一話『孤島の猿芝居』
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新学期がはじまった。今日から高校生になる本田は、ボーっとフェリーから段々と近づく島を眺めていた。
紺色のショートヘアが、潮風に揺れる。
同じ制服を着た学生たちが、フェリーの中から客室のほうへと向かう中、本田は移動しなかった。
本田は学園のパンフレットを眺める。
静岡県側の海にポツリと浮かぶ小さな島、遠州煉獄島。そこにあるのは、『私立遠州学園』。自称、進学校で非認可の学校だ。
まぁ、極力目立たなくしておこう。
本田は心の中で静かにそう思うのだった。
本田が海を眺めていると、「やっぱり先着がいたのね」同じ学校の制服を着た黒髪ロングヘアの少女がオープンデッキへやってきた。
「…」
流し目を少女に向ける本田。
「あら。私の存在に気づいてないのかしら」
ロングヘアの少女は、本田に話しかける。
「俺?」
と首を傾げる本田に、少女は、
「あなた以外いまこの空間に誰もいないでしょ」
と、髪を耳にかける仕草をしながら言った。
本田は、「このタイミングで外に出てくる物好きもいるんだな」と返すと、少女は、「物好きって。あんな豪華な客室に一切入ってないアンタに言われたくないわ」と本田の隣に立ちながら答えた。
「なんでお前がそれを知ってるんだ」
本田が問いかけると、笹井は、 「一室だけ薄っすら開いている部屋をさっき見ちゃったの。そこには手荷物や飲み物が置いてない上に布団も綺麗なまま。タオルケットも畳まれていて、部屋に誰かが入った痕跡が全く無かった。それに」 笹井は本田の服を触る。
「やっぱり、少し学生服が冷たい。ずっと外にいた証拠よ。まぁ、さっきの要素だけじゃ直接的には結び付けないけど、一年生たちは過半数、ロビーにいてドリンクとか飲んだり、モーニング食べて楽しんでいたし、部屋にいる子は鍵がかかってた。だから、誰か外にいるのかなって思っただけよ」
少女はそう言うと、「やっぱり、潮風にあたると気持ちいいわね」と髪を靡かせる。鋭い視線で少女を観察する本田。
「お前、名前は?」
本田が訊ねると、少女は、「あなたから名乗るのが先でしょ」と微笑む。
本田は、めんどくさそうな表情を浮かべつつ、
「た…本田、湊」と名前を名乗った。
「た?」と少女は気にするが、「ほっとけ」と本田は答える。
少女は、「笹井。私は笹井のぞみ」と名乗る。
「…俺も気づいた」本田はフェリーがスピードを落としていく中、笹井に言う。
「何に」と睨む笹井に、本田は、「お前が、ボッチだってこと」と続ける。
笹井は、「なによ、酷い捏造ね、名前を互いに知ってからの第一声がそれ?」と言う。
本田は、「簡単だろ。過半数がロビーにいたならお前だって混ざってモーニングを食べたりすればいいだろ。それに他の奴らがいる部屋をグルグルしてるのもボッチじゃないならおかしい」
本田の言葉に、ギクッと大きな矢印が突き刺さる笹井。
「モーニングは食べ終わった後だったのよ。それに部屋だって一人で見に行ったとは言ってないでしょ」
と反論する笹井に、「ならオープンデッキに一人で来る必要は無いし、その誰かと一緒に客室にでもいればいい。わざわざこんなフェリーが減速をはじめた頃に来るなんて、ボッチでやる事が無く、船内をグルグルしていたって考えるのが自然だ」
本田に指摘された笹井は、「推理ですらないわね」と言う。
本田は、「推理をしたわけじゃないからな。至極当然の事を言ったまでだ」と返す。
「そろそろ船が止まるわ。あなたとは違うクラスになる事を祈ってるわ」
笹井にそう言われてしまった本田は、「…」黙って笹井の背中を見送った後、「…ひど」と呟いた。
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私立遠州学園。一年一組。
学園の外に張り出されたクラスの中に行くと、
「あ」「あ」
と笹井と目が合う。
笹井は、「ウソでしょ」と呟き、机に顔を埋めた。
…同じクラス。どころか隣同士。本田は笹井とよろしくする気も無かった。
ガラガラ。担任が教室に入ってくると同時に、「美人だぁ…」と男子から声が上がる。黒髪ショートヘアに、眼鏡。かなり頭が良さそうだ。
「お前らのクラスを三年間担当する事になった出海奈恋々音。よろしく」
名前をホワイトボードに書く担任を前に、「なんだかかなりの実力を求められそうな流れだ」「見た事あるぞこの学園生活のはじまり方」などと男子生徒たちがコソコソ耳打ちする。
「静粛に!」
出海奈はバンッ、と教卓を叩いた。
「お前ら。これはラノベとかアニメみたいな話じゃないんだ。当然、本校は実力主義なんかじゃない」
出海奈の説明に、男子生徒たちは、
「ふぅ…」と胸を撫でおろす。
「これからこの学園で貴様らにやってもらう事。それはたったひとつ」
出海奈はホワイトボードに大きな文字を書いた。
『詐欺』の二文字だ。
「?」本田はホワイトボードを見つめる。
「詐欺…」「え…」「ウソでしょ」
