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『一組 ─今日からあなたたちは詐欺師です─』  作者: ミタラリアット
一年生 一学期編

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五十一話『楚々辺の思惑と本田の弱音』


 競技祭。休憩時間中。


 カジノの待機室で手元のタブレットの映像を繰り返し見る楚々辺理事長。


「ふッ…大したものだ」


 楚々辺は静かに笑うと、その映像を拡大した。


 字は汚く、肉眼で読めやしないが、タブレットの機能に備え付けられている『リアルタイムAI文字認識システム』を使えば、テキストで表示される。


《秘密をばらされたく無ければこの試合、負けてくれないか――――》


 楚々辺は心底愉快そうな表情を浮かべた。


「面白い、私の思想を邪魔しようとする奴の中でも、ここまでやり手な生徒はいなかった。私のエージェントさえ見抜いた上で仕掛けたか」


 楚々辺は《笹井のぞみ》と選手欄に書かれた新聞の顔写真に穴を開ける。


「だが、今に見ていろ本田湊。お前には最大の盲点がある。それは学園がお前を放置していると思っている事だ」


 楚々辺はアプリを開き、《USER2》と書かれた茅野へのアカウント登録履歴や、データ削除の履歴などを眺める。


 そして、学園内で『衛星インターネット』にアクセスしている端末がある事などに辿り着く。


「やはり笹井こいつはあの男の駒…いや…茅野でさえも…既に」


 楽しそうにする楚々辺に、さくらが「あらぁ?お父様♡随分と楽しそう」と言いながら紅茶を淹れに行く。


「さくら」


 楚々辺は娘の名を呼んだ。


「なんですか?お父様」


 紅茶を淹れ終わったさくらは、楚々辺の前で姿勢を低くする。


「本田湊を光道教われわれに取り込め――――。近いうちにな」


 楚々辺の令に、さくらは、「お父様…お言葉ですが、私は光道教に本田くんを取り込みたいのではない。本田くんを弄びたいのです。動揺する顔、追い詰められる顔…。あのような普段厚いベールで覆われている方の弱みを握って私だけがその真の姿を見ることが出来る…♡それは彼を光道教に取り込んでしまったらできない話ですわ…。只者ではないとわかったからすぐ取り入れるのでは無く…。私たちは知らない体で彼をこの水槽で泳がせる…素敵じゃありませんか‼私だけのモルモット、そう、本田くんこそ私が求めた最高の…最高の遺伝子ですわ♡♡彼と子孫を残し…」


 とべらべら語るが、父がいなくなった姿を見て、


「あれ」と振り返る。



 一方、昼休憩を終え、校庭を歩く本田と笹井。


「ここで二人で負けたらどうするの」


 という笹井に、本田は、「別に、それでもかまわないが」と答える。


「理想はお前が二年に勝って、俺が負ける事だな」


 本田がそう言うと、「別にあなただけ勝ったって」と笹井は返す。


「ただの陰キャが、生徒会戦まで生き残って勝ったら怪しまれるだろ?既に俺が警戒されつつあるんだし。実際、出海奈先生にも指摘されたし。お前を最終戦に送り出せたんだから俺不戦勝でも良いっちゃいいんだが…」


 やる気なさげな本田に、「じゃあ昨日だって下手に証拠残さずに負ければ良かったじゃない、八百長なんて申し込むから。あなたさっき言ってたわよね?理事長がタブレットで見てたかもしれないって。」笹井がジト目を向けながら言う。


「嗚呼、いま思えば負けも懸命な判断だろうけど。せっかく対戦相手が理事長のエージェントだったんだ、揺さぶりたくなるだろそんなの。それに今回の件で二年のエージェントも俺に下手な手打てないだろうし」


 本田が名刺サイズの二年の結果表を見ながら答える。


 これは前日のものだ。


「トップ3位が会長、長谷部、三上。あー。生徒会で固まってるよ。」


 と言う本田から、「ちょっと見せなさい」軽々結果表を奪う笹井。


「ねぇ?これ本当の記録なの?」笹井は疑う。


「しーらね」


 頭の後ろで手を組みながら投げやりな本田に、


「はぁ?」


 呆れたような声を出す笹井。



「ねぇ」


 笹井は本田の首元をグイッと引っ張り顔を近づけさせる。


「うわッ」


 バランスを崩しかける本田。


「あなた本当に真剣にやる気ある?」


 笹井の顔が本田の視界いっぱいに近づく。


「競技祭。よくも悪くもたかが祭りだ…もう負債は支払えるシステムが一組では出来ている。…初日みたいに思いつめるの嫌なんだよ。自分が自分じゃなくなるように感じるから」


 笹井に首元を掴まれたまま、全然違う場所に視線を向ける本田。


 笹井は離しながら、「何をそんなに悩んでるか知らないけど。何してようがあなたはあなたでしょ」と言った。


 笹井の一言に、その横顔を見ながら「…」と黙る本田。


「そうなのか」


 訊ねる本田に、笹井は、「バカね…わざわざ取り繕って自分以外になろうとしなくていいのよ」と答えた。


「行きましょ」


 笹井は先を歩いていくが、本田は立ち止まっていた。


 六月の初夏の風が吹き、雲が空に走り、ふわっと、笹井の黒髪が靡く。


 本田の脳裏に、青春そのもののような音楽と、大量の観客たちの声援。


 芝の大地、淡くどんな姿でそこに立っているかははっきりとしないが、歓声の中心にいる自分の姿がよぎる。


「…行くか」


 と拳を握りしめ、競技祭の会場、遠州学園のカジノに向けて歩いて行った。



 競技祭。最終日。午後――――。


 最初は大勢いた一年生も、もう。


 笹井と本田の二人だけになった。


 入口では本田と笹井の監視役たちが、カジノの扉を開ける。


 ファンファーレの音源は無く、代わりにEDMのような、いつもとは違う緊張感の音楽が会場内に響いていた。


 緊張で大きく息を吸う笹井。


 それに気づいた本田が小声で、「大丈夫だ」と励ました。

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