【エリクシルのエルグラ】
上空から見える巨大な工業地帯。
魔法工業国家【エリクシル】
魔導列車が街中を走り。
魔導クレーンが忙しく広大な飛空艦造船地区で
首を振っている。
今も優秀な魔法使いを輩出する
名門魔法学校の高い塔も見える。
元は魔法国家だったが、
魔法を学問として
体系化し魔導機械を生み出した国。
町は職人や学生で賑わう。
あちこちで魔導機械の実演や修理。
タントや聖女が「すごい……」と感心する。
トールスは口をへの字にして
「昔はこんな国じゃなかったんじゃがのー
明かりや調理窯の魔導機械が
家庭で実用しとる辺境国じゃった」
と一言。
代艦は入港すると手近な飛空艦の部品屋に入る
ランス級と同等の魔導主機を問い合わせる。
店主がそろばんを見せながら値段を提示する。
値段を聞いて一同絶句。
トールスは「そうじゃの〜」と提示された
そろばんの駒を勝手に動かすと……
「コレでどうじゃ!?」
「無理です」と即答。
「ぼったくりじゃ!
おい、にいちゃんここやめた方がええど!
ぼったくられるど!」
大声で他の客に言うトールス。
「営業妨害です!お帰りください。」
タントがトールスの腕を引っ張りながら
「こんなショボい所じゃなくて
折角のエリクシルなんだから
【エルグラインダストリー】行きましょうよ!
そこの社長は
【5英雄の英雄魔法使い】でしょ?」
「……いらん事知っとるの〜しゃーない行くか」
エルグラインダストリー
現在の第2世代型飛空艦の基礎設計を完成させ世界各国から注文を受け製造販売している。
飛空艦の他にも確信的装備の開発販売している。
その敷地にはデカい工廠が立ち並び、
並の城より豪華な社屋に入るトールス一行。
トールスは受付カウンターに肘を付き
半分乗り出す形で
「エルグラ出さんかい!」と吐き捨てる。
少したじろぐ受付け嬢だが
「失礼ですがアポイトメントは?」
トールスは高圧な態度を崩さず
「アポーってなんじゃ?
トールスが来た言やー分かるわい!」
そんなトールスの態度に呆れたタントは
「なんでそんな高圧的なんです?」と聞くと
「あほ!アイツは大魔法使いとか
天才発明家とか言われとるがの〜」
「これはこれは懐かしき【マルタ】ですね」
高音でねっとりした声で遮られる。
丸メガネに奇妙な形の帽子とケープのニヤけ顔の男……
英雄魔道士【エルグラ】がゆっくり現れる。
「マルタ言うな!
率直に言うランス級クラスの
魔導主機が欲しいんじゃ!」
早口気味に言うトールスだが
エルグラはニコリとゆっくりした口調で
「無理ですね〜
現在全てのラインがフル稼働中ですが
全て買い手が決まっています」
エルグラは笑顔を崩さずに両手を広げて
「しかもこの需要です
値の方も少々、張ってしまいます」
トールスつまらなさそうに
「何じゃ?
またゼニスキャラバンか?」
エルグラはニコリと
「ええ、良いお付き合いをしています」
「か〜景気良いの〜あいつ等〜
魔王戦争ん頃は、荷馬車引いて回っとる
隊商じゃったのにの〜
逆にワシは借金持ちじゃ!
まあ、しゃあないの!」
回れ右で帰ろうとするトールス。
それを引き止めるタント
「なんで、粘んないんですか〜!?」
にちゃーと笑うエルグラ
「ほう……お困りのようで?」
冷や汗を垂らすトールス。
「ま、まあの」
エルグラはニコリと笑顔に戻り
「では試作製品の【性能評価試験】に
協力して頂ければ……主機を差し上げ……」
エルグラは言葉を区切り一瞬何かを考えてから
「……たい所ですが耳寄りな情報を〜
上手くいけば
無料で魔導主機が手に入りますよ?
どうですか?」
トールスはあからさまに嫌な顔をする
「なんでそんな顔なんですか!?」
タントはそんなトールスを押し除けて。
「やります!」と言いきる。
「お、おい!」と珍しく困惑するトールス。
エルグラはメガネを光らせ背筋を伸ばし
鋭い目付きで
「さっきので言霊契約成立です
さあ、実験棟へどうぞ……【丸太達】」
「だから丸太言うな!」
抗議するトールス。
タントは首を傾げながら
「マルタって何ですか?」
トールス「知らんでええ!ええか!
さっき言いそびれたんじゃが
アイツは
天才発明家でも大魔法使い【でもない】!」
ーーーー
魔王戦争中
巨大な鉄魔人に斬り掛かるトールスだが
弾かれる!?
