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『一組 ─今日からあなたたちは詐欺師です─』  作者: ミタラリアット
一年生 一学期 五月

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71/111

FILE71『笹井のぞみの上達』

本田が自室に入り、(問題山積みだってのになんで今!)とさくらとの取り引きの対処法に頭を悩ませていれば、志田からピコン♪とラビィが届く。




《星野ちゃんが本当に悪い子だった》



スタンプも無しに一言だけだ。




「…」本田は、回収したペンの映像をスマホにワイヤレスで転送して眺めつつ、黙り込む。




ピコン♪志田からさらにメッセージが届く。



《星野ちゃんが言ってた、私の為って》




本田はその動機を詳しく志田から聞きたいのか、ラビィに電話をかける。




『あッ…本田くん』志田の声は案の定暗かった。




「その、星野がお前のためにお前悪口書いたってどういうことだ」『星野ちゃん…中学時代…いじめっ子だったって。だから、いい子になりたくて。私に優しい存在になりたくて。でもその為にはきっかけが必要で。学園中で噂になるために行動をしたんだって。ねえ…《Ⅹ》って。もう掴んでるのかな。星野ちゃんが真犯人だって。星野ちゃん、言ってたよ。朝日さんが横から出しゃばって来たって。私の作戦を台無しにしたって。私をただのいじめっ子に逆戻りさせたって。これってさ。《Ⅹ》が真犯人を既にわかってて朝日さんに言ったって事だよね』




「いや…」志田の報告を聞きつつ、「もう一つあるだろ。朝日がその《Ⅹ》または奴の内通者」と本田は答える。



『…そ…うなの…かな…ねえ。本田くん。星野ちゃんの事。公にしないであげて。私は本田くんにしか言わない。星野ちゃんを…悪い子にしないで』



志田の心配そうな声に、「わかってる。でも例の工作員が独自に動いてるなら星野が真犯人だってバレないって保証はクラス委員だけではできない。とりあえず、相談係だから鈴木にも共有しておいてくれ」と本田は指示を出す。




『鈴木くん?運営チームじゃなくて?』「嗚呼。佐田や飛鳥、布田とかに言いたいか?」なんで急に鈴木なのかを問われ具体的な理由を挙げては志田は『ちょ、ちょっと嫌かも』と考えるような声で言った。




「鈴木がお前にとって信頼できなくて嫌なら増田でも良い」



『…う、うん。でもなんで?そんな事したらもし何かあった時に誰が噂を広めたかわかんなくなるじゃん』




「逆だ。用は一部にだけ情報を与えて《Ⅹ》が動き出したら誰が《Ⅹ》本人かを絞りやすくするんだよ。恐らく朝日を用意したって事はあっちも何かを企んでいる」




本田の少々強引な案に、『この機会に星野ちゃんを利用して一緒に《Ⅹ》も炙りだそうって言うの』と志田は驚いたような反応を見せる。




「後お前は…星野のそばにいてやれ。動機が志田の為に優しくなりたいってんなら、志田がそばで話を聞いてやるほうが効果がある。志田は星野に肯定的な言葉だけをかければいい。そうすればお前の望みも叶う」




本田の助言に、志田は『…でも待ってよそれって洗脳みたいじゃない。私は星野ちゃんに星野ちゃんの意思で』と返すが、これ以上話すことは無いと思ったのか電話をブチ切される。




《ツーッ、ツーッ》




志田は自室で「え…」電話が切れた音を聞きながら、「本田くんってクラス委員として有能じゃない…?」とつい彼の事を見直してしまう。「……なんであいつってあんな普段人と関わりませんみたいなツラしてるんだろう」




一方、クラスメイトたちとの遊びから帰宅後の笹井は本田と電話で何かを話す。




「ええ…わかったわ…」『で、お前の方からは何かあるか』



「あなたのその情報を渡す先を絞って《Ⅹ》の動きを見るって作戦。茅野さんにも共有したいの」



笹井の言葉に、本田は『はぁ!?茅野!?』と嫌がっているような声をあげる。


「だって茅野さんが学園側の裏切り者って言うのならこの作戦に巻き込んだ方がいいじゃない。それとも都合悪いの?」


『悪いに決まってんだろ本当に《Ⅹ》ではない裏切り者が動いたら盤面ややこしく………!!!』



「ねえひとついいかしら」本田の焦るような喋り方を聞いた笹井は「なぜ学園側の裏切り者と《Ⅹ》を未だに分離して考えてるの?学園側の裏切り者がイコール《Ⅹ》の可能性ってあなた考慮しないわよね。盤面は覆っているのよ」と指摘をする。



『…』



「…」



少しの沈黙が生まれる。




「私、まだ学園陣営が動いていない可能性も捨てきってはないわ。それとも学園陣営が動いたらまずい方向に《Ⅹ》はいるのかしら。じゃあ本当に《Ⅹ》は一組を守るために行動をしている可能性があるわ。まずはあなたが茅野さんが学園側の裏切り者と言うのなら彼女に真っ先に情報を与えるべきじゃないかしら」



『…お前って人探しにこの学園に来たのになぜそこまで《Ⅹ》に執着するんだ。自分の目的を最優先したらいいんじゃないか』




笹井の推理に本田が論点ずらしの手法で精神攻撃のカウンターを与える。




「私の目的のためにはあなたに与えられた《クラス委員》ってカードを酷使すべきよ。クラスがごたごたなら取るべき情報も見逃してしまうわ」




一学期に比べて、余裕そうな態度。声色。表情、そして高揚感に酔っているような笹井の口ぶりに、スマホ越しの本田は苛立ちを覚える。




『…俺はお前が今何をしようとしているのかも知っている、当面はお前の勝手な動きはさせない』



「…そう。じゃあ私もあなたの勝手な行動は無視して茅野さんにその星野さんが真犯人って情報を横流しするわ」本田の声のトーンが低くなったのを察し、笹井はその電話を切る。



「…私としては上出来な立ち回り」


スマホの偽造を見抜けず諦めてしまった時の事を思い出しながら、(人の時間は止まらない。毎秒。変わり続ける。私の全ての行動はケイにたどり着くための手段でしかない。それなら私は学園側の人間にも、生徒に寄り添うクラス委員にもなれる。多少の汚れ仕事だって。引き受ける覚悟ならもう出来てるわ)とアメジストの指輪を眺め心の中で呟いた。

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