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『一組 ─今日からあなたたちは詐欺師です─』  作者: ミタラリアット
一年生 一学期 五月

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75/111

FILE75『気の迷い?』

「なあ」鈴木が本田を手招きする。



そちらに静かに出向いては、小声で「星野ってⅩなんじゃないか」と耳打ちされた。


「なんでお前が今更《Ⅹ》なんか探してんだ」と知りませんと言わんばかりの本田の対応に、「だって、クラスに悪意がある事は割れてるんだぜ」と鈴木は片方の手を動かしながら語る。




「そうやって探しているほーがよっぽど怪しいが」 自分の席の付近から去って行く本田を見届けつつ、(はぁ?ったく、もう《Ⅹ》って旬な話題じゃねえのか)と鈴木はどうしたものかとミッションを思い出して悩む。




(あのメール…無視しちゃ多分《Ⅹ》からの印象は下がる。何かあった時真っ先にターゲットにされかねない!!《Ⅹ》はなぜか俺にミッションを託した。でもなんで俺⁉俺ってクラスで目立った活躍した⁉ただ騒いでただけだろーが!誰にも、誰にも相談できねえ。こんな俺が相談係のポジション⁉)



両手で後頭部を押さえクラス委員の編成に不満も抱きつつ、(もう工作員のヤローに動いて欲しかねえ!一学期以内に星野を《Ⅹ》として公表してやる…!)髪を掻き回す鈴木を見て、何を考えているのかだいたい察し、計画通り、と言わんばかりに本田は口元だけを緩めた。




《キーンコーンカーンコーン♪》



チャイムが実践の時間の終了を伝えては、出海奈が教室へ帰ってくる。



出海奈は笹井と入れ替わり教卓の前に立つと、「上出来だ。が。ギリギリ目標額に足りていない。」と辺りを見渡す。



意味深に下を向く盛田。




「いいえ」盛田は出海奈に静かに言う。




「これはまだ先日分が収益表に【反映】される前のデータです。現状、五月最後の記録は一千二百万三千三十五円…ほぼジャストになるはずです。」




その報告に、『ほぉあー』とクラスメイトたちが胸をなで下ろす。



「そ、そうなのか」出海奈の問いに、茅野が「はい!確かに今日の昼間、不足分が学園の口座に振り込まれてます!」と確認しながら答える。



(不足分が振り込まれてる?)不自然な茅野の言い方に、本田はちらっと安心した様子の盛田の背中を見る。



「良かった…良かった。誰も死ぬことが無い」涙する志田。



(…急に四百万の不足なんて即日稼げるはずがないわ)



笹井も不可解なこの事象に驚きを隠せない様子だ。



以前盛田が一人で五十万を稼ぎ出した姿を思い出す笹井と本田の二人。




(なるほど)二人の思考がリンクする。



(盛田さんが何か細工をしたわね、これ。でもどうして彼女にそんな事が可能なのかしら) 



(あいつもあいつで外部と繋がれる環境を構築しているのか?いや、一人で単独で動いたと考えた方がこの場合自然だな。でも、かなりの高確率であいつ、俺と同じように端末を二つ所持している) 



本田と笹井は盛田について考え込む。



(俺としては好都合だ。だが盛田を追い込むのは悪手。それよりもここまで状況が整っているなら)とその選択を取るのか必死で悩む。


(…でも、待て。俺は何人を【利用】する気だ。極悪人そのものの思考じゃないか)


《選別:優れているものや必要なものをよりすぐり他と区別する事》


(…俺はこんな悪者になるためにこの学園に来たわけじゃない、むしろ)


《迷い:心が乱れてどちらを選ぶべきか判断がつかなくなる状態や煩悩に囚われて心理を見失う事》


『お前の行動原理は少々理想に偏っているようだからな』


『情なんて抱くから笹井さんを売る最善の判断もまともにできないんですよ』


『だから私は教祖様の墓前に誓ったのさ、教祖様のやりたかった事を私が継いで不幸そのものが無い社会を作ると。私が目指すユートピアなら確実に《不幸》も《格差》も生まれない』




様々な人物たちの今まで聞いてきたセリフが次から次へと蘇る。ボーっとホワイトボードを眺め、『――――これから――――』ノイズのように聞こえる出海奈の言葉を脳に取り込もうとするが、意識は迷い、迷いへと進む。


