第二十一話「拠点生活」
着替えから戻って来た執事と入れ替わり、私もさっさと着替えを済ませる。軍服が左腕の義手が通らなかった為、サバイバルナイフで邪魔な部分を切って着用した。そこから将校用マントを羽織って全身を覆う。確かに、これならば問題なさそうだ。服は適当に片付けて、急いで戻って話を聞く。
ちゆりの話だとこうだ。彼女の相棒であるユルトが、ちゆりを庇って追っ手に捕まったらしい。見つからないように、単独で追っ手を尾行すると都心部に着いたが見失ってしまったとのこと。都心部を探り周っていると、ファントムの友人に出会ったそうだ。あとはファントムから説明された通り。数日経過しており、今はユルトの所在を探しまわっていると、ちゆりが教えてくれた。
「俺は駐屯地が怪しいと踏んでいる。あの場所は中々手強くてねぇ」
「そこに彼がいると?」
「あくまで予想だがね。協力してくれると助かるが……」
こちらを見たファントムと視線がぶつかる。にやりと笑う彼は、私の返事が解っているのだろう。返事をせずに、首を縦に振って頷く。隣で執事も同じ動作をした気がした。
「ありがとうございます……!」
「こいつは有難い。これで人手は充分だと言いたい所だが」
そこで一区切りつけ、彼は全員の顔を見回す。特に執事の表情を見たかと思うと、溜め息を吐き出した。その仕草に、執事は不機嫌そうになりつつも紅茶を注いで飲んでいる。横から執事の顔を盗み見ると、普段より肌が白い気がした。
「翌日の深夜にしようじゃないか。備えあれば憂いなし、とも言うからな」
「……お手数かけます」
「ま、家はあまり広くないが一日くらい我慢してくれ」
そういって彼は拠点へ向かい、それに私達もついて行く。私が着替えていた場所を通りすぎて、二階へ上がった。狭い廊下から部屋へと繋がる扉が二つあり、私とちゆりで使うようにと言われる。一度、執事を見てからファントムへと視線を戻して問いかけた。
「貴方達はどうするの?」
「執事さんは一階のソファだ。俺は床で寝るよ。それじゃ、おやすみ」
そう言って案内を終えた彼は階段降りて行ってしまう。顔色が悪い執事も、就寝の挨拶をして一階に戻って行く。去り際の笑みが、普段以上に不気味だ。残された私達は顔を見合わせる。
「今すぐに助けに行きたいのだけれど、執事があれじゃね」
「いえ、協力してくれるだけで嬉しいです! 後、お願いが」
「なにかしら」
言葉を区切ったちゆりは、頬を赤く染めた。私は首を傾げつつも先を促す。こちらがそう言わないといけないほど、彼女は恥ずかしがっていた。
「今日だけ一緒に寝てもいいですか?」
「え?」
「すいません、なんでもないです! おやすみなさい!」
言ったかと思えば、部屋へと閉じ籠もってしまった。出てくる様子もなく、私も空いているもう一つの部屋へと入る。小部屋で狭いが、一人だけなら問題ない広さ。着たばかりの将校用マントを脱いで椅子へと投げた。
「なんでこう、色々あるのかしら」
冷えきった義手をさすりながら、執事の事を考える。正直、似てるとも思わなかった。小さな窓に取り付けられた、カーテンを少し開けて外を見る。外は鎮まり帰っていて、野犬が数匹歩いているだけだった。
「あら……?」
どこかから、視線を感じた気がする。けれども、それがどこからなのか解らない。個人的には気がするのだけれど、この暗さではどうしようもない。今は眠ろう。
数時間後に、眠りから目が覚める。一階から美味しい匂いが漂ってきており、私の鼻を刺激したのだ。椅子に投げた将校用マントを羽織り直して、下へと降りる。
下には既に三人が食事の準備をしていた。
「おはようございます。もう少ししたら起こしに行こうかと思いましたよ」
「余計なお世話よ。自分で起きれるわ」
食事をテーブルへと運ぶ執事を冷たくあしらいながら、席に着く。レタスやベーコン、トマトを挟んだサンドイッチ。オニオンスープに、デザートとしてオレンジが一切れ。先に食べていたファントムは舌鼓を打つ。
私もサンドイッチを手に取って齧り付き、胃を満たし始める。すると、先ほど舌鼓を打っていたファントムが声をかけてきた。
「そういや、昨日風呂入れる時間なかっただろう? 昼には入れる準備しとくから、それまで我慢してくれ」
「いいの? 正直、水浴びでも構わないのだけれど」
「気にするな。ちゆり含めて、三人は客だからな」
オレンジ片手に、任せろと笑いかけてきた。ちゆりも、一緒に入りましょうと迫る。執事を見れば、断ることもないでしょうと肯定された。長旅は慣れているけれども、長い期間を水浴びできないのは女としては気にしてしまうものがある。ご厚意に感謝しつつ、風呂の準備を頼んだ。
それまでに、この美味しい食事を腹一杯満たさなければ。




