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悪役令嬢ですが、原作の男主人公と寝てしまいました~どうして私が愛されてるんですか?~  作者: 春乃りぜ


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7/14

7 男主人公は最強です

レイモンドが氷のように冷たい目でエレニアとクラークを見ている。

気のせいか、急激に辺り一帯の気温が下がったような気がする。



いや、きっと気のせいではない。

レイモンドは別名『氷の貴公子』と言われ、気分によって周辺の気候を変えることができるという特殊能力を持っているのだ。

とはいえ、氷という異名通りできるのは冷たくするだけ。



暖かくすることはできず、彼自身、幼少期はその力をコントロールできなかった。

幼い頃に起こした魔力暴走のおかげで、彼の心は凍り付き、人格が歪んでしまったという過去があった。



(今思えばとんでもない設定ね……レイモンドの機嫌一つで国が滅茶苦茶になるって言ってるようなものだわ)



それもヒロインのおかげで、彼の心は溶かされるのだけれど。

なぜならヒロインは、レイモンドとは対照的に『太陽の聖女』という異名を持ち、周囲を暖かくすることができるからだ。



眩しく、暖かい太陽のような力で男主人公の凍てついた氷の心を溶かす。

なんて素敵な設定。



「こ、公爵様……今日はどうしてこちらへいらっしゃるのですか?」



エレニアは咄嗟にクラークの前に出て、レイモンドと対峙した。

クラークは突然のレイモンドの登場に、かなり驚いていた。クラークは相当な剣術の使い手だったが、気分一つで国をどうこうできるレイモンド相手に、為す術がない。



クラークを守るような態勢のエレニアに、レイモンドは眉をひそめた。

あ、また気温が下がった……。



「お前こそ、なぜネルソン小侯爵と一緒にいるんだ?」

「わ、私たちはたまたまここで会っただけですよ?」



本当はエレニアからここに来たのだが、そんなことを言ったらタダでは済まないだろう。

他人の身を守るために嘘はついていいのだ。誰かから教わった。



「……お前が自分からここに来たと侍女が言っていたが」

「な、え!?誰にも言うなって言っておいたのにどうして!?」



狼狽えるエレニアに、レイモンドが一歩一歩歩み寄った。

詰めが甘いな―――とでも言いたげに、彼はエレニアの顎を持ち上げた。

そして顔を近づけ、囁いた。



「―――お前のところの侍女は忠誠心が低いな。キルパトリック公爵邸の扉を氷漬けにしたら、すぐに口を割ったぞ」

「……」



彼はエレニアと目を合わせると、ニコッと笑った。

気のせいか、エレニアの体内温度だけ一気に下がったような気がした。



「あぁ、安心しろ。誰も死んでないから。まぁ、あれ以上嘘をついていたら……俺もどうしてたかわかんないけど」

「……」



頬を撫でる手が、異様なほど冷たい。



(こんなのただのサイコパスじゃん!)



執着系ヒーローというよりサイコパス。

ヒロインに対しても執着が激しい人だったが、いざ関わってみるとその異常さがよくわかる。

とにかく、今はクラークから彼の関心を逸らさないと。



「公爵様、ちょっとここは人目が多いので……場所を移しましょうか?話し合いをするなら二人のほうがいいはずです」

「お前」



エレニアはレイモンドの手を掴むと、さっさとクラークの前から彼を連れて行った。

一瞬だけクラークのほうを振り返った彼女は、彼に向けてグッと親指を立てた。

今のうちに、逃げて!という意味を込めて。



伝わるかはわからないが、きっとなんとなく察してはくれるだろう。

彼は頭の良い人だから。



「……」



クラークはそんなエレニアとレイモンドの二人から、目が離せず、姿が見えなくなるまで立ち尽くしていた。



レイモンドを人気のない路地裏まで連れて行ったエレニアは、手を離して彼と向き合った。



「お前、何でアイツに会いに行ってたんだ?」

「会いになんて行っていません。訓練場を見学したくてここに来ていたら……たまたまネルソン小侯爵様と出会ったっていうだけです」



もうバレているような気もするが、エレニアはシラを切った。

しかし、レイモンドは騙せなかった。



「訓練場を見学に行くってのはネルソン小侯爵を見に行くっていう隠語だぞ。昔平民の女子たちの間で流行った」

「えっ……知らなかった……」



エレニアは誤魔化すのが下手だった。

レイモンドに嘘がバレ、彼女は窮地に陥った。



(マ、マズい……このままだと普通に処刑エンドに行きそう……)



