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灰空戦記【勇者の旗の下】  作者: アオン
旅立ちの時
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11/21

【船の墓場で運動会】


濃霧に魔力嵐で視界も効かず魔導羅針盤も

不規則に回り探照灯の光の筋だけが頼りだ。


この海域は魔力嵐による海流異常と重力異常で

古代から遭難、難破を引き起こす難所と

知られており

古今東西の無数の飛空艦や船の残骸が

空中海上問わずに散乱する船の墓場である。


代艦が慎重に侵入。

艦の各部がギシギシと不安げな音を響かせる。

タントは望遠鏡で周囲を探索……すると、


「左11時方向船影発見!大型です!」


発見した船体には大量のサルベージ器具

ジャンク屋大型回収船だろう。


トールスは

「先客か?需要が上がって価格が上がっちょる

飛空艦の部品狙いじゃろ害は無かろう。

ほっとけ!」


「了解!前方に岩!?」

「重力異常が強くなってます」


「中心が近いってこっちゃ!

タント実験艦見落とすなよ!」

「はい!」


浮遊する古代ガレー船の残骸その奥に

浮遊する岩盤に半ば突き刺さる。

エルグラインダストリー社章付きの実験艦。


機関長が

エルグラから渡された認識証と照合する。

「貰った認識証に該当有り!当たりじゃ!」


ーーーー

ジャンク屋大型回収船

船橋


ジャンク屋はトールス達の代艦を見て

「……アイツ等よくあんなボロで

ここに来たな同業か?」


別の男が代艦の動きを観察し

「その割には目的あるみたいに航行してるな〜

このままだと今日の獲物被るんじゃ?」


トールス達の代艦の探照灯が実験艦を照らす。


「アイツ等!

俺たちが唾付けてた獲物見られた!」


男が振り返り「どうする!?」と聞くと

ジャンク屋のボスが腕を組み。


「ありゃ俺たちが先に見つけたんだ!

今日の為にこの船引っ張り出したんだ!

全員始末すりゃ

ボロ船ごと全部俺達のもんだ!

野朗供!戦闘用意!」


ーーーー

代艦


「ジャンク屋の船、近付いて来ます!

……っ!?砲煙!撃ってきました!!」


「面舵じゃ!避けろ!」


「タント!砲座に着け!」

「あ……あい!」


代艦で応戦するも装備は小型単装砲1門

代艦じゃ火力不足だった。

回避行動しながらジャンク屋を観察する……

実験艦が射軸に掛かると

明らかに砲撃が止まる……


「アイツ等の狙いも実験艦じゃの……」


トールスは操舵手の肩に手を掛け

「実験艦に真っ直ぐ近付いて横付けせい!

アイツ等と競争じゃ!」


応戦しながら実験艦近付くと砲撃が止む。

代艦を実験艦に横付けすると

アンカーを打ち込む!


トールスが実験艦の

ハッチに大剣を突き刺すとこじ開ける!

「乗船戦闘開始じゃ!

先に機関室を抑えるど!ワシに続けーー!!」


真っ暗な艦内に魔法薬の小瓶を投げ込む!

周囲を明るく照らすと同時に艦内に突入する!


しばらくすると実験艦に振動!?

ジャンク屋も接舷した様だ。


機関室への扉の取手に手を掛けた所で

同時に取手に別の手が掛かる!?


「「うわぉぉぉ!?」」


同時に叫び飛び退ける!

「テメェ等!

コイツは俺たちが先に見つけたんだ!」


「喧しいわ!」


「主機は!」「獲物は!」


「「渡さねぇーー!!」」


トールスが大剣を振り下ろそうとすると

天井に引っ掛かる!


ジャンク屋もロングソードが壁に当たる!


「「……」」


お互い見つめ合い……ニコリ。


トールスの拳が相手の顔面にめり込む!


「トールスさん!何、やってんスカ!?

流石に獲物デカ過ぎです!」


狭い通路で殴り合いが始まる。

体格が細めのタントも

スピードを活かして活躍する。


ジャンク屋が二手に分かれて回り込んで来る。

左右から挟まれる前に、

トールス達は機関室へ飛び込んだ。


罵声と共にドカドカとドアを叩く音!

