二話『私を守って…』
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「盛田」本田が物陰から様子を眺めていた盛田に話しかける。
「はッ、はい、本田くん‼」盛田は本田に視線を向けた。
「ひょっとして、本田くん」と言いかける盛田に、 「なんだ」と本田は真っ直ぐな視線を向ける。
「…同類、ですか?」と言う盛田に、本田は、「は?」と真顔になった。
「す、すみません、察してもらえればと、思ったのですが、どうやら検討違いみたいで、そ、そうですよね。当然ですよね、ここは学校、あくまで学校なんですから。い、いまのは忘れて下さ…」
と頭を下げて逃げるように走って行く盛田。
盛田の不審な行動に本田は警戒しつつ、「まッ…いっか」と呟き生徒寮のほうへ向かう。
マンションのような生徒寮の自室に入った本田は、マニュアルを開いた。
「私立遠州学園。授業内容は詐欺の実践。オレオレ詐欺やフィッシング詐欺など詐欺の応用な事から学ぶ事が出来る。授業毎に一クラスが稼いだ額を一定額になるようにクラス全員で山分け…一日二時間の座学と一日四時間の実践…合計六時間が一日の授業…授業後は部活動にも参加できる…。クラスごとに稼いだ額は翌日ホワイトボードに張り出され…確定額が学園内と外で使える個人の口座に振り込まれる。詐欺で得た報酬は学園内にあるカジノでさらに増やす事が出来る。…当然、減る事もある。学園内にあるのは校舎とプール、カジノと生徒寮、そしてコンビニだけ。その他の買い物については五分に一回、深夜でも運航しているフェリーを使って静岡県本土まで買いに行くのが鉄則。ただし、授業時間に買い物に出かける事や本土で警察に告発する事は禁じられている。違反すれば重大な身柄拘束または…射殺…って厳しいな…」
マニュアルを読んだ後、パタン。とそれを閉じる本田。
同時に、部屋の鍵が、ガチャ。と開く。
大柄の男二人。スーツにサングラススタイル。
「どちら様ですか」
と本田が問いかけるが、男たちは「…」と何も返事をしない。男の一人は先程本田が閉じたマニュアルを指差す。
「マニュアル…?」本田は呟くと、「生徒が違反行為をしないようトイレを含む全ての移動で一人に付き銃を装備した監視役が二人付く…」とマニュアルに書いてある言葉を見て、「ぅげ…」と青ざめた表情を浮かべた。
「移動の時だけですよね、監視って」と言う本田に、ガタイのいい男たちは腕を組みながら、「うむ。」と頷く。
男の一人が、 「ちょいと失礼」と本田の腰を触る。
「ちょッ、なんですか」とあたふたする本田。
ガタイのいい男たちは、「うむ」と顔を見合わせた後、何処かへと去って行った。
「よ…よかったのか?」と本田は困惑する。
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同時に、本田のスマホに、笹井から連絡が入る。『本田、マニュアルは読んだ?』タイミングが良すぎる笹井。本田は「ああ…」と答える。
「なんで俺の番号を知っている」と本田が言えば、笹井は、『学園のグループラビィ。そこにあなたが入れられていたの。』笹井の説明に、本田は、「なるほど」と頷く。
「どうやって俺のラビィのアカウントがばれた」と本田は笹井に訊ねるが、笹井は、『私が知るはず無いでしょう⁉』と声を裏返す。
『私だって誰とも交換してないのに』と不審そうに言った。「…」考える本田。
「フェリー乗船前。学生証アプリをスマホにインストールしたよな」と言う本田に、笹井は、『ええ…。でも。それが何と関係あるのよ』と問いかける。
本田は、画面が暗く暗転したままのもう一つのスマートフォンに視線をやる。
「簡単だ。それがスマホとリモートで接続された。俺たちが何かを調べようと学園で全て筒抜け、操作できるってわけだ」
本田の言葉に、笹井は、『ええッ⁉』と驚く。
「こんな犯罪に足を突っ込んでいる学校で、自分の家から持って行った端末を使える事に違和感を覚えていた。案の定だ」
本田の言葉に、笹井は、『易々と学生証アプリをインストールしてしまったわ』と自分の軽率な行動に呆れ、溜息を吐く。
「構わない。むしろ入れてなきゃ後々不自然だ」と言う本田に、笹井は、『これからこの学園であなたはどうするわけ?馬鹿真面目に犯罪に手を染める?』
と少し余裕無さげな口調で言う。