エルグラが詠唱して杖を振る。
鉄魔人に落雷!?だが平然としている。
苦い顔のトールス
「くっそ硬いのコイツ!」
アルトは首を振りながら
「トールスで駄目なら僕の攻撃は通らない。」
エルグラも小さく溜め息
「魔法も効きませんね……
鉄ですので電撃、効くと思ったんですが」
……エルグラが眼鏡を押し上げながら、
「マルタ……いえ、トールス。
力強化の魔法があるのですが……」
トールスは出し渋ったエルグラに
少しイラ付き声を荒げる。
「そんなん有るなら最初から出せ!」
エルグラはニチャっと笑い。
「……では、遠慮なく」
詠唱して魔法発動
トールスの身体が淡く光る。
トールスが
走り込んでからの渾身の一振り!
ドゴォォン!!
爆発音の様な打撃音に
鉄魔人が吹き飛ぶ!
「ははは!!
こいつはスゲェど!
これならナンボ来ても……」
ーーーー
翌朝
近くの町の宿屋
「ぎゃーーーーーー!!」
悲鳴と共にベッドから転げ落ちるトールス。
「腕がァァ!!脚がァァ!!」
全身ブチ痛いーー!!」
聖女が回復魔法をかける……
「どうですか?治りません……か?」
トールス泡を拭きながら
「ぜ…ぜん、ぜんじゃ……」
エルグラは真顔でメモを取りながら、
「ほう。回復魔法でも
この筋損傷は打ち消せませんか。
魔法で強化した
筋繊維1本1本全てに同様の症状が……
この副作用は改善が必要ですね?」
「副作用じゃ済まんわ!!
う、いっ!
……んあーーー!ブチ痛い!
死ぬ!殺してくれーー!!」
トールスは
三日三晩地獄の筋肉痛に襲われた。
ーーーー
現在
トールスは真顔に真剣な口調。
「ただの
【マッドサイエンティストの変態】じゃ!」
ーーーー
エルグラインダストリー実験棟
全長が2メートル近い
フルプレートアーマーが複数並んでいる。
所々に魔法陣が施され背中には鉄製の背嚢を背負っている様になっている。
エルグラがそれ等を手で指し示すと
「こちらが最新式の試作【魔動甲冑】です。
トールス、こちらを。」
「断る。」即答するトールス。
「……え?」と戸惑うエルグラに
再度「断る!」と言うトールス。
「いや、実験ですよ?」
「だが断る!」
「データが……」
「知らん!」
「防御力も〜」
「いらん!」
「補助も〜」
「いらん!」
「……死んでも知りませんよ?」
トールス、腕を組んで。
「死なん!」
そして……
密閉式のミニコロッセオに似た実験場に
魔導甲冑を着込んだタントと機関長。
トールスだけ普段通り。
タントが小声で。
「トールスさん
本当に大丈夫なんでしょうか?」
機関長はウォーハンマーを持ち
「大丈夫じゃないのはわし等じゃ。
模擬戦とはいえトールス相手だ……」
ーーーー
観戦室
エルグラは近くの職員に
「まずは開始時は出力30%」と言うと
白衣を着た職員が机に固定されたマナ伝達機に魔力を送る。
するとタントと機関長の
甲冑の背嚢部分の一部と
各部の魔法陣が淡く光る。
エルグラは観戦場から魔導拡声器で
「では、始めて下さい」と言うと
タントは刃引きされてるとはいえ
当たれば鉄の鈍器……
躊躇してるとトールスは
「遠慮は要らんど稽古付けちゃる!」
「……分かりました!お願いします!」
「おう!」
タントはロングソードを片手に
トールスに向かう。
「ああ、もう!」
と機関長もタントの後に続く。
タントの攻撃を大剣で余裕で受けるトールス。
「ほう、確かに動きがいつもよりええの」
そこに機関長のウォーハンマーが襲う!
タントを蹴り押すとウォーハンマーの打撃も大剣で防御する。
「んはは!機関長!腰痛はええんか?」
「はは、腰痛のままだがよく動くぞ!」
ーーーー
観戦室でその様子を観察するエルグラ……
白衣の職員が
「魔導甲冑各部動作良好!」
「ナンバー1、ナンバー2バイタル正常!」
「では60%」
「分かりました」
ーーーー
甲冑の駆動音と発光が一段階上がる。
2人の動きが一気に鋭くなる。
タントの攻撃をガードして弾くと
ロングソードを左手に持ち替え
そのまま戻ってくる!
「おお!?」
想定外の動きとスピードに少し押される。
ーーーー
エルグラは一般兵であるタントに
トールスが少し押される状況にニヤけ。
「80%」
「所長!まだ試験段階です!」
職員が警告するが……
エルグラはなんでもない様に
「構いません」
「ナンバー1、ナンバー2!各バイタル上昇!」
ーーーー
「100%」
甲冑から魔力が噴き出し、
装着者の瞳が赤く光る!!
