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悪役令嬢ですが、原作の男主人公と寝てしまいました~どうして私が愛されてるんですか?~  作者: 春乃りぜ


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13/14

13 公爵様はいつもヒーローでした

その日の夜、エレニアは熱を出してしまった。

彼女は元々、身体があまり強くなかった。

急に激しい運動をしたことや、炎天下で長時間活動したことにより、エレニアは倒れてしまった。



彼女は高熱を出し、ベッドに横になっていた。

そんなエレニアを看病していた侍女が、気まずそうに口を開いた。



「お嬢様……申し訳ございません……旦那様とアイリーンお嬢様は出かけていて……」

「そう……」



特に驚きはしないし、悲しくもない。

アイリーンは先ほど父とドレスを買いに行くと言っていたから、二人とも家にいないだろうと予想はしていた。



夜遅くまで帰ってこないということは、どこかでディナーでもしているのではないだろうか。

高熱を出す娘を一人置いて、二人は外出を楽しんでいる。



(熱ってこんなにも辛かったのね……前世では丈夫だったから余計に……)



家族は誰一人として、見舞いに来ない。

父ならば、きっと家にいたとしても来なかっただろう。



「少し……一人になりたいの……」

「承知致しました、お嬢様」



侍女の心配は尽きなかったが、主人の意に反するような行動を取るわけにはいかない。

侍女たちは何も言わずに部屋から出て行った。



一人になったところで、エレニアの苦しみは変わらない。



「……」



身体が燃えるように熱かった。

このまま火に包まれて死んでしまうのだろうかと錯覚するほどだった。



(ちょうどよかったわ……アイリーンに移しでもしたら大変だから……)



むしろ、彼女がここにいなくてよかったのかもしれない。

エレニアはゆっくりと目を閉じた。

すぐにでも寝たいけれど、そうもいかない。



そのとき、氷のように冷たい風が部屋の中を吹き抜けたような気がした。



「……」



突然、額に感じる冷えた手。

身体の熱が吸い取られていくようだった。



(…………誰か、来ているの?)



氷を直接当てられているかのような感覚だった。しかし、冷たいのになぜか温かみがあった。



目を開けると、青い瞳がぼんやりと視界に映った。



「…………公爵、様?」

「起きていたのか」



彼女の額に手を当て、熱を吸い取っていたのはレイモンドだった。

最初は夢を見ているのではないかと思った。

ここはキルパトリック公爵邸で、彼がいるはずのない場所だ。



「冷たいか?」

「はい……熱が、吸収されていくみたいです」



そう答えると、レイモンドが安心したように微笑んだ。

彼の力で、エレニアの体内温度を下げようとしているのだろう。



「公爵様、どうしてここに……」

「今はそんなこと気にするな」



レイモンドはエレニアの言葉を遮った。

その瞬間、心配に満ちた彼の表情がハッキリと映った。



「───お前は、自分の身体のことだけを考えていればいいんだ」

「……」



不思議だった。

手は凍えそうなほど冷たいのに、どうして胸は温かくなるのだろう。



(私を気にかけてくれる人は……いたのね……)



エレニアは重かった瞼をそっと閉じた。

長い間寝れなかった彼女は、レイモンドのおかげでぐっすり眠ることができた。




***





目を覚ましたのは、翌日の朝だった。

すっかり熱は身体からなくなっていて、彼女は気持ちの良い朝を迎えることができた。



昨日の記憶が曖昧だった。

たしか、レイモンドを見たような気がしたんだけど──



「……起きたか」

「こ、公爵様!?」



ベッド横に置かれた椅子に座るレイモンドの姿に、エレニアは慌てて飛び起きた。

彼の着ている白いシャツの首元は開いていて、胸筋が僅かに見えた。



「わ、私たちもしかして二回目の……!?」

「……安心しろ、俺は抵抗できない病人に手を出すほど悪人ではない」



病人──と聞いたエレニアは、ようやく昨夜の出来事を思い出した。



(そうだ……私、昨日熱を出して寝込んでたんだわ……)



