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【築城、防衛のち大根】


ヴァルクラント軍の

増援の輸送艦が草原へ降り立ち

地上戦力が続々と下船して来る。


その数

騎兵五十。

歩兵二百。


地上兵力の王国軍指揮官は

辺境魔族の集落に傭兵部隊が立て籠もってる。

その程度の認識だった。


「情報によりますと傭兵団の人員は50名以下」


「陣地構築ぐらいはしてるでしょうが

この短時間です。たかが知れています」


報告を受けた陸上指揮官は鼻で笑う。

「たかが傭兵崩れだ我々だけで充分だ」


横では勇者騎士団の士官が顔をしかめていた。


「カテドラルを落とした相手です

慎重に――」


「【我が軍の艦隊と共に!】な

傭兵崩れだけで落とした訳じゃあるまい

傭兵崩れだけなら話は別だ」


勇者騎士団の士官はそれ以上言わなかった。

言っても無駄だと理解していた。


勇者騎士団は国王直轄部隊で有り

共同作戦では直轄故に形式上上位に位置する

しかし命令系統が分かれており

直接の指揮権は無い。

その上、戦果、装備、補給の優先。

一部上級貴族の子息の箔付けの裏口入団等で

王国軍、特に上級指揮官、下級貴族には

良い目で見られていない事が多い。


この陸上指揮官はそっち側であった。


――――


森の奥。


トールスは双眼鏡を覗く。


「来たの」


ヴァルクラント軍は森の手前の囮陣地を

騎兵突撃で粉砕してその勢いで追撃、進撃。


森へ突入した騎兵は速度を失う。

木々が邪魔をする。視界も悪い。


「……阿保じゃの

こっちが少数じゃと思って舐めちょる」


森の木々にはコボルト達が潜んでいた。

選抜された猟師達。


獣を狩ることに関しては

人間の兵士より上だった。


「……これ射って良いんべ?」

コボルトが不安気に聞くと


「ええ、ええ」とトールスは笑う。

「遠慮はいらん、撃っちゃれ」


コボルトは下を見た。

森に突入してくる騎兵隊。


「……鹿撃ちより簡単だべ」


矢が飛んだ…悲鳴が上がる。


また矢が飛ぶ。

馬から落ちる騎兵。


「射ったら逃げる!次の木じゃ!」


事前に陣地転換用に張っておいた

木の蔓を使って

ターザンロープで移動するトールス。


トールスに続いてコボルト達は

枝から枝へ飛び移りながら攻撃を続けた。


騎兵隊がようやく森を抜けた瞬間。


目の前に馬防柵。


「止まれ!」


間に合わない!

馬が激突し転倒する。


騎兵隊は森を抜ける間に

戦力の三分の一が脱落した。


ーーーー

続く歩兵も地獄を見る。


落とし穴に嵌まる歩兵。

「いてて……うっ!臭っ!」

最初は落下の痛みだった……

そして最悪の臭気。「糞だ!」という不快感。

……最後に足を貫く木杭。


声にならない叫び声。


倒木が襲い。

ロープで繋がった

木杭付き丸太の振り子が襲う。


単純だが執拗な妨害。


前進するたび兵士が戦線から消えていく。


そして。

森を抜けた先で全員が絶句した。


「……何だ、あれは」


木と土で補強された古代遺跡。

進路を制限する交通壕に土盛り。

即席とはいえ艦載砲を転用した砲台。

準備時間を考えると

十分過ぎる強固な防御陣地だった。


――――


「……撤退を進言します」

副官が言う。


「敵防衛戦力は予想以上です

今ならまだ――」


「進撃を継続する!」指揮官は即答した。


勇者騎士団が見ている。

ここで退けば笑われる。


その意地が判断を曇らせていた。


進軍を続行したのは愚策だが

数的有利は健在であり

突入方法と指揮自体は堅実、セオリー通り。


通常なら圧勝は無理でも

勝利の可能性は充分範囲内だった。


騎兵は下馬、歩兵として遺跡に突入する。


その瞬間。


石が飛んだ。

盾で防ぐ歩兵達!


陣地内

トールスが魔族に発破をかける!

「石じゃ!

もっと大きいの持ってこんか!」


石というか最早、岩を持って来る魔族。

「こんなもんでいいべか?」


トールスも人間レベルで言っていたので

流石に驚いたが直ぐニヤッとして

「ええど!」


岩が盾ごと吹き飛ばす。


「よっしゃ!

殺したくなきゃ頭狙わんでええど!!」


魔族達は慌てていた。

本気で殺す気はない。


だが身体能力が違い過ぎた。

投げる石、岩が既に兵器だった。


投石で鈍る進軍速度、

交通壕、土盛りで分断される歩兵隊。

そこに傭兵達の襲撃。


姿を見せての襲撃。

投石の援護の中消える。


投石で消耗させられ、

袋小路に追い詰められた所に

傭兵達がまた現れ襲撃。


迷路のような遺跡へ誘導され。

各個撃破される。


王国軍は消耗していった。


――――


ゲイボルグ艦橋。


報告が次々届く。


「地上部隊被害拡大!」

「前進停滞!」


艦長は歯を食いしばる。

敵は予想以上に統制されている。


ならば。


「指揮所を潰す!」


副長が振り向く。

「艦長?」


「敵指揮系統を破壊する!それしかない!」


決して無謀な判断ではない。

敵指揮所を砲撃。


「混乱を誘発

その隙に地上部隊を撤退させる

……あの地上指揮官は聞かんかもしれないが

どちらでも戦況は好転する」


軍人としては合理的な決断だった。


「待って下さい!聖女が居るかも知れません!

