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灰空戦記【勇者の旗の下】  作者: アオン
ダ・ギヴ編
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15/22

【新たな地ダ・ギヴへ】


情勢調査を終えたイッグテール。

傭兵ギルドからの報酬を受け取ると。


上甲板へ全乗員を集合させる

軍隊の様にピッシリ整列はしていない

学校の修学旅行の集合程度の感じだ

トールスは皆の前に立つと

団員達の雑談はスゥーと消える。


「おう、集まったの。

まずは今後の方針を発表するど。


現在は稼ぎ時ではあるが

まだ戦況も情勢も読めん!


何処でどの陣営に組みするかは

未定じゃ!


適時、

仕事は受けるが戦況を見極めるまでは

【アイシスの記憶を探す】ど!


皆もそれでええか?」


団員の1人が声を上げる。

「可愛い子ちゃんが

困ってるなら助けるもんだ!」


別の団員はケラケラと笑いながら

「可愛い子ちゃんって

【一応】聖女様だぞ〜!」


最初に声を上げた団員は悪びれもなく

「俺フィーラ正教じゃねーし

お前だって

【一応】って言ってんじゃん

この船の中じゃ

【ただの可愛い子ちゃん】だろ?」


トールスは団員を嗜める事なく

アイシスに振り向き

「アイシス、どうじゃ?

なんなら団長権限で崇めさせるど?」


「いただきますも言わね〜人に

言われたくね〜っすよ?」と

ヤジが飛ぶと笑いが起こる。


アイシスは押され気味に

「い、いえ。

今まで通りでお願いします。

私も皆さんもその方が落ち着きますよね」

とニコリと笑う。


タントは手を挙げてから

「方針に異論は無いです。

消えた英雄僧侶の記憶の謎!

冒険小説みたいで面白そうですし!

何処に行くんですか?

目星は付けてるんですか?」


イッグテールの副長が前に出ると

「それは

トールス達と協議しました。


フィーラに向かいたい所ですが

状況的に傭艦1隻では

自殺行為ですので

情勢的に有力となり

【記憶に関する遺構】があると言われる

原初の森が広がる【ダ・ギヴ】です」


トールスは

腕を組み空を見上げポツリと


「ダ・ギヴか〜

【モグちゃん】元気かの?」


ーーーー

山と密林の原初の島

【ダ・ギヴ】


島の大部分を密林に覆われ

山岳地帯が囲む島だが


魔王戦争終結後に貿易外交を始め

小規模だが

ダ・ギヴの玄関となる貿易港が有る。


イッグテールは現在中立を保つ

ダ・ギヴに影響が出ない様に

航路を大きく迂回

貿易港から離れた海岸付近に着陸した。


ーーー

着陸して団員達が外に出ると

青空にキラつく太陽に

「暑っ〜海入っていい?」と

団員が言うと

トールスはなんと言う事なく

「構わんど、

獣人族に顔出しじゃけ〜

釜の火は落とすなよ!」


「いやっほー!!」と

団員達は浜辺に駆けて行く。


泳ぐ者、寝転ぶ者

ガチで体を洗う者様々であった。


トールスはそんな団員達を

「元気じゃの〜」と見送り

出発の準備をしようとすると

タントが普段着に軽装備を付けている。


「ん?

何じゃタントも来るんか?」


「あ、はい。

邪魔じゃなければ

折角なんで色んなもの見たいんで」


トールスはニッっと笑い

「ええ、趣味じゃ」と

若者の興味心を肯定する。


「殊勝な心掛けだ」と更に声がする。


当たり前の様に出発準備をしていた

傭兵監督官だった。


「……」

「……」


タントは頭を掻きながら

「ずっと気になってたんすけど

先生、

いつまでイッグテールに居るんすか?」


トールスも

ウンウンと首を縦に振りながら

「ワシも気になってたんじゃ。

大根の村で負傷者と一緒に帰ると

思っとったんじゃが?」


「なっ!?

私だって帰りたいんだが……

コレを見ろ!」と

紙を差し出す傭兵監督官。


「ん?ワシ等の手配書じゃの?」


「ここだ!」と名簿の一部を強く指差す!


タントは目を細め

「セルシオ・グリーンマイカ?

そんな奴居ました?」と

トールスに振り返る。


「……いや、知らんの」と

首を振るトールス。


「【私】だ!!わ・た・し!!」と

自分を指差しながら声をあらげる。


傭兵監督官まで

イッグテールの団員と一緒に

手配されている事に【今、気が付いた】

トールスとタントは爆笑する。


セルシオは顔を赤くし

地団駄を踏みながら

「笑い事じゃないだろ!」


トールスは涙を拭いながら

「すまんすまん!

