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『一組 ─今日からあなたたちは詐欺師です─』  作者: ミタラリアット
一年生 一学期編

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四十八話『残像とブラックコーヒー』


 休憩時間中。自販機前。


「なぁ笹井」


 本田は笹井の名を呼んだ。


 そのままブラックコーヒーの缶を手にしながら「二年からなんか新情報聞いてないか」と訊ねる。


 缶コーヒーの蓋を開ける本田。


 笹井は、「あなたブラックなんて飲むの」といいつつ、「別に。どの二年もたいした事言わなかったわ。でも…」顎に手をあてながら思い出す。


「二年生、格差酷いらしいわよ。なんといっても生徒同士で金貸しとかしてるらしくて、治安は一年ほど良くないらしい」


 本田に情報提供する笹井。


「金貸しか、二年も考えるな」


 本田は感心する。


「利子ついて帰ってきたらいい商売よね」


と答える笹井。


「あなたのほうは?」


 と笹井に問われては、「いーや。収穫らしい収穫は何も」細かく答えるのは避けた。


「ただ」


 本田はそう言った後、「火野には本当に負けるところだった……何もしなければ当然負けるとわかってた試合だ」と続ける。


「どういうこと」


「木部の次は木部より強い奴と戦うのは目に見えていた。だから火野の前に座るときに、準備中だったトランプを横の置き場から何枚か抜き取ってポケットに入れた。んで、試合前の会話中にそのトランプを膝の上に乗せながらシールを貼って、試合後。強い自分側の手札を敢えて捨てて交換するフリをしつつ、わざとシール付きのカードと入れ替え、弱体化させる事で決まってた負け試合を長引かせることなく中断させ、億万長者から金を搾り取る事に成功する。まぁ可哀想だな火野も。これから一生イカサマの事言われるんだから」


 本田は何の反省の色も無く淡々と語る。


 笹井は、


「サイッテー、ただ先輩ハメただけじゃない」


 本田に吐き捨てた。


「明日以降なら別にどこで敗退しようが構わないが。俺が初日で負けるのは何というかカッコ悪いだろ」


 意味不明なプライドを発揮した本田に、「はーこのゴミカス男…」と疲れを見せる笹井。


「あなたってかっこいいのかゲスなのかわからないわ」


 コーラを飲み干しながら言う笹井に、


「多少でもかっこいいって思ってたのか」


 本田は笹井の発言を拾う。


 その途端、「え⁉」と頬を赤らめ放心した。


「あれ」


 笹井を見下ろす本田。


「こういうことは……聞き流せって……学ばなかったの……」


 地面に崩れながらダメージを食らう笹井に、本田は、「……別に俺」と言った後、「普通の人間だけど。なんでそんなに俺見てお前の態度が変わるのかよくわからない」


 なんて冷めた目で続ける。立ち上がる笹井。


「……ただ、お父さんが……生きてたら……あなたみたいな……人だったのかな……って思ってた時期があっただけ」


 笹井は本田を見上げながら言った。


「まぁあなたがただの悪魔ってことはわかったわ」


 と続け髪を靡かせて去って行く笹井。


 笹井の去り際を見つつ、


(……シャンプー変えたな……笹井)


 考える本田。


 キーンコーン。カーンコーン。


 とチャイムが鳴り響く。



 そして四時間が経ち、午後の授業後……。


 一年一組教室。


生徒たちが次々帰ってくる中、『はーーーーーー‼』 疲れの声が響き渡る。


「収入四千二百万、負債百万――。初日二人敗退で押さえたか。ただ敗退した奴は可哀想だな」


 と出海奈が言うが、志田も星野も


『いやー負けちゃったー♡』


 声を揃え、顔を合わせては


『ふふッ、』と楽し気に笑う。


 出海奈は、「はぁ? お前ら支払い押し付けあったのになんでそんな逆に仲深まってるような感じなんだ」と目を丸くする。


「まぁいい、誰も気に病んでないなら教師としても気が楽だ。ただ六月全体が勝負だ、気は抜くなよ」


 出海奈はそう言うと、


「ちなみに、今日外部の奴に一番賭けられてたのは……。【茅野】。お前だ」


何かの紙を見ながら茅野に言った。


「わッ、私?」


 辺りをキョロキョロ見渡す茅野。


「あと笹井、お前もだ」笹井の名前も呼ぶ出海奈。


「あ、ありがとうございます……」小声で返事する笹井。


「後、さっき二年の棟で火野カグヤが発狂して椅子を振り回しながら教室の窓を割るような大暴れをしていたらしい。……今夜には追放だろうな……お前たちは負けてもそんな事するなよ……とだけ」


 出海奈の話を聞き、静かに瞳を揺らす本田。


「――――― ―――――― ―――――――」


 その後の出海奈の話は、本田の頭の中には入って来なかった。


『俺の事は無視して撃て――――‼』


 白髪の男の叫びと、


『今日未明―――アメリカのロサンゼルスの学校がテロリストの一味とされる女たちに襲撃され――――』


 ニュースの無機質な声が頭の中で何度も巡るように響く。



「……田……本田‼」


 出海奈は本田の名前を繰り返し呼んだ後、「呼んでるだろ、もうみんな帰ったって」と続ける。


「あ……」


 本田は顔を上げ、スクールバックを手に取る。


「どうした。やけに暗い顔して」


 自分の事を気にかける出海奈に、「……なんでもありません」と答え教室の外に出た。


 下を向きながら生徒寮までトボトボと歩く本田。


(嗚呼―――。やってしまった)


(まただ)


(俺のせいで不幸になる人間が)


 葛藤する本田とシンクロするように、空が段々と曇り空になる。


 校舎を出て監視役と合流すれば、笹井に、「本田くん」と話しかけられる。


「……」


 本田は笹井を無視して生徒寮へ向かう。


 笹井は、「え?」首を傾げる。


(ゴミカス男って言っちゃったの、気にしてる?)


 と笹井は考えて俯いた。



 監視役と別れ自室に本田が入っては、


「はぁ……はぁ……」


 本田は呼吸を乱し、


「最適解があれだっただけだ、もう忘れるって決めただろ……」


 机をドンッ、と殴り大きな音を立てる。


「……俺は……」


 本田は泣いているかのように声を震わせる。


「……でも……今日は……やらなきゃ負けて……でも……ほかに……」


 と繰り返し、一先ずベッドにダイブした。


「なぁ……こういう時……坂杉なら……」


 と呟き、電話をかけようとするが、電話をかけようとするその手は止まった。


(いや……あいつは別に助けてくれなんて、頼んだわけじゃない、寧ろ自分がここに来るはずだった……俺が勝手に身を乗り出しただけだ)


 と考え、食事が来るまで布団に籠ることにした。

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