↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢ですが、原作の男主人公と寝てしまいました~どうして私が愛されてるんですか?~  作者: 春乃りぜ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/14

6 サブヒーロー・クラーク

エレニアが馬車を走らせて一人向かったのは、クラークの暮らすネルソン侯爵邸の近くだった。

ネルソン邸はキルパトリック公爵邸に負けず劣らずの大豪邸だ。サブヒーローが住んでいるのだから、当然か。



クラークはレイモンドと違って、まだ爵位を継承していない。

そのため、立場上は嫡男であり、小侯爵という地位にいた。エレニアとヒロインの一つ上である彼は、騎士見習いという立場だ。



将来立派な騎士になることを夢見ているクラークは、一日の大半を鍛錬に充てている。



(たしか、この近くに彼がいつも日中を過ごす訓練場があるはず……)



遠くからでもいいから、一目見たい!

もはやオタクとも化したエレニアは止まらなかった。屋敷をグルリと一周し、周辺をくまなく探した。



「――見つけた!クラークの訓練場!挿絵で何回か見たわ!」



限界オタクエレニアはやっとの思いで、クラークのいる訓練場へ来ることができた。背景の建物が挿絵で見たものと同じだし、間違いない。

しかし、ある問題に直面してしまった。



訓練場が高い壁で仕切られ、中が見えなくなっていたのだ。



「な、何も見えない!」



訓練場の中にクラークがいるはずだが、壁で彼の姿はどこにも見えなかった。

小説では、たしかに中が見えるようになっていたはずだったのに、どうして?

気になったエレニアは、たまたま近くを通りかかった近隣住民に尋ねた。



「すみません、ここの壁って昔からあったんですか?」

「ああ、その壁、一年前に設置されたばかりなんだよ」

「い、一年前……?」



なんと、壁はつい最近できたものだったのか。

エレニアはその理由を続けて尋ねた。せっかくここまで来たというのに、何も見ずに帰るのは名残惜しかった。



「いやーそれがさ……この近く、有名な侯爵令息が住んでるでしょ?令息目当てに女性のファンが毎日のように殺到しちゃってね……」

「あ」



有名な侯爵令息とは、まさにクラークのことである。

そして彼目当ての女性ファンとは、まさにエレニアのことである。



「騒音もすごくて近所迷惑だし、侯爵令息自身も鍛錬に集中できないからって、壁を設置したんだよ。今は誰も中に入れないし、外からも一切訓練を見ることができないね」

「……」



その話を聞いて、エレニアは何だか後ろめたい気持ちになった。

たしかに、エレニアのようなファンが一斉に押しかけたら迷惑極まりない。彼女は推しに会えるという喜びで、そこまで考えていなかった。



「教えてくれてありがとうございます」

「いや、かまわないよ。ところでお嬢さんは何をしにここまで来たんだい?」

「いえ、何でもありません」



エレニアは自身の目的を誤魔化し、そそくさとその場から立ち去って行った。



(危ない危ない……近隣住民からマークされるところだったわ……)