その内どうにかしてみるわい!」


「頼むぞ!」と吐き捨てるセルシオ。


タントはキョトンと

「その割に付いて来るんすね?」


セルシオは気持ちを持ち直し

「後学の為だ。

外国の実体験は中々出来ないからな」


トールスは「んははは」と笑いながら

「案外逞ましいの!

詫びみたいなもんじゃ好きにせー」


「そうさせてもらう!」


そんなやり取りをしてると

森からヌッと大きな影が出て来る。


大きな体躯に大きな耳、

鼻が異常に長い異形の動物。


身構えるタント。


「落ち着け、ありゃ象って奴だ。

……牛の親戚みたいなもんじゃ」


象の上から【犬の獣人】が声をかける。

「トールスってのはお前達か?

族長の命令で迎えに来た」



タントが口を開けて象を見上げて、

「でっけぇ……」


獣人の御者が笑う。

「象は初めてか?

ここじゃ馬よりこっちだ。」


タント達は

象の背中に乗せられた客室に入りながら

「こんなの戦争に使ったら強そうですね?」


御者

「強いさ!知っているか?

この鼻、全部筋肉だぞ丸太なんぞ

鼻一本で運ぶ!

振り回せばこの太さの鞭だぞ?

木なんか踏み倒して真っ直ぐ進む」


御者は首を撫でながら、

「だが賢いからな。

怖いと思えば止まるし逃げる

仲間がパニくれば一緒にパニクる。

だから戦で使う奴は

扱いが上手くねぇと務まらない。」


さらに、

「俺が敵なら戦じゃ

まず乗り手を狙うかもな?

耳元で命令するし

象を攻撃するのは可哀想だからな!

おっと、あそこが族長の家だ」


一行が象から降りると

族長の家の前の広場に

一斉に狼の獣人兵が整列する。


列の綺麗さで

この狼獣人達の統制力の高さが分かる。


族長の家から長身で細身だが

しなやかに

鍛え上げられた筋肉の狼の獣人

鋭い目がアミダに被った軍帽の

鍔の陰から光る。


が出て来る。


整列した狼獣人が

一斉にカチリと不動の姿勢になる。


軍帽の狼獣人が横に下がると

族長の家から大きな影。


身長2mを大きく超える

熊の獣人が出て来る。


五英雄の1人

英雄戦士【ウニモグ】


ゆっくりと階段を降りると急に屈み?

……縦の両拳を地面に着ける。


トールスがニヤリと

ゆっくりと同じ姿勢を取る。


ウニモグが

「はっきょい!」と言った瞬間

地面が爆発し

巨体が爆発的な急加速!


地面が震える

岩と岩をぶつけた様な音が響く!


トールスが真正面から受け止めて

がっぷり四つに組む!


ウニモグの太い腕から

トールスの腕からビキビキという

音が聴こえてきそうな力のかけ合い。


均衡する力が大地を

震わしそうになるのを感じると……


一気にそれが無くなり


「がっはっはっはーーー!!

トールス!久しぶりだな!」と

笑いながらハグするウニモグ。


「モグちゃんも久しぶりじゃの!

血管切れそうになったど!」と

笑いながら背中を叩くトールス。


一切隊列を乱してない狼獣人兵達も

流石にざわめく。


「嘘だろ!?族長のブチかましを

正面から止めたぞ!」


「あいつ本当に人間族か?」


軍帽の狼獣人が

小さく「わう!」と吠える。


ざわめきは一瞬で静寂になり

姿勢を正す狼獣人兵。


ウニモグが「ん?」とアイシスを見る。

「おおーーーアイシスも居るじゃないか!!」


ウニモグがハグしようと

両手を広げながら近付くと


「ご、ごめんなさい!」

と恐怖で縮こまるアイシス。


ウニモグがショックで固まっていると


「【やっぱり】、

モグちゃんもアイシスだと思ったか」


まだショックから立ち直れないウニモグは

弱々しく「どういう事だ?」と聞く。


経緯を話す。


「記憶喪失か……

確かに匂いもアイシスだから

別人とは俺も思えん」


「……あの私、匂います?」と

不安そうに聞くアイシス。


「おお!

すまん!獣人の嗅覚での話だ!」


トールスは当たり前の様に

「安心せー人間は臭いもんじゃ!

