五十三話『君の友達は………』
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ブブーッ。会場中にタイマーのブザーが鳴る。
「あら?」
さくらはあっさり本田に勝ててしまったことに、手ごたえを感じていなかったのか、「どういう事ですの」と目を丸くする。
「…とりあえず誰に支払わせるか選びなさい」とさくらに一年生たちの顔が書いてある紙を渡される。
「ふッ…」と口角を上げる本田。
「これではっきりした」と笑う本田に、さくらは「へ?」と首を傾げる。
「お前に敢えてベラベラ喋らせておく事で、学園がどこまで把握しているかがわかる…。俺が開示したのは携帯を複数台持っていると言う事だけ。だがお前は無意識のうちに、理事長がどこまで把握しているか、学園がどのようにして俺の情報を掴んだか。まで話してしまった。それに俺はここで敗退する事で、普通に会長に負けた男子生徒になれる…。下手に誤魔化しながら勝とうとするよりよっぽどいい…それに…」
笹井のいる場所に流し目を向ける本田。
長谷部が、「うわァァァァァァァァァ‼ こんな…‼ こんな女に‼」と発狂しながら頭を抱えて座り込む。
「三千万くらい持ってるわよね」と長谷部を見下ろす笹井と、「持ってます…」と細々呟く長谷部。
笹井は「気分がいいわ」と勝ち誇るように髪を靡かせる。
「あいつは勝てそうだからな」本田はそう言いながらさくらの席を立ち去った。
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本田は会場から出て行こうとするが、楚々辺に引っ張られるように肩を掴まれる。
「うおぁッ‼」
後ろに倒れそうになる本田。
「誰だ⁉」
爆音のBGMの中、本田が叫ぶが、そこには楚々辺理事長がいた。
「見事なショーだった。ぜひ君と一度お話がしたい。このまま理事長室まで来てくれ」
本田は楚々辺の頼みを、「…いやです。帰ります。」と一蹴し、カジノの門を振り返るが、振り返った先に黒服。…監視役とは違う様子だ。
その黒服たちに軽々捕まってしまう。
逃げようと本田は足をじたばたさせるが、観客たちは次の試合にケンを選ぶ笹井に夢中でこちらを見向きもしない。
天井からの映像も…。
今は笹井と生徒会を映している。
救出は見込めない。
そんな事を考えている間に、「がはッ…‼」本田は睡眠薬が染み込んだハンカチを口に当てられ、睡魔に襲われる。
意識を失う途中、自分の口元に伸びていく指で、八咫鏡の紋章が入った指輪が輝いている事に気づくが、そのまま本田はがっくりと意識を失ってしまった。
お姫様抱っこで本田を退場させる黒服数人。
学園の人間ではなさそうだが、研究所や製薬会社の人間にも見えない。
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淡く、少し心地よい夢の中で、本田は白髪の男…坂杉に話しかけられる。
『れっちゃん…れっちゃん…』
坂杉が本田によく似ているがメガネを掛けた男性の身体を揺さぶって起こす。
場所はどこかわからないが、自販機や階段へ続く扉、火災警報器が付いた消火器などがあり、市役所。や、それに準ずるような場所特有の物々しい雰囲気が漂っていた。
『れっちゃん。疲れすぎなんじゃねーの? 最近立て込んでたからなー…だからって、こんな場所のソファーで爆睡なんて。目立ってしゃーねぇだろ? 寝るにしたってもっとさぁー自分のデスクの前とか』
ベラベラ喋る坂杉に、『いいから寝かせろよ…三徹で疲れ切ってぶっ倒れた奴起こすかフツー』と本田によく似た【れっちゃん】と呼ばれるメガネ姿の男性が答える。
だが…仕草、口調は全く違うものだった。
『でもカバちゃんが。お前の様子見て来いってうっせぇから来てやったの。お前なぁ、いい加減休むって事覚えろ』
心配する坂杉の顔がだんだんとフェードアウトしていく。
「あー…もー…」と寝言で言いつつも、夕陽で照らされる理事長室で目覚める。
「…あれ…」
本田は辺りをキョロキョロと眺めた。
「坂杉…って君の知り合いかな?」
楚々辺の声がした後、「ッ⁉」大きな息を吸いながら本田は起き上がる。
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「競技祭での悪知恵。見事だったよ。君のおかげで火野くんは一学期での追放が約束され、鈴羅木くんは人間不信になった。どうだい? 君は周りの人間を不幸にする。違うかい?」
さくらと似たような、だがそれよりも憎たらしい、この状況を楽しむような表情に、本田は圧倒される。
「…話したい事は何ですか。俺を誘拐してまで話したい事って」
自分の感情を見せないよう、話題を本題に変えさせる。
楚々辺は、「私も馬鹿じゃない。君を敵に回したりなんかしないさ。…ただ。君は逸材だ。私物のスマホから職員室のパソコンをハックする技術さえ持ち合わせている…その才能を。黙って私が見逃したりしない」と本田に片腕を伸ばしながら言う。
「…エージェントにならないか? この学園を私と支えるエージェントに。君ほどの原石であれば、夜叉鏡の亡者のようにもなれるはずだ。私は彼の再来を強く求めているんだよ。彼の描いた世界は実に美しかった。技術を横取りされる前に衰退させてしまうのだから。国民には最低限の技術だけを与え、本当に発展したものはこの島に幽閉する。…不幸のもととなるものは、予め全て取り除こうとしていたんだ」
楚々辺の説明に、ソファーから立ち上がった本田は「なぜ不幸を取り除くために技術を幽閉する必要があったんだ」と問いかける。
楚々辺は「他の人間に使われるのが不都合だった」と答えた。
本田は「だが、この島は人が乗り移る前、C国に軍事使用されていた…‼ 仮に光道教が海洋エネルギー研究所に最初から関わっていたなら技術を譲り渡した事と同じだろ⁉」と楚々辺に指摘する。
「…利点があったんだろう。彼なりの利点が…海洋エネルギー研究所。君はもうそこまで目を付けていたか。近いうちに…君も盛田くんのように…暴徒になってしまうのかな」
高揚感に浸りながら言う楚々辺。
「暴徒?」
首を傾げる本田の背後に立ち、その背中をそーっとなぞるように触る楚々辺。
本田は「うぐッ…」と肩を小さく震わせる。
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「これ以上は探らないほうが君と、笹井っていう女の子のためだが、…本田湊くん。私のエージェントになる気があれば、いつでも呼んでくれたまえ。君ならば歓迎するよ」と本田の肩をポンッ、と優しく叩き席に座る。
「…君も我々光道教と一緒に救われようじゃないか」
楚々辺の言葉に、本田は下を向き瞳を揺らす。
「…救済を謳って…悪事を働くような人間に俺は賛同できません、では―――」
帰って行く本田に、「でも…君の友達は…私が人類の救済のために動いていると知った時、目を輝かせていたよ」と楚々辺は伝える。
「何回でも考えてくれればいい。私は、悪者じゃない―――。」
楚々辺の言葉を聞き流し、本田は理事長室を出ていくのだった。




