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『一組 ─今日からあなたたちは詐欺師です─』  作者: ミタラリアット
一年生 一学期編

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四十九話『二年生側の代行者(エージェント)』



「…一組の残りは…本田…笹井の二人か…最終戦を前に収益は―――億弱…負債は――――千万弱で他クラスと比べてダメージが少ないな」


 六月。最終日の朝。


 出海奈が教室の中へ入ってきて、そう発表する。


「で、でも…二組三組次第では…本田くんと笹井さんの相手が…生徒会に」


 朝日が危惧するような声で呟いた。


「なんで、茅野じゃなくて本田なんだ?あいつそんな強いのか?」


 佐田も、本田がここまで勝ち進んだ事に違和感を覚えているらしい。


「私が弱かっただけだよ」


 本田を少し庇うように笑う茅野。

 その姿を、星野はじーっと見つめた。


「星野ちゃんどうしたの」志田が星野の肩を触る。


 星野は視線を、二組、三組に混ざりながら健康値測定をしている本田や笹井が映るモニターに向けた。


「でも…さすがに二組や三組、俺たちに支払い押し付ける事なかったな」


 安堵する佐田。


「当然よ」志田が立ち上がってクラスメイト達に言う。


「だって、他クラスを支払いに選ぶメリット何? どんな反撃が来るかもわからない、自分たちが監視できない範囲で敵を作るような真似、誰だってしたくないじゃない」


 その推測に、佐田が返す。


「本当かよ、たまたまラッキーだっただけじゃね?」


「…二組、三組の間でも他クラスに押し付けるって事、してないのか?」


 増田の問いに、布田が考えながら言った。


「うーん。俺はその作戦もアリやったと思うで」


「いや。やらねぇよ」


 鈴木が、布田の発言を遮るように食い込む。


「考えてみろ、一年、しかもまだ六月。そんな事したら【あいつらのせいで】って恨まれてややこしくなるっつーの。逆にクラス内部で処理すれば、団結力も上がる。笹井はそこまで考えてんだよ」


 得意げに語る鈴木。


「そんなに…笹井さんは私たちの事を」榎本は普段の笹井を思い浮かべながら言った。


 しかし、一人の女子生徒がそこで疑問を示す。


「ん?でも笹井さん、クラスの事。そんなに考えるタイプだったっけ」


「福川」


 朝日の声が、親友の名前を呼ぶ。


「クラス委員なんだから当然だろ」


 頭の後ろで腕を組みながら言う鈴木に、福川と呼ばれた女子生徒は必死に訴えかけた。


「そもそも笹井さんってそんな仕切りたがるタイプに見える?嫌々やってるようにしか見えないのよ。それにあの作戦だって、全てが理にかなっている賢い作戦だとは思う。で、でも‼ 笹井さんが作ったなら笹井さんのメールアドレスから送ればいいだけじゃない⁉ このクラスだけでしょう⁉ いや、このクラスだけなのよ‼ 二組と三組の女子に匿名のメールが来るかって聞いたもの‼」


「荒れるな、はじまるぞ」


 出海奈が、荒れる生徒たちを黙らせる。



 ファンファーレがなると同時に、カジノの扉が開く。


 選ばれし合計六人の一年生たちは、盛大な拍手と共に戦場に送り込まれる。


 競技祭最終日というだけあって、普段より華やかなステージだった。


 観客席も普段より盛大な歓声をあげる。


「やれー‼」


「倒せー‼」


「締め上げろー‼」


 どちらかといえば野球会場のような、簡単で変化の見られない声援が飛び交う。


 そんな中、生き残った笹井と本田は対戦する二年生を探す。


 その様子を見ていた一年二組の布施は、


「なんだ一組、やけに弱そうなやつらだな。普遍的じゃねぇか。花もない連中が」


 と吐き捨て、二年生の席に座った。


 布施が選んだのは、ロリータ調にアレンジした制服を着た二年生女子。


「…花だけが全て…そうでしょうか?美しさだけで世界が決まるなんてお考えなら…視野が狭い…」


 淡々と話しかける二年生女子に、布施は「あぁん⁉」とダックスフンドのような威嚇をしつつ、「お前を負けさせてやる、たいして可愛らしくもねぇブスが!」と怒鳴り返した。



 一方の本田は、「対戦しようよ」と先輩に手招きされていた。


「僕は鈴羅木すずらぎカズ。気軽にカズとでも呼んでよ。上下関係とか求めないからさ」


 所謂、子犬系って奴だろうか。


 見た目から派手で個性的な先輩が多い中、この本田の目の前の男の外見だけは普通だった。


「ここまで生き残った一年は六人。すごいよ。でも。君のような子はいないね、てっきりもっと怖そうな子が来ると思ってた。二年生になっていくとみんな見た目を盛り出すの、なんでだとおもう?」


