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『一組 ─今日からあなたたちは詐欺師です─』  作者: ミタラリアット
一年生 一学期 五月

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69/111

FILE69『互いに好きでもラブ・フラゲ』

志田が「星野ちゃん…」と手を伸ばす中で、星野はドアをバンッと大きな音を立てながら閉じる。



「なんでなんでなんでなんでなんでなんで」自分の感情を制御しきれず小声で繰り返し呟いては、部屋に戻り、布団を何回も叩いた。



「ンで朝日みたいな女が私の役を奪って行くのよ」星野の声が掠れる。



「優しく…なりたいの」「優しくなるためには…きっかけが必要でしょ」



星野は過去の自分の所業を思い出しながら、(私…これじゃ本当に逆戻り。いじめっ子そのものの姿だよ)と罪悪感に駆られていく。




(…ちがう)目を見開く。


(いじめっ子は一度いじめっ子に堕ちたらもう二度と帰れない)



教室で榎本たちが朝日に放った、《悪い事したやつの人間性なんて底知れてるでしょう⁉》と言う叫びが星野の頭を占領する。



「…星野ちゃん」



志田が星野の部屋の中に入ってくる。




星野は、「なんのつもり」と志田に冷たく言い放った。




「なんでそんな喧嘩腰?」と呆然と立ち尽くす志田。



「私…私ね。志田ちゃんが思ってる程綺麗な人間じゃないの。もっと人から恨まれるべきで。処罰に当たる存在。」




星野の震えるような声に、志田が「そんなことないよ星野ちゃんは」と入り込む。



「 じゃああなたは私の何を知ってるの⁉ 」



だが、大声を出され、伸ばした手を力なく下ろす。



「…私なんて汚い存在が…薄汚れた瞳で何も成し遂げられ無い手で…あなたに想いなんて伝えることは許されない…だって何者でもない私は…ただの人間の皮を被った化け物にも匹敵する悪意の集合体なんだから」 



「ねえ。それ…意味…わからないよ。私は星野ちゃんが悪意の集合体だったとしても抱きとめる覚悟はあるよ。私は星野ちゃんが好きだから。星野ちゃんって概念が。確かに星野ちゃんの温度と優しさに私は救われてる。卑下なんてしないでよ」



志田は星野が被った布団を退かす。



「 いやあッ! 」  



「…薄汚れた瞳って…。綺麗な目してるじゃん。誰よりも。私が好きな星野ちゃんを星野ちゃん自身で否定しないでよ」志田の一つ一つはっきりと伝えるような言い方に、星野は、「…志田ちゃん…今日は帰って」と自分に嫌悪しているような、疲れの見える言い方で弱々しく呟く。




「…」小さな背中で黙って扉を閉める志田。



(私の演技は…自己の欲望を満たすための材料でしかないんだね。笹井さん。言ってた事わかったよ)


星野は以前笹井と演技練習した事を思い出す。



笹井とくしゃくしゃになるまで練習した、自分がとある舞台で演じた台本を手に取る。




【プリンシパルの君へ】



(…笹井さん…笹井さんの声量、仕草。そのどれもが同じ《役》でありながら、誰かにものを伝えるための動きだった。一つ一つ。指先や髪の靡き方まで計算されたプロの技。でも私はただ自分が気持ちよくなっているだけで。見る人の事なんて考えられていない。《役》を演じる事自体が目的で、その先に何を見出したいのかが、全くわからない)




星野はベッドの上に座り、まだ綺麗な台本を二つに引き裂いた。



「もう、いじめっ子なんて辞めて…志田ちゃんに優しくする…そんな役を担いたかった」



星野のひとりごとが、ポツリと部屋に溢れた。



ベッドの上から、部屋に届いていた食事を、じーっと見つつ、「…今日のBセットはかぼちゃ…」と呟いた。




女子生徒寮の前を、ホノカが歩く。



「ン?どうしたんだ、お前」泣きながら学園側ではない島の奥地に向かって走ろうとする志田を捕まえるホノカ。



「あなた…二組の!」志田はホノカを睨み付ける。




「脱走したやつがどうなるかなんて今日の今日見ただろう?」その忠告に、志田は「星野ちゃんに嫌われた私なんてもう…!」と涙声で叫んで言い返す。



「この世の中に救いんて無いのよ、!全ては悪趣味な神の悪戯ではじまり絶望で終わる!!!私は、私はただ星野ちゃんのそばにいたいだけなのにどうしてッ!だから、だからね、私…もうこの学園を出て星野ちゃんと」



ホノカは座り込む志田を眺めつつ、「…光道教」と呟いた。


「…何」志田はホノカの呟きに顔を上げる。「たとえ神がお前を見放したとて…光道教はお前に救いをやるぞ」




ホノカのリボンで止められたツインテールが風に靡く。



「…光道…教…救い…」志田はホノカの背中に、「ねえ、その《光道教》ってなに」と問いかける。




ホノカは首を大きく傾げて上を見上げながら、「…この学園の禁断の領域だ」と答え、立ち去っていった。



監視役らに見つからないように生徒寮の自室に帰った志田は、「…光道教」と呟き、タブレットで入力する。




【検索エラー】と表示されては、慌ててそのスマホの画面を閉じた。「救済…」志田はその言葉を脳内で繰り返していく。



「…私が星野ちゃんを救わないと」志田が決心したのと同じタイミングで、『ブーッ!』と志田のスマホが鳴った。



《あなたが次のⅩに選ばれました。MISSION1・記録表にあなたを中心とするクラス全員の悪口を書いた真犯人を探して理由を聞き出しクラス委員のどちらかに通告してください》 




「はッ」




(このタイミングで…)



留守番電話を聞きながら、反射的に顔を上げ、スマホを握り締める志田。



(…なんでわざわざ私なの…それにじゃあ朝日さんは…?今日の星野ちゃんの様子…まさか)



志田はごくりと息を呑んだ後、出海奈の《全ての事象は裏返せる》という座学を思い出す。



「…覚悟、決めなきゃ」


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