FILE90『盛田が教える戦い方講座』
六月十三日。水曜。競技祭。二戦目。
敗退した星野の背中を見つつ、盛田は次の対戦相手を探す。彼女もここまで、生き残っている。
星野のように不正をしたわけでも無い。ほぼまぐれだ。
(私としては…負けたくない)だが、盛田の前に居た波子が、「ほらほらこっちきてー‼」と一年の盛田を呼びかけていた。
金髪。ハーフアップ。赤リボン。派手な平成女子のような見た目をしていたが、豪運で勝負に勝つ波子。
盛田は、オドオドしながら、学生らしいおさげを二股に分けて紫のリボンで結び長方形のメガネを装着している。
まるで対極の外見だ。陽と、陰と言ったところか。盛田は、表情をキリッとさせ、メガネを掛け直す。
「よろしくお願いしますッ‼」波子の正面に座った盛田は、「一年一組・盛田舞です…‼」盛田の自己紹介に、「牧野波子‼二年一組♪」と自己紹介を返す。
波子は先程の勝利を経てか、すごく機嫌が良さそうだ。
「聞いて聞いて聞いて、さっきの子のお友達から波子、三千万もゲットが決まっちゃって♡長生きしなきゃあ」と目を輝かせながら言う波子に、盛田は「でもそれ、何かがあった時、どうなるんですか」と問いかける。
波子は、「え、知らない」とパチパチと瞬きをした。
「え」固まる盛田。
「処刑されちゃった子は何人も見たけど、そういや資産がどうなったかまで考えた事無いなあ…」
「でも誰かが遺産貰える~~みたいな事ないと思うよ」
波子の証言に、「…」と盛田は考えるような仕草をする。
「あ、後、二年のクラス分けってどうやって決められているかご存知ですか?」
さらに続く盛田の思いつきの問いに、波子は、「あーそれ?一年ってちょっと作りが複雑で一組は問題児、四組は天才、または既に入学時点で子役ですみたいなさ、既に実績ある集団って決まってて他はもうクラス委員の裁量なんだけどー。つまり【二組】【三組】が通常学級って事‼」と解説する。
その解説に盛田は両手で口を覆いながら、「えぇ⁉」と声をあげる。
「私問題児だったんですかぁ?」
オーバーリアクションな盛田に、波子が「ぎゃははは‼」と机を叩きながら大爆笑するが、「私も一組だから人の事言えない‼」と続けた後で、「でもね。もうクラス一個無くなっちゃったとこもあって私たちの代で数十人ぐらい死んじゃったから最初はあったはずの《五組》がほとんどいなくなっちゃって他のクラスに分散されて…」と説明をする。
盛田はその説明をうんうん、と頷きながら真剣に聞いた。
「んでー疑問なんだけど…さ」
「はいッ?」
波子は妙なところで勘が優れている。
盛田は首を傾げた。
「それ聞いてどうすんの」
「あ」
「あ‼じゃないわよー‼ンもーッ‼プライバシープライバシーエクスタシィー‼」
悪ふざけする波子と、そのノリになかなかついていけない盛田。
「で、でも波子先輩高圧的じゃなくて助かりますッ…‼他の先輩方ちょっと怖くて」
「はははははははッ‼そうだよね?みんなちょっと怖いよね??あれでもね?一年の時はみんなみたいな素朴なって言っちゃあなんだけど、うん、あどけない感じだったのよ‼」
盛田の一言に爆笑しながら教える波子。
波子は更に続ける。
「で、でもさ。一年って右も左も何していいかよくないかまだわからないわけじゃん?」
「ンで競技祭で二年に会うじゃん?ここまでしていいだーってなるじゃん?」
「夏休み明けぐらいからみんなイメチェンイメチェンイメチェン‼ってはしゃぎだすから楽しみにしてな?」
「まぁーーーー…そうやってその後に何人かヘマして死んでいくんだけど」
後半、自分たちが経験した地獄を思い出しながら言う波子。
盛田は「浮かれちゃう…って事ですか」と質問する。
「まぁー‼私は常に浮かれてるけどねアハハー‼」
「でもさ、でもさいつ死ぬかわかんない極度の恐怖と常に隣合わせ‼なら死ぬまでこうやって惰性で何もせずお荷物でこのディストピアを楽しんでるだけでも良くない?」
波子は盛田に答えながら、「さ、やろやろ。ディーラー‼」とディーラーを呼び出す。
波子の価値観に盛田は表情を曇らせる。
(普通の学生ならそうやって私も言ってられるけれど)
(私は)
ディーラーがカードを配る。
「カード交換、最初と後。どっちにする?」と波子に聞かれ、盛田は、「後攻でお願いいたします‼」といろいろ考える時間が欲しいのか即答で選ぶ。ディーラーがカードを配って行く。
盛田は、できれば最終日まで生き残りたいと考えていた。理由は三つ。一・出来る限り二年から多くの情報を、聞く。二・三年生及び渡邉ケイに関しての情報を少しでも得る。三・光道教の根幹に関わる情報を、少しでも多く…。
「ン?盛田さん、カード交換したよ」と波子が言っては、盛田は「ハイッ‼」と声をあげ、手元のカードを二枚交換する。
(今までに分かっている事は他の先輩に聞いた事で渡邉ケイさんは今年のはじめまで生存を確認出来ているという事‼闇雲に笹井さんと二人で話していたけれど、曇り空に隙間が見えて来たのは希望…‼そして私が独自で調べている【暴徒】について…。三年の卒業後の進路が製薬会社だけでない事も掴んだ…‼そして最後には神庭総理の為にその疑惑を、まるごと‼)
【ワンペア】【ワンペア】
「あれ…この場合」と盛田はメガネをクイッと上にあげる。
「ねえディーラーこの場合どうなんの?」
波子がディーラーに問いかけては、ディーラーが「この場合、トランプの数字が大きい方が勝利になります、よって勝者は盛田舞さん」と答える。
波子は、「今からでも私の一勝になんなぁーい?」とディーラーに上目遣いで頼むが、「なりません‼」とはっきり言われた。
次のカードが配られる。
話の時間が長いせいか、タイマーの減りが早く感じてしまう。
波子はカードを一枚交換する。
(結構揃ってるの?)カードの交換が一枚だったというだけでその事に気づいた盛田はトランプを三枚交換する。
【スリーカード】【ツーペア】
「くッ‼」盛田に二勝を取られ悔しそうな表情を見せる波子と、「ヒィィィッ‼ごめんなさいッ‼ごめんなさいッ‼」と両手を前に出し首をブンブン振る盛田。
「別に波子怒んないよー??怖がらなくていいから♡でもちょーっとだけ…追い込まれてるかも、ア・タ・シ」
てへっと言うポーズを取った波子は、「この感覚久しぶりー。いつ以来かなー…でも私、運だけは…昔から最強だから‼」と叫び、次に配られたカードを四枚交換する。
「四枚⁉」と声を張り上げる盛田に、「さあどうするの?」と煽っていく波子。
盛田は挑戦的な表情で、「なら…条件は同じ、四枚です‼」と答え、カードを四枚交換した。
「ペア、揃ってたんじゃないの」と言う波子に、盛田は、「さあ。でも、ここは相手と同じ条件で戦うのが筋ではないかと。私は思うのです」と言い切った。盛田の二勝。残り時間は、三分半だ。




