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灰空戦記【勇者の旗の下】  作者: アオン
ダ・ギヴ編
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17/22

【カララス会戦)


ヴァルクラント軍は

カララス平原河畔に今度は

野営地ではなく、

大規模な歩兵戦列を展開していた。

その後方と両側面には騎兵隊が布陣し

河を挟んで指揮所、砲兵陣地及び

予備兵力が待機していた。


ーーーー

ダ・ギヴ陣地


ヴォルフは

ヴァルクラントの再展開に呆れたように

「想像はしていたが……

まだあんなに戦力を温存してたか

展開もこんなに早いとは」


隣に立つ防衛隊指揮官は腕を組み、

「なに、案ずるな今回は防衛隊も動員している

前回の親衛隊だけより大規模だ!」


ヴォルフはジロリと

「案じているのではない、呆れているのだ。

エレファンデザントで噛み砕いてやったのに

懲りずに……とな」


防衛隊指揮官はニッとして

「そうだな!

今回は後詰めの歩兵戦力もある!

今回でヴァルクラントを完全に追い出そう!」


「ああ!!」


ダ・ギヴ連合は戦象部隊を先頭に、

その後方に歩兵戦力を構えていた。


ダ・ギヴの戦士達は食事を前に

待て状態の心境で命令を待っていた。


ヴォルフは腕を振り上げ

「総員!襲撃にぃぃーーー!!!」


そして……

振り下ろすと同時に


「襲えぇぇーーー!!!」


ダ・ギヴの戦士の遠吠えの様な

鬨の声と共に戦象の群れ

黒い筋肉の津波が動き始めた。


【カララス会戦】の開始である。


ーーーー


ヴォルフは勝ちパターンを繰り返す。


エレファンデザント戦術は

魔王戦争で生み出された。


戦列を敷いた魔王軍の魔法による弾幕を

ものともせず戦列を噛み砕き

ズタズタになった戦列内で

騎乗(と言ってよいか怪しいが)する

突撃兵の下馬(象)戦闘。


その間も

下馬し終わった戦象は突撃を継続し

戦列を混乱させ続ける。


世界連合内でも

最強と言われた戦術であり。


更に今回は

そこに畳み掛ける歩兵戦力も備えている。


ヴォルフも

この戦術には絶大な自信を持っていた。


ーーーー


ところが、


ヴァルクラント砲兵陣地

「第一砲列。照準測距点アントン!

第二砲列。照準測距点ベルタ!」


砲の仰角ハンドルを一気に回す。

指示値付近になった瞬間止めて

ゆっくり回し指示値に合わせる。


「照準よし!」

同様の報告があちこちで響く。


観測員が双眼鏡を覗きながら

「戦象群先頭まもなく測距点アントン!」


砲兵指揮官はサーベルを振りかざし

「第一砲列!ファイエル!」


第一砲列から

一斉に魔導砲弾が放たれ爆炎が上がる。


戦象の群れの先頭付近に着弾。

爆発、爆煙、轟音!!

砲弾の命中により爆散する戦象!

砲弾の破片に切り裂かれる

戦象及び背中の騎乗兵!


だが、甲冑を装備した戦象に対し、

砲弾の破片による損害は

想定の範囲内だった。

しかし……


砲弾による

【爆炎】【爆音】に戦象が驚き暴れる。


ーーーー

魔王戦争時、

ダ・ギヴが受け持った地域の

共同戦線国家の砲弾は

まだ、ただの鉄球だった。


魔法による弾幕を突破してきた戦象達も、

足元で地面を揺るがす爆発と

突然の爆炎には慣れていなかった。


一頭が怯え、隣の一頭が暴れる。

それが群れの中で連鎖していく。


勿論、全ての象が怯えた訳ではない。


だが、測距点ベルタでの第二射。

突撃する戦象はさらに数を減らした。


そして……


一部の戦象が、

最悪の事態を引き起こした。


ーーーー

エレファンデザントにより

引き裂かれたヴァルクラント軍に

トドメを刺す為に前進する

ダ・ギヴ歩兵戦列。


その先頭兵が「ん?」と呟く。


遥か前方、

頼もしく小さくなって行った

黒い影が……


その一部だが

【だんだんと大きく】なって来る!?


「と、止まれ!!」

戦列の先頭兵が大声を出したが

隊列を組んでの大軍の前進は

兵士数人の声で止まる事は出来ない。


その数人が止まったところで

後列に踏み潰されるだけである。


後ろからは止まらない味方。

前からは……


砲弾の着弾音に驚いて

【逃げ帰って来た戦象】が


前にしか進めない

ダ・ギヴの歩兵戦力戦列に……


突っ込んだ!


象に轢かれ、蹴られ、踏み潰され、

振り回した鼻で薙ぎ倒され

混乱するダ・ギヴ歩兵戦列。


しかし、

戦象の群れが無力化した訳ではない!

ヴァルクラントの戦列は目の前だ!


