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灰空戦記【勇者の旗の下】  作者: アオン
旅立ちの時
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12/21

【旅立ちの空】

バンバルシア、マリンドン製作所


トールス帰還と共に主機が届き

代艦の返却時の修理代で借金が増えて数週間。


イッグテールは港で修理が続いていた。


オヤジはエリクシルから届いた

新型主機を前に腕を組む。

「……ほぉ」


傭兵監督官が不安気に尋ねる。

「何か問題でも?」


「いや……」

オヤジは眼鏡を掛け直す。

「性能は申し分ねぇ

むしろこの艦には勿体ねぇぐらいだ」


その言葉に傭兵達が安堵する。


親父は反応炉の側面を

軽く叩いたそこには透明な結界窓。

「懐かしいもん付いてんなと思ってな」


飛空艦は専門では無いが確かに

今まで主機に結界窓が付いてるのは

見た事が無かった

「……この窓、ご存じなんですか?」


「昔の飛空船のだ。

反応炉なんざ普及してねぇ頃は

魔法使いが交代でマナ流し込んで飛ばしてた」


オヤジは少し考え

「石炭機関車の投炭口みてぇなもんだ」


傭兵監督官は首を傾げ

「じゃあこれは?」


「多分応急運転用だろ?

実験艦だから

帰還能力でも高めたかったんだろ。

まぁ今じゃ飾りみてぇなもんだな

主機みたいな機械にゃ開口は

少なきゃ少ない方がいい!」


「はあ……問題は無いんですよね?」


「強度に関しては誤差みたいなもんだ!

製造工程の簡略化で無くなったって感じだな

いざって時の保険

と考えれば悪いもんじゃない!」


「なるほどです!」


この件は性能にも運行にも問題無いとの事で

誰も深く気にしなかった。


ーーーー

修理の合間


傭兵監督官は手伝いに来た人達の子供達相手に

工場の片隅で青空教室を開いて

読み書きや計算を教えていた。


今日は算数の授業の様だ。

飛空艦の装甲板を黒板にした物に

足しと算引き算の問題が書いてある。


監督官は生徒の子供達を指名しては

子供達は悩み、指も使いながら計算していく


傭兵監督官は決して焦らせる事なく

答えをじっと待つ。


計算の早い子供が遅い子供を

「そんなのもわからないの〜?」と煽るが

監督官が咳払いをすると

煽った子供は肩を窄める。


やがて正解を答えると監督官はニコリと

「正解だ!よくやった!

足し算、引き算はもう大丈夫だな。

では新しいのだ!」


5X3と書くと

「……掛け算だ。解いてみろ」

説明なく先程煽った子供を指名する。


見た事ない記号に

「あ、えっと……8?」と答える。


監督官は「それでは足し算だな?

だが考え方は惜しい!答えは15だ」


「え〜!おかしいよ!?」


監督官は5X3=15と黒板に書くと

「そうだな一回の足し算じゃおかしいな

じゃあ、なんで5と3で15になるか

みんなで考えてみよう!」


と角が潰れたり、欠けたりして

使えないナットが大量に入った箱から

1人1人にナットを15個ずつ配る。


子供達は話し合ったり、

ナットを素直に5個と3個と置いて

残り7個の前で首を傾げたりする。


監督官はニコニコと様子を見ている。


タントは眉間に皺寄せると監督官に

「なあ?

暇だからって子供困らせて楽しんでるの?

九九覚えさせればいいだろ?」


「ん?そうだな、それも一つの手だ

ではお前は説明出来るか5X3=15を?」


「は?そんなのゴサン、ジュウゴだからだろ?」


「……答えは合ってはいる

だが、それは言葉を覚えてるだけだ」


「はぁ?」

タントは馬鹿にされてると思い

手が出そうになるが……


「出来た!!」

と言う子供の言葉で手を引っ込める。


さっき計算が遅かった子が満面の笑みで

机の上にナット5個を3つ並べたのを見せる。


監督官は「ほう」と唸ると

「みんなに説明出来るか?」


「うん!」と良い返事

「よし!全員集合!」と子供を集める。

タントも覗く。


「まずね、丸を5個書くの……

そして丸の中に1個ずつ順番に入れると……

ほら!みんな一緒!」


「素晴らしい!正解だ!

5個の丸の中に3個入っている全部で15個だ」

喋りながら5X3=15と書く。


「逆をやってみると

3個の丸に5個入ってるすると3X5=15だ

更に……5を隠すとどうだ?」


「15の中に5が3個!!」


「バッチリだ!今のは次に教える割り算だ!」


「凄い!パズルみたい!」

子供達は目を輝かせる。


「タント、

今、お前はこの子達に学力で負けたぞ?


九九という言葉で覚えるのも一つの手だが

そもそも間違って覚えてた場合

何処で間違えたかわからないままだぞ?


これは全ての事柄に通じる

5X3を8と応えた例で言うと

今までやっていた足し算だと思ったからだ

これは世に言う【思い込み】だ。


私はただ算数を教えているのではない!

算数を通して色々な角度見る、

自分で考えてみるというにを教えているんだ!


間違いが解らないままだと……


今まででも経験有るだろう?


正しい意見を言っているのに

間違いに気付けずゴリ押す奴を?


何だコイツ?と思いながら上官だから従って

……はぁ、やっぱり失敗した。

というのを?


私は手を届く範囲の者を

そんな奴にはしたくない!増やしたくない!

思わせてたくもない!