トールスが大剣を関貫代わりにして

ドアを一発殴ってからラッタルを降りる。


機関室に入るとまた魔法薬の小瓶を投げ

辺りが明るく照らされる。


実験艦の心臓が静かに鎮座している。

素人目に見ても致命的損傷は見当たらない。


「よっしゃ!

機関長!今のうちに主機取り外さんかい!

タント!貰った地図じゃ

あっちの区画に棺桶有る筈じゃ!」


次々に指示を出すトールスだが機関長は


「ダアホ!そんなスポッと取れるか!!

コアだけでいいよな!?」

と声を荒げるが「知らん!」と即答する。


「あーー、ちと待て……」

機関長は主機をザッと調べる……


「そうだな!コアだけで大丈夫だ!

後はオヤジの所でなんとかなりそうだ!」


「頼むど!」


タントが隣の区画に入ると

様々な機材と繋がった黒い棺桶のような容器が

中央に設置してある。


「有りましたーーー!!」


「ようやった!引っぺがせ!」


タントが棺桶に取り付くと聖女が

「待って下さい!

容器にマナが流れてます!無理に剥がすと

中身が壊れるかもしれません!」


トールスは一瞬だけ考える

「【アイシス】!容器に回復魔法掛け続けろ!

そうすりゃマナ供給は途絶えん筈じゃ!」


「は、はい!」と聖女は棺桶に向け手をかざすと

手と棺桶が淡く光り出す。


トールスはそれを確認してから

「タント!引っぺがすぞ!」

「はい!」


2人が棺桶を掴むと

「「どおおりゃ!!」」と動かす。

様々な太さの

コードがブチブチと千切れていく。


しかし……

「おい、居たぞ!!」

ジャンク屋別の通路から機関室乱入して来る。


「んあーー!しつこいの!」

トールスがジャンク屋に向かって走る!


「ちょおおお!手、いきなり離さんで下さい!」

「タント!何、サボっちょるんじゃ!!」


「あああーー!!もうっ!

嬢さん魔法引き続きお願いします!」


タントもジャンク屋に向かって走り飛び蹴り!

機関長達も工具を置いて乱闘に参加!!


実験艦が軋みだし艦外から落雷の音が断続する

乱闘の中タントがそれに気付きよそ見する。


「トールスさん!なんかヤバくなっ!」

言い切る前に殴られ

「この野郎!」と殴り返し更に蹴りも入れる。


巨大な魔力放電による落雷が実験艦に落ちると

艦全体を響かせる!


流石に今度のは全員が気付き手が止まる。


ジャンク屋のボスが魔力測定器を見る。

針が振り切っている!

「おい!魔力嵐が強くなってるぞ!!

このままじゃ全員死ぬぞ!」


トールスは

「分かっとる!一時休戦じゃ!

船ごとこの空域出るど!ええの!?」


「おう!

野郎共曳航だ!急げ!!」

ジャンク屋のボスは部下達に指示する。


トールスもそれに続き指示を飛ばす。

「タント!

ジャンク屋と一緒に曳航準備しろ!」


「はい!」と

タントはジャンク屋と共に走り出す!


「機関長!主機は後じゃ!

代艦に戻ってジャンク屋と船引っ張れ!」


「分かった!戻るぞ!」

機関長達はバタバタと代艦に戻る!


「【アイシス】!

ワレは引き続き回復魔法頼むど!

棺桶はワシがっ!」

トールスが棺桶を両手で掴むと

「んおおおぉぉ!」と担ぎ上げる!

「付いて来い!」


魔力嵐が強くなり風雨や雷が激しくなる中

トールス一行もジャンク屋達も協力して

曳航索を巻き付ける!

魔導クレーンを実験艦に引っ掛ける!


実験艦に繋がった

曳航索をウインチで巻き上げ曳航索が張る!

魔導クレーンも巻き上げワイヤーが張る!