襲撃隊長が大きくククリ刀を振り

「そのまま

突っ込めぇぇーーーーー!!!」



戦象の群れは

咆哮をあげさらに速度をあげる!


ーーーー

迫る戦象の群れに

ヴァルクラント歩兵指揮官が

「今だ!」と旗を上げる!!

歩兵戦列内にラッパの音が響く!?


すると

ヴァルクラント歩兵戦列の

巨大な横陣を構成する各中隊が、

互いに間隔を空けながら

無数の方陣へと有機的に変化する!?

ーーーー


ヴォルフは目を見開く。


目の前の歩兵戦列が

まるで巨大生物の様に一斉に動き

形態を変えるのを目の当たりにする。


戦象突撃は、

その速度、重量、突破力ゆえに

最早止まらない!

方向転換も出来ない!


戦象の突撃に

粉砕される方陣もある。


だが、横陣から複数の方陣へと

陣形を転換したヴァルクラント軍は、

方陣と方陣の間に

戦象を受け流すための道を作り出した。


多数の戦象が

その隙間へと誘導されていく!


そして、

受け流された戦象に対し、

四方八方から

矢、投げ槍、投石が浴びせられる!


狙いは象ではない。

背に乗る兵!


それも、戦象を操る

象使いに攻撃が集中する!!


騎乗突撃兵の一部は飛び降りるものの

方陣と方陣との距離がある為

投擲武器に倒れた。


それでも方陣に近付いた者は

長槍の餌食になった!


ヴォルフは驚愕する

世界的にも最強を誇る

エレファンデザントが破られた。


そして、

戦象突撃をやり過ごしたのを

確認したヴァルクラント鎮定軍司令は

指揮杖を振りかざす。


歩兵隊前進のラッパが響き

ヴァルクラント歩兵戦力が

横隊に組み戻りながら

砲撃支援の元前進を開始した。


ダ・ギヴ歩兵戦力は

エレファンデザント成功後の

掃討戦の為前進していた所に

逃げ戻った象に

突っ込まれて混乱している中

戦象突撃の空振りにほぼ無傷の

ヴァルクラント歩兵戦力の前進。

更に飛来する

魔導砲弾に陣形が乱れ始める。


そのタイミングで歩兵戦力との接敵!

ダ・ギヴの獣人達は奮闘するも

戦況は悪化していき押され始める。


ーーーー


鎮定軍司令は「頃合いだな」と言うと

「騎兵隊、突撃」と指揮杖を振る。


歩兵戦列の

後方で待機していた騎兵隊。


騎兵指揮官が抜刀する!

「ジーク!」

麾下の騎兵隊が

「「ジーク!」」と声を合わせる!


指揮官と共に騎兵隊が声を合わせて

「「「ジーク・ヴァルク!!」」」


全騎兵一斉に鞭を叩く!

ヴァルクラント軍伝統の重装騎兵による

ランスチャージが開始される!


前線で踏ん張る獣人兵達だが

戦象の逆流と砲撃に乱され、

消耗した状態で歩兵戦闘に拘束され、

押され始めた……


そこへ無慈悲な重装騎兵の

ランスチャージが襲い、前線が砕かれる!!


そうなってしまうと

後は雪崩式に士気は崩壊し潰走を始め

総崩れになるダ・ギヴ防衛隊。


この瞬間、

カララス会戦の勝敗は決した。


ーーーー

ヴォルフ達は森まで撤退し

生き残った親衛隊を纏め

主力の撤退に合わせ

後退しながら殿軍を務めていた。


今まで孤高な指揮官という

雰囲気を纏っていた

ヴォルフだが息も絶え絶え

身体中を泥と血で汚し

トレードマークの

軍帽はささくれ鍔も割れていた。


しかし、

彼の目は死んでいなかった。

切り掛かるヴァルクラント兵の

斬撃を避け両手に装備した

鉄の爪で斬り倒す!

「もう少し踏ん張るぞ!

ポルチズ!マルサス!まだ行けるか!?」


「はい!友軍撤退まで倒れられません!」

「楽しくなってきた所です!」


親衛隊同期入隊の友人の

心強い答えにヴォルフはニコリと

「すまんな」と言って正面に向き直る。


「狼が送り狼に追われるとはな」

と自嘲気味に笑う。


血と戦場の匂いで

鼻が鈍くなってきてるが

まだまだ多数の送り狼が

向かって来ているのを嗅ぎ取っていたが

ポルチズが敵方を指しながら

「ヴォルフ!敵のっ!」


ポルチズの頭に

矢が命中して倒れる!?


ヴォルフは

身を低くして体裁も気にせず

袖で鼻をゴシゴシと拭う!

(クソっ!

ここまで鼻が利いてないのか!)

心の中で毒づく。


弓の精密射撃が出来るほどの

接近に気付かなかった!

いやもう近くに居る!


ヴォルフは腹を括る。

「戦士達よ!ここが俺達の死に場だ!

