FILE74『災厄への近道』
実践の時間が来ては、笹井が教卓の前に入れ替わる。「さて、今日も通常通りはじめるわよ」笹井はそう言った後、「星野さん」と名指しして、「露骨に暗い顔するの辞めてくれる、さっきもだけどマイナスオーラピンピン。教室の空気悪くしたいの」と鋭く、冷めたような視線を星野に向ける。
茅野は「そんな言い方」と笹井を止めようとするが、「いいえ。無理矢理明るくなれとは言わないけどせめて顔あげなさい…それとも何か訳があるのかしら」と星野に伝えた。
星野は、「ううん、大丈夫」と首を横に振った後で、パソコンを取りに行く。
朝日たちもパソコンを取りに行く中で、本田は、「ちょっと、星野借りていいか」と席に座ったばかりの志田に話しかける。「え?」と首を傾げる志田。
パソコンを机に置いて帰ってきた星野は、「ちょうど相談したいことがあった」本田に笑顔を見せ、「ごめんね?」と志田に手を振り廊下へ連れてかれる。
倉庫部屋の扉に凭れ腕を組む本田。
「…お前。志田の事どうしたいんだ。座学の流れで気になって」その真っ直ぐな視線に、「とびっきり優しくして、私のものにしたいかな」と星野は答える。
不気味な笑顔。若干の狂気。目が笑っていない。
「俺に相談したかった事って」次に本田が聞いた事に、星野は、「タイミング、ずっと見計らってた」と言いつつ一歩顔を近づける。
「どうやったら志田ちゃんを壊せるか教えてよ。知ってたんでしょ。本田くん。そうだよ。私が全ての犯人。私、これでもクラスには何の恨みも無いの。前に本田くんが人狼ゲームで例えてたけど。例えるなら、私を例えるならキツネ♡私は私の目的の為にしか動かない。今の私の目的、それは志田ちゃんに優しくすること。志田ちゃんに優しくするには【きっかけ】が必要だった。クラスのみんなには、内緒だよ?」
その独白に、「俺が黙っても公表されるかもな。そのうち。」と淡々と本田は返事をする。否定も、肯定もしない。
「なんで」きょとんとする星野。「このクラスには工作員がいるんだろ。なら学園側に通告される可能性や笹井や他の奴等に割れている可能性だってある。」その忠告に、星野は「私…処刑は嫌。志田ちゃんのそばから離れたくない。志田ちゃんに嫌われたくない」と首を横に振り本田に訴える。
「なら志田を犯人に見立てた方が賢かったんじゃないか。志田の名前まで書くのは純粋な馬鹿だろ」
だが彼は星野に寄り添う姿勢は見せなかった。それどころか、何だか一番冷たいのではなかろうか。
「…本田くんも役に立たないならいいよ」星野はそう言うと、つまんなさそうにスカートを風に靡かせて去って行く。「チッ」本田が教室へ帰れば、何だかすっきりしたように志田と話しながら、パソコン作業をしている。
(あいつを開発役に置き横に茅野を配置したのは結果よかったんだが、学園側=Ⅹの考えを俺が外しがちな事を見事に笹井に突かれた。笹井はこの後どう動くつもりなんだ?差し出されるのは困る。にしても笹井にも取り引きを持ちかけに行っていたのはかなり厄介な立ち回りをしてくれるなあの親子は)
本田は開発チームの様子が見たくなり立ち上がる。
「何かそっちの進展はあったか」
「茅野さんが朝日さんたちの案を少しデモンストレーションで動かすって言うからそれに合わせてプロンプトを組み立てて設計図みたいなの作ってはみたんだけど、相変わらずパソコンまともに触れるのって盛田さんと茅野さんだけで、私と星野ちゃんは指示待ち人間化。いくらAIが上手く使えるからってやっぱり全体像にAIっぽさは残る」
志田の説明に、盛田が本田のいる場所を振り返りながら、「私たちでそのデザインとかを修正して本物っぽくしてるところです」と笑みを見せた。
「嗚呼、それあまり直さないで素材だけファイル入れといてデータは保存で頼む」
本田が指を動かして画面のここら辺、と教えながら言っては、茅野が「えなんで」と手を止める。
「それより作業一旦保留で、これ。増田が持ってきた偽サイトの新機能のアプデ作業をお願いしたい」と運営チームが印刷した新機能要望が記載された紙を茅野に渡す。
「え?ああ…いいけど」茅野はそれを受け取りつつ、「要望通りにAⅠ機能するかわからないよ」と本田に伝えた。
「この箇条書き全部とは言わないから、出来そうなとこだけ」
茅野は背もたれにもたれかかりながら、「私仕事過多ぁーーー!」と叫ぶが、盛田に「大丈夫です、一緒に頑張りましょ!」と励まされる。
笹井は教室中を眺めながら、「ねえ、今月。総額一千二百万行きそうかしら」と不安げに呟く。
「…おおよそ四百万が」本田はタブレットで表を見ながら「不足してる」と深刻そうな表情を浮かべた。
「五月も後数日。処刑者が出るのは時間の問題」笹井は片手で頭を抱えつつ、「覚悟はしときなさい」と本田に伝える。
「だが…処刑できる位置なんて無い、全員大切な命だ」
「あなたって本当に性格と言動が合ってないわね」
本田と会話した後、笹井は朝日たちの方へ移動する。
「ねえ。どう?また何か思いついた?」と問いかけると、朝日が「…」と笹井から目を逸らす。
「うん。思いつきはしたけど…。私、なんでかな。アンタの事信用できない、あまりアンタと関わりたくはないかなって…」
「どうして?」
きょとん。と首を傾げる笹井に、榎本が「本田くんの方が裏切ったりしなそう、って言うか、何か笹井さん…怖い」と続ける。
「あら。人は話してみると案外印象って変わるものよ。自分で言うのもだけれど、話す前から自分の印象で拒絶するのは損じゃないかしら?それに。私の唯一の友人もね?あなたたちみたいな特殊…って言うか、ちょっとマニアックな趣味してて話はずっと聞いてたし嫌悪感無いの。私が好きな漫画にもそう言ったジャンルはこの検閲下でも未だにあるし。そういう事って異性にはなかなか言えないでしょ。」
笹井の一言に、『はぃ?』と首を傾げる朝日・榎本・福川の三人。
「別に。企画書渡してくれるだけで私は構わないし。それすら私と関わらないって言うなら普通に本田くん通せばいいわよ。でも、コソコソ話じゃなくて正直に言ってくれるようになったのは助かるわね」
気品よく微笑む笹井に、朝日が「…その…申し訳ないけど笹井さんが好きな漫画って何…?」と少しでも共通点を探そうとしつつあるのか、震え声で緊張しながら問いかける。
【押忍!~極道塾殺戮の極み仁義の修羅~】と笹井はタイトルを教える。
「いや有名だけど」
「ちょっと想定外すぎる」
「お、オッサンのヤクザの抗争話」と返事に困る三人に振り返り、「まあ、私。そこまで非情な事するような女じゃないから」と優しい声で伝え、本田がホワイトボードに何かを計算しながら書く教室の正面へ移動した。




