五十五話『祝福か地獄の前夜か』
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夜。パーティー会場。
「…私服で良いって先生言ってたしな…」
本田は自室でクローゼットを開ける。
「一応服は持ってきたが」
と考えつつ、本田は普段自分が好んで着ているような所謂・サブカル系のファッションに着替える。
準備を済ませ、玄関で監視役を待ち、パーティー会場に向かう本田。
B棟の体育館が、パーティー会場として開放されていた。
星野や志田がさわやかなワンピースで男子たちの注目を集める。
(あれ、茅野も私服持ってるのか…)
と本田は驚きつつ、飛鳥や朝日がいるテーブルに混ざる。
「ふははははは、本田。待っていたぞ。ここのミートボールは我、飛鳥様が全て頂く‼」
高笑いを浮かべる飛鳥に、「腹壊すよー」と朝日はツッコむ。
「バイキング形式にすると冷凍食品でもこんなに華やかになるのねー」
嬉しそうに言う朝日。
適当に取ってきた食事のラインナップで彩られる皿を見て、本田は、(まぁなんでもいいが)と心の中で呟く。
楽しそうに会話が弾む一年たち。
それは二年も変わらなかった。
(会長が誰かと話してる…当然か。会長にも女子の友達の一人くらい)
遠くにいる会長を眺める本田。
「あーむッ♡」
飛鳥が本田の皿からミニコロッケを取って口の中に入れる。
「人の皿でしょ⁉」と朝日は飛鳥の行動に驚いた。
飛鳥は、何処か楽しめていなさそうな本田を見て、「美味いものを前にして考え事か? パーティーぐらい楽しめ我が使い魔本田よ」と不器用ながらに彼を心配する。
本田は飛鳥の皿からプチトマトを取り、
「これでおあいこだな」と言いながら口へ運ぶ。
▽
暫く他愛も無い雑談をしていれば、「はーい。お菓子よーん♡」と二組の担任がテーブルに菓子を配った。
「マドレーヌにフィナンシェ、クッキーやビスケット、ここにきてこんなに菓子が食えるとは‼」
と大喜びの飛鳥。
隣のテーブルで、「皇先生…‼」と笑顔を向ける志田。「やっぱ二組の先生すごい可愛いー♡」星野も出海奈とは違い可愛い系の教師に憧れを抱いていた。
「だーめだだめだ」
と言いながら布施は星野や志田のいる席に座る。
「あいつは普通にしてりゃあ確かに面はいいが、壁殴ったりものぶっ飛ばしたりしてくるからよ」
大量の食事を運びながら志田や星野に近づく布施。
「あ、布施くん、確か二組の」と星野は布施を見て名を呼ぶ。
「おうよ、俺こそ二組の布施だ、ここは女子まみれだからな、ここに座ってやろうと思ったのさ」
「そうなんだ」
「ところで布施くん。最近何か変わった事無かった?…誰かが何か貰ったとか」
布施に探りを入れる星野に、布施は、「んー」
考える仕草をした後、「わかんねぇな」と答える。
「わりぃ、役に立てなくてよ」
布施はそう言うと、星野とグラスと自分のグラスを、「乾杯」と言って合わせた。
「ん~♡美味しい♡」ワインを飲む皇を見て、「私もお酒飲みたーい…」と手を伸ばす志田。
「ダメよ未成年なんだから‼」と止める星野。
その様子を観察していた本田の服の裾を、くいっと笹井が引っ張る。
「おいやめろ飛鳥…って」
笹井の顔を見ては、本田は、「お前かよ」と呟いた。
ふたりの様子を見ていた飛鳥が、「酷いな、俺じゃないぞ」と頬を膨らませる。
「隣座っていいかしら」
笹井の顔を見た正面にいる朝日が、
「えー」となんだか嫌そうな顔をする。
「私がこの席に座るの、気に食わない?」
そんな彼女のプレートには、
ケーキ、ケーキ、サラダ。
本田は白けた顔で笹井を見た。
本田が笹井の謎のセンスに触れるのを躊躇っていると、「なにそのラインナップ、外国の女王?」とドン引きしたような様子で朝日が言った。
「誰が何食べようが勝手なはずよ」
