FILE68『好きと嫌いと』
クラスメイトたちが本田を囲み、監視役がその後を追いながら生徒寮へ向かう。
当の本人は「いや、マジでそんな俺に気ィ使わなくていい…」と狼狽えるが、「たまには有難く受け取りなさい」と笹井にキツく言われ、布田にも「せやでせやでせやで」と肩を組まれる。
横には鈴木も、「正直、最初お前の事変なやつって思ってたけどなー」と布田が組んでいない方の肩にしがみつく。
「ちょっと待て、広がって歩くな俺は院長じゃない」本田のツッコミに、「意外と汝、そうやって面白い時は面白がる事が出来るんだから普通に笑って楽しんでいればいいんじゃないか」と増田が自分のスクールバッグと、肩を組まれた衝動で落ちた本田のスクールバッグを手に持って揺らしながら言う。
「えっと…お前らはなんでそうやって俺に」急な善意に状況がなかなか読めない本田に、朝日が「なんでって。アンタ私に裏返せば才能だのなんだの言ったけど。私も結構有難いとは思ってるのよ」と答える。
志田と、俯いて並ぶ星野が朝日を横目に見る。
そして《蘭》の寮が近くなれば、全員より一歩先を歩いていた茅野が、「お先にごめんね?また明日♡本田くん安静にするんだよー!」と手を振り、「盛田さんのとこあとで行くね!」と茅野の隣を歩いていた盛田に言う。
盛田は「は、はい!」と笑顔で頷く。
本田は、「え、ああ」と茅野の背中にも返事をする。
「本田、悪い」「ほら、買ってきた」
不在だった佐田と飛鳥が、生徒寮の近くにあるコンビニからスポーツドリンクとタオルを購入し前に差し出す。
「オイ俺べつに風邪ひいてるわけじゃねえし」と本田が二人にすかさずツッコミを入れるが、佐田が「俺がお前を助けたいからやってんだよ」とグッドサインを示す。
鈴木と布田は組んでいた肩から離れつつ、布田が「ほれ」ビニール袋を受け取りそのまま本田に流した。
「…タオルぐらい持ってんだけど」と本田は言うが、「お前意外と可愛いやつ好きそうだし」と飛鳥が見てみろ、なんて仕草を見せる。言われるがまま袋の中を見ては…。
「げ」と青ざめた。ハート柄。プリティ。ピンク。現行でやっている魔法少女アニメの絵までついて。女児先輩またはオタクに等しい人向けの明らかな…。
「…絶妙につかいづらい」と本田が言っては、笹井が「へえ。あなたそういうのが好みなの」と冗談交じりに鼻で笑う。
「バッ…」思わず乙女みたいにバカァ!なんて言ってしまいそうになったので、「違う!断じて」と言葉を変えて必死に否定するが。
「じゃあそのスクールバッグのマスコットは何かしら」
目玉がボタンになっており黒一色、片耳がボロボロになっているようなデザインのウサギのぬいぐるみに目を付けられる。
「…これは特定のアニメじゃなくて土産もの売り場にあって単に可愛かったからっていうか」とギクッと笹井から目を逸らしながら言うが、「それ知ってる!」と志田が指差す。
「あれだよね?令和の病みカワブームが来た時にみんな買ってた…でも待って」志田はそう言うと、「二年くらい前のじゃない…?今買おうとしたら多分プレミア付いてると思うよ?」と呟く。
笹井はフッと微笑み、「仲良しなウサギさんがいるのね」と本田に伝え、髪をバサッと払って「ごきげんよう」と女子生徒寮、《葉》と書かれた看板がある方へ立ち去る。
「待って笹井さん!」志田も笹井の後ろを走って行く。
男子たちが、『星野?』と偶然にも声を揃え、立ち止まる星野を見るが、星野は前髪を顔に重くかけながら、「…あなたなんかきらい」と本田に伝え志田の後に続いてバタバタ走り去って行った。
「ンだあれ」と鈴木が言うが、本田は「さあ」と首を傾げる。
「お前星野に嫌われるような事した?」
「そもそも接点無いやんそこ二人。特段絡みとかあったん?」
佐田と布田の会話に耳を傾ける。
飛鳥と増田も顔を見合わせ、「なんか知ってる?」「志田と星野って仲が良かったはずだから。志田が本田に近づいた事に嫉妬したんじゃないか」「でも一瞬だぜ?」と憶測を語る。
「…きらいか」と本田が呟いては、布田が「まあ気にせず本田はゆっくり休みィ、」と優しく声かけをする。
生徒寮が見えて来ては、後ろを歩いていた監視役が散らばって行く。
『―――――じゃあな!』「ああ」本田は生徒寮の前でクラスメイトたちと別れつつ、玄関の扉を閉めてビニール袋を収納棚の上に置く。「はあー」深く息を吸った後で、(だいぶ回復したと思ったがまだ空元気だったか)なんて自分の両手を見ながら考える。
(警報…銃声…それに昼間の雨上がりの晴天…窓の外の虹…あの日と、あの日見た映像とまったく同じだった…状況が…思い出したくもない)
もう一度脳裏の奥底に封印しつつ、さくらに八剣という名前を認知されてしまった事を思い出す。
「…」前髪をかきあげるように頭を片手で抱える本田。
(こんなの、俺の我儘だ……)
一方で生徒寮に帰った笹井は、タブレットで真っ先に『病みかわウサギ』と入力する。
画像に映ったそれは本田が持っているものと同じ品でブームは大体二年前の五月。
令和の【メンヘラ】たちが好んでいた。と記事には記載されていた。
「…ちょっと欲しいかも」と笹井は値段を見てみるが、「⁉」定価八百円の物が、なぜか五万にまで跳ね上がっていた。どうやら昔の有名なインフルエンサーがデザインしたものでかなりの貴重品だとか。
「…二年前…全員同い年だから本田くんは十三歳…誕生日迎えてたら十四歳?」と笹井は顎に手を当てながら考える。そして、中学生の本田に想いを馳せて…。
(あれ…私最近…本田くんの事ばっか)と自覚し、(そんな、そんなことない!)とブンブン首を横に振る。
だが笹井はベッドにダイブして、クッションを抱く。
(どうしてくれるの…)
ドクッ…ドク…と早くなる脈拍。
なんだか身体までホカホカと温まる。
(…好き…?この私が、あの最低な男を…)笹井は身体を丸め、布団を被る。
「どうしよう…わたし…」目に涙を溜めながら、(彼を本当に好きかもしれないじゃない!)と声には出せず、自分の本音を理解してしまった。




