【聖樹図書館】
イッグテールは、
深い森の上空をゆっくりと進んでいた。
目的地は、エルフ族の聖域。
世界最古からの記録の閲覧場所
聖樹図書館。
「……本当にこんな森の中にあるんですか?」
タントが下を覗き込みながら尋ねる。
隣でトールスが鼻を鳴らした。
「あるから向かっておるんじゃ。」
「いや、でも……」
眼下には果てしなく広がる森。
建物らしきものは何一つ見えない。
「エルフという種族はの、
隠すことに関しては一流じゃ」
セルシオは興味本意で
地上の捜索に加わっていた。
「じゃあ見つけられないのでは?」
と言うと即座に「そうじゃ」と答えた。
「え?」
「見つけられんようにしちょるからの」
やがて、
森の中から一人のエルフが姿を現した。
長い耳、整った顔立ち。
しかし表情は明らかに不機嫌だった。
「誘導します」と受話器が短く告げる。
トールスが眉を上げる。
「歓迎しておらんようじゃな?」
「歓迎していません。」即答するエルフ。
トールスは肩をすくめ
着陸地点へ誘導されるイッグテール。
しかし
「……ん?」
操舵士が違和感に気付く。
「右脚の接地位置付近がボヤけている?」
トールスが上甲板から覗き込むと、
確かにボヤけて見える……
しかし
エルフはこっちと誘導している。
トールスが身体を舷外に乗り出すと
目を細めエルフの誘導を無視して
「ちょい右、
ちょいちょいちょい、そこ!」
イッグテールが接地。
……ガタッと
少し傾くとアイシスの短い悲鳴。
トールスがエルフをニヤッと見る。
「欺瞞魔法じゃろ?」
「何のことでしょう?」と
エルフの視線が動く。
トールスはやれやれと
「知らぬ顔をするのが下手じゃの」
トールスが船体から降りると
誘導された右脚接地位置へ行き
足で地面を探ると
耕した様にふわふわの土だった。
トールスがイッグテールに振り返る。
少し傾いているが……
「まあ、この程度なら問題ないの」
エルフが目を細める。
「……普通は壊れます」
トールスにニコリと
「停めるの上手いじゃろ?」
エルフはムスリとして答えない。
ーーーー
エルフの里へ向かう道中も
嫌がらせは続いた。
わざと遠回りの道を教える。
低い枝を残しておく。
小さな落とし穴、いばらの草むら。
その時々に後ろから
タントやセルシオ、アイシスの
「わっ!」「んがっ!」「きゃ!」っと
聞こえてくる。
しかし。
「……」
トールスは全て気付いていた。
自分の進行方向に有るものは
穴を踏み抜いて埋める。
低い位置の枝やいばらは
無いものの様に突き進み
枯れ枝の場合は問題無用で叩き折り
歩行速度を一切変えない。
最後には仕掛けた本人である
エルフが呆れていた。
「……なぜ効かないのですか。」
「慣れじゃ」
「嫌がらせに慣れですか?」
「まあのワシには
効かんが仕掛け方は上手いの?」
と親指で
後ろの泥だらけのタント達を指す。
「……変わってますね?」
「よく言われるわい」
ーーーー
エルフの里へ到着。
生えてる木を利用した家や
ツリーハウス。
木と木が繋がる吊り橋。
小さな木のうろを利用した
ガーデニングで巨木から
色とりどりの花が咲いている。
トールスは眩しい物を見る様に
「……メルヘンじゃの」
タントはポカンと
「絵本で見たことあります
本当なんすねエルフの里って」
エルフ族の族長の家に案内されると
蝶を連想させる装飾の族長ヴィヴィオ
「遠路よくお越しくださいました
そして
トールスお久しぶりですね?
シルフィは
御迷惑お掛けしませんでしたか?」
案内をしていたエルフの
シルフィは目を逸らす。
気付いたトールスは
「おう、歓迎してくれたど」
少し驚くシルフィ。
「……文明を嫌い、
外から来る者を嫌う変わり者
里では有名なのに?」
ジロリとシルフィを見るヴィヴィオ。
冷や汗をかき落ち着きがないシルフィ。
トールスはニヤッと
「そんな奴を迎えに寄越したん?」
ヴィヴィオはピクリとする。
「別にワシは気にせん
ちゃんと着いたたしの」
「……そうですか。
では、シルフィ引き続き
聖樹図書館への案内を頼みます」
「え、あの……まだ私が案内するのか」
と肩を落としてため息を吐くシルフィ。
ーーーー
シルフィの案内で
更に森の奥に向かうと……
「ここです」
シルフィが立ち止まった周りは……
「……森ですね、お前!また俺達を!」
タントは少し怒気を含めて言うと
シルフィはそんなタントをジトリと見て
「もうしてません
あなたのその目はガラス玉ですか?