笹井はそう言い返すと、優雅にケーキを食べ始める。
「普段いろいろ食ってるくせにパーティーになった途端これか」
笹井に流し目を向けながら言う本田。
「ここの冷食総菜、美味しくないもの、何食べようが私の勝手。あなたたちに横から言われる筋合いは無いわ」
「笹井さんにずっと言いたかったんだけどさ、もっと棘の無い言い方とかしたらどうなの」
コンソメスープを飲みながら苦言を呈する朝日。
「…」
左手の人差し指で机をトントンとリズムよく叩いた後、「その言葉まるごと普段の貴方にお返しするわ」と笹井は言い返す。
だが、否定の言葉は無かった。
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険悪なムードが広がる中、飛鳥が、「まぁまぁ一学期ももう終わりなんだし、ここはひとつ将来の夢でも語り合わないか⁉」と立ち上がり、無理矢理話題を変えるものの、バタン、とグラスに入ったオレンジジュースを零す。
「ぁぁぁ…」
落ち込む飛鳥の様子を見て、
「ふふッ、」「ははッ、」
笹井と朝日が同時に吹きだす。
「…まったく」
立ち上がり布巾を取ってくる本田。
本田が帰ってくると、飛鳥が、「俺は機関の偉い人間になりたい‼ 俺の権力で世界征服するんだ‼ っふはははははっははははは‼」と厨二モードを全開にする。
「無理だって」
と馬鹿にする朝日に、「夢は語る分にはタダだぞ‼」飛鳥は大口を開けて笑う。
「語る分にはタダ、ね」
この学園の卒業生の進路を知っている笹井が、
「警察―――かな」と何処か切なげな顔で呟いた。
本田は布巾を片付けつつ、「意外だな」と返した。
「ただ、興味があるだけよ、誰かを守る立場に」
笹井の夢を聞いた朝日が、「あれ? 笹井さんって結構情に厚い?」と違和感を覚える。
「ばッ、バカね、そんなんじゃないわよ」と焦る笹井。
飛鳥は、「ふはははっはは‼」
何かに気づき笑った後、「ツンデレってやつだな‼」と楽しそうに言った。
「違うからッ‼」
次第に頬を赤らめる笹井。
次に飛鳥が本田に指をさす。
「お前の夢はなんだ‼」
飛鳥の名指しに、「え」と真顔になる本田。
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
三分経過。
「夢無し野郎」
吐き捨てる笹井に、本田は、「大人になるとそうも浮かばないんだよ」と答える。
「お前まだ高校生だろ」
ツッコミを入れる飛鳥。
「小さかった頃から見れば充分大人だろ」と真顔で返す本田。
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「じゃあお前の夢は爆美女に囲まれてハーレムって事で」
冗談を言う飛鳥に、朝日が、「ふッ…きゃははははは‼ あの大ボケ面でハーレム、あの大ボケ面で…」と腹を抱えて笑い出す。
「大ボケ面…?」と首を傾げる本田。
「じゃあつぎお前だぞ朝日。お前の夢は…まぁどうせサッカー…」
と言いかける飛鳥に、「違う‼」 と朝日が言い返す。
『え』
本田と笹井の声が揃った。
「サッカーはなんかかっこいいからはじめただけ、なれるもんならスポーツ選手もやりたいけど、私がなりたいのって昔から教えるほうなのよねー。プレイヤーじゃなくてクラブチームとかそっちー。」
と妄想しながら語る朝日に、上級生の進路の傾向を知っている笹井は、
「…」と険しい表情を浮かべる。
テーブルの下で笹井の掌の上に、自分の掌を重ねる本田。
「ちょ、何よ」「別に」
そう言って本田は笹井の掌の上から自分の掌を離した。
(な、な、な、何、なにこれ、何)
パニックに陥る笹井はよそに、少しずつ会場から帰っていく生徒たち。
数時間かけた食事会も終わり、帰りの雰囲気になって行けば、「みんなで固まって帰らないか」と本田が提案した。




