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プロメテウス隊の作戦会議

 場所は、戦闘空母プロメテウスの第一会議室。

 薄暗い室内に、青白いホログラムの光だけが浮かび上がっている。

 長方形のテーブルを囲むのは、艦長のレゴン・オリエンタル、エースパイロットの烈火、そしてマティアス、兎歌や主要なクルーたちだ。


「さて、この作戦の目標だが……」


 レゴンは手元のコンソールを操作する。

 と、卓上の空間に、荒々しい岩肌を持った小惑星の映像が投影された。

 ただの岩塊ではない。その表面には、無骨な金属のブロックや、居住区画と思われるコロニーのパーツが、まるでツギハギのように取り付けられている。


「これは先行するエピメテウスから送られてきた、最新の偵察映像だ」


 レゴンの声には、隠しきれない疲労と、それ以上の緊張が滲んでいた。


 やせぎすで、どこか頼りなげな風貌の中年男性。

 それがこの艦の長だ。

 普段は人の良さそうな笑顔を浮かべているレゴンだが、今は眉間に深い皺を刻んでいる。


「見ての通り、奴らは廃棄された資源衛星をベースに、大規模な改造を行っている最中です」


 補足するように口を開いたのは、冷静沈着なマティアス。

 指示棒でホログラムの一部を指し示した。


「コロニーのコンテナブロックを連結し、簡易的な宇宙基地として機能させようとしていますな」


 マティアスは一拍あけ、説明を続ける。


「資材は足元の小惑星を削ればいくらでも手に入る。このまま放置すれば、完成もそう遠くないことだろう」


「……なるほどな」


 腕を組み、面白くなさそうに鼻を鳴らす烈火。


「ここが完成しちまえば、厄介な兵器がわんさか作られて、こっちに雪崩れ込んでくるってわけか」

「その通りだ、烈火。だが……」


 レゴンは一度言葉を切り、周囲の顔を見渡してから、意を決したように告げた。


「我々プロメテウス隊の目標は、この拠点の破壊ではない。……『強奪』だ」


「……強奪、だと?」


 烈火が片眉を跳ね上げる。隣にいた兎歌も、驚いたように目を見開いた。


「ああ。敵がすでに開発を進めている設備、資源、その全てを我々のものとする。ただ破壊するだけでは戦況の膠着を招くだけだが、これを奪えば……」


「戦況そのものを、ひっくり返せる」


 烈火がレゴンの言葉を引き取り、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべた。

 リスクは高い。だが、それに見合うだけのリターンがある。


「へっ、悪くねえ。泥棒稼業ってのは柄じゃねえが、相手がノヴァなら遠慮はいらねえな」


 室内の空気が、不安から攻撃的な熱気へと変わろうとした、その時だった。


 ウゥゥゥゥ――ッ!