それにどーせイッグテールの中じゃ

多少臭っても気付かんわい!」


「あの、タントさん。私、匂いますか?」

アイシスはタントに

自分を嗅がせようとするが

タントは真っ赤になりながら

「ば、ばか!やめろ!」と距離をとる。


ショックを受けるアイシス。


そのやり取りを見て

「若いなー!」と

ガハハと笑うウニモグに

「なんじゃ、タントお前童貞か?

今度、報酬入ったら

色街連れってちゃるわい」


タントはひどく動揺しながら

「ど、どどど童貞ちゃうわ!」


そんなタントを無視して

「ほんでじゃ、前、行ったじゃろ?

木の根元の?」


「ああ、聖樹図書館だな。

あそこはエルフの縄張りだ

話を通しておく

だが、彼奴等は飛空艦とか嫌いだぞ?」


「あ〜……

頭固い奴多かった記憶有るわい

近付いたら歩いて行くわ」


「おう、それがイイ!

本当は連れてってやりたいんだが

ちょっと立て込んでてな」


「おう、族長様は忙しいじゃろ?

構わん構わん!」


アイシスがトールスに

「あの、ドーテーって?」と質問すると

トールスは悪戯な笑みを浮かべて

「それはじゃの〜」

「あーーー!!あーーー!!」と

大声で遮るタントに首を傾げるアイシス。


ウニモグはフッと笑って

チラリと視線をアイシスに向けてから

トールスに向け。

「変わらないな……お前は」


トールスはタントの顔を

正面から鷲掴みにしながら

「当たり前じゃ!

ワシはワシじゃ変わってたまるか!」


エルフ族から了解が取れると

「終わったらまた顔出す」と

トールス一行は聖樹図書館へ向かった。


それをウニモグが見送ると

軍帽の狼獣人がスッと現れ……

「族長、そろそろ時間です」


ウニモグは大きな溜め息を吐いて

「ああ、【族長様の仕事】の時間だ」


ーーーー

ダ・ギヴ貿易港に位置する

ヴァルクラント大使館


ここではもう長い間、交渉が続いていた。

主な交渉内容は安全保障条約であるが

ダ・ギヴは貿易外交はしているものの

他国に対しての

領土、資源的野心は一切ない。


ヴァルクラント大使

「ですので本件の安全保障条約締結を……」


ウニモグはムスリと

「カララス平原に軍を展開しておいて

何が安全か?」


に対して、

ヴァルクラント大使は薄ら笑いを浮かべ

「防衛配置です。

我が国は現在、有事にあります。

貴国にも立場を明確にしていただきたい。

我が国は貴国の安全を保証します」


ウニモグは探る様に質問した。

「……もし、断れば?」


大使は薄笑いのまま

「何度も言いましたが……

そのような事態にならぬことを

私は願っております」


そして、大使は続ける

「ヴァルクラントに従うか否かを」


同席しているダ・ギヴ方面軍司令は

「YES or NO?」と答えを迫る。


ーーーー


要するに

ダ・ギヴは資源と軍事力を差し出せ。

敵が攻めて来たなら、

ヴァルクラントが守ってやる。

その代わり、断れば……である。


ーーーー

ここで空気が変わる。


軍帽の狼獣人【ヴォルフ】は

ダンっと机を叩く!!


軍帽の鍔の陰から

ヴァルクラント大使を睨む。


「ナイン(NO)だ!」と

敢えてヴァルクラント語でNOと答えた。


大使館が一瞬静まり返る。


ウニモグが腕を組んだまま

ヴォルフを横目で睨むと低い声で静かに、

「ヴォルフ……ならんぞ」と嗜める。


ヴォルフは

ウニモグに目も合わせなかった。


この日も

安全保障条約締結は見送りになった。


しかし、

大使は最後に警告の様に

「先程のNO……

総意では無いでしょうが

本国にはお伝えしておきます。

次回お会いする時には、

より建設的な

お返事を期待しております。」と締めた。


ウニモグは大きな溜め息を吐き。

ヴォルフは休めの姿勢のまま

後ろに組んだ手をキツく握り締めた。



ーーーー

その日の夜


獣人族の町の郊外に位置する

ダ・ギヴ防衛親衛隊本部


営庭の篝火の中、

完全武装の狼獣人が整列する前に

組まれた木組みの壇上に

この親衛隊の総指揮官である

ヴォルフが静かに登壇する。


ザッという音と共に

総員が不動の姿勢をとり

視線が壇上のヴォルフに集中する。


ヴォルフはゆっくりと右から左へと

整列する兵達を見る。


「……諸君等の知っての通り

ヴァルクラント王国は

またも我々に従属を迫ってきた。


族長はそれを受けぬ

という意思は感じるものの

今日まで返答を引き延ばしてきた……


そのおかげで

今日まで争いは起こらなかった……


だが!