そこにレイモンドが現れて、彼が看病をしてくれた。

エレニアは驚いたように、目の前のレイモンドを見つめた。

彼がキルパトリック公爵家にいるのが何だか不思議だ。



「公爵様、ありがとうございます。おかげで、辛い思いをせずに済みました」



エレニアは頭を下げ、レイモンドに礼を言った。

彼はそんな彼女の頭頂部を黙ったままじっと見ていた。



しばらく黙り込んだあと、彼は呆れたように口を開いた。



「お前は本当に、俺に助けられてばかりだな……」

「こ、公爵様……この借りはいつか必ず……」



顔を上げたエレニアの頬に、レイモンドが手を伸ばした。

昨夜感じた冷えた手が、今度は頬に当たる。



「───いいよ、お前が無事なら」

「公爵様……」



彼は椅子から立ち上がると、まだ僅かに熱が残る額に口づけを落とした。

彼がチュッとキスをしたおかげか、残っていた熱が急速に冷めていくようだった。

昨夜みたいに手を当てればいいものを、どうしてわざわざキスをするんだろう?



レイモンドはエレニアと目を合わせると、口角を上げた。



「別に、礼がされたくて助けたわけじゃないし」

「で、ですが……」



何かお礼の品をとエレニアは提案したが、ことごとく断られてしまった。

本当はお礼がしたかったけれど、彼が必要ないと言うので仕方がない。一方的に押し付けるのも、何だか気が引けるし。



「ところで、公爵様はどうして私が熱を出してることに気付いたんですか?」

「あぁ……お前、魔力暴走起こしただろ?」



エレニアはレイモンドの用意した水を飲みながら、コクッと頷いた。



「魔力暴走を起こした人間は、近いうちに高い確率で発熱するんだ──―かつて、俺もそうだったからな」

「発熱……」



レイモンドの話によると、魔力暴走を引き起こすと大抵の人間は一週間以内に熱を出してしまうそうだ。

酷いときは何日も続き、そのまま死に至ることもあるのだという。



(わ、私死んでたかもしれないってこと!?)



エレニアはゾッとした。

もし、レイモンドがいなければどうなっていたかわからない。

レイモンドは手を伸ばすと、彼女の頭に手を置いた。



「お前の体内の魔力……俺が可能な限り安定させておいたから。心配はしなくていい」

「あ、ありがとうございます……」



悪役令嬢を処刑台に送るはずの男主人公が、悪役令嬢を助けるとは。

こんなことがあるんだなぁとエレニアはレイモンドを見上げた。



「それで……私が熱を出すことがわかっていたってことですか?」

「ああ、当たりだったな。お前は昨夜、熱を出して苦しんでいた」



レイモンドの言う通りだった。



(また、彼に助けられたわ)



もはや何度目かわからない。

関わった途端死へと近づくはずの男主人公レイモンドだが、なぜか逆に関わることで死から逃れられているようだった。

それに加えて、作中でヒロインにだけ向けていたはずの優しい瞳。



一体、何が起きているのかわからない。



「……ところで、お前の父親はどこにいるんだ?」

「お父様……ですか?」



レイモンドに尋ねられ、エレニアはギクリとした。

父公爵は今、家にはいない。アイリーンと昨日から出かけているはずだが、朝まで帰らないとは予想外だった。

エレニアはアイリーンのことは伏せ、口を開いた。



「……出かけています」

「……出かけているだと?娘が熱で寝込んでいるにもかかわらず?」



レイモンドが眉をひそめた。

キルパトリック公爵がエレニアを虐待していることは、世間一般には知られていない。

知られたところで誰かが助けてくれるわけではないので、エレニアは誤魔化した。



「いえ、お父様は私が熱を出したことは知らないんです……熱を出す前に出かけたので……」

「……」



その話を聞いたところで、レイモンドの不快感は消えなかった。

エレニアは何とか誤魔化してはいたものの、瞳の奥に宿る本当の気持ちまで隠すことはできなかった。







***






レイモンドが帰ったあと、公爵とアイリーンが戻ってきた。

部屋へ戻ろうとした公爵は、目の前の光景に愕然とした。



「―――な、何なんだこれは!」

「お、お父様!一体誰がこのようなことを……」



狼狽える公爵に、アイリーンが慌てて駆け付けた。



―――公爵の自室へと続く扉が、氷漬けにされて入れなくなっていたのだ。

公爵は何とか中に入ろうと扉に手を触れたものの、異常なほどの冷たさに凍傷を起こしてしまった。

ギャアッ!と彼は真っ赤になった手をさすった。ただの氷にしても冷たすぎる。



「お父様!」

「どうなっているんだ……!」



犯人は一人しかいないものの、当然彼らはレイモンドが来たことなど知る由もなかった。




読んでくださってありがとうございます!


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