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『一組 ─今日からあなたたちは詐欺師です─』  作者: ミタラリアット


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三話『教室のマネキン』



 いまでもたびたびバラエティー番組などで取り上げられる数十年前のニュースの映像を、本田は覚えていた。


 東京都。


 光道教の前に集まる、数百万人の群衆を見下ろす、一人の男。


 その赤い目は、まるでゴミを見るかのように冷たく、何も映していなかった。


『お前たちを救ってやったのはこの俺だろ⁉ いい加減気づけよ、自分から救済の道を棄てていることに‼』


 と声を荒らげる格好の付かない教祖の姿。それでも群衆の怒りは止まない。静かに俯く光道教の幹部たちと、これ以上何も声を発することは出来ない信者たち。


 そして、光道教には欠かせない存在だった……【救済の女神】。


 救済の象徴とされた女を、武装した軍人たちが連れて行く。


 まるでフランス革命期そのもの。


 救済の女神が連れていかれた瞬間、教祖の男は血相を変えて飛び出す。


 その背中に……。映像はここで途切れている。


 夜叉鏡の亡者。


 自分から亡者を名乗り出るなんて、どこか引け目でもあったのだろうか。


 なんて本田は考えた。



 カーテンの隙間から日が差し込む。「登校の時間だ」監視役が本田に話しかけた。


 本田は、「はいはい、着替えますよ」と答え制服に着替える。


「なんだか制服が似合ってないな」と言う監視役に、本田は「ひど」と真顔で呟く。「背が高いと困るんですよ、こういうとき」本田は言い返した。


 監視役の男が、「そうか」と答える。


 もう一人の監視役の男が、「お前のような生徒は今まで見た事ない」と考え込む。


「どういうことですか」本田が言うと、監視役は「言葉通りの意味だ」とこれ以上言及することは無かった。


 登校。


 座席の移動も自由らしいが、誰も定位置に着席したまま座席を動かすことは無かった。


面倒だからだろうか。隣に座る笹井。


「俺の隣が嫌なら変えてもいいんだぞ」本田が言うが、笹井は「別に」とそっぽを向いた。


 入学、二日目。所持金は、自分が持ってきた分の手持ちと、預金分だ。本田は入学前に新規の口座を作った上、預金分を学園に申告していないようだが。


 出海奈が教室に入ってくる。


その時間にも、一席……空白。人がいない席に気づいた生徒たちが、近くの生徒たちと、「誰の席だったっけ?」「授業初日から遅刻か」などと噂をはじめる。


「……残念な知らせだ」


 出海奈が溜息を吐くと同時に、クラス中に緊張感が走る。


「一人死体が上がった」と報告する出海奈。


「死体⁉」と声を裏返す志田。


「な、なんだ、なんだよそれ‼」増田も机をバンッ、と鳴らしながら立ち上がる。


「脱走しようとした生徒が出た。ただそれだけだ」


 出海奈の言葉に、唖然とする教室。


「命には変えられない!俺もこんな学園出て詐欺に加担してると告発してやる!」出て行こうとする増田の背中に、出海奈は銃口を突きつける。


「ッ!」


 と振り返り瞳を揺らす増田。


「ひッ……」


 生徒たちも恐怖に打ちひしがれるしかなかった。


「……」


 表情に動揺の色無く、ボーっと窓の外を眺める本田。



「こんな……こんなのがなんでまかり通るんですか! こんな事を昔からやっていたならなぜ警察や政府に見つからないんですか!」


 志田の指摘に、出海奈は銃を下ろして語る。


 一歩一歩志田に近づく出海奈。


「警察は正義じゃない」志田を挑発するように言う出海奈に、志田は「え」と固まった。


「じゃあ仮に」出海奈は口を開く。


「警察が隠蔽しているとしたら?」


 出海奈の言葉に、志田は「そんなのハッタリです」と言い返すが、出海奈は、「ハッタリとは言い切れんだろう。事実、金持ちから釈放金を払って解放されるとか、外国人だから罪を軽くするとか。上級国民は捕まらないとか。よくある話だ」と説明する。