 突然、艦内に鋭いアラート音が鳴り響いた。

 レゴンは素早く艦長席の通信回線を開く。


「どうした!?」

『ブリッジより報告! 先行していたエピメテウスが、偵察任務を終えて帰還しました! 現在、本艦との合流コースに入ります!』


「……よし、来たか」


 レゴンは安堵の息を吐くと、力強く頷いた。


「会議は一時中断だ。エピメテウスのクルーと合流し、詳細なデータを受け取る。……全員、配置につけ!」

「「了解!」」


 クルーたちが一斉に立ち上がり、会議室を飛び出していく。

 烈火もまた、拳をパキリと鳴らしながら席を立った。


「さてと。……土産話、聞かせてもらうとするか」


 〜〜〜


 場所はプロメテウスの広大な格納庫へと移った。

 出撃を待つブレイズ、リベルタ、ストラウス、そしてひときわ目を引く水色の巨躯・エルフィンが、整備用のハンガーに整然と並んでいる。


 ウェイバーがいないのは残念だが、向こうにも戦力が必要だ。

 仕方ない。


「こらあディックぅ! そこ、ネジの締めが甘い言うたやろ! 爆散したいんかワレ!」


 響き渡るのは、整備班長、菊花・メックロードの凄まじい怒声。

 橙色の髪をお団子にまとめ、汗の浮いたツナギをはだけさせた少女が、巨大なスパナを振り回しながらメカニックたちを追い回している。


 そんな喧騒の中、一人の男が足音を響かせて近づいてきた。


「よお、無事だったか、ゲイル」

「あぁ」


 烈火が呼びかけると、ゲイル・タイガーは、無愛想ながらも口角をわずかに上げた。

 二人は示し合わせたように、自然な動作で拳を力強くぶつけ合う。


 ゲイルは携帯食料の空袋をポケットにねじ込むと、次の携帯食料を取り出す。


「だが、一つ厄介な手土産がある。偵察の結果だ」

「なに……?」


 ゲイルの言葉に、隣にいた兎歌とマティアスは表情を引き締めた。


「敵の部隊に、少なくとも一機、プラズマリアクター搭載機がいる」

「……プラズマリアクター機が?」


 マティアスは驚きに目を見開く。


「それだけじゃない。機体形状はかつての『リリエル・ザ・ラビット』に酷似している。……蒼い、四脚の機体だ」

「リリエルが、どうして……。わたしの、あの子が、ノヴァに……っ?」


 兎歌は思わず息を呑み、胸元をぎゅっと押さえた。

 爆散して消えたはずの愛機の残像。

 混乱する兎歌を余所に、烈火は静かに首を振った。


「兎歌、考えるのは後だ。……ゲイル、問題はそこじゃねえ。

 ソイツは、強いんだな?」


 烈火の瞳に、獲物を見定めた獣のような鋭い光が宿る。


「……ああ。シホたちの連携を一人で崩し、俺のダフネとも互角に渡り合った。

 パイロットも相当な『獣』だ」


 ゲイルの肯定に、烈火は不敵な笑みを漏らす。


「上等だ。プラズマリアクター持ちの化け物か。

 退屈しねえで済みそうじゃねえか」


 情報の共有は終わった。

 ゲイルはこれから別の任務───地上に建設された、ノヴァの要塞攻略作戦へと合流しなければならない。


「情報の有利は確保した。あとはお前たちの仕事だ。……死ぬなよ、烈火」

「ああ、そっちもな」


 二人は短く頷き合い、互いの健闘を祈った。

 マティアスと兎歌は、去りゆくゲイルの背中に手を振る。

 ゲイルは携帯食料をかじり、そのまま出口へと向かおうとして───

 ふと、足を止めた。


「ゴクン……ああ、いけない。あの『猛獣』に挨拶を忘れるところだった」


 ゲイルが視線を向けた先では、依然として菊花が部下を怒鳴りつけながら、ブレイズの脚部を蹴り飛ばしていた。

 ゲイルは少しだけ困ったような、それでいて愛おしそうな顔をして、自身の「嫁」の方へと歩き出した。


「ん?」


 菊花が、勢いよく振り返った、その瞬間。

 肩を叩こうと伸ばしかけていたゲイルの右手が、吸い込まれるように菊花の豊かな胸元へと深く沈み込む。


 ムニュッ♡


「な、ななな……何さらしとんじゃボケェッ!!」


 格納庫に菊花の悲鳴に近い怒声が響き渡った。

 顔を真っ赤に沸騰させた菊花。

 手に持っていたスパナを振り上げ、あらん限りの語彙で罵倒し始める。


「このドスケベ! 変態! サイボーグ野郎! うちの胸を何やと思っとんねん! この指、一本ずつへし折ってネジ代わりにしたろか!」

「……不幸な事故だ。わざとではない。お前が急に振り向くからだ」


 ゲイルは表情一つ変えず、しかしどこかバツが悪そうに言い張る。

 だが、詰め寄る菊花の勢いに押され、わずかに視線を逸らした。


「嘘つけ! 手が思いっきりめり込んでたやろが! 言い訳すんなや、この唐変木!」


 ひとしきり怒鳴り散らし、肩で息をする菊花。

 そんな『お嫁さん』を静かに見つめていたゲイルだが、ふと、真剣な声音で呟いた。


「それほど怒るというのなら……次は事故ではなく、もっと、ちゃんと触らせてほしい」

「はあぁ!? あんた、死にたいんか……っ」


 菊花は反射的に怒鳴り返そうとして、言葉を飲み込んだ。


「あ……」


 目の前に立つ男は、これから死線へと赴くパイロットだ。

 プラズマリアクターを積んだ化け物と戦い、もしかしたら、二度と戻ってこないかもしれない。

 そんな現実が、怒りよりも先に胸を鋭く締め付ける。


 菊花は振り上げたスパナを下ろし、鼻の頭を赤くしながら、消え入りそうな声で毒づいた。


「……あほぉ。そんなん、無事に帰ってきてからなんぼでもさせたるわ」


 ゲイルはその言葉を聞くと、優しく、しかし力強く、オイルの匂いのするツナギ姿の菊花をその腕の中に抱き寄せた。


「わぁ……あ……」


 兎歌は目の前で繰り広げられる抱擁シーンに、顔を真っ赤にして固まっていた。

 自分のことでもないのに、なんだか恥ずかしい。

 その様子を横目で見ていた烈火は、便乗するように兎歌の肩を抱き寄せる。

 そして、その豊かな胸を無造作に揉みしだく。


「ひゃあああっ!? れ、烈火さんっ!?」

「いいじゃねえか、景気づけだ」


 平然と言い放つ烈火と、涙目で抗議する兎歌。

 そんな騒がしい若者たちの姿を、マティアスは少し離れた場所で眺めている。

 遠い故郷に残してきた、妻と子の顔を思い出して……深い溜息をついた。


「……まったく、元気なことだ。私も早く家に帰りたいものだよ」


 一方、高所に吊るされたエルフィンのコックピットからこの光景を見下ろしているのは、リエン。

 リエンは、首をかしげて不思議そうに目を瞬かせていた。

 少女の感性では、大人たちがなぜ抱き合ったり揉み合ったりしているのか、その意味がまだよく分かっていない。


 格納庫に集まった整備兵たちの冷やかしを余所に、菊花はゲイルの胸元に顔を埋めたまま、声を震わせて言い放った。


「ええか、あんたはうちの故郷を滅ぼした仇なんや。

 勝手に満足して死ぬなんて絶対に許さへんからな。

 ……ほんまに触りたいんなら、這いつくばってでも生きて帰ってこい」


 その不器用で必死な言葉に、ゲイルはふっと口元を緩めた。


「ああ、約束しよう」


 ゲイルは優しく菊花の頭を撫でると、名残惜しさを断ち切るように手を離し、表情を引き締め、出口へと歩き出した。


 残された菊花。

 湯気が立ちそうなほど顔を沸騰させたまま、しばらくその場に立ち尽くしていた。


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