【代艦】
イッグテール修理開始から三日。
マリンドン製作所には金槌の音が絶えず響いていた。
タント達は荷物をまとめ、
造船所の門へ集まる。
トールスが振り返る。
「頼んだど」
オヤジは煙草を咥えたまま2本指を立てた。
「二ヶ月だ
それまでに主機持って来い。
最低でもランス級
それ以下なら追い返す。」
「分かっとる」
修道服の女は大事そうに卵を抱えていた。
それを見てタントは苦笑する。
「本当に連れてくの?」
「置いて行けません。
この子一人じゃ寂しいです。」
タントは首を傾げ
「卵なんだけどな……」
トールスの提案で、
修道服の女も同行することになった。
だが、彼女には一つだけ条件があった。
「この子も一緒じゃないと嫌です」と
対するトールスは
「ほんなら持って行きゃーええ」となり
結局、荷物が増え。
体力が尽きかけた女に代わり
タントが卵を背負う羽目になる。
ーーーー
レンタル飛空艦屋。
並んでいるのは中古船ばかり。
「一番安いのである程度搭載量の有るやつ頼む」
カウンターの店員は少し悩み
「これ〜ですかね」
案内された船を見て一同沈黙。
小さい。
狭い。
木材も古い。
タントはボソリと
「……飛ぶの?」
受付。
「……一応。」
タント
「一応って何だ!?」
トールスは笑う。
「贅沢言うない
搭載重量は充分じゃ飛ぶだけ有難い。」
ーーーー
出港前の買い出しで「人間の燃料も要るの」という事で近くの酒場に来た。
昼間から賑わっていた。
楽団が陽気な音楽を奏でる。
料理の良い匂いに腹の虫が鳴く。
「ついでじゃ、出航前の景気付けじゃ!
好きなモン頼め!」
タントが「良いんすか!?やった!」と
メニューに齧り付く。
「取り敢えずナマじゃ!タントも飲むじゃろ?
アイ〜……アイス食うか?嬢ちゃん?」
「えと……いえ
……あ、はいでも後ででもいいですか?」
「はは、トールスさん
何でいきなりデザートなんですか?」
「……アホ!オナゴはアイス食えば
基本ハッピーなんじゃい!の?ほうじゃろ?」
「あはは、それじゃあ私が
食いしん坊みたいじゃないですか?
……アイスは確かに好きですけど」
「あはは、君ちゃんと笑えるんだね
フィーラで会ってから
元気ないと言うか不安そうって言うか
そんな感じだったからさ!
笑った方がが可愛いと思うよ!」
顔を赤らめる修道服の女。
「おうタント?ナンパか?
別にイッグテール内で恋愛は禁止しとらんが
付き合うなら添い遂げろよ?
変な別れ方したら
本気の拳骨だけじゃ済まさんからの」
「べ、別にそんなのじゃねーッス!
……因みにその拳骨って
ガントレット付けたまま?」
「モチじゃ」
トールスが金属製のガントレットを装備した
手を持ち上げグッと拳を作る。
まるで河原の石サイズの鉄塊だ……
コレで拳骨って、確実に頭蓋骨割れる……
酒場系の濃い味系料理が運ばれ、
皆が束の間の休息を楽しむ。
その時だった。
入口が勢いよく開く。
「居たぞ!!」
武装した男達が明らかにコッチを指差す。
鎧は古い、兵士崩れ、傭兵崩れって所だ
野盗になりきれない賞金稼ぎだった。
「イッグテールの連中だ!」
「【賞金首】だ!」
酒場中が静まり返る。
「食事マナーがなっちょらんの〜」
とテーブルクロスで手を拭くトールス。
タントは椅子を蹴り付けるとそれを
ゴング代わりにして賞金稼ぎが剣を抜いて
一斉に駆け寄る。
タントは腰のロングソードに手を掛けると。
「抜くな!酒場で殺しはするな」
「え!?」
5人が間近まで迫った……
その瞬間、6人掛けのテーブルが
まだ残っている料理と共に賞金稼ぎ達を襲う。