少し離れた場所で、エレニアは息を整えた。

彼女はフゥと深呼吸を繰り返したあと、周辺の景色を見渡した。



「ここ……クラークとヒロインが初めて出会った場所よね……」



実はヒロインは、公爵家に引き取られる前にクラークと一度だけ出会ったことがあった。



かなり昔、二人がまだ幼い頃のこと。

クラークは訓練場で一人、鍛錬をしていた。

彼の生まれたネルソン侯爵家は代々騎士を輩出する家系で、父も祖父も有名な騎士だった。



そのようなプレッシャーからか、彼も騎士にならなければと毎日のように鍛錬を繰り返していた。

その日は両親に内緒で、夜遅くまで稽古に励んでいた。



しかし、まだ子供だった彼は疲労でその場に倒れてしまう。

そのとき、純真無垢な少女の声が夜の闇に響き渡った。



『―――わぁ、とっても素敵な騎士さんね!頑張って!応援しているわ!』

『……』



声のほうを振り返ると、クラークの視界に一人の小さな少女が映った。どうやら訓練場の外から声をかけていたようだ。



『……!』



美しい赤色の瞳に、彼は吸い込まれそうになった。

健気に自分を応援する少女が、彼にとってはまるで月夜の下で輝く女神のように見えた。

彼は彼女に情けない姿を見せたくないと思い、立ち上がった。



ただそういう家系だからという理由で騎士を目指していた彼が、初めて自分の意思で騎士になりたいと思った瞬間だった。



―――いつか、彼女にまた会えると信じて、今日も彼はその場所で鍛錬に励む。



「今考えてみれば、なんて素敵な話……感動しちゃったわ、悪役令嬢だけど」



そのときの少女が、まさにヒロインだったのだ。

彼は彼女と出会ったときからそのことに気付いており、自分にとって初恋で最愛の女性を、傍で見守り続けるのだ。

たとえ、愛する人が他の男を選んだとしても―――



「―――美しいレディー、こんなところで何をしていらっしゃるのですか?」

「……?」



突然声をかけられたエレニアは振り返った。



そこにいたのは、赤茶色の髪の見目麗しい男性。

彼を見た瞬間、エレニアの心臓が破裂しそうになった。転生してからずっと会いたいと願っていた、私の推しそのもの。



「―――もしかして、クラーク!?」

「私の名前をご存じなのですか?レディー」



クラークはグレーの瞳を細めて笑った。

その笑顔が眩しすぎて、エレニアはもはや直視することさえできなかった。



(あぁ、神様……私をこの世界に転生させてくださってありがとうございます……)



悪役令嬢だが、サブヒーローを拝む。

転生してから最も幸せな瞬間かもしれない。



「レディー、この傷はどうしたのですか?」

「あぁ、ちょっとぶつかっちゃって」

「そうですか……軽い治療をしましょう」



そう言うと、クラークはエレニアの頬に手を添えた。

白い光が現れたかと思いきや、エレニアの頬の痛みがなくなった。



「まぁ、魔法が使えるのですね……!」

「治癒魔法です、軽い傷しか治せませんが」

「十分ですわ、ありがとうございます」



彼の治癒魔法のおかげで、エレニアの頬の怪我はすっかり治った。

そう、この世界では前世にはない魔法というものが存在するのだ。



(サブヒーローに触れられるだなんて、幸せ……)



オタクすぎて変に思われていないだろうか。

エレニアは前髪を整え、改めて彼と向き合った。緊張のせいか、額から汗が流れる。



「あの、あなた様はもしかしてクラーク・ネルソン侯爵令息様ですか!?」

「当たりです。こんなにも麗しいレディーに名前を知っていてもらえたとは……光栄ですね」



興奮気味の彼女にも引くことなく、クラークは微笑んだ。

二度目だが、破壊力は相変わらずだった。前世で何度も見たクラークの姿。



エレニアは眼福……と頬を赤く染めた。

前世でも何人かカッコイイと思っていた芸能人はいたが、当然会ったことは一度もない。



推しに会える機会なんて、普通はそうそうないものだ。

なんて運が良いのだろうか。



「レディー、ここで会えたのも何かの縁です。よろしければ、名前をお伺いしてもよろしいですか?」

「ええ……エレニア・キルパトリックです」

「キルパトリック……公女様だったとは」



公爵家の名を聞くと、クラークは驚いたように目を見張った。

公爵令嬢がこんなところに一人でいるだなんて、前代未聞だった。



「私の身分のことはお気になさらないでください、ぜひエレニアと」

「では……敬意を込めてエレニア嬢と呼ばせていただきますね」



クラークは自然に彼女の手を取ると、チュッ―――とその甲に口づけをした。

キャー!とエレニアは心の中で歓声を上げた。



こんなにサービスしてもらっていいんですか!?

私たちまだ付き合ってもいないのに!いや、何ならクラークには他に愛する人がいるのに!



本気になってはいけないと、エレニアは必死で自分に言い聞かせた。



「ところでエレニア嬢……私たち、もしかして……」



クラークが何かを言いかけたそのとき、突然二人の間に低い声が割って入った。



「―――お前たち、こんなところで何をしている?」

「……?」



気のせいか、場の空気が凍り付いた。あれ、何か吹き抜けていく風が冷たい。

エレニアは声のしたほうを、ゆっくりと振り返った。



「…………パ、パーシヴァル公爵様」



そこにいたのは、鋭い目でこちらを睨みつけるレイモンドだった。

このままだと、今すぐにでも処刑台に連れていかれてしまいそうである。



―――ど、どうして彼がここに……?





読んでくださってありがとうございます!


ブクマ、いいね、評価などしていただけたら励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。