五十話『弾け飛んだコイン』
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「ワンペア」「ストレート」
本田の出したカードに、「なんで⁉」と驚きを隠せないカズ。
「出せよ」
挑発する本田に、「…」
カズは下を向いて瞳を震わせる。
時間は――――、残り少ない。
先に試合が終わった一年が、「ウワァァァァァァァァァァ‼」と頭を抱えながら泣き崩れる。
「てっめっぇふざけんなよ‼」発狂するのは、ロリータ服の先輩に負けた布施も同様だった。
可愛らしい先輩に殴り掛かろうとする布施。
「てめぇだけ世界観がテレビのお嬢様系学校の連ドラなんだよ‼浮いてんだよ‼何しにこの学園来てんだ‼ ロリータなんか嫌いだ‼質素な服でも着てろこのメスが‼」
布施を全力で止めに入る同じクラスの負けた二年生。
「行くぞ」
首を掴まれながら、大人しく引きずられていく布施。
クスクス、なんて笑い声が四方八方から響く。
(二組は全員敗退か)
ジーっと引きずられていく布施を眺める本田。
ディーラーがさらに二人にカードを配る。
「ねぇ。本田くん。君の方こそ、証拠を残したんじゃない?君がやった事を公表する事だって、出来るんだよ」
カズが拳を握りしめながら問いかける。
本田は真顔で言い返した。
「出来るのか。お前は」
「公表したってかまわないが…。自作自演じゃないと証明できるか?」
カズは、「…」と黙り込む。
「自分で言うのもなんだが、俺の字は初見ではあまり読めないらしい。でもお前はそんな字が読めた…。それはつまり、お前が日頃から俺と似たような筆跡であるか、周りに似たような筆跡の奴が複数名いるってこと。お前自身にも充分工作可能なわけだ。そこで俺にはめられた、とお前が公表したとして。お前が少年院に世話になるほどの政治的な学生運動をしていたと後から俺が言えば、前科持ちのお前と俺。大衆はどっちを信じるだろうな」
そう言いながら本田がカードを二枚交換。
カズがカードを四枚交換する。
「ワンペア」「フォーカード」
本田の全連勝。
そして、ブブーッ、とタイマーが鳴った。
「…満足かい?」丸めた付箋を返すカズ。
「嗚呼」本田はそれをポケットに入れた。
「でも、これは僕が君の字を読めなきゃ成立しないだろ」カズはじっと本田を眺めながら言う。
「嗚呼。だからこそ【賭け】って言うんだ」
本田は静かに答えた。
「君は…ポーカーという賭けをやりながら…本当は違う賭けをしていたんだね」
「額はいくら希望?」
首を傾げるカズに、本田は答える。
「三千万」
「わかったよ…」
悔しそうに瞳に涙を溜めながら言うカズ。
カズの監視役が小切手に記入する。
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小切手を受け取りつつ、笹井と合流する本田。
笹井は券を床に投げつけながら帰って行く人たちを眺め、「どうやら、生き残ったのは私たち二人だけのようね」「ほとんどの観客が帰って行くわ。どうやら私…あまり期待されてなかったみたい」と呟く。
本田は券売り場の列を見た。
「いや。最終戦に備えて券を今必死に買おうとしている客はまだいる。俺かお前、または生徒会の誰かが賭ける対象だ。俺たちみたいな一年に賭けるか、安定の会長たち生徒会に賭けるか悩んでいるだろうな」
「…こんな大々的に公開されて大丈夫なのかしら」
笹井は訊ねる。
「光道教の残党が来ていても不思議じゃないでしょ。笹井なんて苗字が知られたら…」
目を逸らす笹井に、本田は言う。
「いたとしても…今現在お前は何もなっていない。危ないのは七月の学期末だ。それにもう手は打っている…その上で、消されるとしても光道教の人に直接消されるんじゃなくて、多分お前を襲うのは―――」
本田は目を覚ましてタブレット端末を弄っている楚々辺の方へ視線をやる。
(何を見てるんだ…)
「襲うのは、何よ」
腕を組みながら本田を問い詰める笹井。
「まぁいいさ、とりあえずお前は誰かに多少襲われる事があるだろうが…多少だ」と本田は続ける。
「多少でも襲われたくないのだけれど」
という笹井に、本田は口調を崩し、怠そうに頭を掻きながら言った。
「うっせーな…グダグダ言ってんじゃねーよ。守られる立場で…」
「ふぁー…」本田の欠伸が響く。
「………読めない人ね、あなたって」
「午後も健闘を祈るわ」
本田に流し目を向けつつ、髪を靡かせて去って行く笹井。
(何あれ。急に本田くんの雰囲気変わったんだけど…。)
本田と会う度に、笹井の疑問は増していくばかりだった。
▽
休憩時間。
教室に戻った本田は、「本田ァー♡」と飛鳥に抱き着かれる。
「えっと、」と困惑する本田。
飛鳥は目に涙を溜める。
「本当に無事だったんだなお前‼」
「まぁ。この後生徒会に負ける可能性は全然あるが」
という本田に、布田が続ける。「ええんやで、お前か笹井、どっちかが勝てばええんやから」
教室に入ってきた笹井を見て、朝日が満面の笑みで話しかける。
「笹井さんもやるじゃない‼」「当然よ」
笹井は口角を上げた。
「本当に可愛くないな。当然よ…じゃなくてもっと謙虚にしてれば可愛げもあるものを」
本田が多少の笹井のモノマネを含みながら本人に言うと、「可愛くなくて悪かったわね」と言い返しながら、本田の隣にある自分の席へ座った。
「で」
笹井は小声で問いかける。
「どうやって二年に勝ったの」
「別に。弱みばらされたくなければ八百長してくれって書いた付箋見せただけだ」本田は答える。
「読めるわけないでしょあなたの字」
という笹井に、本田は静かに続けた。
「そこが肝だ。読めなかったら成立しないから普通に負けて回収する予定だったが、あっちが読めたからたまたま成立しただけの賭けだ。それだけの話」
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(待て)
教室のモニターに映る、休憩時間中のカジノ会場の天井からの映像を眺める。
(このアングルか)(…字まで読めないとしても)
本田の脳裏で様々な事がフラッシュバックする。
(あのタブレット‼)
楚々辺理事長が見ていたタブレット端末を本田は思い出す。
(…ぬかったな…)
本田は、自分の余裕に予想外の方向から矢を刺された。そんな気がしたのだった。




