FILE96『フェスタデルテインアビトエレガンテ』
【ワンペア】【ストレート】笹井の出したカードに、「なんで⁉」とカズは声をあげる。
悲鳴にも近い轟き。「さあ、次も…まだ時間はありますよ」さくらの影も垣間見えるような、鍛錬された口ぶり。カズの視点からは笹井の背景は読めない。
「ちょっと急かさないでくれ」カズはそう言うと、ディーラーから配られたカードを四枚交換する。
その彼の手元をじーっと眺める笹井だが、時間は、残り少ない。張り付けられたような笑顔。振る舞い。もてなし。お茶会に誘う西洋の魔女同然の気品。むしろ人を欺く事に長けているのは、彼女では無いか。でもその瞳は、悪役のものでは無い。迷いなく、真っ直ぐで、希望を見出している状態だ。否、希望で覆い隠さないとやっていけないのではないか。
タイマーの数字がじわじわと減っていく。
音が、会場のノイズが、カズを焦らせる。
遠くで、「うわあああああああああ‼」と仁が追い詰められた果てに泣き崩れる。
客席から「ふたつちゃん⁉」と美咲が降りて来た。
相当悔しかったのだろう。
仁は美咲にしがみついてギャン泣き状態のまま闘技場を後にした。
別に競技祭に負けた=死ではないのだが。
さらにもう一つの座席から「ッテメェ‼ふざけんなよ‼」と布施が対戦相手だったロリータ調の服を着てぬいぐるみを持った男子生徒に負けているのが伝わる。
「辞めろ布施‼」すぐ暴力に走りそうになる布施を同じ二組のクラスメイトであるメガネ男子の銀河が引き剥がす。
「負けたら潔く退室するってのが男って奴だ」ぎゃあぎゃあ銀河に怒られ、あの布施ががっくり項垂れて縮こまる。
闘技場の扉を通って行くので、本田は彼ら二人を見た後で(ほえー…あの男意外と強いんだな)と脳内で何かを思い浮かべるものの、無機質な顔で会場のモニターを眺め、ストローでいつの間にか二杯目となったドリンクをチューっと吸う。
本田の視線は、モニターからカズと笹井が試合をしているテーブルに移った。
「ねえ、笹井さん。君のほうこそ証拠を残したんじゃない?この紙。君がやった事だって公表する事も出来るんだよ」
その声は少々怒りが込められていた。笹井は慈悲が一切ないゴミを見るような目で、じーっとカズを見つめる。
「それで出来るんですか。先輩は」
「公表したってかまわないけれど。自作自演じゃない。と証明できますか?私は」
笹井は脳裏に本田を思い浮かべながら、「あなたが私をそうやってハメた。と言う事だって可能」と堂々答える。
怯む様子は皆無。
「この字は初見ではあまり読めないもの。でもあなたはこのアンバランスな字を読めた。それはつまり、あなたに筆記能力があるか、またはあなたの周りに似たような筆跡の人物がいるという事。そう。カズ先輩にも可能なんですよ。そこで先輩が私にハメられた。と公表したところで、少年院にお世話になる程の過激な政治運動にあなたが関わっていた。と私が後から情報を流せば、理事長から太鼓判を押されている私と、悪さを過去にしていた前例がある鈴羅木先輩…大衆はどちらを信じると思いますか」
カズは手を震わせた。
「ワン…ペア」
「フォーカード…」
勝利を誇るような笹井の表情と、下を向いて降参するように震えるカズ。
そして、席ごとにメーカーが違うタイマーが《ピピピピ‼ピピピピ‼ピピピピ‼》と鳴った。
「…満足かい?」笹井に付箋を丸めて返すカズ。
「…でも、これは僕が字を読めなきゃ成立しない勝負だよ」その言葉に、丸められた付箋を受け取りながら、笹井は振り返る。
「…いくら紙に字を書く能力を大多数の人間が失っても、よほどの理由でも無い限り字ぐらいフィーリングで読めるでしょ」
相変わらず冷たくカズに言い放っては、「せいぜい二千万。後はお気持ちでお願いします」と金額を指定し、タブレットに入力させる。
その後、鼻で小さく微笑んだ後、「ご機嫌よう」と長い髪をバサッと片手で払って立ち去る。