と教室からザワザワと声が聞こえる中、スマホで録音しようとした生徒から、その端末を没収する出海奈。
「やり手だな。手際の良さだけは褒めてやろう」
女子生徒にそう言った出海奈は、女子生徒の腹を蹴った。
「うッ⁉」と騒然とする教室。
出海奈は、「この学園には今、二種類の生徒がいる。この学園の実態を知らずに来た者と、知っていながら来た者だ。当然だ。パンフレットやインターネットには【全寮制の進学校】としか、記載されてないからな」と言う。
「だが安心しろ。知らずに来たお前らの家族は、全員この学園にお前らが入学する事を承諾した。実態を知らぬままか知ってかはどうでもいい。お前らの親は助けてくれない。どころか、お前らの親や家族。兄弟も含めて。お前らは今日から人質だ。早速不可解な点がある。一年一組の生徒数が、一人だけ合わない。予定より一人多い事を我々教員は今朝、船の点呼中に知った。その事もあって、座席が決められなかった。女子男子女子男子。と分ける事しかできなかった。それと、席は明日以降好きな場所にしてもらって構わない。…説明はここまでだ。さて、オリエンテーションはじめるぞ」
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早とちりして机の引き出しからマニュアルを取り出す本田を、笹井は流し目で見るのだった。
「今日のオリエンテーションは自己紹介だ。変に張りきるとか、最初にかっこつけるとかするやつ。まじで寒い。軽蔑する。いまこの場でそういうことやろうって思ってるやつは引っ込んだほうがこの後の学園生活、ましな人生送れるぞ」
全員がトップバッターを躊躇う。
その沈黙の中、ギャルが立った。頭まで金髪で盛っている。なんだか、平成って感じだ。
「ちーっす‼みんな元気~⁉ お姉さんも、かつてお姉さんだったものも、元気元気‼」
声を張り上げるギャルに失笑する出海奈と、
「なにあれ」と小声で呟く笹井。
「私、志田せつな。このクラスの一番狙っちゃってたりー?」と言う志田に、「くぁいいー♡」と鼻の下を伸ばす本田の手前の席の男子。
「私、ダンス部かテニス部に入ろうとしてるの‼ よろしくねー」志田は手を振った後、静かに席に座った。
その後、本田の手前の席に座っていた男子が、
「増田シュン、美少女大好き、可愛い子は僕に一報ください‼」とお辞儀をした。
にやにやしながら後方でその様子を見る他の男子生徒。
本田は自己紹介するタイミングを計らう。
そんな中、笹井が立ち上がる。
笹井は、「笹井のぞみ。別に誰かと仲良くする気も無いので無意味に私に話しかけないでください」と挨拶する。
笹井を見た出海奈は、「笹井…?」と少し首を傾げた。笹井は本田の腕をきゅっと掴む。
本田は、「嗚呼…」と気が付き、「本田…あッ…湊です」と小声で名乗った後、一礼して座る。
「他のやつらみたいに一言とかないのか」
と出海奈が本田に問うと、本田は、「ありません、次のひとどーぞ」と静かに答えた。
「盛田、舞、です。あッ、ごめんなさい、私みたいな、陰気で、つまらない人間がこんなクラスにいて、ごめんなさい、ごめんなさい」
盛田がペコペコ謝る。何に対して謝っているんだと本田は思うが、盛田がこちらを見て、少し笑ったような違和感を覚える。
「よッ、お前ら!俺は鈴木隼人。サッカー部のエースになる男だ‼よーく名前刻んどけよ‼ 詐欺も授業もどうでもいい‼ でも俺が活躍できそうな場があったら呼んでくれー‼」
鈴木の挨拶に、女子生徒たちが、
「あの子イケメンじゃなーい?」
と耳打ちする。その女子生徒たちに、鈴木は微笑む。
「きゃー♡」と喜ぶ女子生徒。
その後、やりづらそうに少し雰囲気が独特な男子が立ち上がる。
「俺は布田ちはる!!やで~♡少し前世の記憶っちゅーもんがあんねん‼俺は大阪から来た、大阪はええとこやで、タコ焼き、お好み焼き、メシがうまい‼ 最高の場所や‼ よろしゅうな‼」
布田は自己紹介を済ませると、席に座った。
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暫くして全員の自己紹介が終われば、パンパン。と出海奈は二回手を叩く。
「今日はここまでだ。この学園での過ごし方や詐欺の項目などが書かれたマニュアル、いわば教科書のようなものがお前らの机の引き出しにある。それぞれの故郷から長旅ご苦労だった。解散‼」
出海奈の言葉に、「え⁉」と驚く男子生徒たち。
「今日授業ないのか⁉」
と言う男子生徒に、出海奈は、「解散と言われたら去る事ぐらい覚えろ」と続けた。
「さよならー‼」とバタバタ教室から出て行く布田と増田。
本田も静かにカバンを手に取る。
寮への帰り道。
本田は、「なぁ」と笹井に話しかける。
笹井は、「ほっといて」と先を歩いて行った。
本田は、「そーですか」と去った笹井の背中を見送りつつ、マニュアルをスマホで撮影する。
同時に、スマホの着信音が流れた。
非通知。「はい」本田はその電話に出る。その直後、真剣な表情を浮かべた。
何かを話す本田。その様子を、こっそりと盛田が物陰から眺めていた。




