四十三話『二人目の刺客 死角の攻め』
▽
「ねぇ朝日さん」
監視役が紙が挟まれたボードを手に見守る中、星野が帰り道の朝日に声をかける。
「今日って部活ない日?」
星野は穏やかな笑顔を纏いながら、朝日に訊ねる。
「な、なに。クラスの中心のアンタが、私になんの用なの」
戸惑う朝日を、帰ろうとしている本田が遠くからチラッと見る。
(何を話してるんだ、星野と朝日なんて珍しいな)
と気にしつつ生徒寮に帰る本田。
「だって朝日さんって本田くんと仲が良いからさ、いろいろ聞きたくて」
という星野に、朝日は
「はぁー。笹井さんに聞けばいいじゃない」
とめんどくさそうな反応を見せる。
「じゃ、これだけ聞かせて、最近本田くんになんか頼み事とか、された?」
星野の問いに、朝日は「…」と部活中に『そうだ、朝日頼みがあるんだが、このペンを二組と三組の女子に渡してくれ。見た目はただの可愛らしいペンだ。交流のきっかけにもなるかもな』本田に言われた事を思い出しつつも、「私みたいな一軍でもなんでもないような女に本田くんがなんか頼むと思う? 普通なら笹井さんか茅野さん、クラス委員のどっちかにお願いするんじゃない、そっち当たったほうが早いわよ」と答え、星野の質問を交わした。
「そっかぁ」納得し帰って行く星野。
一方で監視役と別れ生徒寮の自室に入る本田。
暫くして冷蔵庫から缶ジュースを取り出し、
「はー…」と流し込むように飲んだ。
(物足りないな…)心の中で呟く本田。
本田は飲み終わった缶をゴミ箱に捨てた。
机の前の椅子に座っては、ドキュメントファイルを開く。
(調査依頼で来るような調査も、なんだか獲物が釣れるような話じゃない。検索すればわかるようなオカルト話や芸能人の事。くだらないものばかりだ。普通に生きている奴らはそんなに光道教や過去の事件に興味が無いのか?)
本田が考えていると、椛島からメールが届いていた。
【現・総理大臣、神庭ミサが夜叉鏡や救済の女神と同じ高校卒業生。その上同期】
椛島から連絡に、「は?」と驚く本田。
(夜叉鏡と政治家が繋がることも可能か? いや…だが当時はまだ神庭総理は総理じゃない)と考える。
本田は、(聞き流していたが、あの時緑髪の女、自分が『死神』『夜叉鏡を追い込んだ』って言っていたな…)と思い返し、《翠川穂乃果》と記された連絡先を眺める。
「…」暫くした後で、(俺からかけるのも違うか)と考え直す。
本田の机上にはボトルガムのブラックミント味が新しく置いてあった。
夜間まで調べものをする故の眠気覚ましだろうか?
本田はメガネケースから銀色のメガネを取り出し、カチャッ、と装着する。
(やっぱりこっちだな…)と微笑む本田。
本田が調べものをしようとすると、ピンポン♪と生徒寮のチャイムが鳴る。
「誰だこんな時間に」呟きながら本田が扉を開けると、「ごめんね?」と星野が来た。
「なんの用だ?」
本田が訊ねるが、星野は「ううん、ちょっとお話ついでに夜ごはん一緒に食べようかなぁって。持ってきちゃった、布田くんも来てる。入っていいかな?」と続ける。
「ほなー♡って本田メガネやんどないしてん」
星野の後ろからひょっこり出てくる布田。
「イメチェン?」と本田は返す。
(まずいな…あっちは書類の山だ)
内心焦りつつ、本田は「悪い、少しだけ部屋片づける時間くれ」と言った後、そっと扉を閉めた。
星野は、「急に来ちゃったからね、待ってる」と素直に伝える。
「なんか本田の部屋、インテリアシックやったな、大人の色気と言うか~♡」と布田が興奮する。
「なんか落ち着いた感じでまとめてたね?」
星野も布田と雑談する。
暫くして本田がガチャ、と扉を開けては
「いいぞ」
と星野の布田の二人を招き入れた。