 出海奈の言葉に、目を逸らす生徒たち。


「だがこれは大人の世界ならよくある事だ。綺麗ごとが必ずしも正解とは言えないだろう」


 出海奈の言葉に、志田は、「世の中はそんなにも汚れ切ったものなんですか。私たちは浮かれているだけ?」と拒否反応を示す。


 出海奈は「……私だって信じたかったさ」と俯いた。


「人殺しの言葉なんて信用しない」


 と言う志田に、出海奈は、「……ッ……」と少し動揺した後、「私は誰も殺してはいない。」と答えた。


「座れ」と命令する出海奈。


 生徒たちは一斉に着席する。


「座学をはじめる。マニュアルを開け」


 出海奈の指示に、志田は机に顔を伏せ動かない。


「志田」出海奈は志田の机の角を指でトントン、と鳴らしながら名指しする。


「嫌だ。もう犯罪になんか加担したくない」


 と言う志田に、出海奈は「次の死体はお前か」と溜息を吐く。「いッ、いやああああああああ!」と両手で頭を抱えながら絶叫する志田。


 笹井は、「私はやるわ」と立ち上がる。


「みんなもやりましょう」と生徒たちに呼びかける笹井。


 志田は、「なんで、なんで犯罪に!」と即座に否定するが、笹井は、「死にたく無いでしょう」と冷徹に志田に言った。


 増田を見る笹井。


「あなたさっき、命には代えられない。って言ったわよね」


 笹井の一言に、増田は「こんな……こんな事……」と声を震わせる。


 鈴木は、「卒業するしかない。騙すのは気が引けるが、詐欺は十年以下の拘禁刑だ、死ぬのと拘禁刑、どっちがいい」と生徒たちに問いかける。


「どっちもいやよ!」


 と言う志田に、生徒たちは、『そうだそうだ!』と声を合わせる。


 ふッ、と笑みを浮かべる出海奈。


 本田は出海奈の表情を見て、先程動揺した事と照らし合わせて考えていた。



 本田は、教室が荒れているうちに教卓まで向かい出海奈にある事を耳打ちで提案する。


「構わない」と了承する出海奈。


 本田は席に戻った。


 出海奈は、騒がしい教室を鎮めるため、銃を天井に向け一発放つ。


 銃弾は床に落下し、出海奈の思惑通り教室は静まり返る。


「な……」


 増田、鈴木も硬直。


「すげぇ……ほんまもんの銃声や」と布田は興味津々だ。「……銃声」と呟く本田。


 そう言えば眠っている間に銃声なんて一発も聞こえなかった。


 出海奈が、「今日この座学の後お前らに実践してもらうのは、オンライン通販から個人情報を収集する作業だ。ここで手に入れた個人情報で今後の詐欺が上手くいくかどうかが決まる。マニュアルには詐欺の前例などが記載されている。だがお前たちがどういう組み合わせでどうやって個人情報を手にしていくかは自由だ。警察に尻尾を捕まれたりすれば即失格で処刑だ。」

と説明した。


「座学ではこのマニュアルを使いながらお前らに説明する。まずはフィッシング型。大手通販サイトや配送会社を装って支払いエラーやアカウント停止を通知する。もちろん、偽の通知だ。利用者を偽サイトへ誘導する事で情報を入力させるやり方だ。だが効率はあまりよくない。次は受託業者をターゲットにするやり方だ。元従業員や下請けから情報を盗む。かなり精度の高いものが手に入るのがメリットだが、現代じゃ相当うまくやらないと無理だろうな。最後に本物の通知に混ぜるやり方だ。発送直後やセール期間中を狙って偽通知を送るやり方だ、これは今日は該当しない」


 出海奈から続いた言葉に、「偽サイト作る技術なんてないんですけど……」と質問する鈴木。


 出海奈は、「はぁ」と溜息を吐く。「誰が偽サイトを作りなさい。なんて言ったの」と言う出海奈に、鈴木は「えぇッ!」と声を裏返した。


 教室が静まり返る。


「お前らはIT企業にいるわけじゃない。技術を磨く勉強じゃなくて、人間を上手く扱う勉強をしているんだ」


 と言う出海奈に、志田は「うぐ……」と息を呑む。


「たとえば。年寄りに声かけする時。相手はサイトなんてみない。声だけで振り込むようなバカもいる。つまり大事なのは技術より心理だ。偽サイトが作れないなら、作れるやつを頼れ」


 出海奈の言葉に、笹井は「分担」と呟いた。


 出海奈は、「そう」と頷く。「一人でやる詐欺師なんて滅多にいない。基本、詐欺はチームワークだ。」出海奈が言い終わると同じタイミングで、鈴木が立ち上がる。


「みんな、分担しよう。指示役と実行役のリーダーを決めるんだ」と言う鈴木に、「その必要はない」と出海奈が答えた。


「は?」と素っ頓狂な声をあげる鈴木。


「先程申し出があった。本田から自分が指示役を務めると。同時に、実行役のリーダーは笹井が担当すると」


 出海奈の通告に、鈴木は、「はァ⁉本田お前なに適当抜かして」と本田を睨む。


 志田も、「発言が少ない、目立ちもしない本田くんに指示役が務まるとは思えない」と本田に不信感を抱いた。


 本田は窓に視線を向け他の生徒はどうでも良さそうな様子だ。



 出海奈は、「ならお前らが立候補すればいいだろ。犯罪に加担したくないの一点張りで現実を直視しないお前らよりはよっぽど本田と笹井はよくできた生徒だと思うが」と発言する。


 出海奈の発言の後、本田と笹井を睨む生徒たち。


 鈴木は、「本田ッ、お前‼失敗したらタダじゃおかないからな‼全員の命がかかってんだぞ‼」と本田を殴ろうとする。


 それを、「やめて‼」と増田が止めた。


 布田は、「俺は本田と笹井が仕切ることに賛成やで。個性がある奴より無い奴のほうが尻尾捕まれにくいからな~」と気楽に言った。


 鈴木も立ち止まり、「それもそうか……仮に尻尾を掴まれようが奴らの責任に出来る」と考え直す。


 本田は鈴木を鼻で笑った。


「そういう事だ。お前らは我が遠州学園の大事な生徒。死体などなるべく見たくない。死んでくれるなよ」


 出海奈の言葉をもって、今日の二時間の座学の時間は終わった。


本田たちは、遂に犯罪に手を染める。

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