砲撃は命令違反になり兼ねません!」


「時限信管調定!指揮所の手前で炸裂させる!

狙われている事実だけでも指揮は混乱する

ゲイボルグ最大戦速!」


ーーーー


タントが操作する砲台

「おいおいおい!

ゲイ(ゲイボルグ)が突っ込んで来る!

装填急げ!」


砲台に飛び込んで来る傭兵。


「タント!トールスから伝言だ!」

「こんの忙しい時に!」


ーーーー


ゲイボルグが高度を下げ

対空砲撃を受けながら強引に接近して来る!


ゲイボルグの長砲身主砲の照準が

指揮所を捉える!


砲術士は既に引き金に指を掛けて

号令を待っている。


その時だった。


トールスが指揮所から飛び出し

中から一人の女性を引っ張り出した。


白銀の髪。

修道服。


監視員が絶叫する。


「敵指揮所に【聖女】!」


艦橋が凍り付く。


「何だと!?」

「聖女です!」


艦長は叫んだ。


「砲撃中止!

撃つな!!上げ舵!面舵一杯!」


ゲイボルグは

主砲発射直前で上げ舵と面舵を切る。

照準を強引に外す為だった。


空気抵抗、重力の影響で速力が

急激に低下する。


次の瞬間。


トールスが叫ぶ!

「今じゃタント!かませーー!!!」


タントが引き金を引く

轟音と共に砲弾がマナの尾を引きながら

ゲイボルグ後部へ命中!!


機関部が爆発!

黒煙が吹き上がる。


ーーーー

少し前

タントが操作する砲台


「タント!トールスから伝言だ!」

「こんのクソ忙しい時に!?」


「撃ち方待て、

当てれるチャンスが来る。だとよ!」


ーーーー

現在


タントは呆然と

「……本当にチャンスが来た」


ーーーー

ゲイボルグ艦橋


「機関部損傷!推力低下!」


艦長は拳を握る。


敵は目の前。

だが聖女がいる……撃てない。


「……全軍撤退」


「陸上指揮官へは……

本艦の攻撃失敗と被弾の為を

強調して伝えて下さい」


苦渋の命令だった。




――――


戦闘終了後。


陣地は即席の野戦病院になった。

保護した修道服の女が駆け回る。


「こちらを先に!」

「包帯を!」

「水を持ってきて下さい!」


魔族達も動く。


オーガが負傷兵を担ぎ上げる。

だが王国兵士は最早泣きそうな勢いで

必死な命乞い。


「助けてくれ!

食べないで下さい!」


もう既に何回も言われている内容だ

オーガも飽きた様に


「……食わねぇ〜だ」


パァーっと明るい顔になる王国兵士

「本当か!?」


怪我人捜索のコボルトが呆れた顔で言った。

「怪我人運んでるだけだべ」


――――


修道服の女は傭兵達へ頭を下げた。


「お願いします

看護を手伝って下さい」


全員嫌そうな顔をして顔を背ける。


「敵だぞ?」

「さっきまで殺し合ってたんだが」


「お願いします」

再び頭を下げる。


沈黙。


そして。

タントはチラリと見る……見てしまった。


修道服の裾をギュと握ったまま

涙を溜めた真っ直ぐな瞳の女を……


「……あーもう!分かったよ!

その顔やめろ!」


タントが立ち上がると

「あ、タント行くのか?」


タントが困った顔で親指で女を指す。

「あの顔を真正面で見て嫌だって言えます?」


目に涙を溜めた懇願顔……


直視してしまった傭兵達は「うっ」となり。

……渋々立ち上がった。


――――


夜。


炊き出しが行われる。

大鍋いっぱいの大根の煮物。


きのこの出汁が効いた良い匂いだが……

魔族が作った物だ。


負傷兵達は恐る恐る口に運ぶ。


「……うまい」誰かが呟いた。

「何だこれ?」


魔族はキョトンとした……

「大根だべ」


目をキラつかせた負傷兵は

「こんな美味い大根は初めて食った!」


本気で大根を褒めている事を理解した魔族は

笑みを浮かべ「うちの畑の自慢だべ」


敵も味方も同じ鍋を囲んでいた。


数時間前まで

殺し合っていたとは思えない光景だった。


――――


後に帰還した負傷兵達は証言する。


魔族は人を食わなかった。

治療してくれた。

飯まで食わせてくれた。


そして。


「あの大根をもう一度食いたい」


その声は広がる。

やがて小さな交易が始まった。


薬草、保存食、森の幸。


そして大根。


後に王国と

辺境魔族を繋ぐ最初の貿易品となる。


誰も知らない。

その始まりが、一つの敗戦と

一杯の大根の煮物だったことを。


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