(俺も星野のことは少し探りたいと思っていたし、ちょうどいい)
と星野を見ながら考える本田。
▽
「今日の夕食、マカロニグラタンだって。」という星野に、布田が「学校に一流のシェフとか居ったらええのに」と返す。
宅配食のようなパッケージを開ければ、中から食事が出てきた。「二年後、俺たちどうなるんやろな」という布田。
その発言を聞きながら、本田の視線は星野を捉える。
星野は「どうしたの?」と白々しく首をきょとん、と傾げた。
「何してるんだ」本田が訊ねると星野は、「抹茶♡ これ、真っ白に見えるでしょ、でも蓋を閉じて、振るとほら♡」と布田と本田に見せつける。
布田は「すごい、抹茶になった」と驚く。
「なんだ、ただよくある飲料水か」
本田はつまらなさそうにする。
布田を除いて空気が微妙になってきたところで、星野が、「ねぇ、本田くん。今日の本題ね」と話を切り出す。
「本田くんってさ、クラスメイトの事。守りたいって思う?」
笑顔を崩さず本田に顔を近づけながら問いかける星野。
「ちょお、こいつ彼女持ちなんだからそうイチャイチャ…」
完全にさくらと本田が付き合っていると勘違いしている布田が止める。
本田は「守ってどうするんだ」と冷めた目を向けた。
期待外れの答えに星野は「えぇ?」と顔を元の位置に戻す。
「本田くんってクラスのみんなのために意外と熱くなってくれてるのかなって…」
星野は動揺するが、「ただこの状況でも平穏に学園生活を送ってしれっと卒業したいだけだ」と本田は表情を崩さずに答える。
「クラスメイトを守るために動いているのは星野のほうっぽく見えるけどな」と本田は星野に問いかける。
布田は二人をキョロキョロと交互に見つつ、
「せ、せやけど本田も星野もなんだかんだ友達のためを想って」
と介入しようとする。
「その通りだよ。みんなを守りたい、クラスを守りたい、これ以上この一組から死者を出さないようにしたいって思ってる」
星野は笑顔で、本田の目を真っ直ぐに凝視して逸らさないように言った。
▽
「だからね、本田くん、私…本田くんに頼み事があるの。詐欺以外でも笹井さんに指示を出してみてほしいんだ。ダメ…かな?」
疑惑を逆手に取るように頼み事をする星野に、本田は
「ダメだ」と答える。
「笹井が独断で動いたほうがいいだろ、俺に完璧にクラスを仕切るなんて事は出来ない。死者を出したくないのなら、俺なんか頼らないで笹井に従ったほうが無難だ。それと星野。…お前本当に発熱したのか」
鋭い視線を向ける本田に、布田が「何言うてるん本田、確かに星野は」と星野に助け舟を出そうとする。
だが星野は「…」と俯くばかりだった。
「まぁいい、答えなくても。俺もお前と少し話がしたいって思ってた頃だったから。お前から来てくれたのは助かった。だが…なんで布田なんだ。お前たちそんな仲よかったか?」
という本田に、布田は「俺は本田の部屋行くから来ないかって星野に呼ばれ…」言いかけるが、服の裾を星野にキュッと掴まれて黙る。
▽
「まぁーええわ。この後鈴木ん部屋で男子だけで菓子食いながらBAAAAN!のコンサートDVD見るんやけど本田も来るか?」
と問いかける。
本田は「嗚呼―――今回は…」とパスしようとするが、布田が「ええんか⁉ 《ラブ夏サイダー》で有名なアイドルやで‼」と迫る。
布田の勢いに押された本田は、「嗚呼…はいはい、今回だけな」と言い布田の誘いに乗った。
食事を終えた三人は、「じゃあね?」「またあとでなー」などと玄関前で手を振り別れる。
本田は去って行く布田と星野を見送った後、玄関を閉めた。
平常心ではいられない本田。(…ウソだろ星野…)
本田は星野の言葉を思い浮かべながら心の中で呟く。
(まるで)(少し前の茅野みたいじゃないか)