派手に暴れるぞ!!」


ヴォルフは最後の遠吠えをあげると

残った親衛隊員達も

渾身の遠吠えをあげる!!


決意と共に追撃隊を出来るだけ

誘引する為の遠吠えだった。


やがて遠吠えに誘引された

ヴァルクラント兵が次々と現れる。


死兵となった

ヴォルフ率いる親衛隊員は

損害を顧みず戦った。


肩口に振り下ろされた剣!

絶叫を上げる親衛隊員だが

そのまま

相手の首に喰い付き共に絶命する!


倒れた仲間を踏み越え飛び掛かる

ヴォルフ!両手の鉄の爪を使い

2人同時に斬り倒す!


だが3人目の剣が

ヴォルフの顔を裂いた!


数歩後退るが

血塗れの顔で歯を剥き出し睨み唸る!


ヴォルフの気迫に気圧される兵。

しかし

その後ろには数十人規模の兵が見えた。


気圧された兵士に飛びかかろうとした時

一筋の暴風が横を過ぎた。

目の前で巨大な何かによって

その兵士が真っ二つに裂ける!?


大きな影が横を通りながら低い声で


「ヴォルフ……お前は敗れた。」


大きな背中が視界を覆う。


「だが勇敢ではあった。」


大きな背中が

巨大な何かを持ち上げ肩に担ぐ。


黒く分厚い鉄塊が、端は欠けていて

鋭くはないが全てを叩き切るという

恐ろしい凄みがある。


巨大な戦斧。


一拍置いて。

「しかし勇敢さだけでは国は守れぬ」


ヴォルフは

剥き出しの歯を納めて目を丸くする

「ぞ、族長!なんで!?」


ウニモグは

首だけで振り返りニカリと笑い。

「親分が子分を守るのに理由が要るのか?」


ヴァルクラント追撃隊の1人が

「大熊の獣人……巨大な戦斧……

こいつ!獣人族族長ウニモグだ!!

討ち取って名を上げろ!」


3人が一斉に斬りかかる!


が、

ウニモグは

「ヌウン!」と戦斧で横薙ぎ!

3人の胴体が真っ二つに裂ける!


しかし、さらに集まって来た

ヴァルクラント兵達を見てヴォルフは

「流石の族長でも1人だけでは!」


集まって来ている敵兵の横面に

小柄な影が飛び掛かり蹴り飛ばす。


ヴォルフは

小柄なネズミの獣人を見て目を見開く

「チュウ老師!」


ヴォルフと同じ

鉄の爪を使う狼獣人も参戦。

「ロウ教官!?」


他にも多数の

年齢を重ねた獣人達が参戦する。


彼等は兵役が終わった獣人達だった。


背の高いロウ教官と呼ばれた

老狼獣人はスッと背筋を伸ばし。

「【ヴォルフ訓練生】!

よく耐えた!

後は我々、老人に任せろ!」


チュウ老師と呼ばれたネズミの獣人は

長い髭を手櫛で撫でながら

「フォフォフォ、

敗北を知らぬ者は天狗になる

しかし敗北を知る者は?

駄目になる?それとも?

儂はその先が気になるのう」


ウニモグは背を向けたまま

「ヴォルフよ。

諦めなければ敗北ではない。

倒れても何度も立ち上がれば良い

それに……」


ウニモグはニッカリと牙を見せ

「お前の親分が人間に負けるとでも?」


立ち竦むヴォルフ

「ぞ、族長……」


ウニモグは表情を引き締めて

「……行けっ!族長命令だ!!」


ヴォルフも口を引き締めて

ボロボロ姿だが姿勢を正し敬礼する。


ウニモグは指二本の軽い答礼。


ヴォルフは声を張り

「親衛隊集合!

これより転進を開始する!」


ヴォルフの移動を見届けてウニモグは

戦斧を肩に担ぎ仁王立ち。

「さあ、古き友人達!!

懐かしの戦だ!

しかも若人を守る為の!!」


老人達と思えぬ様々な鬨の声!


ウニモグが戦斧で追撃兵達を指し。

「子分達を可愛がったお礼!

存分にさせて貰う!」


ーーーー

カララス平原

ヴァルクラント指揮所


「追撃隊から緊急信!

殿軍にウニモグを発見交戦中!

との事です!」


鎮定司令は飛び上がる勢いで駆け寄る

「本当か!?」


ダ・ギヴ軍の中核たる獣人族

その族長ウニモグ。


今ここで討ち取れば、

この戦線の早期終結も……

少なくとも

かなり優勢に事を進められる。


しかし、逆に取り逃がせば……

敵は森へ逃げ込み掃討戦となる。


それだけは避けねばならん。


司令は暫しの思案の後


「任務を変更する!

追撃中の全部隊は

ウニモグ討伐を最優先とせよ!


必要なら予備兵力も投入する!

追加投入の準備を急げ!」




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