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『一組 ─今日からあなたたちは詐欺師です─』  作者: ミタラリアット
一年生 一学期編

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四十一話『概念にされた女神』


 五月末。出海奈は教卓の前に立った。


 教室には緊張が走る。なぜか。


 今日、目標額未達でクラスメイトから死者が出るからだ。


( 一応、目標未達にならないように裏工作はした。本来であればギリギリ足りなかった分を俺が夜中のうちに私物のスマホから投資サイトを動かす事で学園のネットワークを介さずに収益を学園側の口座に繋げた。深夜の振込履歴が残るリスクはあるが、クラスメイトが欠けるリスクに比べればたいしたことはない )


 本田は一先ず安堵しているが、一組の反応は違った。


 布田が「今日、誰かが…」と声を震わせる。


「増田ァ‼ 布田ァ‼」鈴木が涙目になりながら親友二人を見つめた。


 増田は「悲観的過ぎるのも良くない」と鈴木を宥める。


 下を向きながら調子悪そうにする星野を、志田が「大丈夫? 星野ちゃん」と心配する。


 出海奈は「今月の収益」と口を開く。


 自分のスマホを見た出海奈は、「…ピッタリだ。」と驚いた。


 教室のそこら中から、「はぁ…」「良かった」なんて安堵する声が聞こえる。


「ってなると一人当たり合計三十万ぐらい貰ってんだな」と計算する増田。


 佐田は「やっりぃーやっぱ俺たちラッキーメーン?」と調子に乗る。


「で、でも、みんな溜めてる、よね?」茅野がクラスメイトたちに言う。


 飛鳥が「当たり前だ‼」と立ち上がりながら言った。


 布田は「せや言われた通り共同でちょ…」と言いかけるが、「バカ野郎‼」と鈴木に制される。


 布田は、「すまんすまん言ってはならへんお約束やったわ」と笑ってごまかした。


 出海奈はその会話を流し目で見つつ、


「競技祭のルールを発表する。やる内容は賭けポーカー。二年生と一年生。一対一のトーナメント戦だ。一年生が二年生に勝てば、指定した額を二年生に支払わせる事が出来る。但し二年生に負ければ…。二年生が指定した額を自分が選んだ人に支払わせる。払えない場合は借金押しつけ。もちろん、一回に支払わせる上限額は【五十万】が上限だと決まっている。一回でも二年生に負けた一年生は期間中カジノに立ち入る事を禁止される。競技祭の様子は各学年、一人の生徒につき二人付く【監視役】全員と理事長が記録する。そしてその期間に理事長に認められれば、『裏階級』が上がり、就職先でのランクも高くなるかもな。」


 と長々説明した。


 笹井は「上級生に聞いた通りのルールで良かったわ」と頷く。


 朝日は、「競技祭ってそんな長い期間やんの?」と唖然とする。


「六月中全ての授業は競技祭に代わる。二年生や他クラスと交流するチャンスだ。有意義に使え。」


 出海奈はそう言うと、「他クラスは一組に追いつこうと頑張っているところだ。だがお前らはもう五月のマニュアルで学ぶことはない」と少し困ったように続ける。



「そこでだ」とホワイトボードに『国家情報局』と書く出海奈。


「これについて今日は教えたい。まぁ、私のアドリブだ」出海奈は生徒たちを見渡しながら言った。


「国家情報局…」鈴木が呟く。


「国民の安全を管理している組織だ。安全保障を目的とした組織。だが本質は国外を対象に情報を収集する、言わば『CIA』みたいなものだ」


 出海奈の説明を聞いた佐田が、「そんな組織が現実に…」と反応するが、「事実盛田みたいな【潜入捜査官】が見つかっている。アニメの世界の話じゃない。」と頷きながら出海奈は答えた。


「で、その話をなんで今」茅野が疑問を抱く。


「お前たち、捕まるぞ」ストレートに言う出海奈。


「学園側に捕まらない事も大事だ。だが生徒同士を完全に信用するのもどうかと思う。ましてや本田みたいに交際なんてもってのほかだ…。お前らは徐々に罪悪感が薄れ、詐欺という行為に慣れてきている。島の外側への警戒心が足りていない。…仮にこの学園を【警察】やそれに準ずる組織が見張っているとする可能性も、お前たちは頭に入れた方がいい」


 出海奈の助言に、「…」と黙り込む生徒たち。


「そういうわけだ。今日、この後の時間でお前たちにある『PV』を見せる。」


 出海奈はモニターを取り出した。


( PV? )本田は真っ直ぐモニターを見つめる。


「私は一度教室を出る。これで何か気づきがあればいいが。」



 出海奈がリモコンのボタンを押すと、アニメが流れた。


『救済の女神。それは我々に救いをもたらしてくれるもたらしてくれる絶対的な神―――――』


 綺麗な声のナレーションと同時に、場面は切り替わり、黒髪で赤目、黒スーツ姿の男が、玉座に座った状態で現れた。


『この世界は腐っている。そうだとは思わないか? 私はこの世界は美しく守る価値があるものだと、信じ続けてきた。誰かのために小を天秤アレスにかけて切り捨て、絶対的な力を前にただただ自分の身を削りながら藻掻き続けた。そんな中で見つけたんだ。【本物】の救済を。救済の女神様は私の苦しみを全て解放した…何もかも救済の女神様のために、と決めた瞬間、一変したんだ。私の世界が。私がやるべきこと。それは救済の女神様のように、私も誰かを救う。『リセット』―――――。このまま人々が人を妬み、人といがみ合い、人を恨み続ければ、遅かれ早かれ世界は崩壊する。だから私はこの手で打たなければならない。近いうちに、この世界は『一度終わる』。だが、希望を忘れないでほしい。絶望の後には必ず希望があると‼ 私が望むのは、人々が救われる、不幸を取り除いた社会‼ これを掲げ、我々は今日、光道教を設立する。…私の事は夜叉鏡の亡者とでも呼べばいい。いずれ世界を変える男だ――――』



 黒髪の男の独白に、飛鳥と佐田が、『おおー‼』と声を合わせる。


 光道教。という言葉を聞いて下を向きながら瞳を揺らす笹井。


 飛鳥が、「かっけえな‼」と立ち上がり叫ぶ。


 だが笹井が、「格好なんて良くないわよ」といつもより暗い声のトーンでアメジストの指輪を見ながら言った。


 クラスメイトの視線が笹井に集まる。


「笹井?」


 と鈴木が不思議そうな顔で笹井を見た。


「光道教は…光道教は」と声を震わせた後、喉元を出かかったところで息を飲んだ笹井。



( 人殺しなんだから… )


 笹井は心の中で呟いた後、逃げるように教室を出た。


 本田が、「ちょっと笹井」と呼びながら後を追う。


 布田は「なんやあれ」と目を丸くする。


 笹井の状況を知らない星野は、


( 光道教…笹井さん知ってるの? )


 と笹井の言動を不審に感じるのだった。

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