FILE40『情報包囲網 SIDE→GIRL』
「例えばだ。お前らが友達だと思う相手がいるとする。その相手が裏切る可能性があると、一度でも思わせればいい。歴代の理事長や生徒会がよく使う手だ。注意しろ。つまり二年や三年はもう身につけているんだよ」
出海奈が言うと、志田が「そんな最低な」と声を震わせる。
「でも、お前たちの言う【Ⅹ】の登場でこのクラスに何が起きた」出海奈の問いに、盛田が震えながら、「私が疑われました、クラスを工作しようとする【Ⅹ】だと」と答える。
星野は、「盛田さん…」と呟いた。
「フン、馬鹿げているな、【Ⅹ】が固有名詞と言うのも【前提】Ⅹが敵であると言うのも【前提】寧ろ、Ⅹがクラス委員にしようとしていた茅野、汝こそ【Ⅹ】彼が狙っている工作員やそれに準ずる存在の可能性が高いんじゃないか?」
増田の指摘に、志田が「ウソ…茅野さん…」と人間不信になってしまうような、目を見開くような表情を浮かべる。
本田は増田に言われた後の茅野の反応を見たいのか、ちらりと茅野の席へ視線を動かした。
「ちょっと⁉私そんな酷い事しない‼理事長と話しているのだって居候していた家庭の都合でただ顔見知りってだけなんだから」
茅野の叫びに、増田は「ほぉー?だがマークはすべき位置に変わりない、実際汝は技術面にも一役買って開発を別班で任されるような女だからな」と煽りを続けてみた。
茅野は「クッ…‼」と歯を食いしばりつつ、その場は静かに座る。
「このように学園が疑心暗鬼になればどうなる」出海奈の問いに、笹井が俯きながら、「学級が崩壊します」と呟く。
出海奈はさらに続ける。
「じゃあ、学級が崩壊して喜ぶのは誰だ」
「だ、誰だよ、」鈴木は答えられず、「教えろよ‼」と出海奈を急かした。
「まぁ私は立場的に言いづらいが、学園側。特に生徒会長と理事長だろうな。」
「学級全体が疑心暗鬼になれば授業外で仲良くしようともしなくなるだろうし、ずっと険悪ムーブになればそこに介入しない人間に焦点を当てて監視できるわけだ。」
出海奈の持論に、「険悪ムーブに介入しない人間に焦点を当てて監視するメリットって何だと思いますか」と笹井が問いを投げる。
本田は耳をピクリと動かす。
「同調圧力や独裁制に屈しないタイプの人間から情報を落とす事だろうな。大概、やましい事があるような人間は好き好んで集団に交じって相槌を打ったりせず、自分から情報を落とさないように木陰に隠れながらコソコソ動く。いっそ溶け込んでしまった方が上手い。と私は思うのだがな」
出海奈の主観に、笹井は顎に宛て何かを考える。
(どうせ奴の考える事とすれば俺を本当に対応係に配置するか何かだ)
笹井の様子を見つつ本田はマニュアルをボーっと見て額を抑えた。
(少し目が霞む)どうやら彼も相当お疲れ気味な様だ。笹井は盛田とアイコンタクトを取った後、ふと微笑んだ。
(さあ震えて眠りなさい。【Ⅹ】。あなたが誰かは知らないけれど、私はもう膨大な情報網を付けたのよ)
笹井はスクールバッグの中にあるスマホのラビィ画面をチラッと眺める。
そこに笹井・盛田そして【茅野】の文字が表示されていた。つまりこれで陣営は出揃ったのだ。
本田・佐田・飛鳥
笹井・盛田・茅野。
(【Ⅹ】が茅野さんを目の敵にしているなら、茅野さんを私と盛田さんの傍に置けばいいだけの簡単な話。)
《疑似内通》
(学園側と茅野さんが内通しているって言うのならわざと怪しい私たちと組ませて探らせればいいのよ。当然茅野さんが学園側なら私たちを観察したいはず。)
(断る筋も無いでしょうし。本田くんがⅩならいずれ茅野さんを探りに来るでしょうし。学園側と茅野さんが情報を共有しているのならしているのなら私たちの情報を茅野さんがぽろっと学園側に洩らすかもしれない。それで整合性が取れるなら茅野さんが本当に工作員だったってわかるでしょ)
出海奈は笹井の質問に答えた後、「さてと、五月最初の授業をはじめるぞ、笹井、本田。クラス委員の二人が仕切ってくれ」と言い残して教室を後にした。