だが、そこに。光が差し込んだ。



霞む本田と同い年くらいの、男の笑顔。



その姿は所謂、チャラ男系。



『――――俺は、《お前》を全肯定する。《お前》となら地獄だって、天国だって。一緒に行ってやるつもりだ。楽しい事だって、苦しい事だって、俺と《お前》は今まで一心同体だっただろ?そんな事で切り捨てる程、俺は《お前》が腐ったとこで変わらない。だって《お前》は俺の最高の―――――』




その男の暖かさに癒されていれば、出海奈が「本田」とこちらを見つめる。「 あ 」教室の視線が本田に集まる。「競技祭の説明聞いてたか」ホワイトボードに書かれる重要事項の数々。


「あ、はい、聞いてました」 



「なら良い、今日は解散だ、誰か帰る前にホワイトボード消しておけ」と出海奈が生徒を見渡しながら伝える。


「じゃあ私がします」と笹井が頷く。




朝に号令をした生徒と同じ生徒が立ち上がり、『起立――――礼―――ありがとうございました――――』声と仕草が揃って行く。



中身だけ見れば普通の教室だ。



笹井が立ち上がり「クラスの雰囲気、確立してきたわね」と本田に言ってホワイトボードを消しに行く。



スクールバッグを取りにロッカーに手をかけたところで、(いや…ちがう)とその手を震わせる。



(志田ですら詐欺自体に反発する頻度が減って来た。朝日なんてどう騙すか。と的確な企画を出している。しかも、榎本や福川と雑談を交えながらだ。)


『ねえみんなもそうなの、馬鹿みたいな事、続けるの⁉』本田の脳裏で鳴りやまない五月序盤の志田の叫び。だが志田本人を見れば星野に付きっきりでもはや詐欺よりも星野の存在が心の余白を埋め尽くしている。




「…」茅野がスクールバッグを取り、「じゃあね本田くんーまた明日―♪」と声をかけるが、「ああ…」としか返せなかった。鈴木が「いつまでお前そこ居るんだよ」と言いながら流れるように教室を出ていく。




ロッカーの後ろが詰まる。




「ちょっと本田くん取れない」と盛田が言っては、「悪い、」とスクールバッグを持ちながらロッカーを離れ一人で下駄箱までトボトボ歩いていく。


(俺は…いい加減に決めなくちゃいけない)




本田の心情とリンクするかのように、四葉が入っていたストラップが、ブチッと千切れ、次に教室から出てきた生徒たちに、踏まれてガラスが割れ、四葉が…破けた。



後ろからすっと姿を出したホノカが、四葉の残骸を手に取る。



「…あいつは確かスズランだったな」カガミを思い出しながら呟くホノカ。


「似通った奴等め、ああいうタイプは扱いが面倒だ」


ホノカは四葉を窓へ散らす。


「ねえ。それ良いのそんな事して。彼のでしょ?」赤のミディアムヘアの少女が、遠くなる本田の背中を見つめながらホノカに話しかける。


「ヒビキ。なんでお前までこの学園についてきたんだ。一時は死にたいと思った女が」


ホノカが怪訝そうに問いかければ、「辿りたかったのよ。弐式カガミが何をあそこまでしてやりたかったのか」とヒビキが答える。


「死神は一人で充分だ。だが皮肉だな。死にたかった女が死神としての不老不死の使命を課されるか。」


「親の介護生活よりよっぽどお勤めのほうが楽だもの。力だって手に入った事だし。それに、次にどんな運命にされるかわからないランダムの転生なんてしたくなかったの」


ヒビキはそう言うと、スクールバッグを担ぎながら、「でも学生に詐欺だなんて弐式ったら何を思ってこんな計画立てたのかしら。《Z2をばら撒いてパンデミックを起こしその間に国家干渉する》ってのが当初の目的だったはず」とホノカに問いかける。



ホノカは「私はわかるぞ」と微笑み、ヒビキの一歩先を歩いていく。



「わかるなら教えなさいよ!」ヒビキはバタバタと廊下を走りながらホノカを追いかける。



担任の皇に、「翠川さん!紅月さん、危ないから廊下は走らない!」と怒られては、「はーい」「ごめんなさあああい!」と二人は答え、ギリギリの早歩きになっていった。



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