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『一組 ─今日からあなたたちは詐欺師です─』  作者: ミタラリアット
一年生 一学期編

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五十八話『クラス委員として』


 一学期最後の日。夕方。


 学生証アプリが入った端末に、さくらから《覚悟は決まりましたか?》とメッセージが届く。


 《全ての対策は取ってある》と本田が返すと、


 ピコン。


 とメッセージが続く。


 《それは良かったです》


 さくらの返しに、安堵が訪れることも無く、本田は「…」と笹井に再度メッセージを送った。


 《俺の部屋に帰れ》


 だが笹井は居残り作業中。


 「もう一度校舎まで…」


 本田は考えるが、そうなれば監視役を要する為、「返って動きづらいか」と判断する。


 一方の笹井は、茅野と教室で作業をしていた。


 「んもぉー…いつ終わるのこれ」


 眠たそうな顔で言う茅野に、笹井は「もう少しの辛抱よ」と返す。


 収益表。


 一組全員の収入と支出を全て職員用のパソコンに打ち込む。


 「これこそAIにでもやらせようよ」と言う茅野を見て、笹井は「ふふッ、」と笑みを零した。


 茅野は、 「クラス委員っていろんな人にいろんな事任せられるよねぇ、前なんて布田くんに俺の彼女にって言われたよ」と苦笑する。


 笹井は、 「彼に至っては殆どの女子に片っ端から言ってるわよ」と笑みを含みながら返した。


 「なんか…私もっと他の役割があったはずなんだけど…すっかりこんな青春満喫してていいのかな」


 とパソコンを打ちながら悩む茅野。


 笹井は「あら?」と茅野の表情を見た後、 「でも楽しいわよ、あなたとクラス委員やるの」と答える。


 「へ?」


笹井の顔を見る茅野。


 時計は五時四十分ほどを指す。


 「六時に理事長室、呼ばれてるんだけど大丈夫かな?」


 時計を気にする笹井。


 「もう終わるわ」


 と言っては、笹井は打ち込んだデータを記録する。


 そんな笹井を、茅野は「笹井さんはやーい♡」と褒めた。


 「茅野さんだって後三人分じゃない」と画面を覗き込んだ後、 「後三人分、私がやっておくから」笹井は茅野のパソコンを借りる。


 茅野は、 「ありがとう、じゃあね?♡」と笹井に手を振って教室を出た。



 笹井も作業を終わらせ、生徒監視役と合流し寮に帰る姿を見届けて貰うと、全ての支度を済ませた後、届いた夕飯を見る。


 笹井は「…」と無心で電子レンジに食事を入れた。


 それを机上に置いては、ぱきっ、と割りばしを割る。


 (嫌な静けさ)


 六時過ぎの夕暮れが窓いっぱいから差し込む。


 数分後。


 食事を食べ終わった笹井は、ゴミ箱に捨てられる容器を置いて、以前本田に勧められた本を手に取る。


 (こんな難しいの読んでるのね)


 などと考えながら。


 それから時刻が七時半を指し、風呂に入ろうと着替えを持った時、


 ピンポーン。


 自室のチャイムが鳴り、着替えをバサッと笹井は落とす。


 「ウソ」


 笹井の鼓動は恐怖で少しずつ早くなる。


 「…ねぇ笹井さん、ちょっと」


 部屋を訊ねる聞き覚えがある声。


 (逃げろ 笹井 逃げろ)


 という本田の声が、笹井の頭の中で幾度と無く交差した。


 笹井は、扉を開け、勢いよく飛び出す。


 誰が訊ねて来たかも見ないまま、とにかく、とにかく校庭へ。


 笹井の部屋の前にいた志田は、 「ふぅん…」と意味深に口元だけで微笑んだ。


 「はぁッ、はぁッ、」どれくらい走った頃だろうか。


 笹井は本田に何回もコールをかける。


 自室にいた本田は、ズボンの中でスマホのバイブレーションが何回も鳴り響き、危険を察知したのか、


 「笹井‼」 と部屋を飛び出す。


 「…頼む…」


 校庭のほうへ向かう本田。


 だが本田が来る頃には笹井は、


 「辞めて…‼ 辞めてよ…」


 と校庭の木陰へと連れ込まれていた。



 その異変は、遠くからでも感じ取れた。


 「ッチ」


 本田は必死に車が去って行った方向を、車の光を頼りに走る。


 (何故だ、何故⁉ 茅野が起動しない⁉)


 倉庫部屋で茅野に『笹井に危険が及んだら必ず守れ』と命令を出した日の事をパニック状態で振り返る。


 同時に、出海奈が昼に『クラス委員の笹井と茅野は居残りで収益管理表記入しろー』と指示を出していた事を思い出す。


 (まさか…まさか…)


 無我夢中で走った本田は、木陰で木に手を付き、


 「はぁー…」


白い息を吐く。


 揺れる視界。


 布田に助けを求めようとするが、誰が笹井の部屋に来たかわからない分には容易に連絡もできない。


 この島の中で笹井が連れていかれるとすれば十中八九研究所だろうと考えた本田は、研究所へ続く道を歩き笹井を追いかける。


 車の中で手足を拘束され、口枷をはめられる笹井。


 「ッ゛ー゛モ゛ゴォー‼」


 必死に何かを叫び、助けを求めるが、笹井の救助要請に誰も耳を貸さず、車は走って行く。


 三十分ほど全速力で走り、本田は研究所前まで辿り着く。


 だがそこには既に笹井はいなかった。


 (中に入るか…でも…)


 思考を巡らせる本田は、鍵がかかり電気もついていないまるで廃墟のような研究所の自動ドアを叩き、中に入ろうとする。


 (裏の扉…いやダメだ…裏まで行くのに時間がかかる上に入れる保証もない…無理矢理何かで叩き割る…、駄目だ、叩き割ったところでここから笹井を連れ戻せるはずが無い…中には大量の科学者や監視役が……どうする…茅野…なぜ…なぜだ)


 混乱する本田だったが、中から、 ドンッ‼大きな打撃音が聞こえ、「はッ…」と何かを悟り瞳孔を揺らす。


 研究所の中から、『お"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ……』まるでゾンビそのもののような呻き声が続いては、本田はポケットに両手を入れた状態で下を向いた。



 「そうか」


 低い微かな声色が、夜の不気味な研究所前で響く。


 「期待した俺が馬鹿だった…これで守る荷物も無い…ここからは何の慈悲も無い、ただの騙し合いだ」


 ドンドンドン、という打撃音と、 『ゥ"ー…』生物のような呻き声。


 本田は静かにその声を聞きながら、トボトボと研究所前から背を向ける。


 拳を強く握る本田。その本田の表情に、色は無かった。


 片道四十分ほどの道を一時間半かけて歩いた本田は、生徒寮の自室に入るや否や体育座りになり、暗い部屋で微動だにしなくなる。


 その最中も、笹井の呻き声と、過去のトラウマが何度も、何度も繰り返され、本田は両手で頭を抱え丸くなるばかりだった。


 椛島からの着信が鳴るが、本田はそれにも答える事は無かった。

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