↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢ですが、原作の男主人公と寝てしまいました~どうして私が愛されてるんですか?~  作者: 春乃りぜ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/14

4 お父様は相変わらずです

キルパトリック公爵は、小説の中では良き父親だった。

ヒロインと悪役令嬢両方の実父である彼は、作中では優しく穏やかな性格という設定で書かれていた。



しかし、それはあくまでもヒロインに対してだけだった。

悪役令嬢エレニアには愛情など微塵も注いだことはなく、常に軽蔑の視線を彼女に向けていた。



父が二人を差別する理由は主に出生にあるのだが、公には知られていない。

大体、まだヒロインは公爵家に引き取られる前だ。彼女が引き取られれば、父の関心が動き、エレニアへの当たりも多少はマシになる。

それまで我慢することができれば、何とかなる。



公爵は床に座り込むエレニアを怒鳴りつけた。



「――お前はこんな時間まで、どこに行っていたんだ!」

「お父様……」



エレニアは打たれた頬を手で押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。

まだ十八歳の少女の頬を、本気で殴ったのだ。痛くないはずがない。



(きっと何日も痕が残るわ……本当、最悪……)



父がエレニアに暴力を振るうのは、今に始まったことではなかった。

幼い頃に母を亡くした彼女は、何かと父の暴力の餌食になっていた。特にエレニアが何かをしたわけではない。ただ、勉強の出来が悪かったとか、くだらないことで殴る。



キルパトリック公爵はヒロインを溺愛する過保護な父親である一方、エレニアのことを虐待していた。



小説内では、公爵がエレニアに虐待していたことは一切書かれていなかった。

ただ、ヒロインを可愛がる父親という印象を読者に強く与えていただけ。



エレニアも彼の本当の姿を知ったときは、ずいぶんと驚いたものだ。

作中では人格者に見えた父の本性が、こんな男だったなんて。



何も言わないエレニアに痺れを切らしたのか、父は再び声を荒らげた。



「一体どこで道草食っていたんだ!?お前は昨日が何の日か、わかっているのか!?」

「……ええ、もちろんわかっています」

「ならなぜ!何の進展もないんだ!」



昨日は、王家主催の夜会が開かれた日だ。

父がその日だけをずっと待ち望んでいたことは、エレニアも知っている。

実は公爵には、ある思惑があったのだ。



彼は呆れたようにエレニアを見つめた。



「あれだけ言ったではないか―――何としてでもパーシヴァル公爵の心を掴めと!」

「……」



エレニアは頬を押さえていた反対側の拳を強く握りしめた。



―――そう、父の狙いはまさにエレニアが男主人公のレイモンドと結婚することだった。



彼女は昔から、父の出世のための駒として扱われていた。

彼はエレニアがより地位の高い男と結婚することを望んでいたのである。



しかし、父の思惑とは裏腹に、エレニアの縁談は難航を極めた。同年代の王子二人は別の令嬢を選び、他の高位貴族の令息もほとんど全員が婚約してしまっている。



残っている地位の高い男は、男主人公のレイモンドくらいだった。

父はそのような理由から、エレニアにレイモンドとの結婚を強要していた。



(原作でエレニアがあそこまでレイモンドに執着したのも……もしかすると、父公爵に絶対に公爵夫人になれって言われていたからかもしれないわね)



たしかに、エレニアはレイモンドに惚れていた。

しかし、単なる愛ではなく、地位に対する執着もあったのではないのだろうか。と、エレニア本人に転生した今なら不思議とそう思える。



「お父様……帰るのが遅くなって申し訳ございません。友人と一緒にいまして……なかなか帰るに帰れなかったのです」

「お前に友人?そんなものいないだろう」



父は嘲笑うように口角を上げた。

エレニアはたしかに友人がいないが、嫌われているというわけではない。多少話すくらいの仲の令嬢であれば、何人かいる。



「私にも親しくしているご友人くらいいますわ……お父様が知らないだけです」



本当はレイモンドと過ごしていたが、彼のことを言うわけにはいかない。

レイモンドとの関係は一時的なもので、ヒロインが現れれば、すぐに終わってしまうから。

父は彼との結婚を望んでいるようだが、エレニアは彼と一緒になるつもりはない。



(あなたはただパーシヴァル公爵との繋がりが欲しいだけなんだから……)



父はより強い権力と、有力者との繋がりを求めていた。

王家の血を引くパーシヴァル公爵家は、貴族であれば誰もが親しくしたいと思う家柄である。

爵位はキルパトリック公爵家と同列だが、扱いは全く違う。



「それで帰るのが朝になったと?お前は自分の立場を理解しているのか?結婚前の令嬢が朝帰りなんてしたと噂になれば……お前はいよいよ誰とも結婚できなくなるんだぞ」

「……」



――いよいよ誰とも結婚できなくなる。

一見脅し文句のように聞こえるが、まさに小説の中のエレニアがそのような末路を迎えていた。



レイモンドとヒロインが進展するにつれ、父公爵はエレニアを完全に見限り、二人の恋を応援するようになる。

父親からも完全に見放されたエレニアは荒れに荒れ、誰からも相手にされなくなってしまう。



追い詰められた結果、彼女はヒロインの毒殺を試みるのだ。

しかし、結果は失敗に終わり、ヒロインを深く愛するレイモンドの手によって処刑台へと送られてしまうのだ。



(エレニアはたしかに嫌な女だったけれど……彼女も辛かったのよ)



エレニアに転生した今となっては、彼女がヒロインをあれだけ憎んだ理由がわかるような気がする。

自分が得られなかったものを、ポッと出の異母妹は全て何の努力もせずに手に入れてしまったのだから。



「お父様のご心配には及びませんわ……私は私で素敵なお相手を見つけますから」

「出来損ないのお前と結婚する男がいるとは思えないがな……強いて使えるとすれば、見た目と地位くらいだが」



見た目と地位だけしか使えないだなんて、十分ハイスペックだ。

父は侮辱として言ったのだろうが、エレニアにとっては褒め言葉だった。

前世の彼女は見た目も平凡、生まれた家も裕福とは程遠かった。それに比べたら、今はなんて恵まれているのだろう。親ガチャは大外れしたけど。



エレニアは父親に向かってニッコリと笑った。



「そうですわね……私にはそれくらいしか使えるものがなさそうですので、その二つを活用して婚活しようと思いますわ」

「……」



いつもと違って強気な娘に、父は眉をひそめた。

昔は臆病で常にビクビクしながらこちらの様子を窺っているような女だったはずだが、いつの間にこんなにも気が強くなったのだろうか。



「……そうだな、結婚するならできるだけ地位の高い男にしろ。別に年寄りの後妻でもいい。正式な妻になれるんだったらな」

「……後妻ですか。そうですね、考えておきますわ、お父様」



エレニアが大人しく頷くと、父は彼女から背を向けてその場から立ち去った。

父の背中に向けて、エレニアはベーッ!と舌を出した。



(誰が年寄りの後妻なんてやるか!一回り以上離れた男との結婚なんて御免よ!私はもっと良い相手と結婚するんだから!)



父親に対する反感を心に抱きながら、彼女は部屋に戻った。




読んでくださってありがとうございます!


ブクマ、いいね、評価などしていただけたら励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。