二年生たちが捌けていく。
一年生たちも退場する。
一年では渦巻きメガネでおかっぱ姿の明照院と笹井の二人が生き残った。
「ふぅーん。一年でも生き残るのが私以外にもいるのね」
「…アギも島の向こうで応援してくれているので。負けられません」
メガネをクイッと掛け直す明照院。
「笹井さん。次は生徒会。勝てば大金私たちが負ければ試合終了で…桁が違う負債を抱える可能性があります。」
開いた小さなコンピューターで、明照院は何かを分析する。
「勝算は五割もありません」舞台でティータイムを優雅に続けるさくらたちを見ながらその忠告を受ける笹井だったが、「いいえ」と首を横に振った。
「私の勝ちは金じゃない。一度どうしてもゆっくりと、会長とお話がしたいの、今回。私はさくらさんと戦いたい。明照院亜希子さん。あなたは会長以外と戦っていただけないかしら」
その交渉に、明照院は「構いません。むしろリスク計算をした場合。私は会長と戦いたくありませんから。ですが笹井さん。あなた…【負け】てもいいんですか。あなたたちのクラス、負債の全てをたった一人に負わせているって聞きましたけど」と笹井が負けるのがわかりきっているのか、長谷部に視線を向けながら、彼にしておけ、と合図を送る。
だが笹井は、「クラス委員はちゃんと二人して支払いは自由配置。本田くんなんて出来るだけ分散。と指示を出した。それに背いて工作員なんかの指示に従うのならそれはもうクラスの彼らの責任。私たちクラス委員がその事まで責められる筋合いは無いわ。」と舞台上に上がって行く。
「では、私は長谷部先輩と」明照院もその後ろに続いた。優雅なティータイムを送っていたさくらが、シュシュで束ねられたハーフアップの部分を解く。
アフタヌーンティーのような、絢爛豪華な椅子とテーブル。
生徒会の他二人も、同様の椅子だ。生き残りの二人に選ばれなかったケンは、「え、俺、俺、俺も」と彼らのテーブルを反復横跳びしながら存在をアピールするが、「ケン。引っ込んでなさい、もう大金は稼いだでしょう?」とさくらに言われ「ええええええ⁉」とわかりやすく頭を抱え落ち込む。
「ほれ。お前の仕事」長谷部が椅子に座りながら、ケンにマイクを渡した。
ケンは、フンッ‼と得意げに大きく鼻息を鳴らした後で、『皆様ァァァァァァァァ‼今日まで六月、競技祭にお越しいただきありがとうございますーーーーーー‼』と大声を挙げる。
すると会場中の関係者席の客から、地鳴りのような歓声が沸いた。
『こっから生き残りの生徒の券を持っている方、払い出し額、引き上げまああああす‼』といきなりのルール変更に、「ちょっと待て⁉」と飛鳥が束ねた賭け券を持ちながら驚くが…。
本田は後ろの客が興奮している様子を見れば、「なるほどー?最終日はこうなる事を知っているお得意様のような連中しか来ないって訳だ、だから妙に客席も人数が少ないんだな、関係者ったって初日と今日じゃ雰囲気がガラっと違う。初日や最初の方なんて若い女や明らか詐欺集団や犯罪組織に居そうな若い奴らが大量にいたのに、今日の中心は強面のオッチャン、そりゃあ…あそこまで野次のような声も湧く」と最終日の特別な雰囲気を理解する。
佐田が、「勝ったら、いくらだ」と問いかけるが、「さぁな。しーらね」と本田に適当に返されてしまう。
「おまえなぁ…」随分投げやりな本田に佐田がジト目を向ける。
「俺としては会長が勝ってくれた方が都合良いんだけどなー」と舞台を眺めながら答える本田。
佐田は「ンでだよ⁉」と唐突な裏切りのような発言に驚きつつ、「だって会長が優勢ならその時間ずっと機嫌よく笹井と喋れるだろ?どんどん笹井を追い込んでもらって対話してもらいたいとこだ、下手に会長追い詰めたら会話なんて雰囲気にはなんねえだろうし警戒心も無意識であがるだろうから」という一応考えはありそうな理由を聞けば、『ちょっと何言ってるかわかんない』と飛鳥と声を揃えて目をアホのように丸くした。