 カズの問いに、本田が答える。


「見た目…興味がない話題だな。他の二年はなんだかんだもっといい話題を出していたぞ」


 本田の煽りに、カズが言葉を続けた。


「それが、結構重要なんだよ。そもそも、二年生って本来は目立たなきゃいけないんだ」


「目立たなきゃいけない?」

 本田は興味を持ちはじめる。


「就職先でのヒエラルキー。それが二年生のうちにほぼ決められるからね。行き先だけじゃない、立場。仕事内容」


 カズの言葉の後、本田は訊ねた。


「じゃあなぜお前はそんなに興味なさげなんだ」


「僕?」カズは首を傾げる。


「僕は…。見ている場所がそもそも違う。僕は元々政治的な学生運動に参加し、少年院から出てきたばかりの一般人以下。でもある人と出会ってこの学園に来たんだ…。でも…引け目はある。みんなにとって悪い事をしているんじゃないかって」



 音声は後付けのBGMで編集されたまま、天井からのアングルで映し出される一二年生たち。


 その映像を、星野がじっと見つめていた。


 どこか、罪悪感に苛まれているかのように。


 会場にいる本田は、カズに「そうなのか」と相槌を打つ。


「本田くんって言ったけ。君は理事長に期待されてるんだよ? ほら、あそこ見て。楚々辺理事長。君の賭け券を買ってる。…娘の会長じゃなくて、君に賭けてるんだ。すごい事だと思わない?」


 楚々辺を見ながら言うカズに、本田は少しばかり驚く。


(なぜ会長じゃなくて俺なんだ?)


 思わず楚々辺に流し目を向ける本田。


「ディーラー」

 カズはディーラーを呼んだ。


(最終日だ…今日はクラスメイトにも中継されている…露骨にイカサマをするような真似は出来ない…)


 本田は頭を悩ませる。


 二人のもとにカードが配られた。


 カードを交換しようとするカズ。


「…カズ。お前って理事長と親しいのか」


 雑談を振る本田。


「親しいってわけじゃないけど」

 カズは堂々とカードを二枚交換する。


「…お前が出会ったある人って理事長だろ」


 カードを四枚交換しながら言う本田に、カズは「…そんなに捨てるの?」と驚きつつ、


「違うよ」と誤魔化した。


「じゃあなぜ理事長に絶対的な力があるこの学園に他の人間がお前を誘えるんだろうな」


 本田の揺さぶりに、カズは「…」と黙る。


「…それにお前はさっき見ている場所が違うと言った。卒業じゃない。この学園の教師か何かとして就職できる事が既に決まっているんじゃないか」


 本田の推測に、カズは動揺で手を震わせる。


「…さらに言えば就職先が決まる代わりに、何か別の役割を得た、違うか」


 本田の追及に、カズは退屈そうにうたた寝する理事長をチラチラ見ながら、「そうだよ…」と小さく頷いた。


「…つまりお前は」


 言いかける本田に、カズは段々声を小さくしていく。 「お願い、聞かれたら不味いんだ」



「…ツーペア」「スリーカード」

 カズと本田のカードが場に出る。


 カズは「…」と目を逸らそうとした。


「…なぁカズ…」本田がカズの名を呼ぶ。


「この試合。俺は勝ちでも負けでもどっちでも良いんだ。最低限、あそこにいる笹井って女が勝てれば」


 笹井を見ながら言う本田に釣られて、カズもディーラーも、笹井がいる方を向いた。


 その後、カズは自分の膝の上を見る。


 「はッ…」と瞳孔を開きながら大きく息を吸うカズ。


「ぼ…僕は…そんな…そんな…」

 

「…」


カズは激しく動揺する。


 本田はどこかに流し目を向ける。


 ディーラーは二人にカードを配った。


 その後、カズは四枚カードを交換する。


 続いて、本田が三枚カードを交換した。


「挑戦的だな」


 カズを見ながら言う本田に、カズは呟いた。


「…理事長が君に賭ける訳だよ」


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