FILE89『猛毒を刺されたヴィラン』
ディーラーがカードを配れば、星野は笑顔を崩さないまま、波子に「波子先輩、今波子先輩のクラスで流行ってるものってなんですか?」と普通に雑談を展開していく。
波子は、「うーーーーん。ケイコのガーデントークも流行ってるけど。私が友達とよく話すのは」考え込むような仕草を見せる。
その隙に何か片手を膝の上で動かす星野。
「ヒロカ嬢と人気を今二分しているレイラ嬢‼」
「レイラ嬢?」
星野はきょとん、とした顔でカード交換をする。
「ヒロカ嬢は知ってますけど」と目をパチパチさせながら言えば、波子は、「レイラ嬢はヒロカ嬢と同じ事務所の後輩にあたる人物で、イギリス人でありながら和に魅了されて日本にやってきたシングルダンスパフォーマーなの‼超・超・超―スタイルばっつぐんで憧れちゃーう♡」と目をキラキラさせながら語る。
「ヒロカ嬢…ってなんでそんな人気なんですかね」カードを交換する波子に星野が聞いては、「AIとかバーチャルでタレントやれるこの時代に好き好んで顔出すような奴なかなかいないからにきまってるじゃなーい‼」と彼女はゲラゲラ笑いながら返事する。
「だから、アイドル部を立ち上げたくて、ビッグチャンス‼と思って、私この島に来たんだけどね⁉」
「なんか…話と違って友達バンバン死んじゃって…もう…一年の頃から、残ってるのは、一人」
星野は、一人、と聞いた後で志田が処刑される映像を脳裏で想像し、動揺して手を震わせる。
「どうしたの?」星野の急に崩れた表情を心配する波子。
「…いいえ、大丈夫です、」星野は微笑みながら答えつつ、「じゃ、行くよ~?」と波子とタイミングを合わせ、カードを出す。
【スリーカード】【ワンペア】
「やったー‼波子の大勝利―キャッ‼」波子との一戦目。星野の白星 。
星野は悔しそうな表情を見せつつ、(なんで⁉)とポケットの中のトランプを見る。
不正をしているのに、勝てないと言う現実。
むしろ何も考えていなさそうな目の前の女が勝っている現実。続いてのカードがまた配られる。
また星野はポケットの中のカードをガサゴソと動かす。
(バレる、バレる、バレたら死ぬ?)
なんて動悸にも駆られる。負けてからも志田を本心では選びたくないせいか、今回最初から不正して勝ち続けていた星野。
だがここで、不正をしているのに勝てないという現実が襲い掛かる。
そう、星野は《不正しなくても勝てていた試合に、不正をするという手段をわざわざ選んでいる》状況下にあるのだ。
この事実が徐々に星野本人を循環していく。
(わ…わたし…わたし…良い子になれ…な…)
Ⅹの作戦に浮かれていた星野が、徐々にその意図を掴んでいく。
(《Ⅹ》は本田くんで、本田くんが私の為に志田ちゃんを真犯人にしてくれて、志田ちゃんに優しくする立場をくれて…《Ⅹ》は私の味方…って…なんて私…身勝手で…軽率な…)
様子をおかしくさせる星野に、波子が本気で「ちょっと大丈夫?」と心配する。
だが、まだ二戦目。星野は震えた手でカードを交換する。波子も後に続いた。
(本田くんにはそんな計算高い事できないはず…Ⅹはッ複数人なの?)
