五十二話『逃げた気になったネズミの末路』
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『挑戦者、前へ』
会場に響き渡る男性の声と同時に、正面に立つ生徒会の三人の前へ移動する本田。
負ければ、そこで敗退――――。
『戦いたい相手を選んでください』というアナウンスと同時に、観客席の後ろでは生徒会全員の賭け券を握りしめた男が、祈るように座る。
「…長谷部…」
本田が長谷部のほうに行こうとした時、さくらが「私と戦いなさい」と本田に命令する。
「いや…」
会長を避けようとする本田。
さくらは「私と戦いなさい‼」と再度大声で言い、
「…」
本田が逃げられないような空間を作る。
長谷部の前に立つ笹井。
ケンは「え、俺は?」と戸惑う。
本田は、「…」と諦めるようにさくらの前に立った。
その時、一組の教室内では、
「ちょ、本田の奴‼ 会長選んだぞ会長‼」
と佐田が指を指して騒ぐ。
「カップル試合だ‼」
と頭を抱える飛鳥。
「でも、待て、ほんまに不味いんとちゃう⁉ 本田…負けてまう…」
悩む布田に、「ねぇ…‼ 生徒会長、笑ってる‼」と叫ぶ志田。
「やばいよ怖いよ…」
怯える志田に、茅野は「今日の健康値測定の結果からすると…これは…98%の確率で…会長の勝ち…」と分析する。
茅野の後ろにいた鈴木が、「じゃあ2%は何なんだよ」と茅野に問いかける。
「本田くんは…何するかわからないから」と答える茅野。
「…でも本田くん」と茅野は続ける。
「ストレス数値が…高い」
茅野の言葉に、増田が「なんでわかるんだよ」とツッコむ。
星野は茅野の席まで移動し、笑顔で「じゃあ、笹井さんのはわかるの?」と訊ねる。
茅野は、「いや…笹井さんのは…」と目を逸らす。
(どういうこと?)
星野は本田だけ分析できた茅野に違和感を覚える。
「結局茅野さんの勘じゃない、あの本田くんがストレス抱えるような事あるの?」
と言いながら支払い分が書かれた紙を紙飛行機にして飛ばす朝日。
その紙飛行機が前の女子生徒にぶつかり、
「ねぇ痛いんだけど」
と朝日は言われてしまう。
「そこに座ってんのが悪いんでしょー」
と言いながらノートに落書きを続ける朝日。
「…」
女子生徒は黙って朝日を見つめつつ、モニターに向き直るのだった。
「はぁ」と溜息を吐きながら星野の席に移動する志田。
志田は、「ちょっと星野ちゃん話あるんだけど別室行こ」と星野を誘う。
星野は、「いいよ♡」と別室へ行こうとする志田についていく。
▽
競技祭会場の本田は、さくらに連れていかれ、いつもより豪華なテーブルに招待されていた。
笹井と長谷部の試合とは違い、監視役も囲むように立っている。
さくらは、「これで不正は出来ませんね?」と微笑んだ。
本田は下を向きながら、さくらと視線を合わせようとしない。
「あら? どうされたの? 私はあなたのこ・い・び・と、でしょ?」
と、わかっていながら煽るような口調で言ってくる。
ディーラーが監視役に困惑しつつ、それぞれにカードを配った。
「今回。二度もあなたは不正を働いた。その証拠はお父様のタブレットにしっかり記録されています…。私はどんな不正をあなたが働いたのか知りませんが、まぁ後でタブレットを借りればわかる話です。」
本田は下を向きつつ、さくらのカードに目をやる。
「…観察しても無駄ですよ? 私はあなたとは違って正々堂々勝負しますから。もしここであなたが不正をしようと言うのなら、公表だってできます」
カードを二枚交換するさくら。
一方の本田はカードを三枚交換する。
「それと――――」
さくらはそう言うと、
「ここでルールを変えます」
と口角をあげる。
「え?」
と思わず顔をあげる本田。
「本田湊くん。もしもあなたが私に負けたら……あなたの携帯。私に見せてください」
さくらの頼みに、「ああそれは構わな」と言いかける本田。
「…二台」
と呟くさくらに、「なッ」と言葉を詰まらせる本田。
▽
「知ってました? 学生証アプリが入っているスマホは、ネットワークログから利用情報を全部見れるんですよ。誰がなんのアプリをどれだけ使ったか。など…。でも…一台だけ。学園のインターネットに接続していないにも関わらず、深夜帯に学園内で外部通信している端末があった。つまりどういう事か。学生証アプリが入っていないスマートフォンが持ち込まれているんですよ」さくらは長々説明する。
「教員の可能性だって」
と逃げ口を探す本田に、さくらは「まさか」と口角を上げた。
「教員や監視役、その他全ての学園に常に立ち入る人物のスマートフォンには、【職員証アプリ】が導入されています。…説明なんていちいちしませんが。それと深夜帯なら競技祭で来るような客のものでもない…」
さくらの説明に、本田は「なぜ俺に絞った」と訊ねる。
「二年や三年に持ち込んでいる可能性がある人間がいると?」
カードを見せながら言うさくらに、本田も遅れてカードを見せながら、「嗚呼」と答える。
「フルハウス」
「フォーカード」
さくらはフッと微笑む。
さらにカードが配られては、「でも…あなたのように不正を働ける二年生や三年生は、今のとこ見た事ありませんわ…この競技祭で既に前科がある…あなたを第一に疑うのが筋では?」
本田は、「…」追い詰められるような表情を浮かべる。
「証拠不十分だ」と言いながらカードを交換する本田に、「そうでしょうか」と返すさくら。
「あなたはさっき、構わないと仰いました…普通、携帯見られるのなんて嫌でしょう? 私には、用意周到だから見られてもいい。って言ったようにしか見えませんが」
とさくらもカードを交換しながら言う。
「…本物だ」
と続けるさくらに、「え?」と首を傾げる本田。
「あなたの苗字から、まるで自分が【本物】だと言いたいような。そんな主張が取れるのです」
と言うさくらに、本田は「偶然だろ」と答えつつ、さくらとほぼ同時にカードを見せる。
「スリーカード」
「ツーペア」
さくらはまたほくそ笑む。
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「あら? 本田くん。いつもの悪知恵はどうしたの?」
煽り好きのさくらに、本田はただ手が出ない。
「まぁ…負けたら携帯見せてください、なんて冗談ですけどね。」
さくらはそう言うと、「本田くんとの試合は収穫沢山です♡」と嬉しそうに言った。
遠くの席から追い詰められる本田をちらっと見る笹井。
「強いなお前」と笑う長谷部に、笹井は「伊達にクラス委員…やってませんから」と答えた。
緊張感で包まれる会場の隅で、監視役が何かを記録し、楚々辺は椅子に足を組んで座っていた。




