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『一組 ─今日からあなたたちは詐欺師です─』  作者: ミタラリアット
一年生 一学期編 六月

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92/111

FILE92『笹井の覚悟の提案』

競技祭十三日目。終了。


続々と教室に戻る生徒たち。星野が、「ちょっと笹井さん」と帰って来た笹井を手招きする。



そのまま倉庫部屋へ。




「何かしら」と笹井が星野を見上げては、星野が「本田くんが火野先輩をハメたって件本当?」と問いかける。



笹井は、「ああ」と耳に髪を掛けては、「その件ならもう本人の口から問い詰めて照合は出来てるわ。悪気も無く、さらっと言ってたわよ」と答える。



星野は「本当…なんだ」と表情を暗くしつつ小さく口を開き更に続ける。



「本田くんが…この学園に来た理由…とかって聞いてないかな」



「いいえ」




笹井は首を横に振った。星野は、胸の前に両手を寄せ、「そっか」と落ち込む。



「どうして彼の素性が気になるの」



「…私が志田ちゃんをのそばにいて、良い子になって彼女を守る為にはひとつ、不要な要素がこの学園にはあるの」



「…工作員…」


「…そう、《Ⅹ》の存在。《Ⅹ》が何者かなんて知らない。誰かなんて当てようがない。複数人でやっている事かもしれない。でも私は、私をわからせたいのなら、ただ私を真犯人だと言えばよかったのに、志田ちゃんを傷つける選択をしたことが許せない…すべての真犯人は私、それなのに」


真剣な星野の嘆きと、震える拳。



「随分と計算尽くしで、ずる賢くて、無関係の志田ちゃんがどうなるかなんて躊躇しない、全ての原因である私が言えた事じゃないけど…志田ちゃんを巻き込んじゃった事が、それでも傍に居たい自分も、悔しくて、悔しくて、辛い…‼私…悪口なんて書かなければ良かった…隣にいたいならいくらでもやりようあったのに、志田ちゃんまで《Ⅹ》に利用されて…」




星野の怒りを、笹井は受け止める。




「星野さん」笹井が名を呼ぶ。星野が顔を上げた。



「…あなたはどんな使命も引き受けられる?」笹井の問いに、「使命?」と目を潤ませる星野。



「この提案はあなたを本物の【悪者】にするかもしれない。でも志田さんの傍にずっと居られる報酬と、先方が良ければ大金を得られる提案。でもこれはクラスメイト全体の【敵】になる事を、二人だけが得する事を意味する」笹井の言葉に、星野は「何を言っているの」と声を震わせた。




「クラスメイト全体の…敵?」




「志田さんも巻き込みかねないしリスクは高い。でもあなたの望みを的確に叶えられる。」




笹井はそう言うと、「考えときなさい。一学期の最後までに」と猶予を与えた。



だが、「待って」と星野に服の裾を掴まれる。



「私たちを…助けてくれるの?笹井さんだって嫌われかねない。しかもそれって悪者になるのは私たちだけじゃない、あなたもでしょ…?」




星野が迷いの視線を笹井に向けるが、特殊な角度で僅かに上を見上げ振り返りながら、「私は自分の評価も、目的の為の犠牲も、一切厭わない。ただ私の目的を果たしたら見つからないようにこの島からサッと出て行く。それだけ。」と答えた。



星野は「…志田ちゃんにも共有するけど」と呟いた後で、「なんでそれほどまでに、振り切る事が出来るの」と問いかける。




「さあ…。あなたたちと違って私はもう、目的を達成出来ないと分かればいつでも死ねるから。じゃないかしら」



笹井はそう言うと、「無いのよ。失うものが。この学園に来る前に…全部捨てたから」バサッと髪を靡かせて立ち去った。




残り香だけが星野と話していた倉庫部屋に蔓延する。



「そんなの…切ないよ」



星野の一言が、香りの持続と共に空中に消えるように響いた。




笹井は廊下を歩きながらスクールバッグを取りに教室に帰る。



【笹井のぞみ】と書かれたロッカーのテープ。



そこから荷物を手に取り教室の扉を開けては、ロッカーに並ぶ人が詰まってしまいスクールバッグを取るタイミングを見計らう本田を流し目で捉えつつ、(…ねえ、本田くん。あなたはどこまで考えているか私には何もわからないけれど。私は目的の為ならあなただって利用できるし、時が来ればその命を奪う方向にだって走れるわ。でも…。あなたはそのままコソコソ何かをしてなさい。あなたにはまだ読めていない事がある。私がこの一学期で何を選ぼうとしているか。私は、あなたやクラスメイトと同調したり馴れ合いたいわけじゃない。危うく本当にあなたなんかに見惚れてしまいそうになったけれど。あくまで私はケイを連れてこの島を出るのが最終目的。四家も、上層部にも、興味はない。)と心の中で呟き、優雅な姿勢で廊下を歩いていく。



ラビィで監視役を呼び出し、校舎前で合流した笹井は、競技祭終了後で浮かれて船の方へ戻って行く関係者を見つつ、「…右原さん」と自分の担当の監視役の名前を呼んだ。




「なんだ?」少々男前な歌劇風の監視役が振り返る。



「人を利用してまで自分の望みを叶える事って正しいですか」迷いが一切ない笹井の目と、合致しない台詞に、つい「ふッ」と笑ってしまう右原。



「もう答えは出ているじゃないか、笹井」右原に言われた笹井は、「…」と少し下を向き、歩く。




「お前は他人に譲歩して自分のやりたい事を逃してもいいのかい?私はそんなのごめんだ。例えるなら三角関係って奴か?友達と同じ奴を好きになって友達と恋愛どちらを選ぶか。そりゃあ恋愛一択だろう。友達を選んだとこで友達がその恋人と付き合ったら今までのように友達とは見れないんだ。どっちにしろそういうデメリットを踏むなら自分が幸せになるほうを選びたくないか?」




右原の大人な例え話に、笹井は「やっぱり、頼りになりますね、右原さんって」と答え、軽くなったように微笑む。



「闇雲に嫌われるのはごめんだけどなー」


監視役と雑談しながら女子生徒寮に帰る笹井。



生徒寮に入ろうとすれば、笹井のもとに連絡が届く。


差出人は…《楚々辺さくら》



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