FILE88『カネの星の女神は不戦勝』
体力検査を一組の生徒たちがしている間、教室にいた志田・茅野・鈴木・増田の四人は、他の客に混ざって競技券の購入に並んでいた。
(負債を追えば追う程、悪者にされればされる程‼私はッ、私は星野ちゃんの傍に居られる‼)
気が付けば志田は、【星野真澄】と書かれた券を何枚も買い、QRコードで発券さえしていた。
「会長に賭けておけば問題なしか?」「勝ち続きだしなああ」鈴木と増田も生徒会メンバー全員の競技券をバランスよく購入する。増田は、「ちょっと待て」と止まった。
鈴木が「アァ?」と振り返る。「…笹井のを買うぞ」増田の判断に、「一年のを買ったって」と鈴木が眉間に皺を寄せながら難色を示すが、「いいや。なぜ笹井のロッカーが【初日】に予備の場所に入れられて次の日から変わっていたと思う」と増田が問いかける。
だが、鈴木はそれすら知らなかったのか、「はぁ?予備のロッカーってンだよ」とついていけない様子だ。
「断定は何もできないが、俺を信じろ。鈴木」
増田に言われた鈴木は、「で、でも、生徒会に賭けて勝ち続けてんだからそれで」と無駄な出費を抑える方に考えるが、「笹井も生き残っている。俺とお前、二人で笹井に五+五だ」と押されてしまい、鈴木は「うぅ…わぁーったよ」と黙ってそのまま発券しまう。
「多少のリスクを踏むのがギャンブルの醍醐味。勝ち続けたところで俺の心の茶は冷める。」
意味不明な増田のポエムに、「何言ってかわかんねえし‼」と叫びながら鈴木は追いかけに行く。
暫くしては、初日ほど盛大なファンファーレも無く、着替えた生き残りの生徒たちが闘技場に入ってくる。既にモニターで体調チェックの結果がコンサートのオーバーチュアの映像のように校歌のリミックスアレンジの曲と共に流れる。
志田は星野の結果を見て、(あれ)と心配そうに顔を上げた。
ストレス数値がかなり高く、月経のマークに二重丸が付いている。
ここまで情報が大画面で開示されるのだ。
祭典に見せかけて、プライバシーなど、皆無。
志田のように観客席にいると、高揚感がまた違う。
志田はスマホのマイクをオンにして…《録音》。
卒業後に、全部、全部持ち帰る為だ。
志田が確認する。茅野の姿は…。
「え?」関係者席の、理事長の隣。
理事長と何かを仲睦まじく雑談し、子供のように両手を広げ喜ぶような素振りを見せていた。
「…えっと」志田はその会話に耳を澄ます。
「アイス―――――⁉」茅野のその単語だけが聞き取れた。どうやらこの後、理事長はアイスを茅野にあげるらしい。
茅野の幼児のような喜び具合から見てもそうだろう。
(でも茅野さんって一組で一番顔は整ってるけど…笹井さんとは少し系統が違うんだよね、笹井さんが歌劇団の男役風味なら、茅野さんは秋葉のアイドルみたいな)
志田は静かに考えたが、ステージが暗転し、いつもの案内映像に切り変わる。
本田、笹井が一組の僅かに減ったメンバーを率いて先頭に立つが、他のクラス委員と比べ、背筋、所作…なんと言うか、姿勢そのものがまず美しいのだ。
笹井は舞台をやっていたからそうと言え、本田に至っては背が周囲より高いせいでそう見えてしまう。
四組の美咲や仁に目を向ければいくら天才枠と言え普通の幼い学生だ。
ほら。佐田は本田の背中で画面が見えないせいか横からひょこっと顔を出しているのがわかる。
志田は、新入生歓迎会の時の理事長と、茅野に接する理事長を照らし合わせて、(和む)と単純に癒されていくのだった。
案内とルールのムービーが終われば、星野は二年を探しに、歩く。
そこで「盛田…ちゃん」と盛田を見つけた星野が話しかけるが、盛田は「続々と二年生が取られちゃって見つからないです…」と俯きながら答える。
「じゃあ、先にドリンク買う?」「ハイ‼」
二人で映画館のような作りのフードカウンターに行き、炭酸飲料を購入する二人。
透明なサイダーを頼んだ盛田と、黄色のレモンサイダーを頼んだ星野。丁寧に薄切りレモンまでトッピングされている。
盛田と星野の二人は本田とすれ違い、『あ』と顔を合わせるものの、スッと本田は二人を無視、何なら星野を若干睨むような様子で適当な二年がいる席に座りに行く。
「なんでしょう…なんか睨まれた気が」
「うーん、いつもあんな感じだし気にしなくていいよ」
「じゃ、私二年生捕まえてくるね」
星野はドリンクを片手に盛田に手を振りながら二年を探す一年の渋滞を搔き分けて行く。
全体的にまだ一年が優勢らしい。
金のハーフアップに赤いリボンを付けた先輩が「ちょっとちょっとちょっと相手いないんだけど‼」と両手をバタバタ動かしながら、「なんで誰も戦ってくれないのーーー⁉」と騒ぎ出して白い目で見られていた。
何なら時代遅れの平成のファッション雑誌を広げ、タイムトラベラーのようになっている。
「競技祭だから制服も推しぬいででこって来たのに――――。そもそもここまで一戦もされずになんやかんやで生き残りだしィ、アタシ人気無いのォー⁉いやいやいやああ‼」
先輩の姿を見て、(ア…本田くんが睨んでた理由…この人か…)とジト目を向けつつ納得する。
ボーっと星野が眺めていれば、「ねえ、アンタ、私と戦って?このままじゃ0勝0敗の負けるより辛い状況よ」と、お願い、のポーズで誘われる。
星野は、「…いいですよ?せーんぱいッ♡」と満面の笑みで答え、その正面の席に座る。
「みんな一年生に情報をめちゃくちゃ渡してるみたいだけど、私心理戦って柄じゃないのよねえー」とティーカップに入れたお茶を横に置き、雑誌もディーラーがいる場所に退かす二年生。
「そ、そうなんです。私もそういうの得意じゃなくて…今まで、なんとかまぐれっていうか、勝っちゃって」
星野がそう言っては、前にいる先輩に「でも勝てるってすごいじゃん‼私なんか勝負すらしてくれなくてさー、こうやってここまでずっとこの端っこの席でディーラーといつ来るかいつ来るか話して‼私に賭けてる人もいたみたいだけどそもそも不戦者は購入額そのまま払い出し‼数合わないからウロウロするだけで生き残ってる子とかバレないようにトイレ籠ってる子とかいるみたいだけどねぇー、せっかくならやりたいじゃない、あ。私牧野波子‼ナミコって呼んでー‼」とベラベラ喋った後に名乗られては、「あッ、」と星野も気づいたのか、「星野真澄です‼」と名乗り、試合前に…握手?
他の一年生があまりやらないような雰囲気がこのテーブルの周りだけ漂っている。
朝の星野の恐怖心も、柄が悪い先輩らの中で一際やりやすい相手を前に和らいでいく。
その安心感こそ…。この場では命取り…になるのだが。
「ディーラー‼」
波子がディーラーを呼べば、ディーラーが一礼をした。
それぞれのディーラーの指にも、八咫鏡の指輪が光っていた。