それはダ・ギヴに何をもたらせた!?

ヴァルクラントは増長し!

圧を強める為に

カララス平原に陣地の構築を許した!

それを補強する動きも私は掴んでいる!


本日の交渉で私は族長に代わり

ヴァルクラントにNOを突き付けた!!」


「おお!」という感嘆の声。


「我々はダ・ギヴ防衛親衛隊!

ダ・ギヴの牙だ!!


これより我々はカララス平原

敵陣地への先制攻撃を敢行する!」


ヴォルフはひと呼吸置く

「だが……これは族長の意思ではない……」


狼獣人兵がざわめく。


「私が全責任を負う!

異論、不服が有る者は

本作戦から降りる事を許可する!」


兵達のざわめきはやがて静かになり……


ダン、ダン!ダン!!


と代わりに

足を地面に打ち付ける音が大きくなる。


ヴォルフは頬まである口端を吊り上げて

拳を振り上げる!


「ダ・ギヴの牙を

忌まわしき侵略者に突き立てる!!」


「「「おおおーーーん!!」」」


整列する狼獣人兵が一斉に遠吠えする!





「総員、出撃!」





ーーーー

カララス平原

ヴァルクラント軍野営地。


欠伸混じりの見張りが異変に気付く。

「……何だ?」


地面が揺れる。


ドン……


ドン……

ドン……


最初は雷かと思った。


しかし……違う。


ド、ド、ドドドドドドドドドド!!


遠雷は次第に間隔を狭め

森から巨大な戦象の群れが現れる!!


重厚な甲冑に包まれた筋肉の黒い津波。


遠吠えの様な鬨の声と共に

黒い津波は一気に野営地へ突入。


馬防柵も防壁も点在する守備陣地も

全て飲み込んでいく!

その勢いを止める事は誰も出来ない!


突然の襲撃に

大混乱するヴァルクラント陣地


黒い津波が天幕が集中する地点に到達すると

戦象の背中に乗っていた

狼獣人兵が一斉に飛び降りる!


天幕群を駆け抜けながら目に付いた者を

片端から斬り伏せていく!

天幕に次々と火を放つ!


突入兵を乗せた戦象による組織的突撃。

【エレファンデザント】戦術によって

極小数を取り逃がすものの

ヴァルクラント軍は

阿鼻叫喚の中なす術もなく

カララス平原展開軍主力部隊は壊滅した。


ーーーー

翌朝

族長の家会議室。


ウニモグは長机の席に着いたまま

昨夜の戦果を腕を組んだまま静かに聞いた。


ヴォルフは大戦果を自慢するのではなく

当たり前の様に淡々と報告する。


カララス平原展開軍の主力はほぼ壊滅。

現在も再展開はおろか負傷者の回収も

終わってないとの事だった。


ウニモグは静かに鷹の獣人へ。

「カトーよ。

ドワーフ族長とエルフ族長を招集せよ。」


鷹の獣人のカトーは。

「……はっ。」と直ぐさま駆け出し

庭に留まっている大鷲に乗ると飛び立つ。


ウニモグ目頭を揉んでから窓の外を見る。

遠くで狼煙が上がる。

ウニモグは背中を向けたまま


「ヴォルフよ。

お前は

眠れる獅子の尾を踏んだのかもしれんぞ


……【戦が来る】」


ーーーー

カララス平原

ヴァルクラント夜襲で焼けた野営地。


視察に来ているダ・ギヴ方面軍司令。

伝令兵が駆け込み敬礼。

「報告します!

展開していた兵力の七割が戦闘不能です。

しかし、火を放たれた天幕は

兵員用が中心だった為、

後方の集積地はほぼ無傷です。」


司令は小さく安堵の溜め息を吐き。

「【先遣隊】の喪失は痛いが

悪い報告ばかりでは無いな。

ダ・ギヴ……これでは無血開城は無理だな」


沈黙。


そして、

「海上待機戦力及び飛空艦隊に連絡!

進撃を!

【ダ・ギヴ蛮族鎮定】を開始する。」


カララス平原が引いて行き

画像が切り替わる。


空を覆い尽くす飛空艦隊に

海を覆い尽くす兵員、物資を満載した

輸送船団が波を切り裂く。


この日、

ヴァルクラント王国は

ダ・ギヴ山林連合に対し

全面侵攻を決定した。

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