「魔導甲冑、駆動部からマナの漏洩!」
「ナンバー1、2バイタル正常値突破!
意識異常の兆候有り!危険です!!」
タントと機関長は
理性より闘争本能が前に出て
トールスに襲い掛かる!
ーーーー
「まだ出ますね。120%」
「所長!!」
エルグラは声を荒げる職員を
ゴミを見る様に見下ろし。
「……やれ」
職員はゾクリする悪寒を感じ最早投げやに
「っ!?……知りませんよ!!」と魔力を送る!
ーーーー
タントと機関長は最早意識が無く
ただ、ただ闘争本能に従い
身体を強化された動作で動かす!!
ーーーー
職員の悲鳴の様な報告!
「甲冑からのマナ流出増大!
構造限界です!!」
エルグラは相反する様に冷静な声で
「出力はどうなってますか?」
職員が数値を確認する……
「……えっ!?
マナが流出しているのに出力を保っている?」
別の職員の悲鳴
「ナンバー1、2共に意識レベル低下!
バイタル値上限値突破!!」
エルグラはタント達……
【丸太】を食い入る様に見詰める!
「意識が無い状態でなお戦い続ける……
実に興味深い!!」
ーーーー
めちゃくちゃに武器を振り回す2人……
それも魔導甲冑により力もスピードも強化された状態にトールスも本気になり
最後は甲冑のパワーごと押し返す!!
ーーーー
実験終了。
甲冑の魔力炉が停止し倒れたまましばらく動かない2人に救護員が駆け寄ると治癒魔法をかけ始める。
意識を回復させた
2人はガシャン、ガシャンと
装甲を脱ぎ捨てる。
「うっ!身体が……お、重っ……」
「うぅ……膝が……」
「肩が上がらない……」
甲冑に支えられていた身体は、
自分の重ささえ別物に感じる。
タントも片膝をつき、膝を押さえる。
「いってぇ……。」
エルグラは手帳へ猛烈な勢いで書き込む。
「筋繊維への負荷は想定値以下なるも
関節への負荷が著しく増加。
なるほど……補助駆動の制御を
見直す必要がありますね。」
職員がおずおずと。
「所長……暴走については……?」
「想定外の高揚状態ですね。
実に興味深いです。」
トールスが呆れ顔。
「興味深いで済ますな!
じゃから嫌じゃったんじゃ!」
タントが立ち上がろうとする。
何度かよろめきながら、それでも剣を拾う。
トールスがその様子を見て声を掛ける。
「タント。」
「はい?」
「オンドレ、途中で何回か
武器を左手に持ち替えたじゃろ?」
「……え?ああ、無意識です」
「じゃろうな。
じゃが、あそこだけ
妙に動きが良かったど!」
タントは首を傾げる。
「そう……ですか?」
「普通は持ち手を変えりゃぎこちなくなる。
じゃがお前は変わらん
左右どっちでも剣筋が通っとる。」
「昔から左でも使えましたけど……」
「ほう……なら最初から持ち替える前提なら
そのロングソードはお前にゃ長いに」
トールスは剣先を軽くつつく。
「もうちょい短くて、
重心の前にある頑丈な剣。
そうじゃの
メッサーみたいな武器の方が向いちょる。
振り回すんじゃなく、
身体で叩き斬る感じじゃ。」
タントは自分の剣を見つめる。
「メッサー……」
「機会があったら試してみぃ。」
「……でも僕はトールスさんみたいな
ドカンと一撃必殺!
みたいなの目指してるんですけど?」
「ん〜そうじゃの〜
目指すなとは言わんが
オドレの体格、筋肉質ならデカい一撃より
手数の方が合っちょるど?
合わないスタイルだと
【それなりの】……で終わるど?
タントはワシになりたい訳じゃなかろう?
自分のスタイルを伸ばす!
タントは
タントのスタイルを確立さす方が
お勧めじゃぞ?」
ーーーー
その横で。
エルグラが突然顔を上げる。
「そうですね!
確かにマルタ2号は
ちょくちょく大きい1撃を
狙っていました。
次回はスタイルを確立させて
今回との比較試験もーーーー」
トールスとタントが同時に叫ぶ。
「やらんぞ!」
「やりません!!」
「あと、ウチの若いモンを
勝手にマルタの番号呼びすな!」
エルグラは残念そうに肩を落とす。
「……今度はもっと言う事を聞かせる為に
幻惑魔法を……ぶつぶつ」
トールスはため息をつく。
「また変な事考えちょる
だからオドレは変態なんじゃ!
しかも
儲けて地位と銭持っとるからタチが悪い!」