【ツーペア】【ワンペア】
(またしても揃わない‼)Ⅹの行動の意図を徐々に理解し精神をかき乱されていく。
クラス委員の事前の作戦は、【自由、出来る限り支払い先を分散】
でありながら恐らく過半数が具体的な指示を出したXの言いなりで志田を選んでいる環境下で周りと違う動きをしてしまえば真っ先に星野自身が疑われてしまう。
(なに…わかってたっていうの…最初から)
震える星野に、波子が優しく、「辞める?」と問いかけた。星野は首を横に振る。
波子は「じゃあ、続けるよ‼」と配られたカードの交換を星野に催促する。
(なんで。なんで?今まで勝てたじゃない。今日まで同じ不正で)
(あれ)
(でも)
(今日のトランプは)
(教室の私の机の引き出しから出したもの)
(でも制服のポケットじゃなくて入れたのは着替える前のジャージのポケット)
(でも今は制服)
(でも何も変わりはないただのトランプ)
暗い顔でカードを交換する星野。
【スリーカード】【フォーカード】タイマーが鳴る前。
最後に星野が、一勝を決めるが…ピピピピピピ…。とここでカードが鳴り、星野真澄、不正があったにも関わらず惨敗。
「すっごーい‼波子勝っちゃった‼」波子が飛び跳ねて大喜びする一方で、「ど…どう…どう…して…?」と震える星野。
「わ…わたし…ここまで頑張って…」「ここまで…」
星野は目にウルウルと涙を溜めるが、波子に「でも勝ちはワッタシの勝ちィィィ‼さあああああ‼あなたのお友達からたんまり貰っちゃうわよーん、‼欲しかったのよねえ‼あのレイラ嬢のブランドの新作バッグ♡♡」と無神経に大喜びされてしまう。
「あッ、そ・の・前に」ディーラーがタブレットを出した。
「誰に請求するのー?」
波子に顔を近づけられた星野は、現在の志田の負債額を見て青ざめる。
一組はまだ数えるほどしか負けていない。それなのに志田は一億届かないぐらいの負債だ。
これを…今の二年が卒業するまでに二年が決めた全額を払わなければならないと言うのだ。
一千万でも普通に考えれば高額。
でも、女子高生が九千万だ。
これなら奨学金を抱えてでも受験が容易い高校に行く方が志田は救われた。
星野は「あぁ…」と両手で顔を覆い隠す。
「…私…悪い子で…ごめんなさい…」
星野は泣いてしまうのを堪えながら、志田にチェックマークを入れる。
志田の数十枚に及ぶ競技券も、これで無効。
星野は出口から出る際、耐え切れずに泣き崩れるように座り込んでしまうが、観客席にいた志田が真っ先に駆け降り「星野ちゃん‼」と声をあげる。
星野の背中をあの時自分にしてくれたように優しく摩りながら、カジノを後にするが、星野のチケットを購入し、少し先に会場を後にしていたカグヤに、「あなた?今日の試合。違和感ありませんでした?」と呼び止められた。
「え」星野は顔を見上げる。
「観客席からあなたのテーブルのカメラを眺めておりましたが、あなた?本当に不正されてましたよね。ポケットの中をガサゴソと」
場に浮いている巫女服に驚きながら、「私は不正なんて」と誤魔化そうとする星野のスカートのポケットから、「いいからお見せなさい」とカードを奪い取るカグヤ。
「やはり私の時と、同じ」トランプのシールをはがしながら呟くカグヤ。星野は、「はぁ…?」と拳をキュッと丸める。
「同じって…火野先輩、本当に不正されてなかったんですか?今回の競技祭で一番有名になったの、火野先輩なのに」目を見開く志田。
「失礼ですね…まだ理解されていなかったのかしら。この私が不正なんてするはず無いでしょう?ハメられたんですよ。あなたも。私も」
カグヤはそう言うと、口角を緩める。
「だれ…と戦ったんですか」
恐る恐る問いかける志田に、カグヤは「本田…湊くん」と答えた。
「私…私はこの競技祭、最初から不正自体はしていたんです。勝てる自信無かったから」とカグヤに弱々しく打ち明ける星野。それを聞いた志田が「星野ちゃん⁉」と急な白状にびっくりしながら目を見開く。
「…ええ、でも…。今日に限って。勝てなかった」
経緯を理解するカグヤに、星野は小さく頷く。
「彼…そんなあくどい事を考えるようには見えないんですけど」と本田の顔を思い浮かべながら問いかける志田に、カグヤは「警戒…するに越したことはありませんね」と妖美に微笑んだ。
「この事実は、私たち三人だけの秘密です。」カグヤはそう言うと、ラビィのグループを作って二人に見せた。
「トークは学園側が任意のタイミングで見れてしまうのでおすすめはしませんが。通話などで少しでも頼りになれたら」
志田と星野の二人は、『ありがとうございます…』とカグヤに礼を言って闘技場の前からいつもの監視役を呼んで校舎に向かった。