私は人間族と違い義理堅いんです」
シルフィは魔法の詠唱をする。
目の前の空間が歪む。
「こちらです」とシルフィが先に入る
歪んだ空間を抜けると……
一行は、言葉を失った。
森だった空間には巨大な樹。
まるで
縄文杉のような太さの
木が絡み付き
一本の巨大な木を形成している。
何千何万年もの年月を生きた聖樹。
その根元に――
無数の白い石柱を持つ
古代神殿を思わせる建造物の
柱廊が巨大な根に抱かれている。
「……すげぇ」
目を丸くしてタントが呟く。
シルフィは淡々と
「こちらです」と建造物へ誘う。
ーーーー
内部に入ると無数の本棚が並ぶ中
双子の様にそっくりな
獣人の司書が待っていた。
だがよく見ると
フクロウとミミズクの別種だった。
シルフィは礼儀正しく
「コノハ様、ミミ様
お客様をお連れしました」
コノハとミミと呼ばれた司書は
「シルフィご苦労様でした」
「後は」「「私達が引き継ぎます」」
と変わる代わり喋る。
「はい、よろしくお願いします」
シルフィはペコリと礼をして
図書館から出て行く。
2人の司書に連れられて
その奥、
本棚の森の中心に
横長の巨大な水晶が浮いていた。
「……これが?」
タントが近づく。
司書2人が説明する。
「世界樹が見た記憶」
「この世に存在した全ての記録の一部です」
水晶が光る。
最初に映ったのは――
「……え?」
小さな子供。
「……俺?」
タントだった三歳頃の姿。
布団の中。
そして……
――おねしょ。
「な、なんっ!?」
タントが真っ赤になる。
トールスは腹を抱えて笑う。
「ギャハハハ!
三歳の記録まで残っとるのか!」
「やめてください!!」
タントが両手でパタパタと隠そうとする。
ーーーー
次に映像が変わる。
二人の少年。
一人は水桶で作った
フルフェイスのヘルムを被っている。
もう一人は金髪。
二人は道端で何かをしていた。
泡のたつ水流す……石鹸水。
そこへ商人の馬車が通り
角を曲がろうとすると車輪が滑り横転。
後続の馬車が次々と衝突する大事故!!
現在のトールスが目を細める。
「……お!ワシじゃの」
タントが固まる。
「え?悪ガキどころか
テロリストじゃないですか!?」
トールスは悪びれもせず腕を組み
「しょうがなかろう
確かあの時は腹減っとって
バナナ貰おうと思っとったんじゃ」
セルシオは興味深そうに
「隣の子供は?」
「ん?」
トールスはニヤッと笑う。
「【アルト】じゃ。」
「……え?」
「【勇者アルトリウス】
コレなら分かるじゃろ?」
「「えぇ!?」」
驚愕するタントとセルシオ。
「トールスさんと
勇者って【幼馴染】だったんすか!?」
「そうじゃ。
幼年騎士学校からの腐れ縁じゃ」
「全然見えないですけど!?
特に喋り方とか!」
トールスは肩をすくめる。
「ああ、ワシの里の方言じゃ
本とかでは
爺さん言葉にされることが多いんじゃよ」
ーーーー
さらに記録が流れる。
豪華な屋敷。
一人の少年。
セルシオ。
そして――
女性下着の洗濯物を抱えて走る姿。
「……」
一同沈黙。
次の瞬間。
トールスが吹き出した。
「ギャハハハ!セルシオ!
おどれ!エロガキじゃったんじゃの!」
セルシオの顔が真っ赤になる。
「違います!違うんです!
この見せ方に悪意があります!
前後を見れば分かります!」
トールスは笑う。
「証拠映像じゃぞ!?」
ーーーー
そして……最後。
アイシスの番になった。
水晶が反応する。
光が写しだされ――ノイズ。
「……?」
司書2人が眉を寄せる。
黒い画面……再び光る。
タントが聖都フィーラで
アイシスを助けて
手を引いて走っている。
タントがキョトンと
「あれ?あれ、初めて
アイシスと会った時です」
トールスも腕を組み首を傾げ
「ワシ等と違って
えろ〜最近じゃの?」
そして。
完全なブラックアウト。
水晶の光が消える。
ーーーー
辺りを静寂が包む。
2人の司書は震えながら水晶を見ている。
「どうしたんですか?」
2人の司書は水晶を見上げたまま
「……おかしいです」
「あり得ないです」
「世界樹の記録が……拒絶するなんて」
「もっと詳しく調べる必要があります」
トールスが眉をひそめる。
「つまり?」
司書は一行を見る。
「申し訳ありません。
しばらく、
ここから出ることを許可できません。」
トールス一行は、
聖樹図書館で足止めされることになった。
ーーーー
そして同じ頃――
ヴァルクラント
ダ・ギヴ鎮定軍司令部では。
別の戦いが始まろうとしていた。
机の上には焼けた野営地の地図。
鎮定軍司令は真剣な面持ちで呟く。
「蛮族共は象を先頭に突撃する。
昨夜の突撃力は騎兵突撃を凌ぐ……」
参謀はそれに頷き
「はい、それに
今後も夜襲が想定されます。
古今夜襲という戦術はありましたが
通常は暗殺、放火程度でしたが
蛮族共は
【大規模突撃】を敢行して来ました」
鎮定司令は地図に目を落とし
戦場になり得る場所の
川などの水地を確認する。
「ならば今後、特に夜は
川の前後いずれかに宿営を徹底せんとな。
戦象は渡河できんだろう。
出来ても速度は死ぬ
それに強大な突破力故に
急停止、急な方向転換も出来んだろう。」
「ええ、
指揮所、砲兵陣地は川、せめて泥濘地
を防壁に布陣させるのがよろしいかと」
鎮定司令は多少の安堵感を覚え
「夜襲対策はコレでいけそうだな、
会戦における戦象対策はどうする?」
参謀は少し答えに詰まりつつ
「ええ、
恐らく蛮族の最大火力である
【戦象突撃】
コレをどうするかが
ダ・ギヴ戦線の要かと……」
鎮定司令は腕組みをして顎を弄る。
「ふむ、少し一考せねばな」




