きに魅入られていた十機目のオービターが、側面から突撃してくる。
だが、今の兎歌には止まって見えた。
「捕まえたっ!」
ガキンッ!
リベルタの鋭利な「武装脚」が、敵機を鷲掴みにする。
鳥類が獲物を狩るような動きで拘束したまま───
兎歌は容赦なく、レールガンの引き金を引いた。
ドゴォォォォンッ!
ゼロ距離射撃を受けたオービターが、リベルタの足元で砕け散る。
爆炎を翼で切り裂きながら、兎歌は頭上を見上げた。
そこでは、烈火のブレイズが、残るもう一隻の戦闘艦へと肉薄していた。
『うおおおおぉぉッ!』
艦からの必死の砲撃を、ブレイズはE粒子シールドで強引に弾き飛ばす。
止まらない。赤い彗星は、そのまま艦橋へと突っ込んでいく。
『兎歌!』
『うん、分かってる!』
烈火の合図に応じ、兎歌はコンソールを叩いた。
リベルタの側面装甲がスライドし、そこから長大な柄が射出される!、
「いっけえぇぇぇッ!」
射出されたのは、実体剣と粒子刃のハイブリッド兵器――『対艦用大太刀』!!
ブレイズはすれ違いざまにそれを受け取り、プラズマリアクターのエネルギーを一気に注ぎ込む。
カッッッ……!
刀身が青白く、眩いほどの光を放った。
それはもはや剣ではない。
すべてを断ち切る、光の柱!
「――消えろォッ!」
一閃。
真横に振るわれた斬撃が、戦闘艦の船体を通り抜ける。
一拍の静寂。
直後、巨大な戦闘艦が上下真っ二つにズレ動き、その切断面から膨大な爆炎を噴き上げた。
ドォォォォォォォォォンッ!!
宇宙空間に太陽が生まれたかのような大爆発。
その光を背に、ブレイズとリベルタが並び立つ。
包囲していた敵艦隊は、全滅した。
戦闘が始まってから、数分のことだった。
………
……
…
機動要塞『バジリスク』の中枢。
広大な全天周囲モニターに囲まれた司令座。
そこへ乗り込んだセラピナを待っていたのは、悲鳴にも似た損害報告の嵐だった。
「ヴリトラ級、一番、二番、三番艦、轟沈! 反応ありません!」
「ファランクス第二、第三小隊、全滅!」
「下方より接近していたオービター第一中隊、全滅! 生存者ゼロです!」
モニター上の友軍表示が、次々と赤く染まり、そして消滅していく。
たった数分の出来事だ。
倍以上の戦力差があったはずの包囲網が、まるで薄紙のように食い破られていた。
「……プラズマリアクター搭載機とは、これほどか」
セラピナは、優雅に脚を組み替えながら、感嘆の息を漏らした。
恐怖はない。
むしろ、その圧倒的な破壊力を目の当たりにし、セラピナの瞳は、愉悦に輝いていた。
「ええ、素晴らしいわ。たしかに強い。常識外れもいいところね」
セラピナは手元のコンソールを撫でる。
この『バジリスク』の心臓部で脈打つ、強大な鼓動を感じながら。
「けれど……それはこちらも同じことよ」
全長100メートル。
白磁のように艶やかな長いボディに、高貴なオレンジのラインが走る巨大な姿。
全身には無数の機銃とミサイルランチャー、大口径レールガンをハリネズミのように備えた、宇宙を泳ぐ白磁の要塞。
そして何より、その巨体を駆動させるのは、敵と同じ『プラズマリアクター』。
「さあ、見せてあげるわ。本当の『力』というものを」
セラピナの細い指が、発射トリガーへと伸びる。
バジリスクの艦首が割れ、巨大な砲身が姿を現した。周囲の空間が、エネルギーの充填によってビリビリと震える。
「消えなさい」
カッッッ――――!
セラピナの号令と同時に、バジリスクから荷電粒子砲の光が放たれた。
それは、先ほどリベルタが放ったキャノンすら可愛く見えるほどの、桁外れの閃光の濁流だった。
ズゴォォォォォォンッ!!
遥か彼方で、凄まじい爆発が真空の宇宙を震わせた。
プロメテウスの護衛についていたエリシオン側の戦闘艦が一隻、回避行動を取る暇もなく光に呑み込まれ、跡形もなく消滅したのだ。
「ほ、報告! 敵の戦闘艦一隻、轟沈! 一撃です!」
「敵戦闘空母に被害確認!」
オペレーターの興奮した声を聞きながら、セラピナは冷酷な笑みを深めた。
「簡単ね。……さあ、ダンスを続けましょうか」