「どっちがマナー違反ですか!?」
「マナー違反者にはマナー違反で返すのが
マナーじゃ!」
賞金稼ぎの顔面に文字通り鉄拳を打ち込む。
歯が飛ぶのが見えた。
「うあ!痛そう……」
「おう、イッグテールに手を出すって事は
この区画の敵だ!」
恐らく世話になった連中も参戦しての乱戦。
楽団も調子に乗ったのか
少し前に流行った海賊を主人公にした劇の
テーマ曲を演奏しだす。
戦闘シーンにも使われていたから
その場の全員の戦闘意欲を掻き立てる。
椅子が飛ぶ。机が倒れる。ジョッキが砕ける。
酒場の店主だけ
「はい、ジョキ1個、銅貨3枚、机、銀貨1枚〜」
と損害計算をする。
賞金稼ぎは数だけは多い。
タントが流されて
修道服の女と離れてしまった。
しかも賞金稼ぎがにじり寄っている。
タントが叫ぶ。
「嬢ちゃん!」
楽団からブン取ったギターを放る。
「え!?」
聖女が慌てて受け取ると
目の前の下卑た笑い顔の賞金稼ぎに
反射的に振り抜く。
頭部に命中しギターは真っ二つ。
男は立ったまま失神し数秒置いて倒れる。
アワアワする修道服の女に
タントがサムズアップしながら
「ナイスショット!」
茫然とするギターの持ち主。
「…………俺のギター」
タントは拝み手で
「すまん!弁償する。
明日マリンドン製作所って所で言ってくれ」
トールスが
賞金稼ぎの胸ぐら掴んで拳引いてる状態で
「コラ〜!タント〜!
おんどれ借金増やすんじゃのー!」
酒場中が爆笑した。
ーーーー
賞金稼ぎ達を制圧して男達を縛る。
持ち物検査で懐からは大量の手配書。
トールスは紙を見る。
「イッグテール……
船だけじゃないの乗員全員じゃ」
手配にはデカデカと
『生死問わず』と書いてある。
タントが舌打ちする。
「随分人気者になったっスね?」
ーーーー
夜。
代艦は静かに港を離れた。
小さな船室で皆眠っている。
その上空。
夜空へ幾つもの影。
凧に張り付く黒装束の者達。
風へ溶け込むように滑空してくる。
音も無い。
ヒノモト独特の兵種【シノビ】だった。
鎖国を続けるヒノモトだが個人や小組織で
海外で傭兵をやる者がいる……
彼らもその一部なのだろう。
音を立てず代艦へ着地し
窓から侵入する目指すは一室。
卵を抱いて眠る修道服の女。
シノビは
彼女に布を掛け抱き上げようとした瞬間。
「誰じゃ。」
トールスが起きていた。
一瞬でシノビ達が散開!
手裏剣が多方向から同時にトールスを襲う!
咄嗟に致命傷になりかねない箇所を庇う。
腕に刺さった手裏剣を抜き見る。
「珍しいのヒノモトの者か?」
トールスの問いに
無言で直刃の刀、忍者刀を逆手に抜刀。
狭い艦内では
トールスの大剣を思う様に触れない為
シノビ達は
代わる代わるトールスに攻撃仕掛ける!
トールスは大剣を置き無手で構える。
素早く鋭いが重くない忍者刀の攻撃を
手甲で受けカウンターで殴り飛ばす!
艦内の異常にタント達も飛び起き
「何、暴れてるんで……何だお前達!?」
トールスが数カ所斬られ血が出ている事で
タントはシノビを敵と認識して
ロングソードを抜刀して乱入する。
斬り合うが戦況は均衡する……
トールスとタントの排除は難しいと
判断しそれ以降はシノビ達は戦わない。
目標は【修道服の女だけ】
2人の強行突破を試みたが2人に弾かれる……
タントが声を荒げる!
「何であの子を狙うんだ!?」
シノビ達は答えず睨み合う。
やがてシノビの頭領が
修道服の女の確保も難しいと判断し
「退け!」
部下達が一斉に撤退すると頭領だけ残った。
煙玉を投げ、煙りの中から手裏剣が飛ぶ!
攻撃を受けながらも、
無理矢理近付き殴り掛かるトールス!
