FILE95『学園側の代行者《エージェント》』
最終日の試合なだけあってか、闘技場の観客席は声援が飛び交っていた。
「やれー‼」「倒せー‼」「締め上げろー‼」どちらかと言えば野球会場のような罵声に近い声が平然と交差する。
そんな中、生き残っている笹井本人は対戦する二年生を探して歩く。
その様子を見ていた布施は、「チンタラ歩くな」と吐き捨て、ロリータ調にアレンジした制服を着ている二年生男子の椅子に座った。
「二年の生き残りたってたいした事ねぇな、普遍的っつーか花もねえ連中ばかりだ」
それを聞いた男子生徒はくまのぬいぐるみを撫でながら、「花だけが全てだなんて、そうかな?美しさだけで世界が決まるなんて考えなら、視野が狭い」と困り眉で答える。
「あァン?」布施は机をバンッ、と音を鳴らしながら叩き、狂犬のような威嚇をする。
「 俺がテメェを負けさせてやる‼このブスが‼ 」
一方で笹井は、所謂、子犬系。と言った雰囲気の先輩に手招きをされていた。
「対戦しようよ」その声に振り返る。
見た目から派手で個性的な先輩が多い中でこの目の前の先輩の外見だけは普通だった。
素朴な男子高校生だ。
本田のようなキリッとした感じはなく、かといってナヨナヨもしていない。
ヘタレっぽくは…あるのか。
「僕は鈴羅木。鈴羅木カズ。気軽にカズとでも呼んでよ。上下関係とか求めないからさ」
カズに名乗られては、「笹井のぞみです」と名乗り返す。
ディーラーが後ろを向きながらカードの準備をしている。
カズ、笹井。両者のテーブルには、ドリンクが置いてあった。
カズが口を開く。
「ここまで生き残った一年生たちはすごいよ。てっきりもっと柄の悪そうな子が来ると思ってた、ところで二年生になっていくとみんな見た目を変えだすの、なんでだと思う?」
見た目を変える理由…。
「今までの自分を払拭する機会とか、ですか」
カズからの質問に答える笹井。考えた結果だ。正直雑談への興味は、あまりない。
「ううん。違う。これは結構重要でさ。そもそも、二年って本来目立たなくちゃいけない立場なんだ」
「目立たなきゃいけない?」
「就職先でのヒエラルキー。それが二年生のうちにはほぼ決まっている。行き先だけじゃない。立場、仕事内容。三年がやるのは、【最後の生き残り】を賭けた椅子取りゲーム。二年生の最後の時点で、この学園が【不要】とした者たちが一斉に殺される」
ケイについての貴重なデータとなりうる情報に、勢いを付けながらカズに顔をグッと近づける。
「それを選ぶ基準ってなんですか⁉」
声が変わった。カズは何か学園の根幹に近いような情報を知っているかもしれない。
あまりに唐突な機会だ。
カズは笹井の豹変に仰け反る。
「ちょっと、近いよ…。殺されるったって。選別は全部理事長に依存するんだから。」
カズの答えに、一気に「はぁ…」と溜息を吐き座り直すが、何かを察したカズは、「君もなんだか訳アリっぽいね」と笑みを零した。
「…も?って事は、先輩もって事ですか」
勘の良い質問。鋭い目。そんな笹井の様子に困り果てたように、カズは「ははッ」と苦笑しながら片手で仕草を取った。なんだか。あまりに普通ではあるものの、雰囲気や余裕感がどことなく理事長に似ているような?