本田は少し考えた後、「俺は事情があって実行役になる事が出来ない。だから指示役を駆って出ようと思う。指示役や実行役が選べないとは明記されていない。申告すれば好きな役に付けるはずだ。あっちも適材適所の才能を求めている。拒否することはないだろうな。笹井。お前には一組の実行役のリーダーになってほしいんだ。」
本田の突然の頼みに、笹井は、 『い、いやよ、私。リーダーなんてガラじゃないし』と焦る。
「…」少し黙る本田。
「あと一週間も経たないうちに、いろいろなグループが作られはじめる。すると自然に中心人物、クラスを仕切る者も決まって行く。お前がクラスの中心人物になれば、俺が助言をし今後何かがあった時に、盤面を動かしやすくすることが出来る」
本田の言葉に、笹井は、 『鈴木くんや増田くん、布田くんたちが中心を担っていくんじゃないの』とやや拒否気味。
『それに、そんなにクラスの中心を動かしたいならあなたが中心人物になればいいじゃない』笹井は自室でコーヒーを飲みながら言った。
本田は、「それは出来ない」と即座に笹井の提案を却下する。
『なぜ』と訊ねる笹井に、本田は、「不可能だからだ」と水面に揺らぐ葉のように静かに答える。
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自室にいる笹井は手持ちのアイスコーヒーにミルクを入れた。
ポチャン…。
とそのミルクの水滴が響く音がする。
『私だって却下よ。あなたの手駒になる気は』
と言いかける笹井に、本田が、「お前がこの学園に来た目的を果たせるとしても」と笹井に食い下がる。
『なに』と驚く笹井。
「お前、フェリー乗船時、部屋を歩き回っていたな」
と言う本田に、笹井は、 『だったら何よ』とコーヒーを飲みながら続ける。
「それと生徒が学校の予想より一人多かった」本田の指摘に、『まさかあなた』と笹井は目を見開く。
「嗚呼。正式な手続きを踏んで入学したならフェリーで部屋を案内されるはずだ。だがお前はフェリーを歩き回っている。ボッチだったどころか、部屋が用意されておらず、空き室を探していたんじゃないか。それでお前は俺が一度も入っていない部屋を見つけた」
本田の推測に、『背筋が凍る程、その通りよ。っていうか、あなた。部屋に入ってないならどこで寝てどう過ごしてたの』
笹井の疑問に、 「べつに。フェリーのソファーだが」と答える本田。
笹井は、 『あなたよっぽどの変わり者ね、普通なら部屋入ったほうが快適じゃない』
笹井の指摘に、本田は、「部屋をずっと開けていれば、生徒たちの談話室みたいになっててもおかしくないし、そもそもロビーのソファーに転がれば事足りる事をわざわざ部屋に入ってまでする必要は無いだろ」
本田のつまらない発言に、笹井は、 『目立たなかったの。それ』と追及するが、本田は、「べつに。他にもソファーで寝てるやつらはいたし」と当時の状況を思い浮かべながら言う。
笹井は、『んで。本田くんは私の事どこまでわかってるのよ』と訪ねた。
本田は、「ラビィの会話が第三者に筒抜けだったらどうする」と回答を躊躇する。
笹井は、 『それもそうね』と目を逸らした。
「明日の放課後、俺の部屋まで来い」
本田の指示に、笹井は、 『わかった』と頷く。
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「…俺はお前が何をしたいかまではまだ気づいていない。ただ、お前が何か目的があって来ている事は知っている。」
本田の発言に、笹井は意味深な表情を浮かべる。
「もう一度頼む。お前にクラスの中心になって貰いたい」
本田の頼みに、笹井は、 『条件があるわ』と笹井は本田に圧をかけながら切り出す。
本田は、 「条件」と呟く。
『私を…私を守って。』
笹井からの条件に、「なんだそんなことか」と本田は安堵する。
『人の真剣な頼みよ‼』と怒る笹井。
「守ってやる事は出来る。ただそれは俺が直接やることじゃない」
と言う本田に、笹井は、『はぁ⁉』と声を張り上げる。
「黙って俺のいう事を聞いておけ、お前に不利益は与えない」
本田の謎の言葉に、笹井は、『意味わかんないんだけど』と頭を掻く。
「この学園に俺が来た事が救いだったな」
本田はそう言うと、ラビィの通話を遮断した。天気は変わり、雨が降り出す。深々と降る雨の音。
本田は少しだけ。自分の手のひらを眺めた。
虚無。
本田を駆り立てるのは、憎悪。ただそれだけだ。




