四十四話『見世物の馬たち』
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六月。初日。学園中に装飾がなされ、立て看板や屋台まで出るようなお祭りムードになっていた。
だが島に来るのは一般客ではなく、製薬会社の社員のような人や、監視役よりもガタイがいい何か裏社会に精通していそうな人たちばかりだった。
一組の生徒たちは競技祭前の健康値測定のためにジャージ姿に着替えグラウンドで待っていた。
「見世物みたいね」と腕を組みながら言う笹井に、メガネはオフ状態、いつも通りの本田は「そうだな」と答える。
「勝てば勝つだけカジノに参加できる。上級生から指定した分のお金を横取りする事も。…それに、あなたが立てた作戦は大したものよ。カメラを仕掛けずとも知っていたんでしょ。ならなぜ仕掛けさせたの」
本田にジト目を向けながら訊ねる笹井。
本田は、「理由は簡単だ、独裁政権の二組と資本主義の三組。あいつらの作戦をこっちが模倣しているとバレたら両者も動き出す。他クラスには下手に動かず現状維持でいてほしいんだ」と答える。
「でも、本当に一組の全員やりきってくれるのかしら、あなたの作戦」と心配そうに呟く笹井に、
「…」本田は真っ直ぐ二年の健康値測定の様子を眺めた後、「…競技祭自体は一組では表向き笹井が一人で仕切っている、作戦の概要は全員に俺が匿名でメールで送ったし誰も下手を打つ事ないだろう」静かに答えた。
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「にしても、二組の独裁体制ってのも結構アリかもな。有無を言わさずに独断で決める。それだけカリスマ性あるやつがあっちにいるんだろ。笹井じゃ無理だろうけど」
本田の呟きに、「私にカリスマ性が無いって?」と笹井が不機嫌そうに返す。
「そういう意味じゃない、お前は命を狙われてるって前言っただろ。そんなあぶなかっしい奴を独断で動かすのはリスクが高い」と笹井に説明する。
笹井は「…そうね」と答えた。
「おーい何しとんの?」
笹井と本田に絡みに行く布田。
となりにいた佐田も、「男子健康値測定呼ばれてるぞー‼」と手を振る。
「嗚呼」
本田は背を向けるが、笹井に「ちょっと待って」と引き止められる。
「ポケットにでも入れておきなさい」笹井はお守りを渡した。
じっとお守りを見た後、「…なんか縫い目が粗いが」と笹井に言う本田。
「いらないならいいけど、さっさと行きなさい」
とそっぽを向く笹井。
本田はとりあえずポケットに入れつつ、「まぁ、ありがとう」と答え走って行く。
星野が笹井に「何渡したの?」と近寄る。
「ただのお守りよ」と答える笹井。
星野は、「本田くん気にかけてるんだ」と微笑む。
笹井は、「べっつに、そんなじゃない」と照れたような表情を見せた。
志田が、「星野ちゃーん‼ 笹井さーん‼」と遠くから二人を呼ぶ。
星野は、「呼ばれたみたい、行こ?」と笹井の手を引っ張り連れて行く。
「ちょっと、」笹井は驚きながらも星野に連れてかれるのだった。
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「はッ、はー‼」
白い息を吐きながらマラソンをする男子たち。
中でも飛鳥が辛そうな表情を浮かべていた。
「大丈夫か厨二病‼秘密結社に追われてるって思えー‼」
と鈴木が横切りながら話しかける。
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁァ‼」
鈴木の一言をきっかけに追い上げる飛鳥。
出海奈が、『競争じゃない、ただの測定だ‼無理するな飛鳥‼』とメガホンで声を張り上げる。
流石は本田。安定の体力を見せる。
並走する増田に、「余裕かよ」とツッコまれた。
「嗚呼。これぐらい毎朝やってt」と言いかけるが、本田は咳払いする。「なんだよなんかスポーツやってたのか」と増田は気にする素振りもせず走って行った。
(はぁー、すっかり溶け込んでいるな俺も)
自分のやりかけたミスに呆れる本田。
その遠くで監視役たちが自分の担当する生徒の記録を記入する。
ピィーッ、と出海奈がホイッスルを吹く。
『男子そこまで‼』
とメガホンで叫ぶ出海奈。
走り終わったあとの佐田が、よろけながら「なんでカジノするだけなのにマラソンなんてやらなきゃいけないんだ‼」と嘆く。
記録する監視役たちに目を向ける本田。
「多分、品質チェックだろうな」
本田が返すと、佐田は「品質?」と首を傾げる。
「外部から人が来るなんて、俺たち一切聞いてないだろ?これは俺の推測にしか過ぎないが、恐らくあの人たちは【別の事】をしているんだ。監視だけじゃない、ほら佐田、見てみろ。あそこの人を。」
本田は佐田に指をさす。佐田は言われた通りの場所に視線を向ける。
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「新聞紙を持っている。もう新聞なんてほぼ廃止したのにも関わらず。あのおじさんだけじゃない。なんだかみんな楽し気に新聞を見ているだろ?そのままカジノ場へ入って行く。生徒たちがまだいないにもかかわらずだ。なんの待ちだと思う?」
という本田に、佐田は「うーん」と考えつつ、
「評価か?」と呟く。
「まぁ、それもあるだろうが、それなら俺たちが来た後の話だろ。恐らく、『賭け』だろうな。俺たちがカジノをやる中でおじさんたちも俺たちを使って賭けをするんだ。でなければわざわざこんな島まで来ないだろ?どう見ても就職先と関係なさそうな反社っぽい人間が今日はたくさん来てる。あっちも大金を稼ぎに来ているんだよ」と本田は佐田に教えた。
佐田は、「まるで一昔前まであった競馬って概念みたいだな」と震える。
「いまじゃほぼ見かけなくなったが、確かに似てるな。つまりあのおじさんたちは今からカジノに入って、馬券に近いような券を購入するんだろうな」
本田の推測に、佐田は、「でもそれお前の考えだろ?」とツッコむ。
「じゃあなんでこの閉鎖的な島が外部の人間を入れるのか他の理由考えてみろ」
と本田が言うと、佐田は腕を組みながら「…」と黙った。
佐田は、「認めたくないな。俺たちが馬と同じような扱いだなんて」と不満そうな表情を浮かべる。
本田は「そーだな」と答える。
「チラッと聞いてたけど、すごい推理だね♡」
二人の後ろから星野が現れた。本田は、「星野⁉」
とわざと驚いたような表情を見せる。
「へえー。あの人たち賭けしてるんだ、知らなかったよ」という星野に、本田は、「心臓に悪い登場の仕方辞めろ」と続ける。
「ごめんね?ねぇ、聞いて、女子の健康値測定、茅野さんすっごく足がはやかったんだよ。憧れちゃうよね。意外と茅野さんって体力あるのかな?」
という星野に、佐田は「そんな風には見えなかったけど、もしかして茅野、スポーツ女子かもな‼」と星野に返す。
【スポーツ女子】という言葉を聞いた瞬間、星野は「はッ」と勘付く。
「どーした?」と星野の顔を覗き込む佐田に、星野は、「ううん、気にしないで」と笑った。
(そういえば本田くん、一年の男子の中でやたら体力安定してたような)と星野は本田に視線を向けるのだった。