せっかく転生したってのに、私はまた死んでしまうのか。

彼はエレニアの頬を両手で掴むと、そのままパン生地のように伸ばしたりこね始めた。



「キルパトリック令嬢に何してもらおうかなぁ……」

「ひゃ、ひゃめて……」



二人がじゃれていたそのとき、突然声が割り込んだ。



「―――こんなところで無防備なカップル発見!運が良いぜ!」

「……だ、誰!?」



振り返ると、そこにはガラの悪そうな男が五人ほど立っていた。

よく見ると、手には鋭く光る得物が握られている。



(も、もしかして……強盗……!?)



たしかにここら一帯は治安があまり良くない地域だ。

しかし、昼から強盗が出るとは珍しい。



人気のない路地裏に連れて行ったのが問題だったか。

それに加えて、エレニアとレイモンドは身分を隠していても高貴なオーラが滲み出ている。

どこかの貴族がお忍びで来ているとか、裕福な平民の子息息女だと思われているのかもしれない。



「幸せそうなカップルだなぁ……命が惜しくなければ持ち物全部置いていきな……!」

「な、何する気よ!」



男たちは短剣を手に、一歩ずつ近づいてくる。

かなりマズいことになった。エレニアはとんでもない事態になると、覚悟した。



(コイツら、命が惜しくないわけ!?)



エレニア一人ならともかく、レイモンドがここにいる。

彼女は穏便な解決を望もうと、咄嗟に彼の前に出た。何とか話し合いで解決できないかと、説得を試みた。



「ま、まぁまぁ……落ち着いてください……そんなことしても、何にもなりませんよ?真面目に生きるのが一番です」



そんなエレニアに、男たちは下卑た視線を向けた。

いやらしい目に、彼女はゾッとした。



「おっと、よく見たら美人だなぁ……この女は連れていくか」

「え」



エレニアは社交界の華と言われるほどの美人だ。

そんな彼女であれば、男たちに狙われてしまうのは当然のこと。強盗を平然とやってのける人間だ、誘拐くらい躊躇いもしないだろう。



「お前は俺の女になれ!」



リーダー格と思しき男は、エレニアに向かって手を伸ばした。

汚らわしい手が伸び、彼女は思わず後ずさりした。



――――そのとき、後ろにいたレイモンドが伸ばされた男の腕を掴んで放り投げた。



「ギャアッ!」



後頭部を地面に打ち付けた男は、そのまま気絶してしまった。

彼は汚いものを見るかのような目で、男を見下ろした。



「―――誰の女に手出そうとしてんだ?」

「こ、公爵様……!」



レイモンドはエレニアを守るように前に立った。

リーダーが倒され、残された男たちがみっともなく騒ぎ始める。



「テ、テメェ……なんてことしやがるんだ!」

「よくも俺たちのリーダーをやってくれたな!」



犯罪行為を平然とやるくせに、絆だけは一丁前だった。

おそらくエレニアやレイモンドと同年代だろうに、一体どのような環境で育てばこのようになってしまうのか。



―――そのとき、残った男たちが武器を手に、一斉にレイモンドに向かっていった。



「お前はここで死ね!」

「……愚かだな」



レイモンドはポツリと、そう呟いた。

男たちの持つ短剣の切っ先が、今にも彼の身体に刺さりそうだった。

しかし、レイモンドは慌てる素振りなど一切見せない。むしろ、その攻撃が当たらないことを確信しているようだった。



――――その瞬間、彼の身体から放たれた冷気が一瞬で辺り一帯を氷漬けにした。



「……」



エレニアとレイモンド自身を除く全員が、一瞬で氷に包まれ身動きが取れなくなった。

彼らが手に持っていた短剣まで、あっという間に氷漬けである。

レイモンドは傍にあった氷を足で蹴り、粉々に砕いた。



「ヒ、ヒエェ……」



エレニアはその後ろで身体を震わせていたが、寒さからか恐ろしさからか判別がつかなかった。




読んでくださってありがとうございます!


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