FILE67『子供たち』
優雅な音楽が流れる架空の街。薔薇園を歩いている本田は、ぱちぱちと瞬きする。
(あれ…さっきまで…俺)と本田は動揺しつつ、「ここ」と辺りを見渡す。「あれ、笹井…?佐田?…飛鳥?…え…」と振り返れば、地面から盛大な聖歌と共に、無数の外国の子供たちが現れる。
彼らはそれぞれ、『この人殺しが!』『この人殺しが!』と連呼しながら、本田を囲み、石を投げて責め立てていく。
本田は「人殺し?なに言って…」と混乱するが、子供らの顔を見て、「ハッ!!!!????」と動悸で胸を抑える。
「聞いてくれ、俺は!最善を尽くしたかった!尽くそうとしたんだ!」と手の仕草を交えながら子供たちに訴えるが、金髪で緑目の少女が、「でもお兄ちゃん、見殺しにしたんでしょ私たちを」と話しかけ、もう一人の少年も、「酷い…」と青い目に涙を溜める。
「違う…俺は…」本田は本気で恐怖に怯えながら瞳を揺らす。
「死ねばよかったんだよ。あの時」
「お前みたいに人を見殺しにするやつにものを語る資格ってあるのかな」
「ないよね」
『ねー!』
「しーねッ!」「しーねッ!」
「 お前は僕らを見殺しにした最低な人間だ! 」
子供たちの会話が本田の精神を刺激していく。
空間にはまるで自分を監視するかのように薔薇が浮いている。
ボロボロになった外国のパトカーや、脱ぎ散らかされたペストマスクも同じ空間に置き去りにされ、閃光弾や十字架も本田のトラウマを片手で弄ぶように、薔薇園の敷地内にあった。
子供たちが、本田を囲み彼を蔑むように見下ろす。
本田はその子供たちにひれ伏すように、「ごめんなさい…」とまるで土下座の如く姿勢を低くする。
「…恨んでいいから…ずっと…俺を呪ってていいから…」と本田が子供たちに手を伸ばそうとすれば、ベチャッ、と子供たち全員が溶けるように血液に代わり、消えていった。
「─────!!!!?????????」
血液の残骸を見ながら、「 … … …」と絶望するような表情でただ地面を見つめる本田。
赤い花が風と共に揺れる。薔薇の香りが、段々と人工的な消毒の香りに変化していく。
「――――くん」「本田くん」「本田湊くん」さくらに起こされた本田は、「⁉」と布団をガバッと開き起き上がる。
「あれ」本田が横にいるさくらを振り返っては、「かいちょお…?」と情けない声を上げる。
「…可愛らしいお目覚めですね」さくらに笑われては、「え」「俺」とどういう状況かまったくわからないと言わんばかりにさくらの顔を見つめる。
「倒れたんですよ、あなたは。銃声を聞いた途端に」さくらの言葉に、「え…俺が?マジで」と本田は問いかける。
「ええ。凄まじく発狂した様子で、それもクラス全員に心配されながらー」
悪趣味に微笑みながら言うさくらとは一変、「俺めっちゃダサいじゃん…」と頭を抱えて溜息を吐く本田。
「え?ダサい?とても可愛らしくて恥ずべき事じゃ無いですよ。人は強さだけじゃありませんのよ」
さくらはそう褒美を得たアシカのようにニヤニヤとした表情で言っては、本田の顎を持ち上げる。
「この養護室では二人きり…♡イイ事しませんか?」
「俺触られるのきらいなんですけど」とさくらに冷めた視線を向ける。
だがさくらは、「そうですか、失礼します」と本田の両頬を持ち、クチュ、クチュ、と音を立てながら、舌を絡めるようなキスをする。
「 は゛ッ…ふッ…ん゛…ぐッ…ふッぇッ…♡ や…馬鹿、ちょッと… 」
本田は白い息を吐きつつ、突き飛ばすようにさくらの身体を押して、「た、倒れた人間が目覚めて一番にやる事がそれですか!?」と唾が垂れかけた唇を腕で拭いながら激しくツッコミを入れる。
「あら?時系列的にはお姫様はキスで目覚めるのがベタでしょう??美味しかったです。」とあたかも当然であるかのように言うさくらに、本田は(あっめっぇ…最悪だ…)と青ざめる。
「で。八剣って誰ですか」さくらの純粋な疑問に、「ゲッホゲェェェ…!」と後ろを向いて咳き込む本田。
「あなた寝ている間。八剣、八剣って名前連呼していましたよ。その後に、【罰して】って」さくらの一言に、目を泳がせつつ、「もう大丈夫なんで帰ります」と制服のブレザーを手に取り立ち去ろうとする本田。
だが、さくらに「八剣って方のはなし…都合悪いんですか?」と問いかけられる。
本田は「…」と黙った。
「会長様にそれを教えて何になるんですか」と言う本田に、さくらは「教えて頂けないのなら、学園の権限で…殺しちゃいましょうか♡」と続ける。「⁉」わかりやすい反応を示す本田に、さくらは「冗談です」と言うが、本田はさくらを壁まで追い込み、その片腕を掴んで、「…先輩…それだけは勘弁してください」と弱々しく項垂れながら伝える。
「…まあ…あなたって本当にずるい男…私にこんなにもいろんな姿を見せてくれるんだもの。ねえ。本田湊くん、近いうちに、あなたに言いたい大事なことがあります。あなたの調子がいい時にでもまた」さくらに言われた本田は、「告白ならお断りです」とジト目で返す。
「いいえ。私にはあなたへの愛の告白なんて必要ないですから。それよりもっとあなたを深くまで理解するための一手まあ、お楽しみに」
さくらに言われた事を気にしつつ、「わかりました…わざわざ…俺のためにありがとうございます」とだけさくらに伝え養護室を出ていく。
本田が教室に戻ると、帰りの時間から二時間半弱が過ぎていたにも関わらず。教室の扉を開けた瞬間。
「本田あああああああ!」と鈴木に飛びつかれ、布田や佐田、飛鳥、朝日たちも駆け寄り、「うわあああああああ⁉」と盛大な勢いで本田は後ろになぎ倒される。
「ちょっと待ってたのはいいんだけど本田くん養護室から戻って来たばかりなんだから!」と笹井が止めに入るが、もうなんだかんだ全員本田を心配してたのか、「一緒に帰ろ」「さて帰るぞー!」とクラスメイトたちに引っ張られ教室の中へ。だが唯一。星野だけ。その場で立ち尽くして下を向いていた。