カズから危険な香りを察知する。
会場のモニターに映る、生徒たちの手元。観客が不正を暴けるように対策されている。
「僕は、そもそもみている場所が違う。元々政治的な学生運動に賛同して少年院から出て来たばかりの一般人以下。でもある人が僕に面会に来たんだ、君のその発言量と行動力を活かせる場所があるって、それがここ。私立遠州学園だったのさ」
カズの話に、「そうなんですね…」と静かに相槌を打つ。
「笹井さんって言ったっけ?君の事は理事長がよく惚気のように話してるんだよ。ほら、観客席を見て。理事長が君の賭け券を買ってる」
チラッとタブレットに何かを入力する楚々辺を見る。
(タブレット?)券は理事長の座席の横に置いてあった。
「娘である生徒会長よりも今の理事長は君に期待をしている。すごいと思わないか?僕はどうしてか考えてみたんだけど…言うのは辞めておこうかな。」と口角を緩めた。
(何よこのモヤモヤ)
笹井は楚々辺の手元のタブレットを見ながら視界を揺らす。
(何か強烈なものが繋がりそうで…繋がらない)
「ディーラー」
カズはディーラーを呼んだ。
(手元が映されている状態じゃ本田くんのようにイカサマ工作も不可能。一応例のダミートランプは本田くんから拝借してきたけど)
笹井はスカートのポケットを触りながら頭をグルグル悩ませる。
二人のもとにカードが配られた。
カードを交換しようとするカズに、「理事長と親しいんですか」と問いかける。
カズはぴくり、と手を震わせた。
「親しいって訳じゃないけど」
カズはカードを二枚交換した。
「でも先輩が出会ったある人って楚々辺理事長ですよね」カードを四枚交換する勇敢な笹井に、「そんなに交換するの?」瞬きをしながら、「さあ、誰だろうね」と誤魔化す。
「じゃあ、どうしてこんなに理事長に絶対的な力がある学園に他の人間が鈴羅木先輩を招き入れる事が出来るんでしょう」
さらに揺さぶりにいく笹井。
その最中の目は、獲物を駆ろう、情報は逃がさない。
本田湊の観察眼に近い目だ。
とても女子高生に宿るものではない。
「それにあなたは先ほど、他の生徒と見ている場所が違うと言っていました。この学園の教師か何かに就職して、【死】を予め回避できる事が決まっているんじゃないですか。」
その憶測に、カズは動揺で手を震わせる。
「さらに言えば…もうここからは何の根拠もない話ですが、その安全を対価に何かの役割を得た。そうですよね…つまり…今、鈴羅木先輩が吐いて頂ければクラスに理事長の内通者がいる前例の裏付けが取れる」
カズは退屈そうにうたた寝する楚々辺の顔色をチラチラと伺いながら手を止め、「君も…僕と同じ役目を引き継いだ同志だと思ってたんだけど、違うの…?」と小声で問いかけた。
笹井は震えながら俯く。
(完全に照合できてしまった)
(茅野さんが会長と内通している事実が更に濃厚になる。それどころか、全学年、全クラスに一人はそのエージェントとやらがいても全然不自然ではないわ…)
「私は…ただ理事長と一時的に取り引きをしてるだけです…。でも、確かにあなたは理事長のエージェント…」
カズは声を小さくしながら、「あんまり聞かれたくないんだ、これ」と続けた。
【ツーペア】【スリーカード】カズと笹井のカードが同時に場に出る。
「鈴羅木先輩、理事長って…更にそのエージェント…。というか、内通者。求めていると思いますか」
笹井はそう言うと、何処かに流し目を向ける。
カラカラカラカラカラ……。何かが転がる音だ。
カズと笹井、二人がいる机の方に、大量のドリンクボトルが乗ったトレイを首から下げ、八咫鏡の指輪をつけた闘技場のスタッフが「ごめんなさァァァァァァァァい‼」とバランスを崩した。
すべてのドリンクをベタっと笹井たちの座席にぶちまけられる。
どうやら空き缶に転んだようだ…。
「あ、拭きますよ、」自前のハンカチを手に取り、汚れる事を気にもせずに屈む笹井。
カズも「大丈夫ですか⁉」とそのスタッフを支えに行く。
そのすぐあとで、トイレから盛田が出てきては、「何かありましたか?…大丈夫ですか⁉」と足から血を流すスタッフを支え闘技場の出入口の監視役に伝えに行く。
濡れたのはどうやら床だけ。
会場のモニターの中継にもその様子は映るが、見なくてもわかるような騒ぎだった為に特段問題はなかった。
「再開しよっか………。」
タイマーの時間が減っていく中、カズは椅子に座る。
笹井も辺りをキョロキョロ見ながら、遅れて座った。
カード交換からやり直す二人。
「とんだハプニングだったね」
「…そうですね」
ディーラーがカードを配り直す。カズと同時にカードを手に取れば、笹井は「鈴羅木先輩は何枚交換しますか?」と、先程よりも挑発を交えたような口調で問いかけた。
無言の圧を感じるのは、気のせいだろうか。カズは何かにズボンが触れるような感覚を抱く。
そして手元を見ては、激しく動揺した。
その後、カズは四枚カードを交換する、一方の笹井は三枚だ。
スタッフが運び出されるまでの一連の騒動を見た本田が、(なるほど…?)(ここまでやるか、笹井…)とニヤニヤしてしまう。
その様子を見た佐田は「オイ、本田。笹井時間ロスしてるぞ」心配そうに眉を顰めるが、その肩をポンッと優しく叩き、「まあ見てろ、俺はもう読めた。あいつらヘマはしねえから」と小声で伝える。そんな本田の視線は盛田の後頭部…。
つまり、どういうことだろうか?