「はーい」本田は机の隙間を歩きながら教卓の前に立つ。
「えっと」教卓の上のタブレットを見つつ本田は「笹井助けてくれ、何を見たらいいかわからない」と既に役立たずっぷりを発揮する。
「何あいつ」「使えなー」
後方の女子らから噂話が聞こえるが、本田は片手をポケットに入れつつお飾りのように立ち尽くしているだけだった。
笹井は「五月のやる事を説明するわ。んじゃ本田くん、私が説明した通りに書いてって」とホワイトボードのペンを渡す。
「あ、あぁ」本田は困惑しつつペンを受け取った。
「まず今月の目標額。クラス全体で…」
笹井はタブレットを握る手を震わせた。
「どうした」本田が振り返るが、
「一千五百万…」と呟いた。
「は、?ンな訳」と本田も冗談かと笑い飛ばすようにタブレットを覗くが、「…え」とあまりの膨大な額に固まる。
「そんなのウソよ!!!!!!」
「俺まだガキだぜ!!!????」
「そんな大金稼いでどうするんですか!!?」
「何…何なのよこの学園は!!!!!!」
「本田くん字きったな!」
「読めない」「いくら?」「なんて?」
一組のクラスメイトたちが各々コソコソと話し出す。
笹井が「…やるしかないでしょ…」と教卓を拳で叩きながら騒がしくなる生徒たちを黙らせて呟いた。
沈黙が走る。
「志田さん。詐欺なんて人を騙す事、したくないのよね、私だって実のところそんな事したくないわ…でもね、私は…私の失態で人が死ぬのが嫌なの。周りから見ればいやな女かもしれないし嫌うなら嫌ってくれて構わない、でも私はもうこれ以上犠牲を出したくないし誰かの為になんて銘打って綺麗ごとで誤魔化して選別するなんてもっと嫌なの。」
「みんなも騙したくない気持ち、罪悪感、この一ヶ月でたくさん、たくさん考えたでしょ?被害者の事も、でも、私たちは…本当は処刑された前野さんだって、全員で卒業しなくちゃならなかったのよ。今の私たちに出来る事って…もう…人を騙す事しかない」
笹井の嘆きを聞いた本田は、「…」といつになく深刻そうな顔で俯いていた。動きが止まる。
「笹井さん…」笹井の本音を聞いた志田が申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
何も知らずに殴りかかろうとしてしまったからだろう。
「何でできない前提で話してるんだ」とタブレットの電源を落としてやった。
「稼げばいいんだよ、別に罪悪感なんて一人で抱えているわけじゃない」
本田はそう言うと、志田の方にも視線を合わせつつ。
「 何せ俺たちがやっていることは実際【悪】だからな。」
「卒業後、どうなるかは知らないが、お前たちが【罪】を被らないようにする事は出来る。…俺は考えられる。」
「…普段は役に立たないかもしれない。」
「要は、全部終わった後で卒業式の最後にでも俺たちが主導して全員で島を脱出するなりした後で【全部学園のせい】にでもして、社会にジャッチさせてしまえばいいんだ。」
「でも、そのタイミングが来るまで。」
「俺たちは余計な犠牲を出さずに生きて行かなくちゃいけない」
クラスメイトたちに訴える。
「夢見すぎでしょ」と朝日が溜息を吐くが…。
本田は「良いから黙ってクラス委員の言う通りにしとけ、責任所在は俺と笹井なんだから」とクラスメイトたちに語った後で、「一学期はとりあえず死者を出すな」と全員に指示をした。
「ねぇ、本田くん、せめて【詐欺】なんかじゃなくて鈴木くんが前ふらっと言ったみたいに事業とかを強要される学園ならよかったのにね」
「選別だって収益だって出来るじゃない、なんでこんな」と弱ったような声で嘆く。
本田は笹井の様子に流し目を向けながら。
(いや…事業ではダメなんだろう。【公になってはいけない】【顧客が来てはいけない】【商談も人とはできない】ような、どうしても隠蔽したい何かが、この学園にはあるはずだから)と自分の中で結論付けた。
窓は晴天だ。五月晴れ。
この辛気臭い空気に合わせる気など言わんばかりに、雲一つない青空が窓に広がっていた。