勿論、お前も含めてだ!」


タントも今までの少ない経験でも

何度もそんな事が有り

殴りそうになった上官も居た。


そんな奴と同じ思考をした自分に

ぐうの音も出なかった。


すると

イッグテールの修理改修を手伝う生徒の

母親達が近寄って来て。

「先生〜いつも子供達を面倒みてくれて

ありがとうね〜」


「ひと段落ついたわ〜ご飯作りに行かなきゃ〜

それにしても……

うちの子遊んでばっかりだったに〜」


「うちも!うちもよ!

最近なんて本を読みたいって!

漫画じゃないのよ〜!」


タント達は呆れる。


「お前はいつの間に教師になったんだ?」

「民衆を導くのは貴族の義務だ!」


「あら?先生、貴族だったの〜?

それならもうこの地区の領主様になってよ〜」

と笑いながらバシバシと

監督官の背中を叩くおばちゃん……


……多分、信じてない。


ーーーー

数日後


イッグテール機関室で機関長が

大声で号令をかける!


「窯に火を焚べろ!」


機関員がマナ増幅器の操作磐を動かし

機関士が始動用マナを送る。


巨大な主機がゆっくり始動し

反応炉が淡く光り

マナの作用するヒュンヒュン音が

徐々に大きくなる。


「第1主機発動!……続いて第2主機発動!」


第1主機で発生したマナの一部を

第2主機に送り第2主機の反応炉が淡く光り

マナの作用するヒュンヒュン音が

徐々に大きくなる。


第1、第2主機のヒュンヒュン音が同期する。


「マナ供給異常無し!缶圧上昇!」


無数の計器が並ぶ盤面の1番大きい計器の針が

徐々に上がり始め赤く染められた位置の

手前の緑の範囲にまもなく達する。


「まもなく缶圧規定値!」


計器の針が緑の範囲に入り中央付近を越えて

少し戻る……その位置で安定する。

「艦橋へ!

缶圧上昇!いつでも動かせるぞ!」


ーーーー

イッグテール艦橋


機関長の報告を聞いたトールスは


「イッグテール……離床!」


ーーーー

イッグテールの

真新しいグレー塗装の船体が低い唸り。


舷側に描かれた尻尾が強調された

走る狼のマーキングが震え。


イッグテールが静かに浮き上がる。


工場から歓声が上がる!


イッグテールの団員は勿論、

マリンドン製作所の工員たち。

修理を手伝った町人。職人。子供達。


「飛んだぞ!」「いええい!」「ふぅーー!!」

「スゴイ!スゴイ〜!!」


ーーーー

その日の夜。


艦内で一番広い食堂で

今後の方針会議を行った。


トールスが腕を組み

「当面の主目的は

アイシスの記憶を探す!じゃ!」


アイシスが席から達団員に頭を下げる。

「皆さんすみません!」


だが、団員達は

「好きでやってる事だ!気にすんな!」

「トールスが決めたんだろ?

別に文句はねーよ」

「こんなムサい所のかわい子ちゃんの為だ!」

団員達は全く気にしてない様子だ。


アイシスは涙を浮かべ

「ありがとうございます」と頭を再度下げる。


トールスは更に続ける

「その途中で仕事も受ける!

ええの!?」


「修理代も返さなきゃな!

マリンドン製作所が倒産しちまう!」

「俺たちは貧乏世帯だからな〜!!」


「そうじゃ!

我がイッグテールは借金苦で火の車じゃ!」


団員達は爆笑しながら全員頷く。


新しい旅が始まる。


ーーーー


翌朝。


トールス達は出港前の手続きで

港湾事務所へ行く。


港湾事務所の役人が提出した書類を見る……

書類一式を持って奧に引っ込み

しばらくすると戻って来て

不思議そうに首を傾げて


「……この艦

【2か月前に出港済み】になってます。」


「……は?」


全員固まる。


役人が書類を見せながら

「通航許可紋の照合結果です」


書類の内容にはイッグテールが

バンバルシアに到着した日付けで

【入港】、【出港】と書かれている。


……監督官の顔色が変わる。

「あっ!」


タントも気付いたらしく恐る恐る

「……【ワイバーン】?」と一言……


トールスは頬を掻きながら……

「あの時、首に付けっぱなしじゃの」


港役人は困った様に

「あの書類上、この艦は今ここに存在しません。

完全なゴーストシップです」


全員沈黙。


ーーーー

遠く離れたヴァルクラント

聖都フィーラ北方国境近く……


荷車を押す老人。

荷物を担ぐ農夫。

子供の手を引く母親……無数の集団。


皆、粗末な旅装束。


申し訳程度の有り合わせで編成された護衛隊。


その先頭を喪服の様な黒衣の巫女が歩く。


黒衣の巫女が見窄らしい集団へ振り向き。

「【聖地】はもうすぐです」


一人の老女が震える声で尋ねる。

「本当に……主人に……亡くなった主人に

また会えるのでしょうか?」


巫女は静かに微笑む。

「ええ、神は約束を違えません。」


その声を聞いて

人々は涙を流しながら疲労を押し殺して

また歩き出す。


ーーーー


集団の進行方向の丘の向こう

ヴァルクラント軍が駐屯する国境砦


見張りの兵が望遠鏡を下ろす。

「報告!

正体不明の集団近付く!!



進路……【聖都フィーラ】!」



兵士達が慌ただしく鐘を鳴らす。


ヴァルクラントの旗が

国境砦の屋根の上で風にはためいた。




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