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【ワイバーン曳航便】


戦いから数日。


野戦陣地は静けさを取り戻していた。


負傷した王国兵達は順次返還され、

修道服の女は看護を続けている。


傭兵達も文句を言いながら手伝い、

魔族達も当たり前のように働いていた。


ーーーー

一方その頃。


村外れではイッグテールの修理も続いていた。


板を運ぶ魔族。

釘を打つ傭兵。

縄を張るコボルト。

妙な連帯感が生まれていた。


タントがふと呟く。

「なあ、俺は魔族って

もっと怖ぇ連中だと思ってたぜ

魔王軍って何だったんだ?」


村長は笑う。

「人間も一緒だべ怖い奴もいれば

優しい奴もいる魔族も同じだべ」


村長は少し考え、懐かしそうに笑った。

「確かにアムダ坊やは聞かん坊だったなぁ」


タントが首を傾げる。

「アムダ坊や?」


「魔王だべ」


空気が止まる。


「……坊や?」

「坊やだべ」


「いや、お前何歳よ!?」

タントの冗談に対するツッコミに

村長は本気で悩み始めた。

「何歳……?」


指を折る。


一つ。

二つ。

三つ。


途中で分からなくなる。

「冬は……五百回ぐらい越したべ」


全員が固まった。

「…………え?」


村長はキョトンと

「そんなもんだべ?」


「そんなもんじゃねぇ!!」

森中にツッコミが響いた。


ーーーー

折れた骨組み。

貫かれ焼け焦げた機関。

継ぎ接ぎの装甲。


イッグテールはまるで傷だらけの獣だった。


工具を置いた髭もじゃの機関長が、

大きく息を吐く。

「さて、

第1主機再起動で浮けるようにはなった」


トールスが聞く。

「航行は?」


「風任せなら何とかなる」


「つまり」


「無理だな」

「無理だな」


二人同時だった。


機関長は肩をすくめる。

「機関は1発死んどる。浮くだけで褒めろ」


その場に沈黙が落ちる。


目的地まではまだ遠い。

歩いて行ける距離ではない。


船は浮く。

だが進めない。


腕を組んだトールスが空を見上げる。

「さて……どうしたもんかの」


その時だった。


村長が手を挙げる。

「引っ張ればいいべ」


全員が振り向く。

「……何で?」


「友達いるべ」

と村長が骨?で作られたホイッスルを吹く。


「は?」

誰一人意味が分からなかった。


しばらくして。

森の奥から地響きが聞こえた。


ズシン。

ズシン。


木々が大きく揺れる。


「何だ?」

「敵襲か!」

傭兵達が一斉に武器を抜く。


次の瞬間。


巨大な影が森を割って現れた。


鋭い牙。

巨大な翼。

黄金色の瞳。


全長十数メートルはあろうかという

巨大なワイバーン。


発見した傭兵が声を張る。

「敵襲!」

臨戦体勢を取ろうとする傭兵達に

村長はのんびりと

ワイバーンに歩み寄りながら答えた。

「違うべ、友達だべ」


タントが

武器を下ろし「友達!?」と目を剥く。


ワイバーンは村長の前まで来ると、

ゆっくり頭を下げた。


「久しぶりだべな」とワイバーンを撫でると

「グルルル」と答える様にワイバーンが唸る。


まるで旧友同士だった。

……恐らくそうなのだろう。


魔王戦争以来

こんな巨大モンスターは久しく見ていない

傭兵達は口を開けたまま固まる。

「……何だこれ」


村長は当たり前の様にこちらに振り返り

「友達だべ」


「いや、それは聞いた」


――――


翌朝。


応急修理を終えたイッグテールが

静かに浮かび上がる。


まだ傷だらけだった。

継ぎ接ぎだらけだった。


それでも空へ浮く。

まだ飛べる。


村人達が集まっていた。

魔族の子供達が手を振る。

返還前の負傷兵達も見送りに来ている。


「また来るべ〜!」

「今度はゆっくりしてくべ!」


魔族達の見送りの言葉に

「今度は人間の美味い土産持って来るぜ!」

と返すイッグテールの傭兵達。


「大根煮て待ってるべ!」

種族間を越えて笑い声が上がる。


巨大なワイバーンがロープを咥えた。

翼を広げる。


背中に乗る村長が「引っ張るべー!」


トールスが村長に

「おのれ等、本当に友達なんか!?」

「友達だべ」とニッと笑う村長。

「ええ、ダチじゃ!」


ワイバーンが力強く羽ばたく。

ロープが張る。


イッグテールがゆっくり前へ動き始めた。

歓声が上がる。


トールスは腕を軽く上げた。


「世話になったの」

「また来るべー!」


村が少しずつ遠ざかっていく。


ーーーー


夕暮れ。


ワイバーンに曳航されたイッグテールは、

赤く染まる空を進む。


雲を抜ける。


その向こうに。


巨大な中立都市バンバルシアが姿を現した。

港からの曳船が近付くと

トールスが村長と会話して

ワイバーンは少し名残惜しそうな仕草をして

元来た方角に飛び去った。


無数の飛空艇。


林立する塔。

交易船。

軍艦。

飛空艦の港まで有する傭兵ギルド本部。


この大陸の空が集まる都市だった。


「おお……」

タントが感嘆の声を漏らす。

修道服の女も目を丸くする。


トールスは双眼鏡を畳んだ。

「着いたの」


帰港の安堵に皆しばらく誰も喋らなかった。


そして副長が口を開く。

「で」

「ん?」と振り向くトールス。


「船どうするんすか」


全員がイッグテールを見る。

穴だらけ。

機関半壊。

甲板は継ぎ接ぎ。


奇跡的に浮いているだけだった。


再び沈黙。


トールスは頭を掻く。

「あー……」

少し考え。「オヤジんとこ行くか」


副長が苦笑した。

「結局あそこですか」


「結局あそこだ」


夕陽を背に。

ボロボロのイッグテールは

造船区画へ向かっていった。


その頃。


都市の片隅。


工具を振り回す一人の老整備士が、

突然、大きなくしゃみをした。


「……誰か面倒事を持って来やがるな」


その嫌な予感は、

よく当たるのだった。



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