躱す頭領!
距離を取りクナイを壁の跳弾を利用し
あらぬ方向からクナイが襲ってくる!
次々と様々攻撃を駆使して戦う頭領。
ただ時間を稼ぐ為に……
最後の部下が姿が闇へ消える。
頭領はそれを見届けると静かに刀を納めた?
すると――短刀を抜いた!?
タントがつい言葉が出る!
「待て!」
頭領はタントの声に止まらず
躊躇なく短刀で自分腹を裂く!?
滴る大量の血液……
「駄目です!」
と布から這い出た修道服の女が飛び込む。
頭領に手を翳すと淡い光が発現する。
頭領の出血が止まり裂けた腹が塞がっていく。
土気色の顔にも血色が戻る。
頭領は驚き自分の腹へ触れた。
「……生きている」
トールス達も言葉を失う。
頭領が修道服の女を見やる。
「何故助けた?」
修道服の女は微笑む。
「助けられる命でしたから」
頭領は静かに頭を下げた。
「……変わった御方だ。」
タントが問う。
「何故この子を攫う?」
頭領は助命の恩義に応える為に
「……依頼だ」と応える。
「……彼女は誰だ?何と聞いている」
頭領は少し間を開けて一言。
「【聖女】」
予想していなかった応えに静寂。
タントが「聖女?」というと
いつに間にか集まっていた他の同行者全員が
修道服の女を見る。
タントは
「トールスさん知ってたんスカ?」
トールスは何でもない様に
「ん?そうじゃの」
「なんで黙ってたんスカ?」
「聞かれちょらんし……それに、」
トールスは肩を竦める。
「オノレ等も嬢ちゃんも混乱するじゃろ?」
タントは呟く。
「勇者騎士団……。」
機関長が今までの異常の理由を察する。
「あれか?勇者の婚約相手だから
……狙われたのか?」
頭領は黙る。
タントが続けて問う。
「依頼主はヴァルクラントか?」
頭領の任務と恩義の天秤が傾いた
手が素早く短刀へ伸びる!
が、
トールスが手で止めた。
「何回も腹切るな。船が汚れる」
余りの握力と
穏やかに喋るが反比例する威圧感で
頭領が固まる……
トールスがゆっくりと手を離しながら
「もう探らん
それに回復魔法は疲れるんじゃ
嬢ちゃんが
行きたい言うなら何処へでも引き渡す」
トールスが修道服の女……聖女に顔を向け。
「嬢ちゃん?
コイツ等と行きたいか?」
聖女は首を横へ振る。
「嫌です
少なくても今は皆さんと一緒に居ます」
トールスは頷いた。
「……ほうか」
頭領へ向き直ると
「なら今日は帰れ。
そして、次は玄関から来い。
緑茶は無いがコーヒーぐらいなら出すど」
頭領は苦笑する。
「……お主、変わっておるな」
「そうかの?」と首を傾げると
犬でも追い払う様に手でしっしっとしながら
「さ。いね、いね。」
頭領は正座し深く頭を下げた。
「拙者、尾頭半蔵と申す。
この度の助命の恩義は決して忘れませぬ。
……さらば!」
煙と共に半蔵の姿が消えた。
静まり返る船内。
タントは聖女を見る。
「って事は……
この子……【英雄僧侶】なのか?」
トールスは腕を組む。
「……そうじゃとは思う。
見た目も、気配も。
ワシの知っとるのと同じじゃ。」
少し黙る。
「じゃがのアムダ……ああ、魔王な。
あやつ倒す時ブチ凄い魔法撃った後……」
静かに呟く。
「……消えとるんじゃ」
「……は?」
「死体も無い。行方も分からん。
皆で探したが見付からんかった。」
タント達は息を呑む。
「ところが……戦後、半月くらいして
フィーラの式典へ普通に出て来おった
その時は、ああ、生きとったんじゃの。
その程度にしか思わんかった」
タントは聖女を見る。
記憶を失った英雄。
世界中から狙われる少女。
そして、
イッグテールを飛ばすための魔導主機。
小さな代艦は夜の空を進み続けていた。