「最大戦速じゃーー!!」

「機関!フル・アヘッド!」


魔導主機のヒュンヒュン音が

複雑に絡み合いながら大きくなる。


複数の曳航索、ワイヤーが張り

ミチミチと不穏な音を響かせる。


しかし……


ジャンク屋のボスが叫ぶ!

「抜けねぇーー!」


トールスは拳を握りながら実験艦が

岩盤にめり込んでいる部分を見つめる……

バッと後ろを振り返り。

「タント!主砲!めり込んでる付近狙え!」


「だあぁぁーーー!了解っす!」

タントは砲塔に走る!

砲座に付くと照準ハンドルを回す……

「照準OKです!」

「撃て!」


実験艦がめり込んでいる付近に着弾!

岩磐を削る。


……まだ抜ける気配がない。


「続けて撃て!」

「はい!」


実験艦の付近に更に命中!

岩盤の破片が飛び散る!


代艦の単装砲が続けて周囲を撃ち続ける!

着弾の爆煙の中ゴロリと岩の塊が落ちると

実験艦はズルズルと小石を溢しながら抜ける!


「よおっしゃーー!!

ジャンク屋と連携を密にして操舵せぇよ!」


代艦と大型回収船と連携を取りながら

船の墓場空域離脱する!


ーーーー

船の墓場の影響外の空域


お互い協力した上での話し合いの元

分け前は船体はジャンク屋。

主機と保存容器だけイッグテール。

で双方合意する。


ジャンク屋の大型回収船を

代艦と実験艦で挟む形で横付けし

空中で停泊している。


双方実験艦に乗り込み

ジャンク屋の協力でコアだけではなく

主機丸ごとの取り外し

大型回収船のクレーンで代艦に搭載する。


保存容器は代艦の主機に接続し

マナの供給を再開させ

聖女も持続的治癒魔法から解放され

汗だくのまま地面にヘタリ込む。


一通り作業が終了して。


ジャンク屋のボスは

飛空艦の間に掛けた桟橋越しに

「今日は借りだ!」


トールスは軍隊式の敬礼をして

「主機搬出の協力に感謝する!」


敬礼の手を下ろしてニッとして

「コレで貸し借り無しじゃ!

船体は約束通り持ってけ!」


ジャンク屋もトールスの切り替えに

唖然としてからニッと笑い。

「……またどっかで会おうぜ!

儲け話なら直ぐ行くぞ!」


「おう」

お互い笑って別れる。


ジャンク屋の大型回収船が

実験艦を曳航しながら発光信号で

「ア・バ・ヨ」と送り離れて行く。


トールスも

「発光信号送れ!『マ・タ・ナ』じゃ」


船橋の外から

探照灯の蓋の開け閉めの音が聴こえる。


「よっしゃ!

進路バンバルシアじゃ!帰るど!」


「オウっす!」


代艦が旋回しバンバルシアに向け巡航する。


「あの、トールスさん?」

不意に後ろから聖女から声かけられる。


「ん?なんじゃい?」と振り返るトールス。


聖女は遠慮がちに

「……さっき向こうの船で私の事

【アイシス】って……」


トールスは一瞬考えると

「……ああ、

そうじゃの……アイシ、英雄僧侶の名前じゃ。

すまんの、咄嗟じゃった」


聖女は首を振り

「……いえ、私もその懐かしい?

というか、しっくりきます」


「アイシスいい名前じゃないですか!

正直名無しは呼び辛かったんで」


タントが艦橋に戻って来ながら言うが

聖女は黙り込む……


タントは口を尖らせ

「聖女様の方がいいですか?」


聖女という実感が無いのに

大仰な聖女様呼びに慌てて手を振りながら

「い、いえ!

アイシスでいいです!アイシスがいいです!」


ーーーー

代艦格納庫


機関長は実験艦から取り外した主機を

満足そうに見上げ。


「これで飛べる。」


近くに居た乗員が歓声を上げたり、

ハイタッチをする。


その格納庫の片隅。


誰にも気にされず置かれる、

黒い棺桶型保存容器。


その表面の

魔法文字が一瞬だけ淡く光る。


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